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第六十一話 援軍無双

 地平線の上空、崩れてゆく敵の姿に歓声が上がる――が、私はまだ終わっていないと感じる。

 何の確証もないが、嫌な感覚は消えていないからだ。


 ――そして、その予想を裏付けるように事態が動いた。


「全員、盾を構えろ!」


 前回の戦いで壁役を務めた、大盾隊の隊長であるドワーフが叫ぶ。

 それは空を引き裂いて飛来する、悪魔の欠片と思しき物に対処するためだ。


 崩れていると思っていた巨大悪魔は、実のところ周囲に、無差別に攻撃していたのだ。

 その体を小さく鋭く分割することで。


「『光防壁』!」


 一斉に発動された光の壁が、我々の頭上にかざされ、驟雨の如く降り注ぐ悪魔の槍を受け止めた。

 しかし、前回の戦争で黒い炎を受け止めたときほどの効果は発揮されず、単純な質量で徐々に圧倒され、大盾隊が次々に膝をつく。


 そして光の壁も三割ほどの攻撃に突破され、何人か怪我をしている。

 壁にぶつかって減速していたため、大怪我には至っていないのは幸いだ。


 城壁の上に転がる悪魔の槍は、長さ五十センチ、底面の直径五センチほどの円錐で、まともに当たっていれば命はなかっただろうと感じさせる。


「なにっ!?」


 手にとって確認しようとしたところで、それは急に動き始めた。

 明らかに硬質だった槍が、まるで蛇のようにのたうったのだ。

 私以外にも気づいた者がいたようで、あちこちで驚愕の声が上がっている。


「くっ」


 当然のことながら動いただけで終わるわけもなく、文字通り黒い蛇と化した槍は、周囲の者へ襲いかかった。

 なんとか曲刀で切り払うが、瘴気を払う効果を持たない攻撃は今ひとつ効果が薄い。


「光の精霊よ!」


 精霊の力を借り、浄化の光を発生させる。

 他の者達も同様に精霊の力を借り、あるいは光属性の魔法を発動して黒蛇の瘴気を払い始めた。


 浄化しつつ攻撃を繰り返し、弱らせた蛇を、獣人族の族長・セナトを始めとした獣人たちが強烈な一撃で仕留める。

 場の流れは、おおむねそういう形で推移した。



 しばらく戦い続け、私ははたと勇者・ユウナの事を思い出した。

 周囲を見回すと、彼女は光属性の魔法をやたらと連発しながら黒蛇に対処している。


 普通であれば、これほど魔法を使えば魔力が尽きるものだが、彼女の魔力はさほど減っていない。

 ソーラと戦っていた時、一時的に残りわずかまで減っていたが、この砦に来たときには既に回復していた。


 つまり、勇者の存在を感知した当初と変わりない魔力を持っているということだ。


「ユウナ、高位の魔法は使えるか?」

「……ごめんなさい、スキルレベルが低いから無理です」


 蛇を切り払いながら近づき問いかけるが、彼女の答えは意外な物だった。

 これほどの魔力を持っていてスキルレベルが低いとは……勇者とは随分いびつな存在のようだ。


「そうか、武器は?」

「剣ならなんとか」


 困ったようにそう言うユウナに、私は予備として持っていた短剣を渡した。

 刃渡り三十センチほどの物だが、ないよりはマシだろう。


「ありがと……あ!」

「どうした?」


 短剣を受け取ったユウナは、礼を言いかけたところで何かに気づいたように声を上げた。


「あの剣……聖剣のせいかも!」


 私の問いに、ユウナは説明を始めた。

 それは教皇に渡された聖剣のこと。

 その剣には『神の力を借りる』能力があるという。


 制限もあるそうだが、今現在、教皇が使っている可能性はある。

 それが、先ほどまで見えていた姿になる原動力だったのかもしれない。


「ソーラは、そのことは?」

「話してないので……」


 知らないということか……。

 しかし、ソーラなら何か嫌な予感なり気配なりを感じ取りそうではある。


 にもかかわらず、教皇が強化されたのだとしたら――意外と余裕がなくなっているのか?

 ……もしかすると、私にも出来ることがあるかもしれない。


「おい、ミスティ。俺はソーラの援軍に行くぞ」


 どうやらセナトも同じことを考えていたらしく、そう宣言した。

 それだけではない――私とユウナの会話を聞いていた者すべてが、決意を宿した目で私達を見ている。


「行きましょう。直接あの悪魔と相対することは出来ずとも、露払いくらいは出来るはずです」


 私は、本音を隠すことなく吐露した。

 それほどに彼我の戦力差は開いていると理解している。

 それでも、ただソーラの帰りを待つだけなど、戦士として容認できない。


 彼を助けたいという気持ちと、助けられるはずだという意地、今の私にあるのはこの二つだ。

 ソーラに守るべき存在だなどと思われるのは、絶対に御免こうむる。


「よっしゃ! 行くぞ、野郎ども!」


 セナトの声に、誰もが応! と答えた。

 さあ、我らがただ守られるだけではないと見せてやるぞ。



 かつての戦いで実行した一点突破と同様、ドワーフの大盾隊を壁としつつ、我々は移動し続ける。

 前回と違うのは、敵が小さく、光の壁では完全にシャットアウト出来ないことだ。


 壁を超えてきた黒蛇に対処するため、内部を広く取り、エルフ族と獣人族が頻繁に動く必要がある。

 何しろ敵の数が膨大なため、少し前進しては対処し、前進しては対処し……歩みはと遅々として進まない。


 すでに砦を出て十分ほど経過しているが、移動した距離は二キロと言ったところだろう。

 幸いなのは、勇者・ユウナが大盾隊に魔力を供給できることだ。


 彼女はソーラとの戦いの最中、彼により魔力の供給を受けた。

 その経験から、自分の魔力を他者に分け与えるという行為を自然と行える様になっていたらしい。


 それにより、大盾隊は消耗をあまり気にすることなく『光防壁』を使い続けられる。

 これは一気に集中攻撃されかねない状況では、恐ろしく大きなプラスだ。


 そしてソーラが戦っている場所に近づくに連れ多くなる黒い蛇に、エルフ族と獣人族が魔力を消費することなく対処できていることで、いざという時に使う余力が残る。


 後は、戦場へ到達するのみだ。



「見えてきたぞ!」


 さらに前進を続けること十分ほど――先頭をゆく、大盾隊の隊長であるドワーフが叫んだ。

 誰もが前に目を向け、戦場を睨む。


 その身を真っ赤に燃やすソーラと、先刻までの巨体から全長数メートル程度まで小さくなった教皇――見た目は悍ましく滑った体表と、何本もの触手を持つ悪魔――が戦っている。


 その様子は凄まじく、超高速で飛び回り、幾百もの黒蛇を切り捨てていくソーラと、彼に使い魔と触手、そして手に持つ剣を振るう悪魔の起こす衝撃波が周囲を舐め尽くしてゆく。


 その最中、ソーラはこちらをチラと見、驚きではなく、苦虫を噛み潰したような顔を見せた。

 ――なぜ死地に飛び込んできたのか、と言いたげだ。


 だが、そんなことは知らない。

 我々は、出来ることがあると判断したから来たのだ。

 せめて悪魔の使い魔――黒蛇くらいには無双して見せてやろうではないか。


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