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朝鮮政治の王道

皆さんウソつきました?(・ω・)ノ


今回は前半に袁世凱、後半は金玉均の視点となります。


文中で朝鮮国王の尊称を『陛下』としてますが、本来朝鮮では中華を宗主国としていたため、国王に『陛下』を使ってなかったそうです。


でも紛らわしいので陛下で統一しちゃってます♪

光諸6年5月7日(1880年6月14日)


オレは今朝も勤政殿に顔を出す。

正直何の用事もない。有るわけねえな、こんなつまらん国の政府などに。


しかしこの地道な行為こそ、奴らにオレと自分の関係性を分からせるために重要だ。

清国公使の袁世凱は清国を代表する存在であり、国王よりも上だって事を理解させるんだ。


だからオレはわざわざ景福宮の正門から、輿に乗ったまま勤政殿まで乗り付ける。

清国公使は国王にしか認められねえ事も行える。

当然だ!国王より上の存在なんだからな。


勤政殿にも土足で上がる。

靴を脱げだと?下級国家の習慣を、上級国家の公使であるオレがナゼ守らねばならない?


一つひとつの行為は単に乱暴狼藉に映るかも知れん。

だがそれが積み上がると、ひとつの通知になる。

『思い出せ、貴様らは大清帝国の属国だ』というメッセージだ。


しゃらくさい装飾の施された扉を開け放つ。

室内には左右に並んでこちらを向く顔の数々。


随分数が多いな。王族まで集まっているんだろう。まあコイツらの顔などいちいち覚えてないが。

皆揃いの赤い服を着て、みっともない冠を被った奴らだ。


ドカドカと土足で踏み込むオレに、ヤツらの表情が凍りつく。

「袁世凱殿!袁世凱殿!」

左議政の金允植(キムインショク)がすっ飛んでくる。


コイツがオレの内通者なんだが、この場じゃひと芝居しようってんだな。付き合ってやるか。


「只今朝議中にございます!陛下もご臨席でございますので.....どうか!どうかお引き取りを!」

ちょー笑える、コイツの芝居はなかなか真に迫っている。


「陛下が居るならちょうど良いではないか。別に用もないが挨拶ぐらいしておこう。」

オレは左議政を押し除け、一歩中へ踏み入る。


「赴任の折に1度ご挨拶したのみ、その後お話しする機会も無かった。おーい、陛下!大清帝国の駐朝鮮公使、袁世凱が来たぞ!」


バラバラと白い服の近衛がオレの前に並び、行手を遮る。

ムカつくなコイツら。小日本の手先だろ?オレに武器を向けるつもりか?


「お待ち下さいませ公使閣下!此処はいやしくも朝議の場、いかに他国の公使といえど、お入りいただく事は叶いませぬ!」


おお?上手く国語(グオユー)を喋る奴も居るもんだな?随分若い。

まあオレよりは年上だが。


「黙りな!何度言わせるんだ!オレはそこらの外国公使ではない。大清帝国の駐朝鮮公使だ。お前たち()()()()()()()()()大清帝国の公使だ!分かるか?」


突っかかって来たやつは黙り込む。


「そもそも朝鮮は大清帝国の信託を受け、この地を代行して統治しているに過ぎない!この原則も忘れオレにこの場を立ち去れだと?オレ以上この場に居るに、相応わしいモノなど居ようか?!ああ?!」


オレがそう吠えると皆黙った。ザマアミロや。

近衛たちをさらに押し除け、御簾の前に立つ。向こうに国王が居るのだろう。

もしくはチビって逃げ出したかも知れんな。向こう側見えねえし良く分からん。


「陛下!大清帝国の駐朝鮮公使、袁世凱がご挨拶を申し上げる!」

頭は下げない。当たり前だ。


「恐れ多くも大清帝国皇帝陛下は、朝鮮国王たる貴方を()()()()()()()()()()!何が起きても直ぐにご相談されるのがよろしいでしょう!」


まあハナから用事なんぞない。言いたい事を言ったら帰るだけだ。

しかし今日はツイていた。国王が居るところで騒ぐのは効き目が違う。


「チョトマチナサーイ!!」

フザけた声が堂内に響き渡り、思わず脱力する。


「公使カーカ!アナタワシツレイ!ココチョーセン!シンコクジャナーイ!!」


コイツかよ.....。

今月になって漢城府へ派遣されて来た、政治顧問のメレンドレフという男だ。

プロイセンの貴族の生まれだっつー事だが、30歳そこそこの若さで朝鮮くんだりまで流れて来てんだ。

おかしな奴に間違いはない。


馬建忠のところにいたって話だ。李総督も信頼していたって話だが.....。


「老師、おはようございます。」

クソ面白くねえが一応礼を示して挨拶。


「少々誤解があるようですが、清国と朝鮮は元より冊封の関係、全ては清国の礼に則って全て取り行われるのが古来からの決まりなのです。」


コイツは一体何なんだよ。おかしな冠を被りやがって。

清国から派遣されてんだから、清国の利益のために働くべきだろう?


