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第三十七話 神聖騎士無双

 私は神聖ヴァダリス教国・神聖騎士団副長ファノス・チーデレ。

 亜人どもへの誅戮を、教皇猊下に任せられた者だ。

 奴らの領域『大霊の森』への道のりは平坦ではなかったが、寄進を拒む愚か者どもを誅殺し、信仰を受け入れない愚かな国の町村から物資を調達し続けることで乗り切った。


 新たに信仰に目覚めた上級冒険者どもも、中々に使える。

 奴らは人間相手は経験が少ないが、魔物との戦いでは無類の強さを発揮するのだ。


 おかげで我らは、道中の無駄な疲労を抑えられた。

 そして森のなかでの戦いとなれば、経験の少ない大半の騎士より上手くやるだろう。


 人数の上では騎士の方が十五倍ほど多いが、先鋒を任せられる者がいるに越したことはない。

 何しろ亜人どもは森のエキスパートだから、奴らに有利な条件での戦いになりかねんのだ。


 私はこの聖戦で確実な戦果を上げねばならん。

 亜人どもを誅戮し尽くし、『大霊の森』を平らげ、次の教化への足がかりを盤石なものとする……さすれば私は、団長であるマック・プルートと肩を並べる存在となるであろう。


 ハッキリ言って私は、奴より深く強い信仰心を持っている。

 であるならば、教皇猊下の最も近い場所に居るべき存在は私なのだ。


 その妥当な地位を得るためには、誅殺し、誅戮し、誅滅し続けねばならん。

 それこそが神のご意思なのだから。



「副長、侵攻の準備が整いました」


 太陽が中天に至る頃、部下の一人が報告に来た。

 まずは緒戦、森の中ではなく草原にある獣どもの街が標的。

 本陣の天幕を出、布陣の様子を確認する。


「冒険者どもは補助に付けているな?」

「はい、最前列の騎士の後方で攻撃魔法および射撃武器によるサポートを行わせます」

「よかろう、獣どもへの誅戮を開始せよ!」


 少々の確認の後、私は全軍に前進の号令を発した。

 最前列――神の加護を受けた神聖騎士たちが『神力』による強化を行い、長く伸びた草を物ともせず駆けてゆく。


 黒く煙る『神力』は、私の目にも実に頼もしく映る。

 後続は彼らの足跡を追うように前進すれば、草に足を取られることはないのだ。


 石造りの城壁に到達する寸前、冒険者どもの魔法と射撃武器による攻撃が行われる。

 奴らの射程は、信仰を得たことで飛躍的に伸びているのだ。


 通常の魔法の二倍、約百メートルもの距離である。

 それは弓や投擲も同様で、足並みを揃え次々と一方的に攻撃できる。


 事実、城壁の上で攻撃しようと待ち構えていた獣どもは、激しい攻撃にさらされ、次々に倒れてゆく。

 実に爽快な気分である。


「ククク……」


 我知らず喜悦の笑いが漏れた。

 いかんな、まだ始まったばかりなのだから気を引き締めねばならん。


 しかし次の瞬間には、あっさりと城門が破壊され、神聖騎士たちが街に雪崩込んでゆく。

 これでは、口端が上がるのを止めるのも難しい。


「我々もゆくぞ!」


 愉悦の笑みとともに、私は咆哮をあげた。

 既に騎士たちの流れは止めようもないほど加速している。

 壁の内側では、もう誅殺が始まっているであろう。


 馬を駆る我が騎兵たちが、徐々に前線へと近づいてゆく。

 門を潜れば楽しい――いや、重要な足がかりを作る戦いは佳境となる。


 そして誅戮を完遂させれば、一歩目は完了となるのだ。


「フハハハハ!」


 もはや表情を取り繕うこともせず、私は城門に向けて駆けた。



 街に入ると、予測どおり騎士たちによる攻撃が行われていた。

 しかし、何かが妙だ。

 街中に広がりきった三万二千の軍勢が攻撃を継続しているにも拘らず、血の流れた様子がない。


「何が起きているのだ?」


 ――いや、何も起きていないのか!


「全軍警戒しろ!」


 私が警告を発した時、機を見計らったかのように方方から悲鳴が上がり始める。

 声の位置を探ると、路地の方からだと判った。


 チラリと獣どもの姿も見え隠れする。

 奇襲――我らをわざと誘い込んだか!


