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第二十七話 再び迷子無双

 意気揚々と男爵領を出た俺は、まっすぐ北へと向かった。

 街道は山沿いだったり、比較的距離の短い位置で森のなかに入ったりしてるわけだが、それは北へ向かうためには物凄く大回りしなければならない、ということでもある。


 というわけで、俺は村を出たとき同様、森も山も突っ切って行けばいいじゃない! と、馬鹿みたいに真北を目指したのだ。

 ……まあ、それでまた迷子になったわけですが。


 例によって狩人知識を駆使して方角だけは見失わないのだが、深い森では木々が邪魔になって、西に東にウロウロすることになるのだ。


 今の俺には『転移』も『飛行』も可能なので、わざわざ森の中を移動せずに飛んでいけよという話ではあるのだが、旅の醍醐味というか、冒険するなら徒歩か馬車でしょ! という意識があるのだ。


 それでも上がったレベルのおかげで、普通の人に比べれば遥かに移動速度は早いのだが。

 具体的には、早歩きで馬の全速力くらいの速さだ。


 それはさておき、迷子をどうしたものやら。

 別に急ぐ旅でもないから、このままでも良いといえば良いのだが、何か目的があった方が楽しく歩けるだろう。


 と、なると……。


「見たことのない動植物の採取と、遺跡の発見かな」


 動植物は当然、地域によって異なるから、資料で知識は得ていても実物を見たことがない物も大量にある。

 まじない師の婆さまに教えてもらった薬に関することも、やはり村の周辺で得られる素材で作れる物がメインだ。


 深い森ほど魔物に襲われるリスクが高く、そうであれば人は寄り付かない。

 つまり希少な、あるいは珍しい動植物に出会える可能性は高いだろう。


「移動は遅くなるけど……まあ、いろいろ探しながらいきますか!」


 ということで目的を定めた俺は、足取りも軽く再出発したのだった。

 あ、遺跡は人跡未踏の地にあると言われているけど、そんな簡単に見つかるわけないよねー。



「見つかったわ、遺跡」


 森に入り、山を歩き、まだ見ぬ動植物を探しながら移動すること十二日。

 俺は幾つかの山を越えた先にある窪地――いや、これはクレーターの痕跡と言うべきか――に行き当たった。


 クレーター湖を中心としたその場所には、いかにも「長い年月を経ています」という風情の建造物の残骸がいくつも転がっている。

 苔むし、蔦が這い、なんらかの動物の巣に使われたであろう様子は、なんともいえない寂寥感と、それに反する落ち着く雰囲気を醸し出していた。


「しかし、これは……お宝なんかは、なさそうだな」


 一通り周囲を見回してみたが、原型をとどめた建物はない。

 もしかしたら湖の底に沈んでいるのかもしれないが……潜ってまで探すのも、なんだか無粋な気がした。


 この場所の空気を壊してしまうのは嫌だからね。


「まあ、今日はここで一日過ごすか」


 ここまでの道中、それなりの頻度で中級以上の魔物と遭遇したが、この周辺には魔力の反応も、危険な気配もない。

 夕方になったら森のそばにでも、タープだけ張って野営することにしよう。



 森に入って以降、久々のゆっくりした時間を過ごし、俺は心身ともに生き返った気分だった。

 そろそろ真夏という時期だが、ここでは湖面を揺らす適度な風が吹き、木々のおかげで直射日光も遮られているため、絶好の避暑地となっている。


 さて、寝床の準備をするか――というタイミングで、魔力反応が現れた。

 魔力の大きさからして人間ではないが、魔物でもなさそうだ。


 現在の『魔力感知』の有効範囲は大体二キロほどだから、相手が近づいてくるまで、それなりの時間、様子を見ていられる……と思ったのだが、反応はまっすぐにここを目指しているらしい。


