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第五十三話 久しぶりの平穏無双

 俺の『仮面の聖者』での救援活動は、二週間ほどで一応の終わりを見た。

 幸いなことに、表立って『仮面の聖者』を批判してくる国はなかったというのも、活動をすんなりと終えられた遠因だ。


 どうやら教国の周辺六カ国へ侵攻した国々は、それまで隣国でなかった国々と国境を接する形になってしまったため、「これ以上教国に関わっていると、隣が動くかもしれない」と考えるようになったようだ。


 確かに、絶対にないとは言えない。

 メディオウス王国を除いた全ての国が似た行動を取ったのだから、疑心暗鬼になるのも、むべなるかな。


 ともあれ、そういった事情を背景に、教国から『死の行軍』をしてきた人々は、国に帰りたいという人は帰し、移住したいという人は最寄りの街へと移動した。


 そもそも教国に侵攻されていた国々に移動していたということと、教国に『使い捨て』にされたと誰もが感じたことが、彼らを受け入れる土台となったようだ。


 これで教国の勢力が弱ってくれれば万々歳なんだけど……『死の行軍』だけが自称神の策とは思えない。

 やはり警戒しつつ、力を蓄えておく必要がある――というのが俺の見解だ。


 この考えと自称神の言葉は、第三王子を通じてメディオウス王国にも伝わっているはずなので、王がよっぽど判断を間違えるようなことでもなければ、各国も何らかの対策を講じることになるだろう。


 まあ、俺は最近ちょっと働きすぎだったので、大霊の森で確認すべきことだけ確認したらダラダラしようっと。

 もう真冬だし、地域によっては雪も積もってるからね。





「大霊というのは、太古の昔に起きた神々の戦争に敗れた悪神のことだの」


 森に来た俺は、ミスティを通じてエルフ族の族長に面会を求めた。

 先日の働きもあり、それはすんなり受け入れられた。

 そして、気になっていた「大霊とは何か?」ということを質問したのだ。


 その結果がさっきの言葉で……まあ、予想通りといえば予想通りの答えであった。

 これまでのことを合わせると、おそらく悪神=自称神なんだろう。


 となると神々というのは、全員、『管理者』だと考えられる。

 てことは、俺が会った女性以外にも管理者がいたか、今もいるか、そのどっちかということになるかな。


「……では、大霊の森には『悪神』が封じられていたりするんでしょうか?」


 もしそうなら、自称神が教国を使って執拗に攻めて来たことにも、一定の納得はできる。


「いや、倒された場所を神々が浄化したという話だの。その力の余波で、森は豊かに広がり栄えたという。我らエルフ族は、森を荒らされぬよう見張る、守り人の役割も持っておる」


 あー、そっちのパターンだったか。

 となると……実は死んでなくて、あるいは残滓があって、それを核に復活しようとしている――というところか。


「詳しい場所などは判りますか?」

「流石に、それは判らんの。何しろ神と神の戦いだから、その影響は恐ろしく広範囲に渡ったというしの」


 だめか……あわよくば復活前に見つけて、さっさと片付けてしまいたかったんだけど。

 まあ、修行がてら森をうろつくのもアリかな?



「ソーラ、今後の予定は決まっているのか?」


 族長宅を辞し、エルフ族の街から出ようと移動している最中、ミスティに問われた。


「うーん、どうしようかなーと考えてるんだよね。一度、田舎に帰るか、それとも修行しつつ大霊の森を見て回るか……」


 俺は率直に、迷っていると答える。

 真冬だし、自称神も手駒をほとんど失っているだろうから、今は多少、猶予があるだろうし。


「ほう……ソーラの故郷か。どんな所だ?」

「どんなって……まあ、田舎だよ。どこにでもある人族の村。農業半分、狩猟半分って感じの。ああ、そういえば冬でもあまり寒くならない所だね」


 まだ一年も経っていないのに、なんだか随分、昔に離れたように感じる。

 不思議な気分だった。


「魔物は?」

「一年に一回も出ないねえ。だから、こっそり一人で狩りに行ったりしてた」


 平和な村だったな。

 あー……なんか、里心ついてきたわ。


「ふふ……悪ガキだったんだな」

「失敬な! 品行方正で、村の役に立つ子供だったぞ! ……表向きは」


 うん、悪ガキってわけではなかったと思うよ、多分。

 好き勝手やってばかりだったけど。


「ふふふ、表向きだけか。ふふふふ」

「そう、表向きだけ……。よし! 村に帰るか!」


 ミスティのおかげで方針が決まった。

 人族がウロウロするのも良くないと思って街から出るつもりだったけど、エルフの土産物だけでも買っておくか。


「そうか、ならば私も同行させてもらおう」

「え?」

「なんだ、その反応は……私が一緒では嫌なのか?」


 意外な申し出に驚くと、ミスティは何やら不機嫌になる。

 いや、まあ……。


「嫌ではないけど……ほんと何もない、ただの田舎だよ?」

「それが良いんじゃないか。……それに、ソーラの幼い頃の話も聞けそうだしな。ふふふ」


 あ、今ちょっと不穏当な発言が聞こえたぞ。


「……おい、なぜ逃げる」

「は? 一向に逃げてませんが?」

「逃げてるだろ! 物凄い早歩きじゃないか! ってなんだ、その気持ち悪い後ろ歩きは!?」


 気持ち悪いとか言うな。

 キング・オブ・ポップの得意技だぞ。

 レベルアップで強化されてるから、アホみたいに速いけど!


