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第五十四話 召喚勇者無双

 あ、これ、『異世界召喚』だ――と気づいたのは、体が動かなくなって足元に黄金に輝く魔法陣が現れたときだった。

 だって、あまりにもテンプレ通りだったんだもん。


 ただ、そこから先は予想とは違っていた。

 テンプレ通りなら、謁見の間か地下か、あるいは神のいる場所か、そのどれかだったろう。


 でも、私がたどり着いた場所は――地獄だった。

 数千は軽く超える夥しい死体が横たわり、苦悶の表情を浮かべて私を恨めしげに見ていた。


 直感的に『召喚のための生贄』だと理解し、私は嫌悪感と恐怖に悲鳴をあげる――ことは出来なかった。

 それどころか、体が少しも動かない。


 混乱する私をよそに、身分の高そうな――教会の人が着るような服装をした男の人が何事かつぶやく。

 意味はわからなかったが、私の目の前にはいきなり、いわゆる『ステータス画面』が表示された。


 完全に異世界転移モノのそれだ。

 おかげで混乱は収まったけど、気分の悪さは変わらない。

 なんとか気をそらすためにステータスを眺める。


 種族の『魂魄』ってどういう意味だろ?

 それにしてもすごいスキルの数だ。

 もともと私がこんなに大量のスキルを持っていたわけがないから、何か召喚されて付与された――だめだ、これ以上考えちゃ怖いことに気づきそう……。


 あ、転移特典あるんだ。

 ええと、『言語理解』『成長率向上』『瘴気抵抗』『輪廻逸脱』『呪縛』……『呪縛』? あ、これか……これのせいで動けないんだ!


 ああ、隷属させられるパターンかあ……。

 じゃあこの後は、いっぱい人を殺させられたり、兵器みたいに使われたりするのかな……?


 やだなあ……。


「ふむ……これならば、レベルさえ上げれば、かの黒い冒険者にも勝てるであろう」


 あれ? 言葉がわかるようになってる……あ、これか『言語理解』。

 助かるような、わからないままの方が気楽だったような……複雑な気分。


 それにしてもレベル上げかあ……。


「勇者よ。そなたに、案内人を一人つける。魔物と戦い、力をつけるが良い」


 あ、やっぱり魔物と戦うんだ。

 どんなのがいるんだろ。

 ちょっと楽しみだけど、あんまり強いのとか怖いのは後にしてほしいな……。



「勇者様、これから武具店に向かいます」


 あの偉そうな人に『案内人』と言われた人が私に丁寧に伝え、店に案内してくれた。

 どうやら感情は出せないけど、私が納得したことは普通にできるらしい。


 良かった……もし、日常生活すら自分の意志で動けなかったら、トイレとかお風呂とかご飯とか、寝たきりのおじいちゃんやおばあちゃんみたいに介護されなきゃいけないところだよ……。


 案内人さんは男の人だし、体とか絶対触られたくない。

 いや、この人がいい人か悪い人かはわかんないんだけど……羞恥心的にね……。


 なんだか高級そうなお店の奥で私は女性店員さんに体中を採寸され、制服から、ピッチリした皮のスーツ? と女性用の革鎧に着替えさせられた。


 髪型もポニテだったのを解かれ、アップにした後、兜を被せられる。

 武器は剣、槍、斧、弓……と様々なものを案内人さんが買い込んでいた。


 多分、使ってみてどれが一番いいか試すんだろう。

 全部は流石に持てないから荷馬車に積むみたい。

 一応、剣だけは腰にぶら下げてる。


「これより魔物の生息域にお連れいたします」


 いよいよ魔物とご対面かあ。

 はあ、一体どうなるんだろ……。



 初めて戦った魔物はゴブリンだった。

 これがものすごく臭くて汚くて気持ち悪いの!

 まあ、スキルのおかげか簡単に勝てたけど、生理的嫌悪感が半端じゃない。


 叫べたら絶対叫んでたね。

 この感情が表に出せない状態って精神衛生上よくないよ……だって発散できないんだもん。


 案内人さんは私が眉一つ動かさないから「さすがは勇者様」って感心してたけど、好きで能面なわけじゃないからね!

 だからどんどん次を探してくるのやめて!


 結局、一時間もすると私のレベルは十も上がった。

 数にすると五十匹くらいかな?

 多分、すごく上がりやすいと思う。


 転移特典の『成長率向上』のおかげだろう。

 それと魔法は頭に思い描くだけで使えた。

 無詠唱で全属性の魔法使うとか召喚勇者っぽいなあ。


 でもテンプレ三種の神器のあと二つ、『アイテムボックス』と『鑑定』はないみたい。

 なんでだろ?



