転生者たち①
いつもありがとうございます!
この回は長くなるので数回に分けていきます。
っていうか結構難産になると思われるので、生暖かく見守ってください。_φ( ̄ー ̄ )
紅葉館の廊下は真新しく、紅葉山の自然を中庭に取り入れた風情ある造りになっている。
長い廊下をパタパタと進む。
先頭に立つ女性は、先ほど玄関で合言葉を告げた女性だ。
「何名お着きになってますか?」
俺が尋ねた。人数くらい知っていたいと思ったのだ。
「お二人さまとも先に御到着です。」
女性は透き通った声で答える。日本髪のうなじがビックリするほど白い。
「こちらです。」
女性は突き当たった部屋の前で膝を折ると、障子をすうっと開けて中へ声をかける。
「お連れさま御到着です。」
彼女に手で促され、緊張気味に部屋へ足を踏み入れる。
真新しい畳の匂いが鼻をつき、思いのほか明るい室内が目の前に広がる。
部屋の中にいたのは......30歳くらいの男性二人。
一人は何というか秀才っぽいイケメン。口髭が嫌味なく似合ってる。
もう一人は総髪の眉毛ふとしくん。色黒で顔が濃いが、この人もイケメン部類だろうな。
二人はビールを飲みながらの談笑中だったようで、俺の登場に揃って歓声を上げた。
「犬養毅です。」
俺が挨拶すると、立ち上がって拍手し始めた。何ですかこれ?
「いや〜キタよ!犬養毅登場!」
眉毛ふとしが声を上げる。
「本当にそうだったんですね......。何か感無量です!」
何故か涙ぐむ細面のイケメン。
「まあまあ、ちょっと井上さんも泣いてないで!犬養さんも其方へ掛けて。」
濃い顔の方が皆に着席を促す。
「犬養さんは何のことか分かんないだろうから。先ずは井上さんが落ち着くまで、俺から説明するね。」
彼はそう言って爽やかに笑う。武術の心得があるんだろう、背筋がまっすぐと伸び、身体から気迫漲る感覚が伝わってくる。
「そうしていただけると......。」
俺は落ち着かぬ腰をようやく下ろし、彼の説明を待つ。
まあすぐさま逃げ出さなきゃいけない雰囲気でもなさそうだ。部屋には何者かが潜むような場所もない。
「いや、宮崎さん大丈夫。私からご説明します。すいません、つい感情が高ぶって。」
井上と呼ばれた髭のイケメンは、スーツの袖で目を拭うとこちらを向いた。
「私、井上毅と申します。現在は大久保卿の下で、大書記官を勤めています。」
お役人さん?しかもよく分からないけど相当偉いんじゃ?イノウエコワシって教科書に載ってたぞ。確か......憲法草案作った人?
「手紙でお伝えした通り、私には貴方と同じように、前世の記憶があります。前世最後の記憶は、電車のホームに落ちた人を助けようとしたことです。その時恐らく命を失ったのだと思います。」
何か確かにそんなニュースを聞いた事はあるような......。
「記憶がハッキリしてきたのは5歳くらいの頃です。それまでは皆が同じように別の記憶を持ちながら、生きているのだと思っていました。どうやらそうじゃないと気づいた時には狐憑き扱いです。」
井上さんは笑っている。笑えないよねこれ。
「そこからは他人に記憶を明かさず、ひたすらこの世界の勉強に勤しんできました。戊辰にも参戦して、終わってからもとにかく勉強。法学とフランス語が役に立って、江藤参議の洋行に随行することができました。そこからは大久保利通さんに目をかけてもらい、今に至ってます。」
スゴイ偉い人だった。普通なら俺ごとき書生が会えるような人ではない。
「ただ私は前世で極め付けの歴史オタ、しかも明治維新ダイスキだったんで。」
「え!」
それズルくないですか。
「この世で生きていくために、大変役立ちました。でも流石に井上毅の幼名までは知らなかった。飯田多久馬なんて名前で、わかるわけないですよね。」
「え、井上さんそんな状態だったんですか!」
「宮崎さんにはこないだ言わなかったっけ?」
「全く聞いてないっすよ。」
二人は笑い合う。何か俺だけツイテイケナイ。
「いや失礼。それで自分がそうなんじゃないかと思い出したのは、井上家に養子に入ってから。22の歳だったんです。その後使節団へ同行したことで、間違いなしと確信し5年前に改名しました。」
「凄い苦労されてるんですね。」
俺は素直な感想を言った。30年間自分が歴史に名を残すとは思わず、それでも必死に勉強できるこの人はスゴイ。俺にはゼッタイムリ。
「皆さんと同じですよ。それでね、最近までこんな目に遭っているのは、自分一人と思っていたわけです。ところが妙なところで、いるはずない人に会いまして。」
「それがこちらの.....ええと宮崎さん。」
先ほど呼び合っていた名前を思い出す。
「宮崎八郎です。今は熊本で政治結社をやっているのと、国会期成同盟の再結成に向けて動いてる感じかな。」
濃い顔の人はそう名乗った。
ミヤザキハチロー?聞いた事あるような......?
