第四話 狩人無双
本日四話目です。
七歳になった俺は、日常的に狩人たちについて行くようになった。
膨大な魔力で常に『身体強化』をし続けることができ、『魔力感知』によって広範囲の生物を探すことができる俺は、経験の長い狩人にも負けない猟果を得ることができるからだ。
とはいえ経験のなさは如何ともし難いので、狩人たちに教えを受けつつの狩猟となっている。
その手間の分、俺が狩人たちの臭いや音を消したりするサポート役も同時にこなすのだ。
狩人にも魔法の得手不得手は当然あるので、全員が風属性を使えるわけでもない。
だからサポート役がいると、風属性が使えない者も使える者と同じ条件で狩りができて村の食料も増えるというわけ。
もちろん、風属性が使えない人は使えるようになるべく訓練をしている。
なんといってもプロなわけだから、他の狩人に負けてはいられないのだろう。
そういった状況下での俺の行動だが、前述のサポートとともに自身の弓の習熟と、投擲による小動物を対象とした狩猟がメインだ。
サブは薬草類や山菜、木の実などの採取となる。
ごくまれに、ワサビっぽいものやサンショっぽいものを見つけたりもしていて、狩人やまじない師の婆さまにも「食って大丈夫」とお墨付きをもらうことで、食生活が少しずつ豊かになっている。
僻地の村だから行商が来ることも年に一度しかないし、塩以外の調味料なんてなかったから村の人々にも喜ばれた。
例によって、ちょっとずつ畑で増やしたりもしているのだ。
柿やりんごっぽい植物は、木を引っこ抜いてまるごと村の敷地内に植樹したりもしているので、ちょっとだけ甘味が楽しめるようにもなった。
次にやりたいことは養蜂だけど、巣を作って置いておくという程度の知識しかないので思案中だ。
ミツバチ以外のハチに住み着かれたら危ない気もするしね。
「ソーラ、どうだ?」
「五百メートルほど先に鹿がいるよ」
さて、お仕事だ。
問いかけに答え、俺は獲物の方角を指し示す。
森の中だから詳細はわからないが、感覚的には風上だろう。
俺の情報をもとに、狩人たちは慎重に移動を始める。
それぞれ風の魔法を使い、きちんと自分たちの体臭を周囲に広げないようにした。
使う魔法は、ごく弱い風を体の周囲に起こし、ドーム状の流れを作る『風結界』というもの。
忍び足で移動する程度の速度でしか維持できないが、臭いを封じ込めるには十分。
普通の魔力量しかなくても、そこそこ長時間維持できるコストの安さも魅力だ。
獲物を見つけた時だけ使うので、通常の移動時は自然と魔力が回復するから一日中問題なく使える。
「よし!」
ということで、弓の射程距離に入った途端、先頭の狩人がキッチリ鹿を仕留めた。
この人は矢に風をまとわせて放つ魔法『風矢』も使えるようになっているので、狩りに使う短弓でも約二百メートルの射程を誇る。
しかも『風矢』の効果で、ほとんど水平射で届くのだから驚きだ。
もともと腕のいい人だから余計に影響が大きく、急所に百発百中と言っても過言ではないレベルの命中率だ。
難点は他の人の倍くらい魔力を使うので出番が減ることだが、他の狩人たちもみんな腕がいいので特に問題はない。
今の俺みたいな見習いがいたら、また話が違ってくるとは思うけどね。
大きな牝鹿は三人の狩人の手により、短時間でキレイに解体された。
皮も傷まないようにきちんと剥がされているので、あとで革職人に預けて鞣す。
こういった皮はブーツや手袋、あと外套などに用いられる。
熊や狼などの毛の長い動物は冬のコートの材料になるので、どの獲物も大事な資源だ。
ちなみに俺がメインに狩る小動物にはウサギやイタチなどがいるが、現代日本ほどの縫製技術はないからかあまり使われていない。
もしかした都会では珍重されるかもしれないから、ちゃんと保管してある。
ということで、七歳現在の俺のステータスはこちら。
【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:5
所持スキル:魔力操作10 魔力感知10 無属性魔法10 地属性魔法8 水属性魔法8 火属性魔法5 風属性魔法6 光属性魔法10 闇属性魔法5 空間属性魔法2 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法5 調合5 木工4 投擲3 弓術3 皮加工2 気配察知2 隠身2
転生特典:万事習得】
見ての通り少しレベルが上がり、狩り関連のスキルが増えたよ。
レベルアップには魔物を倒さないといけないのかと思っていたが、普通の動物でもいいようだ。
どうやら、倒した生物の生命力というか魂の力みたいな物を吸収しているらしい。
これに気づいたのは、狩った動物から何かが自分に流れこんでいることを『気配察知』で感じ取ったからだ。
とある創作物では「他者の力を取り込むことで魂の位階を上げる」なんて描写があったが、もしかするとレベルアップはこれに近いのかもしれない。
狩人たちもレベルがそこそこ上っているらしい。
有事の際には彼らが中心になって村を守るって話も納得だ。
まあ、それでも強い魔物が現れたらどうにもならない可能性は高いだろう。
なんといっても我らが村は辺境で険しい山と森に囲まれてはいても、魔物は一年に一度も見ないような安全な場所なのだ。
だからこそ、イレギュラーな存在には弱いのは仕方がない。
でも何かあった時に抵抗すら出来ないで死ぬのは嫌なので、周囲の地形を把握したら一人でコッソリ魔物がいる場所まで遠出しようと計画中だ。
村にごくごく稀に近づいてくるのはフォレストウルフという狼の魔物なので、おそらく二十から三十キロ離れた辺りに生息していると考えられる。
キッチリ狩りで鍛えておけば、射程距離まで近づくことは可能になるはずだ。
それに、こちらの位置を把握されにくい魔法の開発も終わっている。
いざとなったら浮遊の魔法で高空まで逃げてしまえば、追われることもなく撤退できるだろう。
転移できるようになれば楽なんだけど、空間属性はなかなかスキルレベルが上がらないんだよねえ。
もっと、いろいろ考えてみる必要があるか。
うーむ……空間属性で攻撃とか防御とかできるかな?
「よし、今日はそろそろ戻ろう」
狩人の言葉で、今日の狩りは終了となった。
本日の猟果は鹿三頭にイノシシ二頭、そして俺が仕留めたウサギが五羽に山鳥が三羽だ。
後のために狩猟を利用してスキルを鍛え、それでもキッチリ獲物を狩りまくる……。
これもまた無双と言えるであろう。