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第七話 出発準備無双

本日七話目です。

 俺が十三歳になって、もうすぐ一年。

 この世界では、十四歳で成人となる。

 つまり、一応は大人として扱われるのだ。


 結婚もできるし、家を継ぐこともできる。

 一般的な村人であれば、長男が家(建物の)や大半の田畑を受け継ぎ、それ以外の子供たちは僅かな土地を分け与えられるか家を出ることになるのが普通だ。


 俺の場合は長男で、下の子が妹だから財産の全てを受け継ぐことになるのだが……俺は村を出て冒険者になりたかった。

 それが普通ではない、転生者ゆえのわがままであるのは理解している。


 もちろん、この十三年、いろんな葛藤もあった。

 自分の将来を自由に生きるためにやった様々なことで村のみんなに喜ばれ、感謝されることもあったし、ずっと村で生きるのも悪くないと思ったこともある。


 しかし、俺は計画通りにレベルを上げたし、スキルも手当たり次第に習得しては伸ばした。

 それは、なんのためか? 冒険者になるためだ。


 何より、様々な魔法を使うのは楽しかったし、見様見真似や我流での訓練でも身になれば嬉しかった。

 そしてゲーム感覚ながら、できる限りスキルレベルを上げもしたのだ。


【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:38

 所持スキル:魔力操作10 魔力感知10 七属性魔法10 空間属性魔法7 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法10 調合10 木工10 投擲10 弓術8 皮加工9 気配察知9 隠身9 剣術4 体術4 金属加工4

 転生特典:万事習得】


 剣術と体術の師はいなかったため、ここまでしか伸ばせなかったが……全体的なレベルは、十三歳としては十分だろう。

 魔物との戦いの中で大怪我もしたし、魔法でなく自分の手で直接命を奪ったことも何度もある。


 そうすることで、現実感が乏しかった自分自身に、この世界という現実の中で生きるという覚悟を持たせることも出来たろうと思う。


 ……まあ、十二歳になった時に両親には冒険者になりたいと告げたし、自分のおおまかな実力も見せたから、「成人しても気が変わらなければ好きにしなさい」とのお言葉を頂いたのだが。


 二人とも寂しそうだったのには申し訳ないと思った。

 エレーナが、いい人を見つけて家を継いでくれるのに期待しよう。

 食糧事情が改善して以降、子供が生まれることが増えたらしいので、エレーナと同年代の男の子たちには頑張ってもらいたい。


 最大の問題は、そのエレーナが俺が家を出ることに納得するかどうかだ。

 五歳くらいからは俺より両親の方に甘える比重が増えたので、お兄ちゃんっ子というわけではないが……。


「だめ!」


 十四歳まで、あと一月という頃、エレーナに村を出ることを話した。

 その反応が、これである。


 ちなみに年齢は、生まれた途端一歳で、次の春を迎えるごとに一つ年をとる。

 つまり、もうすぐ春ということだ。


 それはさておき、エレーナは俺の意思に断固拒否の構えをとり、くっついて離れなくなった。

 この子は春で八歳になるのだが、やはりまだ幼い子供だし、家族が減るということに強烈な忌避感を覚えたのかもしれない。


 考えてみると俺が生まれてから村は一人も人が減っていないのだ。

 寿命でも病気でも、狩りの際や予期せぬ事故でも誰も死んでいないし、村を出ていった人もいない。


 普通の山村であれば、若い者が出ていったり、生まれたばかりの子供が亡くなったり、狩人が魔物に殺されたりすることは稀とまでは言えない頻度のはずだ。


 それなのに、うちの村が豊かで健康的な生活ができるようになったことで、俺より下の年代の子どもたちは人が減ることに免疫ができない状態になってしまっているのかもしれない。


