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第三十三話 陰謀無双

 私は神聖ヴァダリス教国・神聖騎士団長マック・プルート。

 世界最大の宗教であるヴァダリス教会を、あらゆる暴力から守護する役目を帯びている。


 現教皇であるマレー様の悲願、全世界の教化を進めるため、この二十年、我が身を捧げてきた。

 努力の甲斐あり、教国周辺の六つの国の王都には一等地に大聖堂を作らせ、それそれ五百を超える神聖騎士を常駐させることに成功した。


 あとは、じっくりと教区を担当する司教たちが、各地で教化を進めてゆけば良い。


「マック・プルート、参上いたしました」


 マレー様の呼び出しに応じ、私は謁見の間に足を踏み入れた。

 門前には衛兵がいるが、神聖騎士団長である私には誰何も、制止もしない。


 枢機卿、騎士団長は自由に謁見できるのが、この教会の習わしだからだ。


「よく来た、マック・プルート」


 玉座に座するマレー様から声がかかる。

 御年六十二歳の彼の方は、教皇の座に就いた二十年前からまったく姿が変化していない。


 長く伸びた金の髪、整った顔立ち、スラリと長い出足、年齢を感じさせはするが、それがむしろ柔和そうな笑顔に似合っている。

 ――これが信仰の力、ヴァダリス神の力の発露の一端だ。


 そして、その力は私にも及んでいる。

 三十五歳で騎士団長に就任した私は、現在五十五歳……しかし、誰もが壮年だと思うだろう。


 この力のおかげで、私は鍛えれば鍛えるほど、戦えば戦うほど強くなってきた。

 それこそ、並の神聖騎士であれば相手をするのに数十人は必要な地竜すら、単騎で打倒できるほどに――。


「神託が下った」


 マレー様の言葉に背筋が伸びる。

 これまで神託が下ったことは、全て私が中心となって成し遂げてきた。


 周辺六国の教化を進めるために魔物を狩りつくしたり、街道の整備をしたり……もちろん邪魔をする勢力を殺し尽くしもした。

 ヴァダリス神を信じぬ者を裁くことも、我が役目だからだ。


「亜人どもを浄化せよ――とのことだ。そのためには、まず六国の内、プロクシマスとセプテンを平らげる必要がある」


 マレー様のお言葉は中々に衝撃的なものであった。

 ――これでは、じっくり教化するために遣わした者たちは、各王都を制圧するために使わざるを得ない。


「――それでしたら、一度に六国の王都を落とすべきかと」

「確かに、後背を突かれるのは面白くない」


 私の提案に、マレー様が頷く。

 亜人どもの領域である『大霊の森』へ至るには二国落とせば十分だが、他の国が邪魔をしてこないとも限らない。


 それどころか、あさましく漁夫の利を得ようとすることもありうる。

 不信心者どもは度し難い行為を平然とやることが、実に多いのだから。


「冒険者どもは、どういたしましょう?」

「彼らは司教たちの働きで、教化が済んだそうだ。亜人どもを浄化する際に、力を借りるとしよう」


 私は、マレー様のお言葉に「納得」と頷く。

 上級冒険者千八百人は、心強い戦力となるであろう。


「六国を押さえ次第、プロクシマス・セプテンに補給線を築かせます」

「うむ、周辺の町村から寄進を募るとしよう。彼らも、神への供物となるなら本望であろうからな」


 プロクシマスとセプテンは王族同士の血の繋がりが強く、豊かな一部の土地を曖昧な国境線で共有するように管理しているため、両方押さえなければならない。


 しかし、その分、街道沿いに町村が多くある。

 間もなく晩夏――六国を押さえた頃には、農作物は収穫の時期を迎えているだろう。


 つまり、亜人どもの領域への最短距離を行ける上に、糧秣の心配をしなくてすむ立地なのだ。

 これほど絶好の条件は他にあるまい。


『大霊の森』までは二国を通過する必要があるため、全行程九百キロほどと相当な長旅になる。

 フル装備の騎士たちにはきついだろうが、これもまた信仰ゆえの試練なのだ。


「私は――」

「そなたは出る必要はない。各地の騎士たちに任せよ。我が教都より進発させる軍勢に上級冒険者が加われば、『大霊の森』も攻略できるであろう」


 発言を制され、マレー様はご自身のお考えを告げられた。

 確かに、常駐している騎士だけでも三万、それに冒険者が加われば三万二千ほどになる。


 上級の魔法使いともなれば広範囲を焼き尽くす魔法を使えるだろうし、相手は森に籠もっているのだから、木々ごと焼いてしまえばよい。


「マック・プルート。そなたの無双の力は、いざという時に備え、取っておくのだ」

「はっ!」


 教皇のお言葉に深く頭を下げ、謁見の間を退室する。

 即座に、各地の騎士に指示を飛ばさなければならない。



 神託の八日後、六国の王都にて、王城制圧作戦が開始された。

 全てが同じ日とはいかなかったが、司教が王に謁見を申し込み、機を見て王の身柄を確保、王族の住まう宮殿を押さえる――という作戦だ。


 六国の大聖堂には通信の魔道具が備わっているため、こうした指示出しや日時を大まかにだが合わせることが可能なのである。

 もちろん城内にはあらかじめ多くの信徒を潜り込ませており、彼らと協力して移動経路の確立や神聖騎士の引き入れなどを行えるようになっている。


 これも、この二十年の成果だ。

 ――ゆっくり教化できれば無駄に血を流す必要もなかったのだが、神託が下った以上は是非もない。



 神託から二十三日後、六国全ての王都の制圧が完了した。

 少なくない犠牲が出ようだが、神聖騎士たちはほとんど無事なようだ。


 さすがは『神の加護』を受けた騎士たちだ。

 加護は『魔力感知』や『気配察知』では感知できぬ『神力』を行使できるようになるため、他国の者には対策すら打たせぬ一手となる。


 この地上のあらゆる生命は、魔物であろうと魔力で様々な能力を行使する。

 そのため、感知を回避することは簡単ではない。


 それを簡単に実現する『神力』は、選ばれし者にのみ許された力なのだ。

 これが与えられた我々は、神により地上の管理を任されたに等しい。


 私は、この無双の力で、必ず教国による全世界の統治を実現してみせよう。


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