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第六十五話 一区切り無双

 初心者が冒険者稼業を始めるには難易度が高いということで、俺とミスティ、そしてユウナの三人は、遺跡の街からノマイン男爵領・領都ノマインへと居を移した。


 さすがに、いきなり徒歩で一月以上移動させるのもどうかと思ったので、例の船で空を飛んでだ。

 騒ぎになっても困るので、近くの目立たない場所でコソコソ地上に降りたよ。


 で、町へ入るために門前の行列に並んでいたのだが……。


「あ、先生!」

「おお、先生じゃないか! 大丈夫だったんだな!」


 というような感じで、見知った顔に会う度に声をかけられるのだ。

 ミスティは前回来た時に似たような一幕があったのでニヤニヤしているが、ユウナは状況がわからず「先生?」と疑問符を浮かべている。


 まあ、その辺は冒険者ギルドへの道すがら「依頼で魔法の先生をやったから」と、簡単に説明して納得してもらう。

 純粋に感心したような顔をされるのは、なかなか気恥ずかしいものだ。


 そしてギルドに到着すると、またしても「先生!」の嵐に見舞われる。

 ありがたいんだけど、ほぼ年上の人しかいないから何とも言い難い居心地の悪さがあるわぁ……。



「そうか、やっぱり教国は滅んだんだな」


 続いてギルドマスターの執務室に通され、教皇からの呼び出しに絡む話をした。

 おそらく、色んな国のギルドで教国関係の話が集まっているのだろう。


 教国周辺の国々をホームとして活動している冒険者には、この辺りの情報の有無は死活問題に直結するだろうからな。

 それに間接的に教国に雇われた高ランク冒険者が、洗脳された挙げ句戦争で使い捨てにされたなんて事もあったから、今後はより一層、情報を欲する者が増えると思う。


 ギルドも教国のせいで信用に傷がついた支部が多くあるそうで、その回復にも気を使っているそうな。

 まったく、教国は誰にもプラスを残さず滅んで、いい迷惑だよなあ。


 そうそう、対教国戦争で大霊連合に助力した報酬は、精霊魔法を教えてもらっていたのだ。

 ……しかし、残念ながら精霊魔法は覚えることが出来なかった。


 どうも、これは種族的な特性が大きいらしく、エルフ族以外には習得は無理そうな雰囲気だ。

 精霊を見てみたかったんだけどなあ……。


 転生特典の『万事習得』も、種族の壁を超えるほど万能ではないということか。

 久しぶりにステータス確認しておこう。


【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:132

 所持スキル:魔力操作10 魔力感知10 七属性魔法10 空間属性魔法10 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法10 調合10 木工10 投擲10 弓術8 皮加工9 気配察知10 隠身10 剣術10 体術10 金属加工7 刀術10 時間属性魔法9 瘴気感知10

 転生特典:万事習得】


 レベルもかなり上がったし、スキルの方も『刀術』と『瘴気感知』が極まった。

 それと時間属性もあと一つでマックスだ。


 七属性みたいに、空間と時間が統合されそうな気がする。

 果たして単純に統合されるのか、それとも上位の属性になるのか……期待は尽きない。



 ギルドでの用事を済ませ、俺達は宿を取り腰を落ち着けた。

 マッハで飛んできたので、まだ昼前だから少し休んで食事といったところだ。


 ……と思ってたら、男爵家の三人がやってきた。


「久しぶりだな、ソーラ」

「無事で良かった……」

「お元気そうで何よりです!」


 男爵、アウラお嬢様、セリオが口々に無事を喜んでくれる。

 俺も三人に、それぞれ再会の挨拶をし、ミスティとユウナを紹介した。


 そのまま宿の食堂で昼食会となり、食事をとりながら雑談となった。

 やはりみんな教国絡みの話が気になるようで、話題の中心はそれだ。


 ユウナが召喚された勇者だったということだけは伏せ、俺が経験したことを話し、俺のいなかったところなどはミスティが補足する。

 教国の騎士たちが悪魔になったことや、それに対処する方法などは強く興味を惹いたようだ。


 教国の話が一段落すると、今度は俺がこの町を出てからのことに話題が移った。

 ミスティとの出会いと『刀術』の修行、遺跡の街での遺跡探索、第三王子とその婚約者の救出など……思い出しながら話していると、自分でもこの一年で色んな事があったと感じる。