 うーむ、どうしたものか……俺に気づいている感じでもないが、相手が友好的な存在とも限らない。

 いろいろ考えている間に、彼我の距離は五百メートルほどになり、魔力反応が立ち止まった。


 どうやら、俺の存在に気づいたようだ。

 これで俺を確認に来たわけではない、というのが確定したな。

 まあ、いまさら逃げるのも悪印象を与えるだけだろうし、到着を待つか。


 歩みの遅くなった魔力反応の主が、一分ほどの後、森の端に現れた。

 日が傾き、夕闇が迫る時刻であるためハッキリとは見えないが、人型の生物のようだ。


「お前は何者だ」


 声をかけようか迷っている間に、相手から誰何された。

 どうやら声質からして女性のようだ。


「俺は冒険者です。遺跡の街に行くため、旅をしています」


 とりあえず丁寧な口調で答えておく。


「遺跡の街? 人間が古代遺跡のそばに作った街のことか?」

「そうです」


 どうやら街のことを知っているようなので、イエスと答えた。

 のだが――。


「その街は、もっと南だぞ」

「えっ?」

「えっ?」


 ……えーと、今日で森に入って十三日で、一日平均三十キロくらいは移動してたはずだから……三百九十キロか。

 ええ~? その程度ではたどり着けない距離のはずなんだけど……。


「えーと、ちょっと待ってくださいよ……」


 俺は混乱しつつ、王都で手に入れた大雑把な地図を取り出し広げる。

 ううーむ、この地図ではまだまだ遠そうだし、街道沿いに行ったら並の足なら一月半以上かかるはずなんだけど……。


「見せてみろ……なんだこの地図は、でたらめだぞ。あの街は山を何度か回り込むように街道が通っているから、森の南端からなら北に三百キロほどしか離れていない」

「な、なんだってー!?」


 俺の様子に毒気を抜かれたのか、警戒する様子もなく近づいてきた女性は、俺の手から地図を奪い取って確認するなりそう言った。

 詳細な地図などないと解ってはいたが、そんなでたらめな物だとは思わなかったよ……。


「というか、そもそも街に向かうのに、なぜ森の中にいるんだ」

「いやその……まっすぐ北に行けば、街道使うより早いかなーなんて……」


 至極当然の質問に、俺はバツの悪さから目をそらしながら答えた。

 すると女性は、しばらく呆然としたあとに大笑いし始めた。


「ふはっ、ははは、あはははは! そ、そんな馬鹿な理由で森を突っ切ろうとしたのか! こ、この上級魔物が多くいる森を!」

「……そこまで笑うことはないと思うんだけど」


 ツボにはまったのか笑い続ける女性に、さすがの俺もイラッとした。


「ふふふ、すまんな。子供のくせに、あまりに無謀なのが可笑しくてな」

「まあ、子供なのは確かだけど、別に無謀ってわけではないよ」


 相手は俺のことを何も知らないのだから、子供扱いも仕方がないとはいえ、実力まで見切った気になられるのは業腹だ。

 すっかり謙譲語を使う気も失せた。


「ほう? 随分と自身があるようだな。では、何ができるというのだ?」


 ようやく笑い止んだ女性は、今度はからかうような表情を浮かべた。


「まあ、いろいろとあるよ。これでも上級冒険者だからね」


 さすがに魔法をぶっ放したり、高速振動大太刀『震電』を抜いたりするわけにもいかないので、俺は言葉とともに冒険者ギルドの登録証を見せる。


 これはトランプ程度の大きさの、銀色のカードだ。

 入門の木製から始まって、初級は鉄、中級は銅、上級は銀、超上級は金、特級はミスリルで出来ている。


 ちなみに古代の技術を再現した魔道具で作り出されていて、材質は前述の通りだが、登録者本人が持っている限り魔力が供給され続け、めったに壊れないほどの硬度を持っているのだ。


「な……」


 カードを確認した女性は、さっきとは違う意味で呆然とした表情を浮かべた。

 少々大人げないが、初めて出会った人に実力を伝えるのには友好な手段だと思う。


 まあ、体はまだ子供だし、ガキっぽい無双の仕方も、たまには許されるであろう。


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