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第六十三話 決着無双

「ギャァアア!! オノレ! オノレエエエエ!!」


 再び戦場に、悪魔の絶叫が響く。

 身も世もない様子の声だが、悪魔の身体自体は聖剣を砕かれて以降、天を仰いだまま動いていない。


 つまりこの叫びは、聖剣から溢れ出た瘴気から発せられているのだ。

 おそらく、教皇に寄生していたのだろう。


「神デアル我ガ! ヒトゴトキニィイイイ!!」

「だから、お前は神じゃないだろ。管理者の裏切り者か、出来損ないでしょ」


 自分が神であることにこだわる自称神に、ついツッコミを入れる俺。


「キサマァ! 我ガ、最強ノ存在デアル我ガ出来損ナイダト!!」


 まあ、過去の伝承などから考えれば、最強だったのはあながち誇張でもないんだろうけど、『管理者』という言葉からすると強さは必ずしも必要ではないんだろうと思う。


 世界を管理するなら、何よりバランス感覚が優れていなければなるまい。

 こいつには、それが欠けているのだ。


「コレデ勝ッタト思ウナヨ! 我ハ滅ビヌ! 必ズ復活スルゾ!!」

「何言ってんの、見逃すわけないでしょ。『時空結界』」


 何も無意味に駄弁っていたわけではなく、広範囲に渡る結界を張るために魔力を集中していたのだ。

 そしてそれは自称神を構成していると思しき瘴気を、全て内に閉じ込める形で展開された。


 ついでに悪魔の体も閉じ込めたので安心だ。


「バカナァアアア!! コンナ、コンナコトガァアア!!」


 頑張って逃げようとしているが、瘴気の状態では『時空結界』を破るほどの力は発揮できないようだ。


「じゃあな、二度と出てくるなよ。『聖火』!」


 別れの言葉を告げ、俺は結界内に浄化の赤光を発生させた。

 真っ赤な光はあっという間に空間を埋めつくし、瘴気と悪魔を浄化してゆく。


 もはや言葉を発することもできなくなった自称神は、今度こそ断末魔の悲鳴を上げ消滅した。

 その時点で悪魔が再び動き始めたが、もはや脱出することはかなわない。


 浄化し続けること五分ほど……ついに悪魔も完全に消滅した。

 大きく息をつき周囲を見回すと、黒蛇も悪魔と同時に消えていったようだ。


 これで、もう大丈夫か……。

『瘴気感知』にも何も引っかからない。

 うむ、よかろう。


「ソーラ! やったな!」

「お疲れ様だ」


 地上に降りた俺に、セナトとミスティが労いの言葉をかけてくれた。

 他の戦士たちとユウナも、大喜びしながら駆けてきている。


「そちらもお疲れ様です。援護、助かりました」


 俺も返礼し、笑いかける。

 誰もが大小の差はあれ、ホコリまみれ傷まみれだ。

 よくもまあ、あの黒蛇の海を突っ切って来たもんだよ……。


「ソーラ……」

「ソーラくん!」


 ミスティが俺に何事か話しかけようとしたところで、ユウナが飛びついてきた。

 ええ……なんで……?


 それを見て、ミスティが無表情になってるし、それ以外の皆は生暖かい目になっている。

 しかしまあ、突き放すのも違うだろうということで、頭をなでておく。


 それからミスティに手を差し出し、笑いかけてみる。

 なんとなく、放置するのはマズイ気がしたのだ。

 どうやらそれは正解だったらしく、彼女は一瞬あっけにとられたような顔になったが、すぐに笑顔を浮かべ手を握ってくれた。


 うむ、やはりミスティの笑顔は良い。

 みんな集まったことだし、回復して埃を落としておこうかね。

 はてさて……もう夕方近いし、砦に戻ってゆっくりさせてもらうか。



 それから数日、砦の皆とともに森の中に瘴気が残っていないか、戦場跡を中心にしっかりと探索した。

 幸い、どこにも瘴気は感じられなかったので、本当にもう安心だろう。


 そういえば悪魔教皇が巨大化した結果、耕された地面はクレーターとつながり、湖が少し広がっていた。

 戦いの衝撃波でへし折れた木々とあわせて、少しずつ整備していくことになるだろう。


 今後のことを考えて、水路を引いてどこかの川と合流させようという話も出ている。

 もしかしたら、新たな水産資源の採集場所になるのかもしれない。


 それから、森の中に『悪神の残滓』が散らばっていたことを鑑み、他に危険なものが眠っていないか、森の各種族で大々的に探索することも決まったそうだ。


 その昔、神々の戦いが行われたとされる地域だから、何があっても不思議はないし、良いことだと思う。

 とはいえ、強力な魔物も多く生息しているため、そう短期間では成果は得られないだろう。


 長い目で見て、頑張って欲しいものだ。





 森のことが落ち着いた後、俺はユウナ、ミスティ、エルフ族長・テデュームとともに神聖ヴァダリス教国・教都を訪れていた。

 勇者召喚に関することを調べるためだ。


 以前の『死の行進』から解っていたことではあるが、教都は人っ子一人おらず、完全にゴーストタウンと化している。


「……寂しいものだな」

「そうだね……悪神に惑わされた国の末路か……」


 ミスティがポツリと呟き、俺も同意を返す。

 建国当初は悪神と無関係だったのか、それとも最初から悪神のために作られたのか……それは判らないが、人にはどうにもできない大きな力を持つ者を一番上に置いてしまったがゆえに、自分で考えて行動することができなくなっていたのかもしれない。


