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色々ちっさくなった話

衝撃と爆発音でぼうっとなった頭が、時間の経過とともに意識を取り戻す。


ー 爆発で吹っ飛んだのか。


自分の身体が地面に放り出されていることに遅れて気づく。

両手で踏ん張って身体を起こそうとしたが、その両手にしてもまだ身体に付いているのかどうか、全く反応する気配がない。

そして視界が...目がよく見えない.....。


“お、気付いとうか?”

かなり遠くで声がした。

“怪我は大したことないき、少し休めば治りましょう。”

女の声も聞こえている。

日本語で....日本語⁉︎


声のする方向へ顔を向けることも出来ない。

っていうかアッタマ痛え.....。

そうして取り戻したはずの意識も、やがて徐々に失われた。


<<<<<<<<<<<<<<<


次に意識を取り戻した時、俺は木造の小屋の中にいた。

壁板の隙間から光が差し込み、薄暗い屋内だが中の様子は見て取れる。


ここは物置小屋だろうか、博物館に置いてあるような、古めかしい農機具が転がっていた。

そういえば視界が確保できている。

爆発の時に、一時的に見えにくくなってただけのようだ。


こんな状況にあって、随分と落ち着いて観察できている方だと思う。

観察っていうよりも、考えが纏まんないから目から入る情報を必死に集めてるだけだが。


俺はクラシックなスーツを着て、藁の中に横たわっていた。


こんな服を買った覚えはない。

戦場においてこんな動きにくい服は、自分の首を絞めるようなもんだ。


戦場?


アタマイタイ。そうだ戦場、俺の職場だった。

っていうか俺背が縮んでない?この服スゴく小さいんですけど!

俺はなんで日本の田舎で爆撃を受けてる?

俺は確かシリアで.....俺の混乱は終わっていなかった。


「犬養さん、起きとうと?」

誰かが声をかけていた。

俺に?イヤ俺の名前は.....。


「イヤすまんのう。少し持ち物を調べさせてもうた。この通行証にアンタの名前が書いてあったんでな。」

「アンタ.....誰なんだ?」

「ワシはとうや.....イ、イヤ当間、そう当間 満男っちゅうもんじゃ。」


あからさまに怪しいが、そこに突っ込む余裕はなかった。

男は薄汚れた和服に帯を締め、股引的なモノを穿いている。丸坊主の頭にはフケが浮かび、丸いメガネはかなり度がキツそうだ。

しかし鋭い眼光がタダもんじゃなさそうな、強烈な我の強さを感じさせた。

何というか犯罪者スレスレ?つまり見た目にもハッキリと怪しい。


「通行証.....?」

「なんじゃ自分の持ちもんも覚えとらんと?これじゃ。」

満男と名乗った男は、畳まれた和紙の書簡のような物を差し出す。

震える指で受け取ろうとして、自分の手の小ささにまた驚く。


「うわぁ小っさ!」


「え、何?どげんしたと⁉︎」

満男も驚いたようだ。そりゃ悪かった。

だが”自分の手が小さくて驚いた“と説明する気ななれず、そのままスルーしておく。


受け取った紙には、かなり崩れた達筆風な文章が墨で書いてある。

読めねえし。


これ候文ってやつ?

ソーローじゃないよ、そうろうぶん。


混乱する頭にはオヤジギャグも交錯する。

けれども『立入許可』の文字は読めた。

その左に『犬養毅』という名も読める。これが俺か。


.....イヤマテこれは俺じゃない。


一体どうなってる?犬養毅?それって確か五一五事件で死んだ人?

俺が小っさくなって.....ェェエエ?


「アンタ.....満男とか言ったな?」

「やけん何ね?アンタ目つきがバリ怖いんじゃが.....。」


「今って何年?」

「はあ?昨日打ち所悪うて、頭こっぱげたか?」

「ハゲた?」

「誰がハゲ言った?こっぱげた言うんは、壊れたっちゅうことじゃ。」


.....いろいろ面倒なので方言もスルー。


「多分記憶がおかしくなってる。爆発のせいだと思う。」

そう言って痛む頭を抑える。

包帯替わりの布が巻いてあるのに、ここに来てようやく気づいた。


「アンタがやってくれたのか?ありがとう。礼も言わずに色々聞いてすまん。」

俺がこう言うと、坊主の満男はニヤリと笑って言った。

「ここまで運んで来たのはワシじゃけど、手当てしたんはワシやなか。この農家の娘じゃ。」


娘がいるから母屋じゃなくて小屋に入れられたのかな。

締め切られて窓もない空間だが、壁の隙間から漏れる光で今は日中と知ることができる。

先程から昨日がどうたら言っているところを見ると、俺がケガしてすでに1日経っているらしい。


記憶にある女性の声を思い出した。アレが手当てをしてくれた女性だろう。


「何にせよ助かった。本当にありがとう。」


痛む頭を下げる。

満男は慌てた様子で手を振る。


「なんばしよっと!こげんこつで男が頭ば下げようもんじゃなか!」


ムキになって俺を制止するあたり、悪いヤツじゃあなさそうだ。

でもこの人スゴく臭い。少し離れてほしい。


「そうかあ、昨日のケガで何も覚えとらんのじゃな?そらあ気の毒したな。」

「んで、今何年?ココドコ?」

「ホンマに覚えとらんと?今は明治10年、ここは熊本に決まっとろう。」


オウ、どうやらコレはアレだ。


すごい金のかかったタチの悪いドッキリではなさそうだ。

俺は戦場で.....そう職場で爆弾に吹っ飛ばされ、死んだと思ったら別の時代の戦場にいる。

それは故郷日本の.....有名な内戦だ。


明治10年戦争、つまり西南戦争だな。


学校で習った事はわずかだ。しかも犬養毅って時代が違わないか?

