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第五十八話 続々・決闘無双

「させぬ!」


 俺が勇者に何かしていると悟ったか、教皇が黒い炎で攻撃してきた。

 俺の『浄化光』で、かなり瘴気を削られているだろうに、よくやる。


 彼に従い、馬車の御者をやっていた男も攻撃しようとしているが、術を発動する前に瘴気を散らされてあっさり倒れた。

 二人の強さの差が、大きく開いているということだろう。


 次々に浴びせられる炎を強めた浄化の光でかき消し、勇者の剣閃を『震電』で受け流す。

 教皇はたまらず後退し、忌々しげに顔を歪めた。


「何をしておる! さっさと、その男を殺さぬか!」


 勇者に罵声を浴びせる教皇。

 一時間にも満たない戦いだが、ここまで見ていれば勇者が俺には敵わないと思いそうなものだが……神への盲信ゆえか。


「……ぅ」


 そのとき、勇者からかすかな声が漏れる。

 彼女のステータスに目をやると、『呪縛』の部分がほんの少し揺らいで見えた。


 剣の振りが鈍り、大きく体勢を崩す勇者。

 切っ先が地面を叩き、彼女の手元から剣が転がり落ちる。

 ――これは本格的に、抵抗でき始めたと見た!


 俺は自分の判断に従い、即座に勇者の背後を取ると、全力で『魔力操作』を行使し、勇者への魔力供給を強めた。


「『会ったばっかの男にくっつかれるのは嫌だろうけど、我慢してくれよ』!」


 羽交い締めにしたまま、そう言って、俺は魔力供給を続ける。

 わざわざ日本語で話さなくとも『言語理解』の効果で話せるだろうが、教皇がそこそこ近くにいるので念の為だ。


 一方、勇者は魔力の供給が多くなったことに気づいたのか、より光属性を強め始めた。


「ぁ……う……」


 しばらくして、再び勇者の口から言葉が漏れた。

 まだオートパイロット的な行動が完全には止まっておらず、体は俺を振りほどこうと抵抗しているが、その反応も徐々に弱まりつつある。


「やめよ! 勇者から離れるのだ、悪魔め!!」

「悪魔って……それはお前だろ。鏡見ろよ」


 教皇がいよいよ激昂し、叫んだ。

 俺は、その悪魔化しつつある姿を見て、思わずツッコむ。

 捻れた角がこめかみから何本も伸び、肌が黒ずみ始めているし、下半身からは濃密な瘴気が漏れ、徐々に触手のようなものを形作っている。


 これまで、遺跡でも見たことのない形態だ。

 もちろん、悪魔となった神聖騎士団の誰とも似ていない。

 ――となると、今まで戦った悪魔より強いのだろう。


「けど、今は対処できないな……」


 勇者を優先しなければ、彼女を開放できるチャンスが、そう何度もあるとは思えない。

 ここは、『空間結界』で教皇の攻撃をしのぎ続けるのがベターだ。


「『頑張ってくれ、もうちょっとだ』!」


 気力が萎えないようにと、俺は声をかける……が、なかなか状況は変化しない。

 このままでは上手くいかない予感を覚えはじめた――もっと強烈な抵抗を誘発する方法がないか?


 ……体内から浄化してみるか?


「『あらかじめ謝っとく。ごめんな』!」


 俺は謝罪の言葉を勇者に告げ、彼女の体を反転させると、おもむろに唇を奪った。

 浄化の光は当然、外からしか浴びせられないから、口内から発生させれば行けるんじゃないか? と思ったのだ。


 両腕は拘束しておかないといけないから、とっさにはこれ以外、思いつかなかった。

 ――どうだ?


「ぃ……」


 お?


「やぁああああ――――――っ!!」


 来たか!?

 すぐにステータスを確認すると……見事に『呪縛』が消えている。


「何すんのよ!」

「うごっ」

「バカ! 変態! 変態!」


 自由を取り戻した勇者に、殴られた上に罵られた。

 まあ、気持ちは解る。

 だが、今は教皇をどうにかしないとマズイ。


 それに、勇者もかなり弱体化している。


【名前:ユウナ 種族:魂魄 レベル:92

 所持スキル:魔力操作2 魔力感知2 無属性魔法3 火属性魔法2 光属性魔法3 剣術3 盾術3 体術2 隠身1

 転移特典:言語理解 成長率向上 瘴気抵抗 輪廻逸脱】


 おそらくは、彼女のスキルの元は一万人の生贄の物だったのだろう。

 彼女自身の魔力しかなくなったことで、失われたと考えられる。


 本来は魔力が減っても問題なかったのだろうが、魔力がなくなったところで俺が『彼女の魔力を補充しまくった』ことで、一万人分という魔力の器が彼女の魔力だけで満タンになった。


