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第三十一話 古代遺跡無双

 翌朝、朝食を済ませた俺は改めて冒険者ギルドに向かっている。

 この街は、さすがに冒険者が多く集まるだけあり、非常に広い。

 王都メディオほどではないが、住民は十万人を超えているという話だ。


 何が言いたいかというと、ここを拠点としている者はともかく、やってきたばかりの俺は、遺跡とギルドから遠い宿しか取れなかったということだ。


 面倒だからといって走るのは迷惑だし、『転移』なんか使えば大騒ぎになるのは確実。

 だから、おとなしく人混みに揉まれながら歩くしかないのだ。



 徒歩で一時間ほどかけ、俺はようやく冒険者ギルドに到着した。

 中にいた冒険者たちは、俺の姿を見て微妙な態度になる者もいれば、特に興味がなさそうな者もいる。


 この街で最も多いのは冒険者だとも言われているのだから、昨日の一件を見た者もそう多くはないということか。

 まあ、絡んでくる輩がいなければなんでもいいが。


 ということで、俺はギルド職員に資料室の場所を尋ねてから、目的地に移動した。



 資料室で確認した限りでは、やはり遺跡に出てくるのは『悪魔』。

 それも深い場所に潜れば潜るほど、特殊な能力や強力な攻撃手段を持っているらしい。


 特殊能力に対処するには、高価な状態異常耐性をもった魔道具を用いるか、光・闇属性魔法を高めるかする必要があるという。

 だが、一般には光が覚えられるものは闇を覚えられず、闇が覚えられるものは光は覚えられないと考えられている。


 ……俺、普通に覚えてるんだけど。

 いやまあ、これでセリオが光は習得できで闇を習得出来なかった理由にはなるか。


 とりあえず、俺は自前のスキルでどうにかなる可能性が高いということは判った。

 あとは、それなりに効果のある魔道具を買っておけば、おおむね万全か。


 ああ、毒消し薬なんかは自分で作っておくべきだな。

 店で売られている物より、効果の高い物が作れるようになってるし。


 遺跡自体に関する情報としては、何といっても『空間が拡張されている』『空間が部屋ごとに隔離されている場合が多い』『一方通行が多い』という三つの要素が重要だろう。


 また、空間が分断されている場所ごとに『区画』と呼ばれており、現在は第三十区画までの情報が公開されている。

 それ以降の情報は、各冒険者パーティが持っているらしい。


 パーティによっては金銭での売買もやっているようだが、メチャクチャふっかけるらしいので、今回は考えないことにする。

 ゆっくり、自分のペースで潜ればいいだろう。


 さて、必要な物の買い出しをして、遺跡へのアタックに備えますかね。



 二日後、俺はついに遺跡へと赴いた。

 遺跡の周囲に街が作られたというだけあって、その建造物は驚くほど大きい。


 なにしろ、地平線から地平線まで横幅があるのだ。

 この世界が地球と同じ大きさなら、最低でも約五キロはあることになる。


 そして所々にヒビが入ってはいるが、どこにも崩れた様子がない。

 過去の文明は数百年前とも、千年前とも言われているので、どっちにしても、その年月を耐えられる構造なり魔法の処置なりが施されている、ということ。


 ここから、多くの魔道具や魔剣が発掘されているのも、納得の規模と存在感だ。

 まったく驚愕したと言う他ない。


 これはスゴイ事になりそうだ、と思いながら遺跡に近づいた……のだが。


「うわあ、なんだかスゴイことになってるぞ……」


 当たり前といえば当たり前だが、数万人もいる冒険者の多くが遺跡に潜っているわけで、その順番待ちの列は、夏冬のオタク祭にも匹敵する規模であった。


 一時間待ち、二時間待ちは当たり前にありそうだなあ……とゲンナリしていると、ギルド職員らしき人物が何人も、並んでいる人の確認をしているのに気づいた。


「カード見せてー」


 しばらくすると、ギルド内の受付とはまったく印象の異なる軽さで、俺にも声をかけてきた。

 とりあえず素直に見せてみる。


「あ、上級なんですね! じゃあ、先に入れますんで!」

「え? いや、別に急がな――」

「いやいや! 上級の人は第二十区画くらいまでは、さっさと通過しちゃうんですから! むしろ下の奴らの邪魔になっちゃうんですよ!」


 いきなり豹変した職員は、俺の言葉を遮ってぐいぐい背中を押す。

 いやまあ、言ってることは正しい気もするが、自分のペースで潜ることも許されない環境とは……。