ホレ大正デモクラシーとか、あの辺の人だろ?


それに軍人じゃなかったろ多分?何で西南戦争の熊本にいるの?


俺は175cmあったはずだが、今はどう見ても160cmない身体。頭はボウズ、触った感じ顔には無駄な肉が付いておらず、物凄く痩せている。


過去に生まれ変わったって事か。

はっきり言って混乱しかない。しかし今は対応しなければ。


「満男さんはこの辺りの人かい?兵隊には見えないけど。」

「そこなんじゃが。」


突然満男は改まると、藁の寝床の傍で土下座になって俺に頭を下げた。


「訳ば聞かんでほしい。助けたのを恩に思ってくれるなら、どうかアンタと一緒に行動ばさせて欲しい。この通り!」


いきなりの土下座である。

まだ完全には思い出せないけど.....俺の生きていた時代では、土下座なんてネタ以外にあり得なかったように思う。


この時代では真剣さを表す事なんだろう。

だがあまりに居心地悪いのでやめてもらう。


「今頭を下げるなと言った本人が、土下座をするのはいかにも奇妙だ。やめてくれよ。」

「いやまあ.....そりゃあそうじゃが、ワシも事情があってな。」


「一緒に行動と言うが、俺が何をしているのか知ってるのか?」

「いやその通行証に書いとるばい。東京の新聞、郵便報知記者!戦地で取材しとるんじゃろ?」


うーんどうやら満男くんの方が状況判断できているようだね。

そう言うことか。

俺はまた従軍記者として生きながらえたのか。


犬養毅って新聞記者だったの?


痛む頭を押さえながら、俺は同意する。

どうせ今何を考えたところで、いいアイディアが出るとは思えない。

それなら助けてくれたコイツを信じて頼った方が早い。


「まあしばらく一緒に行動しよう。俺は記憶が戻らないし、助けてくれるならありがたい。」

「そうかよかとか!ありがとう!俺に任せとき!何も心配いらんけん!」


満男はそう言って、小屋から弾むように出て行った。

俺はまた藁の中に沈んで気を失った。


<<<<<<<<<<<<<<<


次に意識が戻ったのは夜だった。

女性が灯りを片手に様子を見にきてくれていた。


「ああ、気づかれたとですか?」


如何にも農家の娘という、化粧っ気のない顔に、粗末なツギの当たった着物を着た女性だった。

年齢もよく分からないが、この時代なら若くても結婚している事が多いはずだ。


女性はミナと言った。漢字は読めないのでどう書くかも知らない。

ミナさんは白湯を持ってきてくれた。

「お世話になってすいません。いくらか宿代はお支払いします。」


金はどうすんの?と思うでしょ?

実は懐に結構入っていた。

このスーツといい、どうやらツヨぽんそこそこリッチな人らしい。

それともこの仕事危険だから、給料いいのかな?


「そんな、私ら別に何もしとりません。それにお布団も用意してませんし.....。」


そうは言っても金の話は嬉しかったのか笑顔になったので、ちょっとその辺を話してみた。

お金困ってます?とかじゃないよ。戦争が始まって、物資や物価にどんな変化があったかとか、みんなどうやってしのいでるとか、世間話風に聞いたのよ!


「物の値段が急に上がって....最初は兵隊さんが高く買ってくれるんで、皆喜んどりましたけど、そのうち物がなくなってしもて.....オナゴはみな身体でも売るしかなかとです。」


そう言ってミナさんはカラカラ笑う。

うーん俺の感覚ではアウトだが、今のは冗談なんだろう。


食欲が出たら食べ物を持ってくると言って、ミナさんは母屋へ戻っていった。


そう言えば満男が何処にいるのか、全く聞くのを忘れていた。

奴はどこに住んでいるのだろう?

俺と一緒に行動する目的って何だろう?


今度は少し長い時間意識を保っているので、俺の怪我は大した事なさそうだ。

先ずは一安心。


アタマが痛かったのは怪我のせいじゃなく、別の時代に吹っ飛び他人の身体に入った事が、ダメージになっているのだろうか?


分からない事だらけだ。


改めて自分の状況に驚きを感じるが、それでも意外とすんなり受け入れているのが可笑しかった。

死んでも戦争ジャーナリストっていうのが、一貫性あって良いじゃないか。


前の人生の記憶はまだ曖昧だが、きっと思い出せる。

今の身体の持ち主については、さらに何者か知らないが、そのうち分かってくるだろう。

何故ならその魂は同じ、俺はジャーナリストだ。


俺は安心し、再度眠りに落ちた。



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