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第五十九話 悪魔教皇無双

 悪魔と化した教皇の発言から、あまり時間をかけるのは良くないと判断した俺は、切り札の一つを切ることを決断した。

 ――が、それは少々遅かったようだ。


 またしても強烈な悪寒に襲われ、俺は背後を振り返る。

 上空から見下ろす形で望む森、それも広範囲から大量の瘴気が集まってきていた。


 森の何処かに『悪神』の残滓なりがあるかもしれないと思っていたが……小さな欠片が森中に分布していたということか。

 それも、管理者にすら感知されないほどに微細なものが。


 ――なるほど、教皇が自信満々なわけだ。


「合流されると厄介だな……『浄化光』!」


 身にまとっている光の魔法だけでは不十分と判断し、俺は追加の魔法を発動する。

 光源の部分を円盤状にし、広範囲を照らす、言わば浄化する光のシールドを作り出した。


 その効果範囲は直径一キロを軽く越え、悪魔教皇と悪神の残滓が近づくのを阻む。

 しかし、悪神の残滓が目減りすることはなく、徐々に徐々に光の盾を侵食してゆく。


 一方、教皇は嫌そうにしているので、どっちがより危険か、ハッキリと見て取れる。

 ――まいったな……『浄化光』以外、瘴気を払う魔法なんてないぞ。


 こうなったら、即興で作るしかない。

 浄化といえば火だろう、ということで火属性を『浄化光』に混ぜると、それまで白かった光の盾が赤く変化し、悪神の残滓を焼き始めた。


「貴様! 神を焼くなど不敬なるぞ!」


 当然、激しく反応するのは悪魔教皇だ。

 自分の身が浄化されるのもお構いなしに、激しく触手を繰り出してくる。


 俺はそれを避けつつ、火属性を加えた『浄化光』――『聖火』と呼ぶか――を教皇の周囲にいくつも発動してゆく。

 今度は光源を縦長に変形させ、教皇を底面とした多角錐を形成した。


 もちろん光自体は広範囲に届くので、多角錐には見えないが、それは『聖火』で覆われた悪魔の身を、くまなく浄化できるということだ。


 ――しかるに。


「ぐがあああああ!!」


 悪魔教皇は赤光による浄化で、あっという間に触手を焼き払われてゆく。

 悪神の残滓にすら効果があるのだから、いくら強力でも悪魔相手なら覿面の効果があるのは当然のことだ。


 このまま終わってくれれば良いのだが、そう簡単にはいかないだろう。

 実際、触手はいくら焼き払われても生えてきているし、教皇の瘴気も減った感じはしない。


「ぐおおおお! 神よ! 我に力をおおお!」


 叫び声に目を凝らすと、巨大なドーム状の下半身? から教皇の上半身が再び現れ、手にした剣を掲げていた。

 当然、教皇も浄化されることになるが、剣から溢れ出た瘴気によって真っ黒な鱗をまとい、焼かれるよりも早く強化されてゆく。


「やっぱ、あの剣は――」


 ――放置してはおけない、そう考えた俺が行動に移るより早く悪神の残滓が『聖火』の壁を突き破り、多数の触手となって絡みついてきた。


 なんなんだよ、この世界の神は触手がスタンダードなイメージなのかよ!

 ちょっと、いかがわしいんじゃないの?


 少々、妙な思考に陥りつつも、俺は『空間収納』から『紫電改』を引っ張り出し、どんどん触手を切断してゆく。

 どうやら『紫電改』による直接攻撃なら、悪神の残滓にも問題なく対処できるようだ。


 だが、そうしている間にも悪魔教皇は強化され続け、俺に絡みつかなかった悪神の触手は教皇と合流を果たしてしまった。

 固体化したことで『聖火』を貫通しやすくなってしまったようだ。


「おおおおお! 神の力が流れ込んでくる!」


 歓喜の声を上げる悪魔教皇は、その質量をどんどん増し、それとともに発生する瘴気が、物理的な圧力を持って俺を弾き飛ばす。

 押しのけられながら浄化を試みるが、焼け石に水で、教皇はとうとう『聖火』の檻を打ち消してその巨体を現した。


「おいおい……」


 思わず呆れた声を凝らした俺の目の前には、ドーム状の部位だけで高さ五十メートル、直径百メートルを超え、その上に十メートルほどの悪魔の上半身と無数の触手が生える異形があった。


 その体表は、遠目にもハッキリ判るほど硬質な鱗に覆われ、上半身は丸みを帯びた――タコ人間といった風情の物に変化し、頭部からは角だか触手だかわからない物が何本も生えている。