 抵抗できぬまま遺跡の入口に押し込まれ、周囲の視線に押されるように、俺は奥へ奥へと移動した。

 第三十区画までの地図はもらってあるので、まあ、進むこと自体に問題はない。


「でもなあ……なんか冒険感が……」


 そう、薄れているのだ。

 自分の足で歩き、頭で考えて冒険しているという実感が。

 実際のところ、今まで出てきた悪魔もとりたてて特徴がなく、苦戦することもなかったのだが……やはり釈然としないものがある。


 なにしろ人型は小悪魔みたいなのだけで、それ以外は黒いスライムとか、黒い蜘蛛とか、黒い犬とか、黒い木みたいなのとか……ホントに、これ悪魔なの? というような個体しか出てこないのだ。


 とはいえ、もうすでに第二十区画まで来てしまっているのにこんな感じでは、本当に強い悪魔が出てきたときに危ない。

 そろそろ強力な特殊攻撃を持つ者も出てくるだろうから、気を引き締め直しておかねば。


 と思ったのだが……。


「結局、第三十区画まで、何事もなく到達してしまった……」


 こりゃ、あの職員さんも「さっさと通過する」って言うわけだよ。

 まあ、俺の場合は光も闇も極めてるし、得物が『震電』だから楽勝になっちゃってる、ってこともあるんだろうけど。


 あ、一応、誰もいないところを見繕って『転移』で区画間を移動できるかも試してみたよ。

 結果、ちゃんと使えたので、俺は踏破したところまではショートカットし放題ということになる。


「……いや、考えてみれば、難易度がそんなに高くならないからこそ、第三十区画までの情報が公開されているのか」


 ふと、逆に考えてみて合点がいった。

 情報を持っているパーティが高額でしか売らないのは、なるべく情報の拡散を防ぎたいという意図もあるのだろう。


「なら、次からが本番だな」


 装備を再確認し、魔力と気配を感じることを強く意識する。

 これはミスティとの修行で、スキルのみに頼らず、自身の五感で周囲を探ることは物凄く重要だと悟ってから始めたことだ。


 ――呼吸音、足音、汗の臭い、肌に触れる空気の動き、そして魔力の味。

 そういった情報を得ようとすることで、スキルの限界を超越した効果をもたらす。


 ……まあ、よっぽど集中している状態でもなければ、滅多に上手くはいかないんだけど。

 ミスティと戦っているときは、たまにできたんだけどなあ。


「ま、いっちょやってみっか!」


 ワクワクはしないがドキドキはする。

 そんな感覚を懐きながら、俺は第三十一区画への扉をくぐった。



 そこからは中々にタフな道行きとなった。

 これまでは現れなかった、しっかりと人型をした悪魔が現れたのだ。


 それも一区画ごとに格段に、大きく強くなる。

 黒い人に角を生やした者から始まり、角の数が増え、爪が鋭く尖り、羽根が生え、尾が長く太くなってゆく。


 徐々に肌の質が鱗に近づき、爪の形が肉食獣の物に変わり、牙が何列も生え、肘や膝にまで刃の如きトゲが伸びる。

 そしてその攻撃には、例外なく多種多様な状態異常を付与する能力が備わっていた。


 だが、俺が最も厄介だと思ったのは、体格は小さくても武器を持ち、こちらの意識をそらすような特殊攻撃をしてくる者だ。

 毒の霧や、魔力を削る黒い靄など、効果を除いても視界が塞がれる。


 そして――。


「チィッ!」


 ――ドォン!


 轟音とともに、黒い爆炎が部屋中に広がる。

 現在、第四十二区画――とうとう、上級魔法並の広範囲攻撃を持つ個体が現れた。


 さらに言うと、悪魔の特殊攻撃は魔力でも生命反応でもないらしく、目視以外では確認できない。

 これが、視界を塞ぐ攻撃が嫌な最大の理由だ。


 前世の知識に照らせば、おそらくは『瘴気』というやつだろうが……精霊同様、どうすれば感じられるようになるのか不明だ。

 種族的なものであるなら、どうにもならない可能性もあるが……。


「せっかくだ。俺が瘴気を感知できるようになるまで、付き合ってもらうとしよう」


『空間結界』に守られながら、俺は修行することを選択する。

 どうやらこの区画の悪魔――黒い、捻れた二本の角の生えた骸骨が、魔術師のような装備を身に着けている――は、広範囲攻撃がメインのようだし、ちょうどいいだろう。


 かなり深い区画まで潜っては来たが……はてさて、これではどちらが無双しているのやら判らない。

 攻略の糸口を掴むためにも、全力を尽くすとしよう。


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