表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/133

梟雄の始動②

うむ、失敗した。


この挿話ぜんぜん終わらない。


すいません...あと一回やらせてくださいm(__)m

「コレが朝鮮での連絡先になります。ミスター・ユエ」

ヨシダは実に流暢な英語でそう言い、オレにメモを渡した。


「ご注意頂きたいのは間も無く日本公使館が、漢城府に新たに作られるということです。釜山よりも連絡が取りにくくなると思われるので、今のうちに彼らと接触いただくのが良いでしょう。」


オレの名は上海で使う『岳政民(ユエヂェンミン)』だ。

こんな偽名など無意味と思うが、軍の諜報活動を行う上で全ての準備は偽名で用意されてる。

つまり偽の身分証、住居、名刺やらの全てを偽名で渡されるのだ。


バカバカしいが使うしかない。

「了解した。朝鮮側へ渡す武器の数量と価格は?」

オレはヨシダが差し出したリストを目で追って確認する。


「価格は問題無い。だがこの数量では効果が期待できん。せめて倍の銃が欲しい。出来れば大砲も。」

ヨシダはバカ言うなといった顔でオレを見返す。


「持ち込むのにも限界があります。確かに日本公使館を巻き込んでいるので自由は効きますが、あまりにも大量となれば日本側が怪しむでしょう。」


だからって少量の武器では効果は出ない。オレたちはさらに現実的な数字を詰めた。

手付(ディポジット)は半分先払いで、残金は納品後でお願いします。」

ヨシダはしゃあしゃあと条件を決めていく。


「手付は3割ってとこが相場だろう?」

「やむを得ません。書面をロクに残せない取引で、私のリスクも非常に大きい。」


賢そうにモノをいう奴ってのはムカつくんだよ。

ならばもうひと働きしてもらおうか。


「その条件を受け入れる代わりに、コチラの条件を満たして欲しい。」

「中身によりますが。」

「難しいことじゃ無い。朝鮮国王の親父さんとオマエの取引に書面を残せ。オマエらは都合が悪けりゃ偽名でも構わん。」


ヨシダはオレの要求を聞いて府に落ちない顔をする。

「大院君殿下が金を支払うわけでもない。そんなものが何故必要に?」

「わけは聞くな。出来ないならこの話は無しだ。」


ヨシダはしばらく考えていたが、やがて考えるだけ無駄と諦めたようだ。


「良いでしょう。我が社が清国政府を代理しているのは大院君殿下もご存知の事。何とか書面にしてお渡ししましょう。」

「清国がつながっているなどと書かれては困るぞ。」

オレはそう言って立ち上がる。


日本人と話すなど胸糞悪い。最低限の時間でなければ耐えられん。

「金はすぐに送る。至急準備を進めろ。」


ヨシダは少し考えていたが、おずおずと切り出した。

「この量の武器は一気に持ち込む訳にまいりません。ある程度時間を頂戴しないと.....。」


「何日かかるんだ?」

オレが尋ねるのに目を白黒させてヨシダは答える。

「何日なんてそんな.....武器の準備と小出しの輸送で、少なくとも1年はお考えいただかないと....。」


「馬鹿か!遅すぎる!半年で完了させろ。」

ヨシダは恨めしそうにオレを睨む。


「日本の公使は、この作戦を急いでおりません。そこまで慌てる事もないかと。」

「商人風情に何が分かる?未来とは不確実なもんだ!準備は迅速に行え!」


それだけ言ってオレは反論を受け付けなかった。

「そう最後に念を押すようだが、オマエの身元は確認できた。我々との約束を違えようなど思わん事だな。清国人が裏切りに対し、どんな手段を取るかは知ってるな?」


ヨシダは黙って下を向いた。分かってんならセッセと励めよ。


清国人は北方の異民族なので、苛烈な印象を持たれると聞く。

実際にはもう完全に漢族化していて、どうにも腑抜けになっているがな。

そもそも俺も漢族だし。


だが印象ってのは大事だ。恐怖に裏切りで報いるヤツは少ないからだ。


密会場所の外は新年の準備に慌ただしい、交易都市として勢い盛んな上海の街だ。

ここは老城皇廟にほど近く、浅黒い上海の男たちが江南地方の意味不明な言語を喚き散らす。


上海の奴らは外人が好きだ。汚らしい奴らめ。


オレは威海へ戻って準備をするため、淮軍の事務所がある四川路へと足を向ける。

直ぐにも朝鮮へ向かわなきゃならん。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


光緒4年1月12日(西暦1879年2月2日)