 柔らかそうな外見に似ず、大きく開いた顎からは鋭い牙が何十と並び、指先には肉食獣の如き爪が伸びていた。

 そして、その背には上半身よりはるかに長大な竜の羽を備え、下半身がなければ、さぞ軽快に飛ぶだろうと想像できる。


「え、マジで?」


 飛ぶだろう――と思った俺の目の前で、悪魔教皇が大きく羽ばたくと、下半身ごと持ち上がり始めた。

 徐々に浮かんでゆく巨体は、実のところ全てを現してはいなかったことが判明。


 ――つまり、下半身はドーム状ではなく、球体だったのだ。

 それが空中に浮くことで、地面を粉々に砕き、埋もれていた部分まで晒された。


 当然、羽をいっぱいに広げても球体部の半径にも満たないため、見た目の印象から酷い違和感を覚える。

 逆さまになった地球儀と言うか、熱気球というか……そんなアンバランスな雰囲気だ。


「フハアアアアハハハハハ! これが真の神の力! これが真の神の姿! 余は今、まさに真なる神となったのだ!」


 教皇の嬉々とした声が、瘴気を伝わって森中にこだまする。

 奴の言う通り、実に常軌を逸した姿だ。

 まあ、俺のイメージでは完全に神というカテゴリから逸脱しているが。


 とはいえ、相手が何であろうと、倒さなければ殺されるだけだ。

 ここは、一塊になってくれたおかげで逆に対処しやすくなった、と考えることにする。


 ここは切り札の切り時――ということで。


「いっちょ、やってみっか!」


 まずは全力で『身体強化』、そして両手に持つ『震電』と『紫電改』に『先鋭化』を、さらに体の表面を『耐熱殻』で覆い、最後にその外側に『聖火』をまとう。


 本来なら『耐熱殻』を使って終わりだったが、浄化が必要ということで『聖火』をプラスするアレンジをした。

 今の俺の姿は、真っ赤な炎をまとった火の化身といったところか。


「行くぞ!」


 全力で強化したことで、今の俺は動体視力も高まっているため、全速力での『飛行』の行使も問題なく制御できる。

 その速度は音速を超え、周囲に衝撃波を撒き散らした。


「はあっ!」


 マッハで動けば人間など一瞬でバラバラだろうが、そこは『身体強化』と『耐熱殻』のおかげでなんとでもなる。

 ということで、俺は移動の勢いをそのままに、両手の刀を振るい、コンマ一秒の間に多数の、それも巨木のような太さになっている触手をぶった切る。


 元々の切れ味では『紫電改』はともかく、『震電』では両断はできなかっただろう。

 しかし、『先鋭化』の効果は、木刀でさえ鉄板をも切り裂く業物と成す。


 それが『震電』のような大業物に付与されれば、たとえダイヤモンドであろうと切り裂くことができるだろう。

 しかも、その刃は音速で振り回されるのだから、単純な斬撃にプラスしてソニックブームまで巻き起こされ、切った上に引きちぎるような衝撃を叩きつけるという、恐ろしい破壊をもたらす。


 実際、俺の目の前では、切断された場所から何千という鱗が剥がれとんでいく光景が展開されている。

 言ってみれば、爪を短時間に何千回と剥がされているような状態だろう。


 絶対、痛い。


「うがああああ!!」


 案の定、悪魔教皇は痛みに絶叫を上げた。

 その間にも俺は、教皇の周辺空域を超音速でランダムに何度も行き来しながら、次々に触手を切断しまくる。


 ついには、再生より切断速度の方が勝り始めた。


「やめろおおお!!」


 教皇の悲鳴とともに、幾本もの触手が俺を掣肘しようと殺到するが、逆にこれ幸いとプロペラのように錐揉み回転しながら伐採しまくった。


 腕で振らずとも自然と切断されていく触手は、一本が何度も切りつけられることで、フードプロセッサーに放り込まれた肉のごとくミンチになる。


 とはいえ、瘴気はいまだに減った様子はないし、再生もまったく止まらない。

 効いてはいるようだが――このまま続けても、こちらが先にガス欠になる可能性はある。


 ならば、次の段階に移行するべきだろう。

 そう判断した俺は、一気に高度を下げて悪魔の下に回り込む。


「『金剛力』!」


 そして一度、大太刀と刀を『空間収納』にしまい、強化をパワーにのみ絞った魔法を発動、超音速の勢いとともに右拳を叩きつけた。

 到底、生き物どうしがぶつかったとは思えない硬質な音が辺りに轟き、打点を中心に激しい衝撃波が発生する。


 それは数キロは離れている木々さえへし折る威力で、直接その破壊力を受けた悪魔教皇の巨体は、まるで戦車砲弾の直撃でも受けたかのように上空へと打ち上げられた。


「『収束結晶』!」


 打撃の反作用を利用して空中に制止した俺は、即座に準備を始める。

 まずは直径一メートル、長さ十メートルの円筒の中に複数枚のレンズを仕込んだ物――光を収束させるための魔法を発動。


 言ってみれば望遠鏡を逆に使う感じだ。

 これを用意したら、日本人であれば誰でも何をするのか判るだろう。


「……『聖火砲』!」


 限界まで圧縮した『聖火』を、発声とともに『収束結晶』の後部へと打ち込む。

 いくつものレンズで何度も浄化の赤光が収束され、発射口から放たれる頃には円筒の直径と同じ太さの光線となっていた。


 赤いビームは、文字通り光の速さで悪魔教皇に到達、接触した途端、体表を舐めるように広がり、巨体を焼きながら雲を突き抜けるほどの高空まで真っ直ぐに伸びる。


 その威力は絶大で、もうすでに、ほぼ全ての触手が焼き払われていた。

 ここまで発射から二秒と言った所だ。


「ぐがあああ!!」


 下半身が焼かれるに至り、教皇の悲鳴がより強まる。

 丸坊主になった球体表面は、触手の断面を中心にどんどん赤熱し、真っ黒だった硬質な鱗も徐々に赤くなってゆく。


 そのまま『聖火砲』を照射すること、三十秒ほど――浄化の炎に焼かれ、悪魔教皇は真っ黒に炭化したを晒した。


 光が収まった空から、黒い灰が舞い落ちてきた。

 ――どうにか無双されるだけという状態からは脱することが出来たかな。


 とはいえ、まだまだ終わりそうにはないなあ……。


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