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第四十一話 対瘴気魔法無双

 俺がエルフの女性を横抱きにして飛ぶこと約十分。

 火が燻る夜の森にたどり着いた。

 光の属性魔法『暗視』でみる森は、焼け焦げた木々が倒れ、何千という死体が転がる陰惨な有様だ。


 そして実に危ないところだった。

 ダークナイトの剣がミスティを両断しようというところに、かろうじて割って入れたのだ。


 そこそこ高い空中でエルフの女性を放り出してしまったが、うまく着地してくれて良かったよ。

 やはり彼女も、かなりの腕前なのだろう。


 それにしても――。


「なんで、こんなところに悪魔が居るんだ?」


 思わず疑問が口をついて出るが、今は現状に対処するのが先決だろう。

 さあて……遺跡の悪魔を相手に鍛えた技を見せてやるか!


「行け! 蛟!」


 光と水属性の融合魔法『蛟』を森に放った。

 水で体を構成されたそれは、俺の魔力の続く限り際限なく伸びてゆく。


 その効果は瘴気の浄化と、悪魔の特殊能力によって発生した攻撃の無効化。

 今回の場合は、木々を焼いたと思しき黒い火だ。


 蛟が次々と消火していく最中、ついでとばかりに蛟の胴体経由で、倒れたり疲れたりしている獣人とエルフの治療と魔力の補給を行う。


 蛟の体からシャワーを降らせる形だ。

 これなら、ミスティの魔力と体力を回復させたときのようにビックリさせてしまうこともないだろう。


「傷が……」

「魔力が回復していく!」


 おっと、驚かせはしてしまったか……。

 まあ、気にせず続けよう。

 お次は――ダークナイトの後方に控えていた、教国の騎士と思しき集団への対処。


 おれの『蛟』が黒い火を消していると気づいた者が、対抗するように黒い炎を放射する――それも瘴気を帯びている――術を使い始めたのだ。


 ……なんだか解らないが、自由にさせておく訳にはいかない。

 ということで、どんどん蛟を伸ばして、奴らを次々に飲み込み、浄化してゆく。


「うがあ!」

「し、神力が……」

「力が抜けていく……!」


 汚物は消毒だー! とでも言いたくなってくるが、さすがに何千人も――いや、もっとか――死んでいるような戦場では自重する。

 遊びじゃないし、一人でもないからね。


「貴様ァ!」


 仲間である騎士が無力化され続けるのを呆然と見ていたダークナイトが、怒りの咆哮を上げ、俺が切り落とした剣腕を再生させる。


「は? しゃべった? なんだ、この悪魔?」

「この私を悪魔だと!? 私は神の使徒! 地上の絶対正義を預かる者であるぞ!」


 驚く俺に、しゃべるダークナイトがワケの分からないことを宣う。


「悪魔が神の遣いとか、なかなかパンチの効いた冗談だな」

「まだ言うかァ!」


 激昂したダークナイトは、激情のままに俺に剣を振るう。

 ――だが、怒りに曇った剣筋など、俺には届かない。


「な、なぜだッ!? なぜ当たらん!?」

「そりゃあ、お前。お前が弱いからだよ」


 何度振っても簡単に回避され続け、ダークナイトが慌てふためく。

 余裕を見せて、もういっちょ挑発だ。


「弱い!? 弱いだとッ!? この最強の神聖騎士である、この私がッ! この私が弱いだとッ!?」


 頭に血が上りすぎ、どんどん振りが鈍っていくダークナイト。

 ……もうひと押しだな。


「事実だろ? お前ごとき、一撃で殺せる」

「やってみろおおおおおおぉあ!!」


 分かりやすい煽りに乗り、ダークナイトが大上段に剣を構える。

 ――ここだ!

 俺は『蛟』を解除し、両手に握る『震電』に、適量の魔力を流し込んだ。


 その途端、鈴の鳴るような音が刃から発せられ、大太刀が高速で振動し始める。

 その『震電』を右肩に担ぐように構え、風属性の魔法『疾風』の力を借り、俺はダークナイトの右手側に踏み込んだ。


 すでに身体強化は全力で発動済みだ。

 あとは――全力でいつも通りに、愛刀を振るうのみ!