朝鮮で清国人は目立つ。何と言ってもこのマヌケな辮髪が問題だ。

つまり朝鮮に限らず外国での活動には、清国人は向いてねえって事だ。


ヒゲの形も分かりやすいしな。


散々悩んだ挙句、もう隠す事もねえと開き直った。

朝鮮人には清国人だ!と押してった方が話が通じやすいだろ。コソコソする必要もねえ。

高麗棒子(ガオリーバンズ)相手に偽名もないもんだ。バカバカしい。


アイツらがオレの身分を知ったところで、逆に話の進みが早くなるってもんだ。

結構な話じゃねえか。


そんな訳でオレは清国人丸出しの格好でうろつく事にした。

釜山の街中じゃあ清国人はさらに目立つ。何しろ小日本との貿易地だからな。


効果は抜群だ!ヤッパリ棒子には圧力(ヤーリー)に限る。


ヨシダの手下は日本公使館に潜入.....と言うか公使館職員として働いていた。

恐らく満洲辺りの朝鮮族どもだ。なりは日本人だが国語(グオユー)も朝鮮語も、日本語も達者だ。

薄汚え小日本には誂え向きの下僕だな。


ヨシダに教えられた通りの時間と場所でそいつらへ接触する。

「オレは岳政民殿に派遣された、清国淮軍の将校だ。袁という。」

のっけから圧力(ヤーリー)で臨む。


朝鮮族どもはビビって声も出ねえ様子だ。

「オレの一言で清国淮軍の精鋭2000名が、釜山の街ごと火の海に出来る。オレを裏切ろうと思うな。」

下僕どもは急いで頷き誠意を見せようとする。


「その代わり首尾よく片づけば、オマエらを雇ってやろう。全力で働け。」

そいつらは目を輝かせた。小日本の下僕よりは大清帝国の奴隷がマシだろう。

どうせこの仕掛けが終われば、こいつらにしても日本公使館なんぞには留まれまい。


オレの気に入る働きぶりを見せろよ。



その後さらに堂々と行動することにしたオレは、漢城府の清国公使館に入って情報を収集し、奴らは電信やら手紙やらで報告を送ってよこす。


棒子どもはオレの言葉通りなかなかいい働きをしてくれている。

朝鮮国王の親父とも渡りはついた。清国の恩義に泣いて喜んだらしい。

いい加減な野郎だ。自分で政治を仕切ってた時は、大清帝国に忠義を尽くしたこともねえくせに。


清国公使の何とかいう野郎は(名前を覚える価値もない男だ)、オレの任務が気になって仕方ないらしい。


「李総督閣下のご命令で、朝鮮における日本の活動について調査しております。」

オレの答えはこの一点張りだ。間違いじゃないしな。

こんな下らない野郎を置いておくから、棒子どもがつけ上がるんだ。


それでも北京にタレこまれたりするのは面倒だから、せいぜい煽てて気分よくさせてやっている。

紫禁城には魔物が住むというが、未来を見通せる奴はいまい。

せいぜいオレが手柄を立てるのを見ておくことだ。


しかし朝鮮のメシはマズい。


臭い漬物と生臭い海魚ばかり食いやがる。街も汚らしいし女もロクなのがいねえ。

だから俺はせっせと情報集めに精を出した。


きっと真面目な軍人に見えた事だろう。公使野郎も俺に好感を持ったようだった。


だから公使とはしょっちゅう飯を食ったり酒を飲んだり、仲良く過ごした。

朝鮮の政治についても勉強しておく必要がある。こいつからは精々教わっておくとしよう。


こいつにはそのくらいの使い道しかないし、そんな情報も次のステージでは重要になるからな。


こうしてオレの朝鮮での時間は順調に過ぎていったわけだ。

あの日本野郎が来るまでは。