 それから一ヶ月、私は案内人さんに連れられて色んな場所に行った。

 もちろん魔物と戦うために。


 最初は物凄くキツかったけど、レベルが上ってくると楽になった。

 詳細なステータス――筋力とか知力とか――はわからないけど、レベル補正みたいなものがあるんだと思う。


【名前:ユウナ 種族:魂魄 レベル:67

 所持スキル:魔力操作10 魔力感知8 無属性魔法10 地属性魔法9 水属性魔法10 火属性魔法8 風属性魔法8 光属性魔法10 闇属性魔法4 回復魔法4 調合3 木工8 金属加工4 剣術9 槍術5 槌術8 棒術8 弓術6 斧術5 鞭術6 盾術10 体術9 隠身3 教化2

 転移特典:言語理解 成長率向上 瘴気抵抗 輪廻逸脱 呪縛】


 最終的にはここまでレベルが上ったけど……スキルの方はぜんぜん上がってない。

 多分、そもそも私に素養があるものが少ないんじゃないかな?


 剣と盾をメインに使ってるけど、使ってるというよりは使われてる感じがする。

 高いスキルレベルがプラスに働いてるんだろうけど、自分で動かせてはいないというか……。


 偉そうな人は私を『黒い冒険者』って人と戦わせたいんだろうけど、こんなんじゃ勝てっこないと思う。

 これまでの経験で、私は感情が表に出ないだけで体は自然と怖がったら怖がったなりの動きをしていると気づいた。


 怪我をしたら痛くて動きが鈍るし、動揺したら魔法は変なところに飛んでいったりする。

 一月やそこら戦いを経験したからって女子高生がいきなり戦士になんてなれるわけないのだ。


 まして勇者なんて、私のガラじゃない。

 友達と恋愛とか部活のこととか勉強のこととかでだべっているのがせいぜいの普通の子供。


 何ができるわけでもない人間に強い力を持たせても、意味なんてない。

 本当に感情がなくなっていれば、こんな事考えずにすんだんだろうけど……。


「さすがは勇者様!」


 また案内人さんが私を褒める。

 私の目の前には何十体もの魔物が転がっていた。

 確か上級魔物のダイアウルフだったかな。


 黒焦げになったり、バラバラになったりしているから、素材としては駄目だろうなあ……。

 テンプレだと、こういうのいっぱい冒険者ギルドに持ち込んで驚かれたりするものなのにね。


「おお……ありがとうございます勇者様」


 私は案内人さんの怪我を回復魔法で治した。

 この人は本当に職務に忠実で、どんな危険なところだろうと私のレベリングに使えそうならためらわず案内してくれる。


 そのせいで最近はボロボロになることも少なくない。

 本人はスカウト系のスキルがメインみたいで、戦いは苦手なんだそうだ。


 偉い人からの指示だからなんだろうけど、私のために怪我させてしまっているのは本当に申し訳ない……。

 なんとか『呪縛』を解ければいいんだけど……。



 結局、そのまま春を迎え、私のレベルは92まで上がった。

 でもやっぱりスキルレベルは何ひとつ上がらず、私はスキルに「使われ慣れる」ことしか出来なかった。


 怪我しても痛みを堪え、回復魔法で治しながらスキルが勝手に体を動かすのを傍観する――そんな感じ。


「素晴らしいぞ、勇者よ。よくぞ、ここまで強くなった」


 そんな状態でもレベルが上ってるからか、あの偉いっぽい人は喜んでる。


「そなたも、よくぞ務めた」

「はっ! 勿体無いお言葉!」


 案内人さんはお褒めの言葉をもらって誇らしげだ。

 多分、これでもう彼に迷惑をかけずにすむんだろうと思う。


「勇者よ、そなたに聖剣を授ける」


 おー、よくある展開だねえ。

 エクスカリバーとかかな?


「これぞ、神の刃『聖剣・デウサルト』! ヴァダリス神により齎された、勇者の剣である!」


 あら、この世界独自の剣かあ。

 どんな能力があるのかな?


「この剣は、一月に一度、神の力を借りることができると言われておる」


 神の力ねえ……私を召喚した神だよね?

 うん、絶対に使わない!! 絶対に力を借りたりしない!!

 ろくでもないことにしかならないよ絶対!!


 ムリヤリ召喚しといて『呪縛』とかしてくる神なんていらない。

 うん、改めて思った。

 絶対に『呪縛』解いてやる!!


「さあ行け、勇者よ! かの神敵、黒い冒険者を、その無双の力で殺すのだ!」


 いやぷー。

 とか言っても逆らえないんだけど……無双とか言われても困るんだよね。


 やっぱり、その人、強いんだろうなあ……。

 なんとか助けてもらえないかな……。


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