第五話 妹無双
本日五話目です。
九歳になった俺は、日々とある人物に振り回されていた。
それは一体誰か? ――三年と少し前に生まれた妹、エレーナだ。
最近は物心がついたのか、自発的にいろいろ考えて行動するようになってきた。
しかしながら子供であるわけで、その考えはおおむね遊ぶことと好奇心を満たすことに振り向けられる。
その結果、虫を食べようとするわ、雑草を食べようとするわ、井戸に落ちそうになるわ、せっかく植えた農作物を引っこ抜くわ……なかなか危険な状態なのだ。
そうなると誰かが付いていなければならないわけだが、兄である俺が自然とその役目に就任させられている。
まあ、エレーナも俺には懐いているので、よっぽど嫌なことでなければ言うことを聞くからなんとか。
日々興味の対象を移す彼女だが、目下の関心事は魔法だ。
どうやら俺が日常的に魔法を使いまくっているから、自分も魔法を使いたいと思うようになったようだ。
というわけで、エレーナにねだられ、両親とも相談した結果、彼女に初歩的な魔法を教えることになった。
まだ三歳児だから魔力量も少ないし、無理はさせられないが。
ちなみにエレーナは母似の金髪碧眼の可愛らしい顔立ちだ。
俺は両親どちらとも違う黒髪黒目で、割とイケメン。
聞いた話によると、父方の爺さんが黒髪黒目だったらしい。
隔世遺伝ってやつだな。
「じゃあ、得意な属性がどれか探ってみようか」
「うん!」
例によって『属性検査』→『実践』という流れを踏襲する。
魔力の発生場所である心臓の辺りを意識させ、そこに魔力があると自覚できたら、それを外に放出できるように頑張れーと応援だ。
むむむーと目を瞑って気合を入れる姿が可愛らしい。
しばらくして胸元から微かな魔力の放出が起こり、俺はその波形を確認。
その結果、エレーナの魔力は『なめらかタイプ』と判明。
このタイプは水属性と相性がいいし、子供に使わせて失敗しても水に濡れるだけだから安心だ。
本人次第ではあるが、風と火もそこそこ簡単に習得できる可能性もあるし、やる気が持続するようなら少しずつ教えていけばいいだろう。
「よーし、いよいよ魔法を使うぞー」
「やったー! どうすればいいの?」
俺の言葉に、無邪気に喜ぶエレーナ。
続いて発せられた彼女の疑問に、「出てきた魔力に手を近づけて『水よ、出ろ』って言ってごらん」と答える。
「みずよ、でろー!」
指示通りの行動を取り、エレーナが叫ぶ。
小川のせせらぎのような動きで放出された魔力が彼女の手元で滞留し、徐々に姿を変えてゆく。
ここで上手く魔力を操れば、晴れて魔法発動となる――のだが、一発目で上手くやれる者はほとんどいないので、ちょっとだけ俺が補助する。
といっても魔力の現象への変換をサポートするだけで、魔力を加えたりはしない。
術者が「自分自身の魔力だけで魔法を発動させた」という手応えが重要だからだ。
その結果――。
「ひゃー!」
エレーナの手元からはシャワー状になった水が、そこそこの勢いで全方位に放出された。
見事に二人共濡れ鼠だ。
これは『水を出す』ことは意識していても『どっちに向けて出すか』を意識していいなかったために起こった事故だ。
「うー……びしょびしょだよぅ……」
「ははは、でもちゃんと魔法使えてスゴイじゃないか」
不満げに頬をふくらませるエレーナを、火と風の合成魔法『温風』で乾かしてやりながら褒める。
すると彼女は、「魔法に成功した」ということに気づいて満面の笑顔を浮かべた。
「やったー! もういっかいやる!」
喜びの声を上げ、むむむーと力を込めて再び魔力を放出し始めるエレーナ。
「みずよ、でろー!」
発声とともに水が発生。
俺はなんの手出しもしていないので、完全に自力での魔法発動だ。
今度は前方に向けて放つことを意識していたのだろう、水をかぶることもなく、しっかりとシャワー状の水が放出された。
「おー、上手くいったなー」
「うん!」
褒めてやりながら、エレーナのさらさらブロンドを撫でる。
本人も満足行く結果だったのだろう、笑顔全開だ。
三歳だと三回くらい魔法を使うと魔力が枯渇するので、撫でるついでに魔力を譲渡して回復させてやる。
魔力が減っても気分が悪くなったりはしないが、完全に枯渇すると気を失う。
魔力を消費することのリスクを知るために一度は経験しておくべきだが、初めての成功体験を堪能させてやってもいいだろう。
それから他の子供たちにはやっていないが、魔力を多く譲渡すると他者の魔力量を増やすことができるので、エレーナだけはコッソリ増やしておくつもりだ。
そして物事の分別がつく年令になったら、身を守るための攻撃魔法も教えるとしよう。
ほとんど危険のない村とはいえ、取れる手段は多いに越したことはないだろうしね。
「はたけに、みずまきにいく!」
そうなるだろうとは思っていたが、案の定エレーナは畑に向かって駆け出した。
彼女の行動半径では家からちょっと離れた畑が一番遠いくらいの位置で、そこで俺が使う魔法といえば水属性か地属性だ。
当然、水属性は散水に使うわけで、エレーナが初めて使った魔法もそれに倣った形態のものになった。
となれば、次は自分で水を撒きたくなるのも納得というものだ。
「おお! エレーナは水だったか!」
畑にやってきた愛娘を抱き上げ、父が破顔する。
どうやら手のかからなかった俺より、子供らしく目が離せないエレーナの方がかわいいらしい。
実のところ、精神的には大人である俺は両親に上手く甘えることが出来なかった。
まだ可愛い盛りという年齢なのに、無理しているわけでもなく大人のような態度をとる息子というのも、場合によっては気味悪がられても不思議はなかったと思う。
だが、父も母も俺を忌避することはなかった。
まあ、食糧増産だの薬草栽培だの実益もあったのは事実だが、二人の懐の深さには感謝してしかるべきだろう。
そんな感じで、普通に可愛がることのできるエレーナを全力で可愛がってもらえればいいと思っている。
彼女がもう少し大きくなるまでは、小さな暴君による無双が続くであろう。
あ、一応、九歳現在のステータス出しとくね。
【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:9
所持スキル:魔力操作10 魔力感知10 無属性魔法10 地属性魔法10 水属性魔法10 火属性魔法7 風属性魔法8 光属性魔法10 闇属性魔法6 空間属性魔法3 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法6 調合7 木工7 投擲6 弓術5 皮加工5 気配察知5 隠身5
転生特典:万事習得】
まあ、順当に伸びたかな。