「シャアアア!!」


 剣腕を振り下ろして来るダークナイトの、猿叫のごとき声とは逆に、俺は呼気のみを発してやつの腋の下をすり抜ける。

 ――踏み込みの勢いが消え停止した時には、『震電』の刃は地面スレスレまで振り切られ、すでに振動も止まっていた。


「う……」


 俺の背後でダークナイトのうめき声が漏れる。

『瘴気感知』でやつの瘴気を確認すると、大太刀の通過した痕跡がクッキリと感じられた。


 そこで俺は、『震電』を鞘に収めて振り返った。


「うがああああ!! なぜだッ!! なぜ、この私がッ!! 絶対正義の体現者である、この私が敗れるのだぁああああ!?」


 袈裟に切り裂かれた傷口から瘴気を吹き出させ、ダークナイトが苦悶の声を上げる。

 相変わらずイカれたセリフも吐いている辺り、呆れを通り越して感心してしまうな……。


「この世に絶対の正義なんて、あるわけないだろ」

「おのれッ!! おのれッ!! おの――」


 うっかり、また煽ってしまった俺に反応し振り返ろうとしたダークナイトの胴体が、皮一枚でつながっていた傷口を境に、ギャリッという甲高い金属音を立ててズレた。


 同時に怨嗟の声も途切れ、キキキと耳障りな音を発しながら、ゆっくりと地面にずり落ちた。

 そして最後の瘴気まで、すべてが雲散霧消した。


「……倒した」

「ふ、副長……」

「馬鹿な……」

「やったぞ……」

「すげえ……!」

「う、嘘だ……!」


 敵味方から無数のつぶやきが漏れ、徐々にざわめきが大きく、場を満たしてゆく。

 ……しかし、副長ってなんだ? やっぱり、あのダークナイトが教国の騎士を率いていたのか?


「野郎ども! 残りのクソどもをブッ殺すぞ!」


 片腕のない獅子の獣人が叫び、騎士たちに向かって駆け出した。

 彼の行動に、しばし呆然としていた獣人たちも我に返り、次々と後を追いかけて走ってゆく。


 ――将を失って混乱する敵を追い散らす……まあ、鉄板だよな。

 そこまでしなくても、と思わないではないが、どう見ても教国のほうが何倍も数が多いし、減らせる時に減らしておくのは正しい。


 ミスティの身を案じるあまり手を出してしまったが、もともとこれは獣人族、エルフ族、そしてドワーフ族の、教国との戦争だ。

 俺は、何かを口出しして良い立場じゃない。


 ということで、あとは負傷者の本格的な治療を担当するとしよう。

 これくらいの助力は許されるよね。



「よう、お前がソーラだな。さっきは助かったぜ。俺はセナト、獣人族の族長をやってる」


 獅子の獣人たちは、あれから二時間ほどして帰ってきた。

 驚くべきことに、彼らはこの短時間で数千の教国騎士を殺してきたらしい。


 戦利品として武具や食料を大量に持って帰ってきていたから、実際に倒してきたのだろう。

 ……まあ、瘴気を浄化したら弱体化していた、というのが大きいのだろうが。


 どちらにせよ、この実行力は凄まじいの一言だ。


「ええ、そうです。ミスティのついでですので、お気になさらず」

「フッフッフ、あの戦闘狂に、お前みたいな男がいたとは知らなかったぜ!」


 ちょっと変化球を返してみたら、ビーンボールで投げ帰された。


「いや、彼女とは刀術の師弟であって、そういう関係じゃありませんよ」

「なんだよ、つまんねえなあ……」


 俺の答えにセナトは不満げだ。


「人をネタに、楽しもうとしないでください。それより腕を治しましょう」

「は? ……ちょっと待て、これが治るのか!?」


 釘を刺しつつそう言うと、彼は瞠目し、切断された右腕を指さしてみせる。

 まあ、普通は回復魔法で腕が生えるなんて思わないよな。


「確証はないですけどね。でも、魔物で実験した限りは、腕でも足でも生やせましたよ」

「無茶苦茶やるヤツだな、お前……。まあ、頼むわ」


 説明に呆れながらも、セナトは俺に右手の治療を任せた。

 ということで回復魔法をかける。

 魔法の基本であるイメージ力――これが回復魔法にも、当然、必要だ。


 要するに人体を詳しく知っている方が治しやすいということ。

 プラス、単純に回復魔法のスキルレベルが高いということ。

 それから、再生を可能とする莫大な魔力を持っているということ――この三つが手足の再生に必要なのだ。


 この世界の人でも、一点目は詳しい人は結構、多いと思う。

 なにせ冒険者や解体業者は、人型の魔物も解体するのだから。

 でも、二点目と三点目なかなか厳しいと思う。


 というのも、回復魔法は地水火風の四属性で最低のスキルと同じレベルに、自動的になってしまうからだ。

 得手不得手は誰にでもあるし、回復魔法は不得手な方に引っ張られるのだから、レベルが上がらないのも当然だ。


 そして莫大な魔力は言わずもがな。

 魔力を増やす方法を知らなければ、とっかかりすらつかめない、ということなのだ。


「うおお……マジで生えてきやがった」


 セナトは、骨や肉がウニウニ生えていくのを、気持ち悪そうに眺めていた。

 まあ、気持ちは解る。


「ふう……なんにせよ、ありがとよ。この礼は、必ずする」


 治療が終わると、セナトはそう言って去っていった。

 族長だから、まだまだやることがいっぱいあるのだろう。

 なんにせよ、これで一区切りだ。


 今回は、遺跡で学んだことが遺憾なく発揮された。

 文句なく、無双したと言えるであろう。


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