「チッガイマース!‘入郷随俗(ルーシャンソイスウ)’イイマスネー!!シンコクノ儀礼、ココニカンケナーイ!!」


コイツのメンドくせえのは、言語学者だって事だ。中途半端に喋れるし朝鮮語まで覚えつつある。

ヘンに知識人であるために、ツマンネエ正義も振り回す。


何だってこんな奴送り込んできたんだよ?役に立ってねえなんてもんじゃねえぞ。


まだギャーギャー言ってやがるが、オレは無視してこの場を立ち去った。


オレがこれだけ頑張って朝鮮を躾けてんのに、メレンドレフの野郎がああも朝鮮の肩を持つようじゃあ、清国の意図を間違えて伝えかねないじゃねえか。


クソ面白くねえ!オレの足を引っ張りやがって!


<<<<<<<<<<<<<<<


今朝は格別の酷い朝議だった。

そもそも朝議など下らぬことしか奏上されないが、今朝はあの男の所為で何もかも滅茶苦茶だった。


兵曹(軍務省)の朴定陽様はぐったりと椅子へ沈み込んでいる。

なぜあのような男を入場させるのかと、閔氏一族の偉い方から責め続けられたためだ。


確かに近衛の管轄は兵曹の判書(大臣)である朴閣下に在る。


ならば誰かあの粗暴な清国公使の参内を、止めることが出来るというのか。

余りに幼稚な責任転嫁だ。そもそもあの公使を受け入れたのは貴方たちではないか。


「判書閣下、お役にも立てず申し訳ございません。」

全く心苦しい限りだ。こんな時末席に座るものは発言すらできない。


「玉均、キミの所為ではない。あまり気にするな。」

ため息とともに絞り出すような朴閣下の声。普段の力強さは失せ、病人のような声だ。


朴判書閣下は快活な性格で、若手官僚からの人望を一身に集めている。

少々知性は足りぬが、その部分は我らが補助すればよい。


理想的な『輿の上の将』であった。


独立党の構成員は若手が多く、政府の中枢には中々近づけない。

しかし今回日本政府との軍事協力において成果があり、橋渡しをした独立党の評価は大きく上がった。

その結果、軍務を司る部門へ我々が選任されたのだ。


朝鮮において軍関連の仕事は最も位が低く、兵曹ならばくれてやっても良いという見下した考えでもあるだろう。それでも政府の一部門へ食い込めたことは大きな一歩だ。

陛下からのご期待も高いという。


しかし王族や閔氏一族からは嫌われており、今日のように言いがかりに近くとも少しでも責めれる事があれば大罪人のように騒ぎ立てられる。


陛下への印象を少しでも傷つけようとするのだ。


朝議とは正にそのような場所に他ならない。

足の引っ張り合いこそが、朝鮮という国では政治なのだ。


「しかし閔氏一族の悪賢さと誠意の無さ、閣下を責めて何が解決するというのでしょう?」


私は口を閉じていることが出来ぬ。あの者たちこそ朝鮮の膿である。


「滅多なことを言うものではない。」

閣下はゆっくりと起き上がり、手を突き上げて大きく伸びをする。

「それにしても今日は可笑しかった。」


「は?」

「例のドイツ人さ。キミも聞いていたろう?」


メレンドルフ殿の事か?確かに袁世凱をやりこめていたようだが。

「北京から派遣されてきたというのに、あの御仁すっかり朝鮮の味方だ。陛下のご信頼も厚いし、今後はこちら側に引き込む事を考えなければな。」


私はあの風変わりなドイツ人の顔を思い浮かべる。

ぼさぼさな頭に朝鮮の冠をのっけて、朝議には必ず韓服の正装を着てくる変わり者。

いう事は偏屈だし身分制度を改革せよなどと、西洋の価値観を押し付けてくる。


あんな男をこちら側に?


「かの仁はいささか我らの考えと異なる事を言っておりますが。」


朴閣下は頷きながらもきっぱりと言う。

「この際だ、我々の方策も多面的に進める必要がある。」


「多面的とおっしゃいますと?」

私は驚いて聞き返す。


アナタは輿の上の将でしかないのだ。

人気取りのための看板であるアナタが、自分でモノを考える必要などない。

我々の考えに従っておれば良いというのに....。


「かの仁はな、ロシアとのツテを持っておる。」


私は目の前が眩むほど驚いた。ロシアだと?最悪ではないか!


「閣下!ロシアはいけません!かの国は領土拡大こそが国是であり、凍らぬ港を求めて南下政策を取り続けているのは周知の事実!」


しかし朴閣下は笑って頷くのみだ。

「その面では日本も大して変わりがあるまい?だから日本とロシアをぶつけるのだ。既にメレンドルフ殿とそのような話を進めておる。あの方は大した御仁よ。」


いかん、馬鹿げている。

「日本はアジアの気風を少なくとも理解しており、先年ご赴任された竹添公使も『大事は朝鮮の自主独立』と仰せになってます。ロシアとは比べるべくもありません!」


「いやいや、私は日本を捨てろと言っているのではない。二面作戦でいくのだ。清国の影響から逃れるためにはこれしかあるまい。」


おのれ何という事だ!何という事だ!この馬鹿者が!


「私とメレンドルフ殿とで、右議席の金弘集様にご相談しようと思っている。キミも良ければ同席しなさい。」


私は頭を下げながら、口では呪いの言葉をつぶやく。

何という事だ!ここまで無能な男だったとは!この男を何としても止めなければ。


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