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第四十九話 大魔力無双

 次々に襲い掛かってくる五体のデーモンセントールを、『震電』両断し、『紫電改』で切断する。

 遺跡の第三十九区画程度の悪魔なら、今の俺にとってはゴブリンと何ら変わらない難易度の相手だ。


 一分と経たぬ間に、すべてのデーモンセントールは首を落とされ、物言わぬ躯となった。

 しかし、その一分が巨大騎士マック・プルートには得難い時間だったようだ。


「ううおおおおお!!」


 左腕を除き切り落とされていたはずの四肢が再生し、剣と盾も新たに生成される。

 それだけではなく、体格が一回り大きくなり、兜から角が、腰からは竜のような尾が、背中からはコウモリの羽が生えた。


 雄叫びとともに兜の口元が裂け、ノコギリのようなギザギザの歯が無数に伸びる。

 広げられた手指の先からは鋭い鉤爪が生え、足は獣のような形に変形した。


 いかにも大悪魔といった姿――それは武具を除き、第四十九区画の『グレーターデーモン』そのものだった。

 その特徴は、広範囲大火力の特殊攻撃を連発し、高い攻撃力と防御力、そして高い再生能力をを持つこと。


 俺自身は喰らったことがないが、その爪が遺跡の床を引っ掻いた際に溶けたことから、溶解液なども持っていると考えられる。

 おまけに人間の知能は残っている、ということは剣術などのスキルも生きているということだ。


 この悪魔騎士が完全に『グレーターデーモン』と同じ能力を持つとは限らないが……強敵であることは疑いない。

 ここに至っても、瘴気が少しも減っていないのも大きい。


 遺跡の悪魔であれば、特殊能力を連発すれば割とあっさり瘴気が底をつくことも多いのだが、こいつ相手に消耗待ちは愚策だろうな……。


 教国の言う『神』が何を考えているのかは知らないが、こんな傍迷惑な加護を与えるなと文句を言いたくなる。

 まあ、愚痴っても仕方ないから、どうにか倒すしかないんだが。


「貴様にだけは……貴様にだけは負けるわけにはいかん……! ここで私が負ければ、我が神の教えが否定されてしまう……!」


 この期に及んで、まだ神の教えが大事か。

 呆れたものだ。


「一つ、気になるんだが……お前の神とやらは、何かしてくれたのか?」

「何……?」

「信じる者を救ったのか? 飢えた者の腹を満たしたのか? 乾いた者の喉を潤したのか? 病んだ者を癒やしたのか?」


 俺は一息に、疑問を突きつける。

 往々にして、神を信じろなんて言うやつは、現実の問題には目を背けるものだ。


 そして苦しんでいる者に、原因を求める。

 お前の信心が足りないだの、修行不足だの、献身が甘いだの……。


「入信した者は幸せになったのか? 改宗した者は手厚く保護されたのか? ……俺は、寡聞にして聞いたことがないんだが」


 何かにすがることで気が楽になる、前向きになれるなんてこともあるといえば、あるだろう。

 しかし逆に、教えを受け入れなければ幸せになれないのか? というと、そんなわけはないのだ。


「……黙れ」

「いいや、黙らないね。上層部はきらびやかな衣服や装飾品に身を固めているのに、貧しい者がいるのはなんでだ? なぜ富んだ者が、貧しい者に施さない? 救うために、救いを教え広めるために布教しているんだろう? なのに、なんで自分だけ肥え太ろうとするやつが上にいるんだよ?」


 俺の言葉に、マック・プルートは身を震わせ耳をふさごうとする。

 握りしめられた拳から濃密な瘴気が漏れ出、踏みしめられた地面に亀裂が走った。


「神の教えを疑うことは許されん……!」

「おや、微妙に疑問もってるのか?」

「持っておらん!」

「その割には、ずいぶん動揺してるじゃないか」

「もう黙れ……! 貴様の言葉は、悪魔の言葉だ……! ここで、必ず、殺す!」


 やはり、お互いの主張は平行線か。

 当たり前だよな、古今東西、宗教同士、あるいは宗教と無宗教が解りあったことはない。


 そして、その結末は――武力だ。


「神敵よ! ここで死ねええええ!!」


 ――ドン!

