表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/65

第二十六話 新たなる旅立ち無双

 俺の仕事に満足した第三王子と第四王女から、なんと金貨二千枚もの報酬を得た挙げ句、それぞれが俺のことを友人扱いすることを公言。


 しかも、その場で書類を作成し、王族との友誼を保証するメダリオンまで渡された。

 正直、大きすぎる報酬とつながりは面倒な柵にしかならないとは思うのだが……さすがに王族の申し出を断ることは出来ない。


 まあ、こちらが無駄に権力に擦り寄ろうとしなければ、必要以上の関わりは持たずにすむだろう。

 きっと、多分、メイビー。


 そんなこんなで、友人扱いする相手に俺の身の上を聞かれれば応えざるを得ない。

 だから請われるままに、これまでの人生や冒険を語った。


 彼らのような雲上人にとって田舎の話は珍しいらしく、農業や狩り、村人たちとの助け合いながらの人生経験を、興味深そうに聞いてくれた。


 俺にとっても、自分の人生を客観的に振り返る良い機会になったと思う。

 ……あ、今更だが、王子はレックス、王女はリリアという名前だそうな。





 王都の冒険者ギルドから間引き依頼を十分にこなした頃、男爵家も社交などの用事を終え、領地に戻ることとなった。

 俺はもちろん護衛の依頼を請けたし、往路で一緒だったパーティも同様だ。


 このメンバーでは何の問題も起こることはなく、帰路では各地の領主たちに対する無駄な挨拶も必要ないということで、二週間と少しで男爵領に帰り着いた。


 道中の雑談で聞いたのだが、元アホ騎士は実家に戻された上に勘当されて平民に落とされたそうな。

 平民が同じことをしたら確実に奴隷か死罪にされるだろうから、まあ、温情のある処置といったところか。


 また、社交の効果か、まともそうな騎士候補も一人見つかったようだ。

 俺が見た限りでは、いかにも堅物という感じなので、きっと今度は大丈夫だろう。


 そして俺は、そろそろ男爵領を離れようと思っている。

 男爵領で約二ヶ月、王都への旅で約二月半――冒険者が一所にとどまる期間としては、十分な長さだ。


 次に向かう予定なのは、男爵領のずっと北にあるという遺跡の街。

 遺跡というのは過去の文明の物で、話によると様々な空間の異常と、他では見られない『悪魔』と呼ばれる類の魔物が現れるそうだ。


 ここまで順調に成長してきたと自負している俺だが、レベルが九十を超えた頃にはさすがに伸びが鈍った感覚を受けた。

 スキルの方も日常生活や、普通の旅、それに男爵領から王都までの範囲での冒険では、これ以上のものは得られそうにないとも感じている。


 だから未知の場所や環境に挑んでみよう、と決めたのだ。

 まだまだ世界は広い。

 今までに旅した範囲では、一パーセントにも満たないんじゃないだろうか。


 まあ、さすがに世界中を隈なく踏破なんて、できるとは思わないけどね。

 とりあえず、これまでの自身の成長を振り返ってみよう。


【名前:ソーラ 種族:人族 レベル:91

 所持スキル:魔力操作10 魔力感知10 七属性魔法10 空間属性魔法10 魔力増大10 魔力回復10 回復魔法10 調合10 木工10 投擲10 弓術8 皮加工9 気配察知10 隠身10 剣術9 体術9 金属加工4 刀術3 時間属性魔法1

 転生特典:万事習得】


 ご覧の通り、「空間属性を極めたら新たな属性が現れるのでは?」という俺の予想は当たり、『時間属性魔法』というスキルが習得できた。


 この属性は文字通り時間を操るもので、レベル1でしかない今でも『空間収納』内や、ごく狭い範囲――小さな鍋程度――の時間経過を遅くすることができる。


 例によってコストはクソ高いが、生モノが長い間傷まないのは中々ありがたい。

 これまで食える魔物などは、街にいるときは売り、移動中には食べ、あるいは魔法で乾燥させて干し肉にしたり、粉末コンソメの材料にしたり――と、いろいろ処理に手間がかかっていたのだ。


 これが数倍の期間、保つようになるのだから、短期間の旅くらいなら何も考えずに『空間収納』に放り込んでおける。

 野菜類も同様だから、本当にありがたい。


 とまあ、時間属性のおかげもあって、俺が旅に出る準備は万端なのだ。

 あ、『震電』を作ったベルム親方が、防具類のほうもちゃんと作ってくれたから、装備も充実うれしいなって感じ。


 バイコーン装備一式って感じだから、全身紫の入った黒になってるのが微妙に中二病くささを感じるが……まあ、この世界の人はそんな言葉は知らないから大丈夫だろう。


 そうそう、『空間属性魔法』に関してだが、スキルレベルが10になったことでようやく『転移』が使えるようになった。

 これはいわゆる瞬間移動と、転移のための門を開くという二種の形態がある。


 瞬間移動タイプは少人数しか移動できないが、一瞬で移動できる。

 転移門タイプはコストがものすごく増大するし、開くのに少し時間がかかるが、移動する物の大きさや人数に制限がない。


 まあ、こんなやけくそに便利な魔法が使えると知られれば面倒事が増えるだけのなのは解りきっているので、男爵一家にしか知らせていないけどね。


 これまで『空間収納』とかさんざん使ってただろ、と言われるかもしれないが、あれは比較的メジャーな魔道具として『収納袋』があるから、余程大量の物を人前で出したりしなければ問題ないのだ。