 現実にはいない神を崇める宗教ですらおかしくなりがちなのだから、神の如き存在がいる状況なら、なおさら危険な方向に進みやすいというところか……。


 真っ白い壁の建物が立ち並ぶ薄ら寒い風景の中、俺たちは無言で大通りを歩く。

 その先、街の中心には、他のどんな建物より大きく高い大聖堂が鎮座している。


 なんというかサグラダ・ファミリアって感じだ。

 恐ろしく時間と手間、それに人手を使って作られたのだろう。

 無意味に幅が広く作られた階段を登り、大聖堂の城門をくぐる。


 門も巨人が通っても余裕、というほどデカイ。

 その先にある前庭も、やけくそに広い。

 庭の中央には大きな噴水が据えられ、参道? の周囲は芝が敷かれていた。


 人がいた頃はキレイに刈り込まれていたのだろうが、今はまばらに伸びている。

 噴水だけはちゃんと機能しているのが、余計に侘しさを醸し出しているように感じる。


 その噴水を回り込み、たどり着いた大聖堂の門扉を開けた。

 内部は広い礼拝堂で、たくさんの長机が規則正しく並び、ステンドグラス越しに差し込む日差しを浴びて幾つもの陰影を作り出している。


 実に荘厳な雰囲気だが、本来灯っているであろうロウソクや、人がいるはずの場所に誰もいないことから、やはり何とも言えない寂寥感を覚えた。


 礼拝堂の中央、赤い絨毯の敷かれた通路を通り、奥へと向かう。

 ユウナの話では、この奥に召喚された場所――謁見の間があるらしい。


 司祭が説教をする壇上の脇にある扉をくぐり、中に足を踏み入れると、そこは広い廊下。

 礼拝堂に並行する形で伸びる廊下のその先に、大きな両開きの扉が備え付けられているのが見える。


「ユウナ、大丈夫か?」


 真っ青になっているユウナ――おそらく、これまでの嫌な記憶が蘇っているのだろう――に、ミスティが声をかける。


「……大丈夫」


 差し出されたミスティの手を握り、ユウナは硬い表情で頷いた。

 無理をしているのは明らかだが、足が動かないというほどではないようだ。


 ユウナが前を向いたのを確認し、俺は扉へと歩み寄った。

 教皇の権力を表すためだろうが、無駄に華美な彫刻と、金細工による装飾が施された両開きの扉だ。


 見た目に違わず重い扉を押し開くと、中には真っ赤な絨毯が入り口からまっすぐに敷かれ、三段ほどの階段の上に、これまた豪奢な玉座がある。


 ――そして広大な空間を埋め尽くすように、万を数える干からびた死体が横たわっていた。

 服装からして、おそらく司祭などの聖職者だろう。


 話には聞いていたが、これはトラウマものだわ。


「ここよ……私は、ここで召喚された……」


 俺に続いて入ってきたユウナが、震える声で呟いた。

 ミスティとテデュームは、室内の惨状に顔色を失い、押し黙っている。


 落ち着くまでしばし、その場でじっと佇み、俺はおもむろに『聖火』を発動した。

 室内全体を浄化するためだ。


 この世界では、生き物の遺体を放置しているとアンデッドになることがある。

 特に無念や痛み、苦しみを抱きながら死んだ者は不死者になる確率が高いという。


 勇者を召喚するために、魂の最後の一欠片まで吸いつくされて死んだ者たちが苦しまなかったわけもない。

 それを証明するように、全ての遺体が灰となって消えていった。


 どうやら、もうほとんどアンデッドになる寸前といったところだったようだ。

 間に合って良かったと考えよう。


 しかし、神を信じて神に殺された人たちは、どこに行くんだろうなあ……。



 しばし黙祷を捧げ、俺達は勇者召喚に関する痕跡を探し始めた。

 その結果、謁見の間の中央、床材の下に魔法陣が、そして玉座に魔法陣を起動させる装置らしき物があるのを発見。


 エルフの族長であるテデュームでも、どういう仕組なのかを理解することはできず、おそらくは悪神のもたらした知識に基づいたものであろうと判断された。


 ここで問題になるのは、この魔方陣をどうするかだが……。

 後のことを考えれば、破壊してしまうのが妥当だろう。

 しかし、ユウナを日本に送り返してやるためには、この魔方陣を破壊するのはマズイ。


 とはいえ、もし野心ある他国にここを押さえられてしまえば、また一万人の人間が犠牲にされて、誰かが召喚されるということになる。


 そうなれば、この教都を中心とした血みどろの争奪戦に発展しかねない。

 勇者が大きな力を持っていると実感されてしまえば、なおさらその可能性が高まるだろう。


 今はまだ、勇者召喚というものがあり、何者かが召喚され、教皇は勇者に絶対の自信を持っていた、ということが知られているだけだ。


 そして勇者は俺が倒した。

 この事もすでに、冒険者ギルドを通して各地に知らせが入っているだろう。


 だから多少の猶予はあると思われる。

 さすがに長期間放置はできないが……。

 なんにせよ、ユウナの決断を尊重してやりたいところだ。


 何か他にも帰還する手段があれば良いのだが……こればかりは単純に無双できるというものではないのが悩みどころだ。


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