 食後のお茶の時間になると、男女に別れて話す形になった。

 セリオは、冬の間に剣の修業を始めたそうだ。

 もうすっかり喘息も治まり、健康な人と変わらず運動もできると喜んでいた。


 また領の運営の勉強も進めているそうで、たまに男爵と一緒に町の視察をしているとか。

 もう少し大きくなったら、町の外にも行ってみるそうだ。


 領地を治めるのは大変だろうけど、希望があるのは良いことだね。

 男爵も、息子がやる気に溢れているのを見て嬉しそうだ。

 病弱だった頃は、明日をも知れぬ状態だったもんねえ……。


 一方、女性陣は何やら顔を寄せ合ってヒソヒソと話している。

 時折、俺の方をチラチラと見たり、キャーキャー言ったりしているのが気になるが、聞き耳を立てるわけにもいかないのが悩ましい。


 まあ、仲良くなれたのなら、それで良いのだが。

 異世界から来たユウナには、心の平穏のためにも多くの友人を作って欲しいものだ。





 男爵領に滞在して二ヶ月、もうすっかり夏だ。

 俺はたまに魔法講座を開きながら、のんびりしている。

 といってもユウナの様子は見ているので、完全にダラダラしているわけではない。


 そのユウナは、二月も過ごせば町での生活にも慣れたようで、精力的に冒険者活動に勤しんでいる。

 この春に登録した入門冒険者とも交流を持っているようで、時折いっしょに依頼を請けたりもしているようだ。


 また、男爵家のお嬢様・アウラとも仲良くなっていて、男爵邸にお邪魔する度にお茶をしている。

 何をしに男爵邸に行っているのかというと、騎士や兵士に混じって剣術などの訓練をするためだ。


 どうやらユウナは元々運動神経の良いタイプだったらしく、剣術もどんどん伸びている。

 もしかすると、召喚当初の高レベルを経験していたのもプラスに働いているのかも知れない。


 ミスティもユウナとともに行動することがそこそこ多く、訓練に付き合ったり、一緒に買い物に行ったりと、すっかり友人らしい関係になっている。


 出会った当初から、ミスティはユウナに同情的だったこともあり、姉のように振る舞っている感じもあるかな。

 実際の年齢はいまだに不明なんだけど……さすがに聞けない。


 ともあれ、みんな一時期の慌ただしさが嘘のように落ち着いたのは良いことだろう。



 平穏な日常生活を送りつつ、俺は魔法の研究も進めている。

 どんな魔法かというと、『転移』に時間属性を加えることができないか? という物。


 いったい何の意味があるのか、と思うだろうが……まあ、『時空転移』とでも言うべき魔法が完成するのを期待している。

 ここまで言えば解るだろうが、要はユウナを日本に送り返す方法を探す一環なのだ。


 ちなみに現状のスキルレベル9では、物体の時間を『逆行』させることが可能になっている。

 パーツさえ揃っていれば、割れた陶器を『逆行』させたら壊れる前に戻るのだから便利だ。


 まあ、これまたアホみたいに魔力を消費するので、俺以外が使うことは不可能だろうが。

 そう言う意味でも、スキルレベルを上げにくいのがなんとも悩ましい。


 この二ヶ月、暇さえあれば時間属性を使いまくっているが、まったく上がる気配がない。

 何らかの、大きな壁を超えるような使い方をしなければならないのだろうか。


 とはいえ、生き物に『逆行』をかけるのは生体実験みたいでちょっと……。


「あ、植物からやってみるか」


 ということで草原へゴー。

 はい、あっという間に到着しました!

 おもむろにそこら辺の草をちぎり、くっつけてから『逆行』をかけてみる。


「むむむ…………おお!」


 上手く効果が発揮され、ちぎれていた草は元に戻った。

 これで、植物にも『逆行』が有効だということは判明した。

 あとは動物にってことになるのだが……嫌がっているばかりではダメだな。


 よく考えたら、別にどこかで動物を捕まえたりしなくても、ちょっと自分の指でも切ってから『逆行』させてみれば良いのだった。

 ということでトラーイ。


「うへあ……すげえ魔力消費したけど、できたなあ……」


 見事成功だ。

 ただ、当然のことながら、流れ出た血液は戻らなかった。

 ちぎれた腕を、『逆行』で動画の巻き戻しみたいにくっつける……なんてのはできない、ってことだね。


 いや、今のところ対象が一つだからそうなのであって、空間まるごと『逆行』――いや『遡行』か――させれば行ける可能性はあるか。

 ……いっちょ、やってみっか!


 適当にその辺の草を刈りまくり、直径二メートル程度の範囲をイメージして『遡行』を発動しようと試みる。

 すると、途端に恐ろしい量の魔力が消費されはじめた。


 さっきまでやってた『逆行』が五千人分くらいだとすると、空間への『遡行』はすでに軽く二万を超えている。

 やはり、難易度も消費魔力も劇的に高まるようだ。


「ふうー……」


 結果は成功。

 イメージ通りの範囲が、文字通り時間を巻き戻すように元に戻った。


 ただ、最終的に消費した魔力は五万人分ほどと、これまでで最大の量だ。

 ……できたは良いけど、正直、使い所のない魔法って感じだなあ。


 これだけやっても、やっぱりスキルレベルは上がらない。

 もっと色々やってみるしかないか。

 どうにかユウナを日本に帰らせてやりたいから、なんとか頑張らねば。


 まあ、焦っても良いことはないだろうし、しばらくじっくりやっていくとしよう。

 ――俺たちの無双はこれからだ!


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