 中級冒険者ならごく稀に、上級冒険者なら割と持っている者もいるし、大商人や貴族なら確実に持っている、という程度には普及している。


 これまで遺跡からそれなりの頻度で発掘されてきたということは、過去の文明でも、『収納袋』は誰にでも利用されるものだったのかもしれない。



「え? ソーラ先生、出ていっちゃうんですか?」

「ええ、世界を旅するために冒険者になったので……」


 出発前の挨拶と、ノマインの町への最後の貢献ということで、手元にある素材を冒険者ギルドの財政を圧迫しない程度に放出しに来たのだ。


 魔導剣関係でちらっと話したが、魔石は様々な道具の動力源として用いられている。

 それは一般家庭においても同様で、いわゆる家電のような魔道具は町中で無数に使われているのだ。


 だから魔石は、どんな等級のものでも、あればあれだけ助かる。

 低級の物なら比較的安いから、買いやすいしね。

 まあ、俺の故郷の村みたいな僻地では、魔道具なんてほとんどないけど。


 で、受付のおじさんまで俺を先生と呼んでいるのは、以前の魔法講義の影響だ。

 ギルド職員で受講した者は彼以外にもいて、その人達は例外なく俺を先生と呼ぶ。


 まあ、敬意というよりは、愛称みたいな意味合いが強いとは思うけどね。


「寂しくなりますね……」

「そう言ってもらえて嬉しいですよ。でも、また来ますから。意外と近いうちに戻ってくるかもしれませんしね」


 別れを惜しんでくれるおじさんに、そう応える。

 なにしろ『転移』があるのだから、俺にとって思いつきで帰ってくるのは、なんの手間もない。


「じゃあ、先生の送別会しようぜ!」

「おお!」


 話を聞いていたらしい冒険者たちが、そんなことを言いだした。

 その流れは、あっという間にギルド内に広まり、何人もの冒険者が「俺ほかのやつにも声かけてくる!」といって飛び出してゆく。


 ……これは思いの外、大事になりそうだ。



 結局、その夜はギルド周辺の通路まで占拠する勢いで宴会が開かれた。

 迷惑料ということで、俺もそれなりの金銭を放出し、近隣の住民たちにも食事や酒をどんどん提供したよ。


 俺の送別会のはずなのに、なんで俺が一番金使ってんだろ……と思いもしたが、まあ、たまにはこういうのも悪くはない。

 誰も彼もが笑顔で騒げるというのは、とても大事なことなのだから。


 途中で男爵一家も乱入し、乱痴気騒ぎは翌朝まで誰も帰宅してないんじゃないか? と思うほどの人数で続けられた。

 ――実に楽しい一時だった。



 送別会から二日後、俺は夜明け前に定宿を出た。

 もう十分に別れは惜しんだし、挨拶も済ませた――だから、コッソリ出発してしまおうと思ったのだ。


 ――のだが。


「やはり来たな」


 門前で、ノマイン男爵が待ち構えていた。

 彼だけではない、アウラお嬢様にセリオ、そして多くの冒険者たちが集まっている。


 男爵の口ぶりからして、どうやら俺がこうするのを想定していたようだ。


「水臭いですよ先生!」

「そうだぜ、俺たちゃ先生のおかげで一丁前になれたんだ!」

「恋人もできたしな!」

「俺はできてねえよ!」

「リア充爆発しろ!」


 誰もが口々に、感謝だかなんだかわからないことを言うものだから大半が聞き取れないが、まあ、悪いものではないだろう(一部を除く)。


「ソーラ様……道中の無事を、お祈りしております」

「ソーラ先生、また必ず、お会いしましょう」


 大騒ぎする冒険者たちから一歩前に出、アウラお嬢様とセリオが、そう言葉をかけてくれた。


「ありがとうございます。……ではまた、いつかどこかで!」


 二人に礼をし、全員に聞こえる大声で最後の言葉を伝えると、俺は開かれたばかりの城門を抜けて駆け出した。

 背後からかけられる別れの言葉に後ろ髪を引かれながら、一度だけ振り向いて手を振る。


 チラリと見えた人々も、みんな手を振ってくれていた。

 実際のところ、誰も彼もと仲良くなれたわけではない、俺のことを気に入らないという人もいるだろう。


 それでも、こんなに多くの人に見送ってもらえるというのは、これまでの俺の行いが悪いものではなかった、という証拠のように思われた。


 これはまさに、新たなる無双にふさわしい門出と言えるであろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