第三十話 遺跡の街無双
エルフ族の魔法戦士ミスティと別れて四日目、俺は遺跡の街に到着していた。
彼女に指摘された通り、百キロ近く行き過ぎていたのには、我ながら苦笑いだ。
「身分証を提示せよ」
中々杓子定規な感じの門番にギルドカードを見せ、例によって何度も顔とカードを確認されたあとでようやく街に入ることができた。
結構良い装備身につけてても、まだ子供だから驚かれるなあ……。
まあ、身長が伸びるまでの我慢だ。
……伸びるよね?
あ、一応、ミスティとの修行で何が変化したか見ておこう。
【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:91
所持スキル:魔力操作10 魔力感知10 七属性魔法10 空間属性魔法10 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法10 調合10 木工10 投擲10 弓術8 皮加工9 気配察知10 隠身10 剣術10 体術10 金属加工4 刀術7 時間属性魔法2
転生特典:万事習得】
見事に『刀術』が壁を越えたし、『剣術』『体術』もスキルレベル10に至った。
一方、時間属性は一つしか上がらなかったが……まあ、これは『刀術』を伸ばすための修行を積んでいたわけだから仕方あるまい。
◇
「おいおい! なんで、ここにガキがいるんだよ!」
わあ、テンプレ来ましたよ!
ノマインの町では、なかったのになあ……。
やはり遺跡の街は冒険者が多いのか、昼間でも飲食コーナーにも多くの人達がいる。
俺にテンプレ行動を取ってきた巨漢もその一人で、どうやら虫の居所でも悪いらしく、異常にカリカリしている。
何か嫌なことか悪いことでもあったのかね?
とはいえ、無駄なことは嫌いなので、さっさと対処しよう。
「子供だけど、上級だよ」
と、銀色のギルドカードを見せてやった。
まともなやつなら、これで退くだろう。
「バカ言え! お前みたいなガキが上級になんてなれるか!」
あ、これは駄目なやつですね。
「ご大層に大剣なんて背負いやがって!」
男はそう言うと『震電』に手を触れようとする。
が、物の価値のわからない輩に勝手をさせるつもりはない。
ということで、『空間結界』で阻んでやった。
手が『震電』に触れられないことを訝しむ男を後目に、俺は受付に向かう。
――が、それを邪魔するものがいた。
「おいおい、小僧。ハッタリかましといて逃げようってのか?」
「俺らをナメて、ここで勝手できると思うなよ!」
うーむ、言動がそっくりだ。
パーティメンバーかなにかか?
しかし、どうしたものかなあ……。
「おいおい! ビビって声も出ねえのか? ガキはお家に帰ってママのおっぱいでも飲んでな!」
考え込んでいると俺が萎縮していると勘違いし、ひどいテンプレセリフを吐く男。
やばい、こらえろ、し、しかし。
「ブフゥッ!」
ああー駄目だ! 吹き出してしまった!
もう我慢できない!
「ふはは、あはは、あははは!」
相手が怒るのは解りきっているのに笑ってしまった。
だって絵に描いたようなテンプレ行動なんだもん!
しょうがないでしょ!
それに俺が上級だっていうのを信じないことと、他の冒険者たちが止めもしないってことは、彼らがさしたる影響力を持たない存在であるのがモロわかりだ。
「て、てめえ!」
「何がおかしいんだクソガキがあ!」
「ぶっ殺してやる!」
まずい、三人揃って殴りかかってきた。
いや、殴られはしないんだけど……。
「うがっ!?」
「ぐっ!?」
「な、なんだ!?」
まあ、『空間結界』張ったままだったからねえ。
当然、殴ったり突っ込んだりすれば自分が痛いのだ。
今の所、この魔法を突破した者はいないので、最低限、上級以上の魔力を持っていなければ対処は不可能だろう。
もし俺の魔力を基準に抵抗力が発生していたら……事実上、人族には破れないだろうなあ。
何しろ、並の人族、一万人分を軽く超える魔力量なんだから。
ひとまず痛みに呻くゴロツキ冒険者は放置して、さっさと移動申請を出してしまおう。
「すみません、移動してきたばかりなんですけど」
「あ、は、はい。カードを拝見いたします」
受付のお兄さんは、少々動揺しているようだが、仕事はちゃんとこなす……プロだな。
「確認いたしました。上級のソーラ様ですね」
「はい、何かメッセージなどはありますか?」
お、もう落ち着いてる感じだ。
確認のついでに、伝言についても聞いてみた。
各地のギルドの間では、魔道具による通信網が形成されている。
使うためには高額な料金を支払う必要があるが、緊急の要件などの場合は、この上なく確実な連絡手段となるのだ。
ノマインの町に戻った際には、第三王子と第四王女から無事を確認する旨のメッセージが入っていて、ちょっとした騒ぎになったのもいい思い出だ。
「はい、ノマイン男爵様から、ソーラ様が無事に到着したかの確認が入っております」
「分かりました。では、『問題なく到着しました』と通信をお願いします」
受付さんの言葉に、そう返し、金貨を十枚渡す。
すると受付さんは「確かに承りました」と言って、受付を離れていった。
これから、すぐに通信してくれるのだろう。
怒り心頭といった感じだった三人のゴロツキは、男爵の名前が出た上に、俺がなんてことない様子で金貨を払ったのを見て驚愕している。
「それで? 俺が上級だってことはギルドの職員が証明してくれたわけだが、まだ何か言いたいことがあるか?」
少々不遜に、不機嫌そうな顔を作って、俺は三人の男を半目で睨んだ。
いちいち絡まれるのも面倒なので、ギルドの端から端まで届くように『伝声』の魔法で声を拡散させている。
ちなみに、受付の人と話しているときからだ。
「……ね、ねえよ」
「お、おい、行くぞ……」
「あ、ああ……」
さっきまでの勢いはどこへやら、ゴロツキ三人組はそそくさと冒険者ギルドから出ていった。
その様子を見て、あちこちから「マジかよ」「貴族とつながりがあんのか」「さっきのは魔法か?」などという囁きが聞こえてくる。
まあ、これで無意味に絡んでくるやつは減るだろう。
逆に、すり寄ってくるやつがいるかもしれないが、そこは我慢するしかあるまい。
◇
その夜、部屋をとった宿で装備の調整をしていた。
実のところ、ミスティと別れた日に身に着けた時点できつかったのだが、さすがに森のなかで悠長に調整するわけにもいかなかったのだ。
このバイコーン装備一式は完成してから一月半ほどだが、それがきつくなったということは、俺も多少は成長したということだろう。
ブーツとグローブだけは少し大きいサイズの物も作ってもらっているので問題ないが、それ以外はこまめに調整しなければ駄目だなあ。
「よし、こんなもんかな」
全て身につけ、動きやすさを確認する。
……うん、問題ない。
二回りくらいまでなら成長しても使い続けられるように作ってくれたベルム親方に感謝だな。
それにしても、ここに来て冒険者ギルドのテンプレを経験するとは思いもしなかった。
本当はギルドの資料を当たろう思っていたので、計画が狂ってちょっと残念だ。
まあ、それでも、ある程度の存在感を残せたのは、無双っぽいと言えなくもあるまい。