第二十二話 素材収集無双
第三王子の依頼は、冒険者ギルドに依頼を出して貰う形になった。
俺が冒険者でもあると話すと第三王子も第四王女も驚いていたが、男爵家の家庭教師でもあったことを思い出したらしく納得してくれた。
これで一月の中級指名依頼で、完遂すれば三千もの貢献ポイントが得られる。
同時に第四王女も指名依頼を出してくれるから、都合、六千ポイントで、仕事が終われば上級冒険者になれだろう。
ちなみに報酬は、それぞれ基本が大金貨十枚=金貨百枚で、出来によっては上乗せしてくれるという。
現状、魔石細工は俺の独占市場なので相場はないし、金貨二百枚は高すぎるんじゃないかと思ったのだが、宝飾品などの職人ならもっと取るらしい。
高級品を扱う商売って怖いわ……。
◇
とりあえず素材集めということで、俺はまた山に行きまくることにした。
一人で。
上級クラスの魔物がたまに出る、という辺りをウロウロして俺に対処できるものかどうかを確認しつつ、魔物を次々狩ってゆく。
そんなこんなで、ここ数日の感じでは、上級の魔物相手でも特に問題なく狩れることがわかったので安心だ。
これまでに狩った魔物は、中級のブレードボア、セイバーウルフ、ジャイアントバイパー、キラーマンティス。
上級のブラッドベア、ウィルム、グリフォン辺りだ。
……思ったんだけど、王都のそばにこんな強い魔物が多くいるのって危なすぎない?
それとも、俺の運が良いか悪いかで凶悪なのとばかり出会ってるの?
どいつもこいつも馬くらいデカイんだけど……。
まあ、魔石も大きくて綺麗なのが採れるし、素材も高価買取対象だから文句はないんだけども。
「ん?」
益体もないことを考えていたら、『魔力感知』の端っこに反応があった。
どうやら五人の人間が、魔物に追われているらしい。
「は……? おいおい……」
しばらくすると、追っている魔物が二十体ほどの群れだとわかった。
次々に感知範囲に入ってきたのだ。
魔力の大きさからして上級の魔物だ。
これは不味い。
このままだと逃げてる人たちは、確実に追いつかれて殺される。
「……行くか」
正直、上級の魔物とは同時に二~三体としか戦ったことがないが、殺されると気づいているのに見捨てるのは後味が悪い。
なら、これまで使わなかった魔法の実験でもしてやろうじゃないか。
そうと決まれば、即行動だ。
俺は全力で『身体強化』を施し、地面を蹴って駆け出した。
木々のせいでまっすぐは走れないが、そこは幹を蹴って強引に最短距離を移動する。
彼我の距離はすでに五百メートルほど。
この速度なら数秒でたどり着けるだろうが、魔力の反応も追いつかれそうになっている。
追いかけている魔物の群れのほうが、移動速度がずっと早いようだ。
これは到着次第、すぐに魔法を放てるようにしておかねばなるまい。
「石壁!」
逃げている者の姿を視認した俺は、即座に広範囲に防壁を展開。
いきなり目の前に出現した石の壁に、魔物の先頭集団が激突する。
後続もたたらを踏んで減速し、前方の群れにぶつかるが……特にダメージを受けた様子はない。
「よせ! 生半可な魔法は効かない!」
逃げていた者たちの一人が俺にそう叫ぶが、悪いが無視だ。
俺の狙いは、別に直接的な攻撃魔法ではない。
まあ、人がいると使いにくいものではあるので、『石壁』で仕切りを作ったのだが。
――その魔法はこちら。
「空間結界……操風!」
石壁に飛び乗り、俺は魔法を発動する。
その姿に反応するように魔物――バイコーンが跳躍しようと身を沈めた。
だが、一呼吸した途端、二本角の馬の姿をした魔物の群れは、バタバタと倒れてゆく。
それもそのはず、『石壁』によって区切られた空間を結界で遮断、内部の空気から酸素だけを抜き取ったのだ。
その結果、酸欠・窒息した魔物たちは、あっさりとその生を終えた。
全てのバイコーンが同程度まで保有魔力量を減少させていることから、死亡しているのは間違いない。
「はい、おしまい、と。……あー、大丈夫ですか?」
警告を無視された上に、いきなり魔物の群れを沈黙させ、もう終わったと宣言する俺の様子に呆然とする五人の人物に、怪我などないか問う。
すると彼らは、首が取れるんじゃないかと思うほどガクガクと頷いた。
どうやら、驚きすぎて声も出ないようだ。
とりあえず、解体を手伝ってもらいましょうかねー。
◇
俺がバイコーンの群れから助けた五人は冒険者だった。
まあ、あんな強い魔物がいるような場所に普通の人がいるわけないよね。
彼らは最近依頼に失敗して違約金で資金が底をつき、一発逆転を狙って山奥に入り込んだ。
そして首尾よくブラッドベアを倒したまでは良かったのだが、血の臭いに惹かれて他の魔物が寄ってきたという。
それもなんとか倒したが……最後にはバイコーンの群れが現れた。
ブラッドベアもバイコーンも上級の魔物とされているが、その強さはかなり離れている。
もちろんバイコーンのほうが上で、なおかつ今回はそれが群れでやってきた。
もはや逃げる以外の選択肢は残されていなかった、というわけだ。
「だからホントに助かったよ……」
「このままだと、逃げ切れてても大物を連れてきたってことで、良くて奴隷落ち、悪くすりゃ死罪もありえただろうな……」
王都に近い場所で上級の魔物、それも群れを連れて帰れば、彼らが言う通りの結果になっていただろう。
その上、多数の犠牲者が出ていたことは想像に難くない。
「……もう一度、薬草採取からやり直しだな」
「だな、身の丈に合わない依頼を請けるもんじゃねえや」
「となりゃ、まずは装備を売っぱらって宿代を作るか!」
憑き物が落ちたよう――というのはこういう感じなのだろうなあ、と思う俺を後目に、解体の手伝いを終えた彼らは、手を振りながらあっさりと山を降りていった。
少し素材を分けてもいいと思っていたんだが……それも無粋か。
今度ギルドで彼らと会ったら、酒でも奢るとしよう。
思わぬ展開だったが、大量の素材を得られたし人助けも出来た。
これもまた無双と言えるであろう。