 ……いや、まあ、健康なのは良いことだよね。

思考をあちこちに飛ばしながら、俺は腰に抱きついたままのエレーナの頭を優しく撫でる。


 そんな時、ドンドンと激しくドアを叩く音が聞こえてきた。


「ソーラ! 魔物の群れが近づいてきてる! お前も来てくれ!」


 そう俺を呼ぶ声の主は、狩人の一人だった。



 狩人とともに村の北門へと駆けながら、事の詳細を聞く。

 それによると、狩人の一人が複数の気配が近づいてきていることに気づいたという。


 偵察に向かったところ、二十匹ほどのフォレストウルフがなにかから逃げるように、右往左往しながらも徐々に村に近づいていることが判明。


「多分、俺達が使っている道が一番移動しやすかったんだと思うが……」


 森のエキスパートたる狩人とはいえ、完全になんの指標もなく森を移動できるわけではない。

 そのため、獲物が見つけやすい領域近くには、いくつもの踏み固められた狩人のための道がある。


 今回は、断続的に存在するその道が、魔物の誘導に一役買ってしまったということなのだろう。


「オオカミ二十二匹……その後ろに感じたことがない大きさの魔力がある」


 北門の外にたどり着き『魔力感知』で確認したところ約一キロ圏内に多くの魔力が近づいてくるのが判った。

 ここまで近づけば、狩人の道は村までほぼ一直線……間違いなく、数分以内に魔物の群れがやって来る。


「みんなオオカミが見え次第、全力で攻撃して! 『身体強化』か『風矢』なら確実に倒せる!」


 異例の事態に動揺している狩人たちに、俺はこれまでの経験から「恐れるほどの相手ではない」と言外に伝え、奮起を促す。

 真剣な顔になっていても落ち着いて指示を出す俺の様子に、彼らも徐々に平静を取り戻し、それぞれ道の左右に展開して十字砲火しやすい位置に陣取った。


「来た! 撃て!」


 森の端から二列縦隊に近い形で姿を表したフォレストウルフの群れに、狩人たちの攻撃が次々と襲いかかる。

 それは俺の言った通り一矢につき一匹を確実に屠り続け、ものの数分もしないうちに群れを殲滅した。


 ホッと息を抜く狩人たちだったが、本番はある意味これからだ。

 未知の魔力反応……オオカミよりはるかに強大なそれが森を割って躍り出て来たのは、フォレストウルフ全滅からすぐだった。


「グオオオオ!」


 獲物を横取りされ猛り吠えるそれは、白銀の体毛を持つ巨大な熊――スティールベアだった。

 かつて聞いた行商人の話では、ブラッドベアの上位個体と考えられている魔物で、体毛は鋼の強度を誇り、魔剣でもなければ傷つけることもできないという。


 ――しかし、今の俺にとっては何ほどのものでもない。


「次元斬!」


 空間属性のスキルレベルが5になったころ使えるようになったこの魔法は、文字通り空間自体を切り裂き、触れたものの強度を無視してダメージを与えるという物だ。


 それは立ち上がり威嚇するスティールベアも例外ではなく、あっさりとその首を切り落とした。



 倒した魔物をまるごと持ち帰った俺たちは、村の人々に歓呼の声でもって迎えられた。

 広場で解体された魔物は、素材を残して焼却処分されたのだが……肉を食べられるスティールベアはキッチリ精肉され、一足早い新年祭といった感じの宴になだれ込むきっかけとなった。


 何しろ体長五メートルに及ぼうかという巨体であり、村人たちが総出で食べまくってもなお余る程の量の肉だ。

 村壊滅の危機を回避したという歓喜も手伝い、若者を中心とした村の衆のお祭り騒ぎは、歯止めの効かぬ乱痴気騒ぎとなった。


 まあ、たまにはこういうのも良いよね!

 俺も例に漏れず、大人に手渡された酒盃を干しまくり大いに騒いだ。



 翌朝目を覚ました俺は、いつの間にか一緒に寝ていたエレーナに村を出ることを認められた。

 どうも、俺が倒したスティールベアを見て、「出ていっても無事に帰ってくる」と安心したらしい。


 なんにせよ、魔物相手に無双したことが役に立ったと言えるであろう。


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