 その結果、それが通常の状態になったのだと思う。


「とりあえず、今は逃げてくれるか?」

「……あ」


 自分が弱体化していること、そして教皇が悪魔化しつつあることに気づいたらしい勇者――ユウナが顔を青くする。

 まあ、魔力は変わらず多いから、『身体強化』でもしておけば逃げることは可能だろう。


「湖沿いに行けば砦にたどり着く、そこで『ソーラに言われて来た』と言えば大丈夫だ」

「……わかった」


 勇者は俺の言葉に従い、全力で駆け始める。

 一方、教皇は――勇者が落とした剣を手にしていた。


「おのれ、神敵め……勇者を汚しおったな……!」

「なんだ? 俺を倒したら、お前の女にでもするつもりだったのか?」


 怨嗟の声を漏らす教皇に、俺は一つ煽りを入れる。

 これで俺に注目してくれれば、ユウナが逃げやすくなるだろう。


「……フン、無礼な。勇者が神の花嫁になることは、最初から決まっていたことだ」

「はあ? まるで、お前が神みたいな言い草だな」


 駆け去る勇者をチラリと見、教皇は妙なことを言いだした。

 ともかく、完全に俺に注意を引きつけるために軽く挑発する。


「そうだ」

「は?」


 ……まさか、肯定されるとは思わなかった。


「我が言葉は神の言葉! であれば、余がこの地上における神なのだ! その神が、勇者を手にするのは至極、当然の事! それこそ神の意志によるものなのだ! ……それを貴様は汚した! だから貴様は、神の力の前に死ぬがよい!」


 支離滅裂――当人にとっては妥当なことなんだろう――なことを宣い、教皇は剣を天に掲げる。

 すると、剣から圧倒的な威圧感とともに膨大な瘴気が溢れ出した。


 それは自称神が現れたときとそっくりな気配で、俺は嫌な予感を覚える。

 ――なら座視するのはないだろう。


「『次元斬』!」

「馬鹿め!」


 不可視の刃が瘴気を切り裂いて飛ぶが――そのせいで軌道が見切られ、教皇の剣によって逆に切り裂かれた。

 マジか、あの剣ヤバイな。


 短い時間の間にも、教皇の姿はどんどん人間離れしたものに変わってゆく。

 あっという間に下半身がドーム状に膨れ上がり、触手がその表面を覆い尽くす。


 先端に人の手首のようなものを備えた触手は、いったい何本あるのか数え切れないほどだ。

 しかも伸縮自在のようで、無数の触手が俺に攻撃しようと伸びてくる。


「『空間結界』!」


 多分、破られるんだろうな――と半ば確信しながら発動した結界は、予想通りあっさり破られた。

 念の為、三重にしておいたそれは、さながらスーパーロボットアニメのバリアのようにパリンパリンと割れてゆく。


 俺は『飛行』で飛び退きながら『震電』を振るい、触手を次々と切り落とすが――切り落とされる端から、触手は再生してゆく。

 自称神にも勝る、恐ろしい再生速度だ。


「おいおい……」


 ふと気づくと、教皇は全高十メートル、直径にして二十メートルほどまで巨大化していた。

 触手もそれに合わせて、太く長くなっている。


 なるほど、触手を斬りにくくなっているように感じるわけだ……。

 しかし、なんとも形容し難い姿になったな。

 半分に切ったウニと言うか、マリモと言うか……。


 最初は露出していた上半身も、今ではどこにあるのか視認できない。

 それでも俺の位置は解るのか、的確に触手を差し向けてくるのだから驚きだ。


 すでに俺は上空五十メートルほどまで高度をとっているが、それでも触手は問題なく届く。

 さすがに攻撃の密度は下がっているが……触手を切り落としたところで、教皇の瘴気は少しも減っていない。


 あの剣の効果なのか、それともマック・プルートのように瘴気を供給するスキルかなにかがあるのか……。

 なんにしても、一気に消し飛ばすしかないのだとしたら、『空間結界』を使えない現状、新たな手立てを考える必要がある。


「フハハハ! どうした! 手も足も出ないではないか! 神の前には貴様など無力だと解っただろう!」

「そう言うお前は、手しかなくなってるじゃねーか!」


 俺が右往左往するのを見、悪魔教皇が機嫌よく声を発する。

 そして思わずツッコむ俺。

 大体、どこから声出してんだよ。


「馬鹿め! これこそ、余の真の力! 神の力の顕現なのだ!」

「ずいぶん醜い神もいたもんだな!」


 相変わらずひっきりなしに伸びてくる触手を切り払いながら、教皇の発言に煽りを返す。

 しかし、テンションが上りまくっている相手には、何の意味もなさそうだ。


 相変わらず、機嫌よく触手を振るってきている。

 こっちも、問題なくさばけてはいるのだが……次の手が思いつかない。


「フハハハ! どうだ、この無双の力は! だが、まだまだ、これからだ! 余はもっと強くなる!」


 なんだって?

 まだ何か起こるってのか。

 ――こいつは、悠長に考えている時間はないかもしれないな……。


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