第三話 魔法先生無双
本日三話目です。
二年の月日が過ぎ、俺は五歳になっていた。
この二年で、俺を取り巻く環境にも若干の変化があった。
最も大きなものは母が身ごもったことだ。
俺の畑無双によって食糧事情が改善されたことで、両親の心身も健康を取り戻したということだろうか?
まあ、新しい家族が増えることは喜ばしい。
次に、俺に魔法を教えてくれと来る子供が増えた。
これは単純に「魔法を使えれば手伝いが楽になる」という理由が主だ。
そして俺は魔法を教えるのが得意だった。
というのも、魔法は属性によって放出する魔力の波形にそれぞれ異なる特徴があり、人によって魔力放出の癖も異なることから、個人個人でどの属性が覚えやすいかを判断できるのだ。
地属性が四角い、水属性はなめらかな、火属性は大きく揺らぐ、風属性は渦巻くような形で魔力を放出する必要がある。
ちなみに光は放射状に均等に、闇はもやっと放射状に放出するという、他の属性に比べるとちょっと特殊な形質を持っている。
あと無属性は本人が自然に魔力を放出するままで良いから簡単だ。
他にもまだ属性があるのだが……それは後で説明しよう。
とりあえず五歳の俺のステータスはこうだ。
【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:1
所持スキル:魔力操作10 魔力感知8 無属性魔法10 地属性魔法6 水属性魔法6 火属性魔法2 風属性魔法3 光属性魔法8 闇属性魔法2 空間属性魔法1 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法2 調合3 木工2
転生特典:万事習得】
魔法の属性を始めとして、いくつかスキルが増えたね。
木工は木材から小物を作っていたら習得できた。
で、後で説明すると言ったのは『空間属性魔法』だ。
これは、三歳当時まだ習得していなかった『闇属性魔法』を覚えた時に一緒に生えてきた。
おそらくは、無地水火風光闇の七属性を覚えることが習得の前提条件であったのだろう。
そしてその『空間属性』だが、いわゆるアイテムボックス的な謎空間に持ち物を収納する魔法や、その場で自在に上昇・下降できる浮遊の魔法などが使えるようになった。
この属性の難点は、他の属性に比べて圧倒的に魔力消費量が多いことだ。
並の魔法使いであれば、浮遊の魔法一回で打ち止めになるだろう。
まあ、俺の場合は空間魔法であっても一回使っている間に自然回復する感じなので特に問題はない。
いまだに増やし続けている魔力量バンザイだ。
まだスキルレベルが低いためか転移などは使えないが、いずれは自在に空を飛んだり、好きな場所に転移したりできるようになるのではないかと期待している。
異世界テンプレ的にも、空を飛ぶのと転移しまくるのは基本だよねー。
「はーい、それじゃあ今日はみんなの覚えやすい属性を探りましょう」
まあ、そんな感じで今日も今日とて魔法の先生だ。
農作業の合間とか、農閑期に集中してやっていくスタイル。
日によって子供ばかりだったり、大人が混じったりもする。
これまで『魔力感知』で探ってきた感じでは、平均して一人あたり二つくらいは得意な属性が見つかる。
共通しているのは、自身の素の魔力放出と傾向が近い属性が覚えやすく伸びやすいということ。
要するにカクカクっとした放出なら地とか光。
すうっとなめらかな感じなら水とか闇。
激しい強弱がある場合は火、みたいな分類になる。
風が結構、レアな感じなんだよね。
農作業的に風はあまり好まれないというのもあるけど、他の属性に近い魔力放出を持ったものがないのが大きな原因だ。
俺的には、土作りや水撒きに風属性があると便利だと思うんだけどねえ。
土に空気を含ませたり、シャワー状に散布した水を意図した範囲に広げたりとかね。
それでも土を直接いじれる地属性や、水くみ不要になる水属性、それと竈や暖炉に火をつける火属性に比べると、どうしても風属性は人気がない。
まあ、無属性はほぼ全員が使えるようになるから、風が得意属性であっても問題になるほどのことではない。
なにしろ無属性には身体強化があるので、三歳児でも短時間なら大人並みの腕力を発揮できるようになるのだから。
ああ、そうそう、風属性が強力な効果を発揮する仕事もある。
それは狩人と鍛冶屋だ。
狩人は風を操って風上風下関係なく自分の体臭を獲物に気取られなくしたりできるし、鍛冶屋は火に風を供給することで一気に高火力で鉄を加工しやすくなったり……という感じ。
特に狩人は、臭いや音を制限できることが狩りの成果に大きな影響を与えており、村への動物性蛋白質の供給量がかなり増している。
具体的には、従来の二倍程度には増加しているのだ。
これは育ち盛りの子供としては相当に大きなことで、村への貢献度から優先的に肉を得られる俺の今後の成長にも影響があると思われる。
俺は成人したら村を出て冒険者になるつもりなので、しっかりとした体は必要不可欠なのだ。
そのためには、肉を食いまくらねばならない。
「じゃあ次は、実際に使ってみましょう」
話は戻って、魔法先生だ。
得意属性診断した途端、魔法の実践って危なくない? と思うだろうが、子供のみならず人間なんて即物的というか性急に結果を求めるものだし、ここで目に見える一定の成果を得られれば後のやる気が違ってくるのだ。
出来た! っていう成功体験が大事だってことだね。
それに付随して、カルタのような文字と絵を彫った板を取り合うゲームを導入したりしている。
楽しく遊びながら文字を読めるようになるという、知育玩具みたいな感じだね。
これは魔法のみならず自習する際には大きな影響があるので、村の識字率を高めようという試みでもある。
特に子供の時期は何かにつけて「できるやつ」が偉いので、これまで様々なプラスをもたらしてきた俺の言うことは肯定されやすい。
ということで、村の子供達は順調に文字と魔法に親しみ、彼らが成長していけば幼い頃に経験したことは自然と「普通のこと」になり、次の世代にも受け継がれてゆくことになるだろう。
なんて大仰なことを考えたりしているが、ぶっちゃけ自分が異端にならないことが村社会では重要なのだ。
これまで不満なく過ごしていた物事を変化させるというのは少なからぬ反発を生むものだし、失敗すればそこで排除する方向に動かれかねない。
だから味方を増やしている、という側面もあるのだ。
何にせよ、村にプラスをもたらしている限り、俺は好き勝手やっていられる。
そのために魔法先生もやる。
いささか勝手ながら、これもまた無双と言えるであろう。