「小癪な真似を!」


 数名の部下を引き連れ、路地へと踏み込む。

 すると、そこでは激しい戦闘が繰り広げられていた。

 獣の速度に対応しきれていない騎士たちが、あっという間に削られてゆく。


「間抜けな狂信者どもが!」


 獣の一匹が、騎士たちを翻弄しながら吠えた。

 そして激昂した者に狙いを定め、首筋を爪で掻き切る。

 断末魔の悲鳴すら上げられず、騎士は絶命する――普通ならば。


 しかし、我らは神の加護を得た神聖騎士なのだ。


「偉大なる神よ、我らに力を――『広域治癒』!」


 一人の騎士が叫び、『神力』の黒い靄が彼を中心に一気に広がる。

 靄は倒れた者たちの体に入り込み、即座に傷を塞いだ。

 効果は、それだけではない。


『神力』による治癒には、失われた血液や体力まで回復させる力があるのだ。

 その『広域治癒』が町のあちらこちらで使われ始め、路地という路地から『神力』の靄が立ち上る。


 ――やはり『神力』は、この世で最も優れた力!

 そして、それを使うことを許された我らは選ばれた存在なのだ!

『神力』が高まれば高まるほど魔力が減り、通常の魔法は使えなくなるが、『神力』は信仰心さえあれば日々高まり続ける。


 つまり誰よりも信心深い私は、最も強力な『神力』を扱えるということだ。

 その私が、一度『神力』を行使すれば――。


「見るが良い、我が力を……『神力武装』!」


 致命傷を与えたはずの騎士たちが次々起き上がるのを目にして驚愕の表情を浮かべる獣どもに、ダメ押しの恐怖を与えてやるため、私は最強の『神術』を発動した。


 私の体から溢れた『神力』が周囲を覆い尽くし、視界を遮る。

 こうなっては、もう誰も私の姿を視認することは出来ない。

 無論、魔力による感知も不可能。


 そして信仰心を持たぬ愚か者共に対し、『神力』は精神に強烈な負荷をかける。

 そのため、身体能力が優れていようと、それを発揮することも出来なくなるのだ。


 そういった僅かな時間で、私の術は完成する。

『神力』が私の体を覆い、強固な鎧、盾、鋭い剣を形成し、飛躍的に身体能力を高める形態――それが『神力武装』。


 この世で私と、マック・プルートにのみ許された秘術なのである。

 私のみでないのが業腹だが、やつの武装形態は醜い。

 美しく、強く、最も信仰心の篤い私こそが至高の存在なのだ!


「さぁ……誅戮を行うぞ! クァアアハハハハア!!」


 靄の晴れた後に現れた私の姿に驚愕し硬直する獣どもに宣告し、地を蹴る。

 その一歩で石畳が微塵に砕け、爆発的な速度で私は狼のような姿の獣に肉薄、そのまま剣で唐竹割りにした。


 真っ二つに別れ路地に倒れる肉を後目に、私は次々と獣どもを屠ってゆく。

 首を落とし、胴体を両断し、心臓を貫き、頭を蹴り砕き、盾でグチャグチャに押しつぶす。


「ハハハァ!」


『神力武装』の唯一の欠点は、感情の抑えが効かなくなることだ。

 意図せぬ哄笑が、絶え間なく私の口から発せられるのも少々美しくない。


 しかしこれも、神聖騎士たちを鼓舞する役には立つ。

 事実、私が彼らのそばで戦うごとに、騎士たちはより激しく獣どもを蹴散らし始めた。


 街中に効果を及ぼすため、私は路地という路地に踊りこんでは獣どもを惨殺、刺殺、轢殺、撲殺してゆく。

 これは獣どもへの慈悲だ。


 奴らは信仰を持たぬ、愚かなケダモノ。

 生きているのは、さぞ辛かろう。

 だから一刻も早く、楽にしてやらねばならんのだ。


「ハハハハ、アアアァハハハハハ!!」


 誅して殺し、誅して殺し、誅して殺し、誅して殺し、街の地面をケダモノどもの血で真っ赤に染める。

 そうすることで奴らを救い、我が信仰を知らしめる。


 ――そうして日が地平線に没する頃、誅戮は完了した。

 我が無双の力と信仰と、強固な意思が成し遂げた、揺るぎなき勝利である!


「グァアハハハハハハハハァアアアア!!」


 私が剣を天に突き上げると、神聖騎士たちの勝鬨が轟いた。


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