 瘴気が噴出され、まるで粉塵爆発のように、瘴気の粒子が連動して爆発した。


 しかし、俺には何の影響もない。

『空間結界』で防いでいるからだ。

 とはいえ、爆発し続ける瘴気の中では行動もままならない。


 だから――。


「中和するか」


 結界内で魔力を放出し、同時に結界を解除した。

 途端に爆発が俺を襲うが――その威力が俺に届く前に消失する。

 これは、獣人族の族長・セナトがマック・プルートと戦ったときと同じで、濃密なエネルギー放射で、相手の攻撃を遮っているのだ。


 普通の人間がこんな事をしようとしたら、一瞬で魔力を枯渇させて昏倒するだろう。

 だが、俺ほどの魔力量なら、なんの問題もない。


 現在、俺の魔力は直径五メートルほどまで増加している。

 これは並の人間がソフトボール大であることから計算すると、なんと二十四万四千二百十六倍だ。


 気が狂った魔力量だと自分でも思うが……まあ、役に立つんだから良いだろう。

 ともあれ、事実上、大抵の魔法的な攻撃は、俺には効かない。


 触れたら切れる物理攻撃のほうが、よっぽど怖いのだ。


「フッ!」


 魔力の繭をまとったまま踏み込み、俺は『紫電改』を振るった。

 爆発のブラインドの向こうで、悪魔が動く。

 どうやら『魔力感知』を持っているようだ。


 しかし、その体は十分な速度で回避行動を取るには大きすぎる。

 結果、悪魔騎士は再び剣と盾を両断されて失った。

 同時に盾を持っていた左手の指も、親指以外の四本が切り飛ばされる。


「ぐうっ! 何だ! 何なのだ、貴様は! 何故、この瘴気の中で私の場所が判る!?」

「秘密だ」


 驚愕するマック・プルートを一顧だにせず、俺は追撃に移った。

 柄しか残っていない大剣を持つ右手に対し『紫電改』を振るいつつ、無防備な右足に『震電』を振るう。


 連続二撃が入り、悪魔騎士の右手足が飛んだ。

 やはり盾がないと、この男は実力を発揮できないようだ。

 おそらくは『盾術』のようなスキルを――それも剣術より高いレベルで――持っているのだろう。


 とはいえ――。


「がぁあッ!!」


 自身に高い再生能力があることを理解しているのだろうマック・プルートは、俺のさらなる追撃を、左腕を犠牲にすることで致命傷になるのを回避した。


 そして片足で大きく跳躍――そうこうしている間に、右足は再生し、右腕も再生しかかっている。

 まったく厄介な能力だ。


 ――そうなると回避行動を取らせず、一方的に削り切るしかないか。

 なかなか難易度高いな。


 が、まあ……折角の機会だから、大魔法を使いまくってみますかね。


「『操風』……『空間結界』」

「ぬッ!?」


 俺が魔法を使い始めたことに気づいた悪魔は、もっと距離を取ろうと跳躍し――見えない障壁に阻まれた。


「『着火』、『転移』!」


 俺の言葉の直後、耳を聾する爆音が戦場に轟いた。

 しかし、魔法が発動した場所の至近距離にいた俺には――いや、戦場のどこにも被害は出ていない。


 なぜか? それは球状に展開した『空間結界』が、破壊力の全てを閉じ込めたからだ。

 もちろん、マック・プルートと一緒に。


 酸素と水素だけを集めたそこに、俺は火種を『転移』で放り込んだ。

 その結果、強烈な水素爆発が起き、中の悪魔を蹂躙した。


 結界を解いてやれば、足りなくなっていた空気がそこに流れ込み、炎が騎士を焼き始める。


「『旋風』!」


 そこに風属性で小型の竜巻を起こしてやれば――自然と『火災旋風』が完成した。

 炎の竜巻に巻かれ、五メートルを超えるマック・プルートの巨体が舞い上がる。


 驚くべきことに、彼はこの二連撃でも原型をとどめたままだった。

 炎と風が霧散し、赤熱した巨大悪魔騎士の姿が顕になる。


「『水球』、五十連弾」


 そこに俺は水の玉を大量に作り出し、次々にぶつけた。

 すると――一発ごとに激しい爆発が起きる。

 高温になったものに水をぶっかけると爆発が起きる……水蒸気爆発というやつだ。


 一撃ごとに悪魔の巨体が右へ左へ、上へ下へと吹き飛ばされる。

 最終的には水が蒸発するだけにとどまる温度まで下がったようだが、次への準備も整った。


「『操風』……『迅雷』!」


 上空に出来上がっていた雷雲から紫電が奔り、マック・プルートめがけて殺到する。

 金属鎧ごと悪魔化したのだから、木より高い場所にいれば――当然、そこに落ちるのだ。


 この『迅雷』は、エルフたちが使った精霊魔法の『夕立ち』→『神鳴り』コンボと大体同じだ。

 ちょっと違うのは、雷雲の中の氷の粒子を意図的に、『操風』でより早く摩擦が起きるように揺り動かしたことくらいだろう。


「まだか……なら」


 いまだに瘴気を吹き出し続ける悪魔騎士を確認し、俺は上空へと飛び上がる。

 何のことはない、ただ『震電』と『紫電改』でバラバラに切り刻もうと言うだけのことだ。


「はああっ!」


 袈裟、逆袈裟、横薙ぎ、唐竹割り、突き――『飛行』で飛び回りながら、何十回となく刀を振るう。

 一撃ごとにパーツの数が二倍になり、断片ひとつ辺りのサイズが小さくなってゆく。


「『結合崩壊』!」


 最後の一撃は、無属性の魔法――その対瘴気使いバージョン。

 これは、魔力でもって対象の分子結合を分解してしまおうという、恐ろしい魔法だ。


 その『結合崩壊』に相当な量の光属性魔力を流し込むことで、同時に瘴気も中和してしまう。

 もちろん、相手が明確な意思を持って抵抗すれば、そうそう通る魔法ではないが……バラバラになっても意識を保っていたとしたら、それはもう生物とはいえないだろう。


 ひときわ強烈な、真っ白い魔力の光が空を染め、元は神聖騎士団長であった悪魔を粉微塵に粉砕した。

 ――あとに残るのは、空を漂う瘴気ばかりだった。


 なんとか倒したか……。

 少々、強引ではあったが、今回もまた無双したと言えるであろう。


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