<<<<<<<<<<<<<<<


光諸4年4月(西暦1879年6月)


閏3月の末に日本公使館は漢城府へ越してきた。

今やオレの部下と言っていい朝鮮族どもとは、ますます連絡がとりやすくなった。


「日本から軍事顧問が派遣されて来ました。」

オレはまだ朝鮮へ口出しする資格もねえし、これは阻止しようがなかった。

まったくあの公使野郎が使えねえ所為だ!


「日本からの支援もあって、訓練は既に始まっています。しかしあのような厳しい訓練に、朝鮮の兵士がついていけるとは思えません。早晩全員が逃げ出すでしょう。」


そうか?そんな簡単に自滅するならこっちも楽ってもんだ。

軍事顧問が失敗すれば、政治顧問派遣なんて話もつぶれるだろうしな。

だがそこで勝手に終わってもらっちゃあ、こちらも朝鮮への影響力を増すことができねえが。


ところが立見(リージェン)とかいうその軍事顧問、ただの日本野郎じゃなかった。

兵営から脱走者が出た日、当直だった兵士を逆さ吊りにして罰したらしい。


.....なんて血も涙もない野郎だ。日本人ってのは鬼か?


「脱走者はそれ以来一人も出ておりません。といいますか、訓練自体がとても順調に進んでおり、我らのような素人眼にも強度が格段に増したように見え....。」


「もういい!うるせえんだよお前ら!そこで脱走の手助けくれえ出来ねえのか!」


「....それが軍内部の者と接触しようにも、やつら休日らしい休日もなく訓練三昧。手の出しようがありませんで...。」


ムカつく話だがそれなりの有能な士官が来ちまったらしい。

これはマズいか?賭けに負けるのはオレの方なのか?


畜生!負けてたまるか!

オレはもう豚みてえに死ぬのは嫌だ!


「武器の手配は順調にいっているんだろうな?」

オレは焦りが見えないように気持ちをコントロールする。


大丈夫だ。この世界で全てが見えているのはオレだけなんだ。


「はい、ご指示通り急ぎで進ませています。10月には全てが完了するかと。」


遅せえ、遅すぎだ。

「ヨシダには半年と言ってある。8月までに全て運び込め。遅れは許さねえ。」

これ以上武器を増やしたところで、朝鮮軍の兵力は変わらねえ。


散々調べたんだ。あんな棒子どもじゃあ数がいても蹴散らされて終いだ。


時期を早めるしかない。敵が仕上がる前に実行に移す。


そうしてもう一つ二つ、手を打っておくとしようじゃねえか。

オレは必至で頭を働かせた。


そして気付いた。この頭が前世とは比べ物にならんほどキレるって事に。


なんか...日本の皆さん大丈夫ですか?


他人事じゃありませんが、最近の報道見てると日本も心配になってきました。


どうかお気をつけてお過ごしください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 中国の歴史変える分岐点を日清戦争だと決めつけていたり行動が雑だったりが駄目駄目だけど そこが是正されると……駄目だ中国のあるべき姿のグランドデザインが難しすぎる あの国の幸福って周囲を…
[気になる点] 西暦1897年6月)って日清戦争終ってるはずですけど…1879年の誤りですか? 日本側にも(最低で3人も)転生者が居ると袁世凱が教えられる事は、ないのでしょうねぇ…(´∀`) [一言…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