 結局、ミスティに付き合ってもらって土産を大量に買い込み、彼女と一緒に田舎に帰ることにしたのだった。





「おかえり、おにいちゃん!」


 村の門に到着した途端、俺が帰ったことが実家へと伝えられ、エレーナが全力で突っ込んできた。

 武具は全部しまってあるから、ぶつかって怪我をすることはないから安心だ。


 エレーナの後ろから両親も姿を現す。


「おかえり、ソーラ!」

「よく戻ったな、ソーラ」


 どうやらみんな元気そう……あれ?


「みんな、ただいま。母さん……お腹」

「ええ、そうなの」


 なんとか挨拶を返し、母の異変にツッコミを入れたら、照れくさそうに笑って父に身を預けた。

 父も笑顔で母の肩を抱き、「三人目だな」と言う。


「わたし、おとうとがいいなー」


 と、エレーナ。

 ……まあ、みんな健康そうだし、めでたいことなんだけど、年の離れた子供作り過ぎな気がする。


「ところで、ソーラ。そちらのお嬢さんは?」

「あ、うん。彼女はミスティ、エルフ族の戦士で俺の剣の師匠だよ」

「なーんだ。恋人じゃないのかあ」


 父に問われ、俺の後ろに控えていたミスティの紹介をする。

 エレーナは何やら残念そうだ。


「お、お初にお目にかかる。私は、エルフ族のミスティという。ソーラの友人だ。こ、恋人ではない」


 ……なんで、そんなテンパってんの?


「そっかー、おねえちゃんができると思ったのになー」


 エレーナはミスティに頭を撫でられながら、そうこぼす。

 あー、残念そうだったのは、そういう意味なのね。


「おーい、ソーラ!」

「おかえり!」

「冒険の話、聞かせてー」


 おっと、立ち話してたら色んな人がやってきた。

 狩人、同年代、ちびっこ……まじない師の婆さまも手を振ってくれている。


「おー、いろいろ土産もあるから、集会所でも行こうか」

「やったー!」


 ということで、大人数が集まれる場所に移動だ。



 結局、俺の買ってきたエルフ土産や素材を大放出し、肉類も大量に提供して宴に突入した。

 オヤジたちは、色んな街で買っていた酒類が殊の外お気に入りだ。


 女の子は、エルフの街で買った木工細工や、俺の作った魔石細工に、男の子は俺の歴代装備に興味津々。

 鍛冶屋の親方は、金属や魔物素材で使える物を吟味している。


 どうやらみんな、俺が村を出てからも魔法の訓練や試行錯誤は続けていたらしく、防壁や畑、農道に水路など、目に入る範囲だけでも村の設備が整っているのが感じられる。


 自分の仕事のみならず、色んな職方で協力して生活を良くしようと努力しているようだ。

 地属性が得意な者は、鉱脈を探したりもしているらしい。


 俺がいなくても普通に生活できていることに一抹の寂しさを覚えないでもないが、これが俺の選んだ道で、そうなるように準備してきたからこその結果でもある。


 そういう意味では、これからも色んなことを受け継いでいってほしいものだ。


「おねえちゃん、エルフのお歌歌って!」

「ああ、いいぞ」


 ほんの一瞬、会話が途切れたところで、そんな会話が聞こえてきた。

 小さな子供たちに囲まれたミスティが、エルフの言葉で歌い始める。


 残念ながら歌詞の意味は解らないが、澄んだ歌声と、それに呼応するように明滅する光球――おそらく精霊がやっているのだろう――が、辺り一面に波紋のように広がってゆく。


 それまで大騒ぎしていた酔っ払いたちまで、酒盃をテーブルに置き歌に聞き入っていた。

 子供たちは嬉しげに光の玉を目で追い、女性たちはうっとりと目をつむる。


 優しげな微笑みを湛え歌うミスティは、俺が見たこともない美しさだった。

 これまでは、戦闘狂な面と大笑いする顔の印象ばかりが強かったが、こんな姿もよく似合っている。


 ……あれ? なんか胸でかくない?

 もっとスレンダーだったような……あ、戦闘の邪魔だからキッチリしまってたのか?


 変なことに気づいてしまったなあ……。

 ということで、あんまり見てると気づかれそうだから目をそらしておくことにする。


 それにしても、久しぶりに戻った故郷は平和そのもの。

 まさに無双の平穏ぶりと言えるであろう。


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