「生い立ちはまあコワシさんと大体同じ。でも俺自分が誰なのか知らなかったし、コワシさんと合わなければ知る事もなかった。」
「宮崎八郎くらい知っていてください。熊本の英雄ですよ!」
「イヤイヤ無理だってー!」
あっ!翔ぶが◯く!あの色男か〜!こんな感じだったんだ〜。
「宮崎八郎さんは俺でも知ってますよ!司◯遼太◯先生の本に出てきてますよ!」
俺が言うと、本人はそうなんだってね〜と他人事のように言う。
「私が西南戦争期間中に、京都臨時政府で調査しているときに、何故か大阪で国会期成同盟に向けた暗躍をしている、宮崎さんを見つけたんです。この人が大阪で生きているはずがないですから、もしかしてと思って接触しました。」
「あの時はビックリしたっすよ。警察の手入れだと思いました。」
二人は笑顔だが、話の中身は物騒だ。
「そしたら突然泣き出すしね。」
「ううむ、面目ないが感極まってね......。」
やっぱ泣いてたんですか。
「俺も事情聞いてやっぱり泣いた。まさか同じ境遇の人がいるなんてね。」
ハチローさんの目にも、光るものがある。思い出してまたグッときてしまったのだろう。
「宮崎八郎は西南戦争で死んでますもんね。」
「面目ない、知らなかったんだよ。死ぬのはイヤだから全力で逃げ出したね。」
俺もまじって皆笑い声をあげた。
何か同じ境遇っていうのを差し引いても、優しくて愉快な人たちだ。
「そういうご縁でしたか。ところで俺はどうやって探し出したんです?犬養毅として、イレギュラーな行動してました?」
そう聞くと二人は微妙な顔をした。
「いや実は結構グレーな感じを持ってはいたんだ。」
コワシさんはちょっとすまなそうな顔をして、俺のことを見る。
「ただ犬養さんが書いている記事が、あまりにも現代風だったのと、使っている用語に時々時代超えちゃってるモノが出てきてましたから。それで怪しいってことになったんです。」
そうでした?結構言葉も選んで書いたつもりだったんですが?
「それでもツヨシくんは福沢諭吉の弟子だからね。あの人新しい言葉どんどん作っちゃう人だし。だからチョット怪しいけど接触しようということになった。」
ハチローさんがそう言って笑う。
「それで合言葉クイズですか。」
「そう、どんな時代から来ているか分からないし、なるべく分かりやすいものにしようと思って。」
「どんな罠があるかと心配でした。」
俺が正直な感想を言うと、二人とも崩れるように笑い転げる。
「そりゃあそうだよな。よく来てくれたよ。」
「本当に......よく......来てくれましたあああ。」
「ああもう、コワシさん泣きすぎですよ!めんどくさい!」
「だああってさああ。」
何かコワシさんの泣きっぷりが可愛らしくて、俺ももらい泣きしてしまう。
30年間辛かったんだろうな。
「俺は皆さんと違って、ついこの間転生したんです。」
二人はキョトンとしてこちらを見る。
「何それ?どういう事?」
「つい最近とは?ああああなんかまたまからない事があああ。」
俺は西南戦争の最中、記憶が切り替わったようにこの体に入った事を、なるべく簡潔に話した。
二人にはちょっと理解し難い事だったようだ。
「それはまた.....その状況でよくご無事でここまでたどり着きましたね?」
「4月って事は、そのまま引き継いであの記事書いてたってこと?ちょっとそれ無理でしょ?」
「それが......自分の前世がたまたまフリーの記者だったもので。」
前世の仕事について、詳しいところをつたえる。
二人とも大いに驚いていた。
「外国語がイケるのは強みだね。しかも4カ国語?チートだな。」
「私もある程度出来ますが、前世ではそんなにやってません。正に犬養毅に相応しい前世ですね。」
ウンウンとうなずく二人。
「お二人との違いは何か意味があるんでしょうか?」
2人ともこの時代に、赤ん坊として生まれている。
どっちが良いとも思わないが、その違いには意味があるのだろうか?
「うーんすいません。私にもちょっと分かりかねます。ただ我々がこの時代に転生したことについて、私は興味あって昔から調べていたんです。すると浄土真宗の一派に、輪廻転生に関する特異な例として『逆輪廻』なるものがありました。コレは我々の転生に最も近いものではないのかと思うんです。」
分かりません。コワシさん難しい話抜きでお願いしますよ。
「逆輪廻っていうのは、不意の事故や徳の高い行いで亡くなった人が、輪廻転生を逆行して過去へ生まれ変わるっていうモノだそうです。もちろんその時記憶は失うわけですけど。」
「それじゃ我々と完全に同じってわけではないのね。」
ハチローさんが考えながら呟く。
「そうなんですけど、こんな事が絶対に起こりえないと言うわけじゃない、少なくとも例があって取り上げる宗教があったって事じゃないでしょうか。」
まあコレは結論の出ない話だ。
今後もお互い調べていきましょうと、俺たちは話し合った。
「ハチローさんは何故亡くなったので?」
「いやお恥ずかしい。半グレと揉め事になって...。」
無関係の人を助け、命を落としたらしい。そんな立派な人だったとは。
そうは見えないって意味じゃないですよ。
「我々はこんな事情で、時間を越えて一緒の時代に生きることになりました。そこでなんだけど、この先どうして生きていくか、お互いの考え方を話し合ってみませんか?」
コワシさん提案する。
問われた二人は深く頷き、賛意を示した。
「でもまずメシにしましょうや。」
ハチローさんが表に声をかける。
「ああすいません!ツヨシくんはビールもまだでしたね!」
俺たちの最初のミーティングは、こんな感じで始まったのだった。
コレは疲れそう・・・・
3話くらいで収めれるか・・・・って感じですね。