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第二十一話 第三王子無双

 王都メディオに来て二週間と少し、俺は王都の東にある山脈に赴いては中級相当の魔物をメインに狩る日々を送っていた。

 もちろんソロでだ。


 護衛任務にあたっていたときは、自分勝手に魔法を使うわけにもいかなかったし、ノマインの冒険者ギルドマスター・ロゴンに教えてもらった剣術を鍛え直したかったのもある。


 ただ剣術に関しては、俺の得物が刀である都合上、どうしても扱い方に違いが出てくる。

 なので、前世の記憶を総動員して、切り裂く振り方を身に着けようと悪戦苦闘しているのだ。


 ひとつだけプラスに働いたのは、幼い頃に我流でやっていた剣術が刀を使うイメージだったこと。

 そのため、現在のスピードとパワーにすり合わせることができればなんとかなりそうな雰囲気だ。


 まあ、ステータス的に天と地ほどの差があるので、それが大変なのだが。

 上手くできるようになれば、『刀術』スキルが習得できるかなー、と期待したりもしている。



「魔石細工の製作依頼ですか?」


 そんなある日、冒険者ギルドに赴いた俺はノマイン男爵からの伝言を受け、男爵家の別邸に赴いていた。

 すると、セリオのデビュタントで魔石のブローチが大層注目を浴び、「誰が作ったのか」「依頼は可能なのか」「幾らくらいなのか」など、多くの人に聞かれまくったのだという。


 中でも、国王に同席していた第三王子と第四王女は食いついて離れない勢いだったらしく、「依頼を請けられるか当人に聞いてみます」と答えざるを得なかったそうな。


「王族の頼みだからな……事実上、断れんのだ。すまんが、請けてもらえんか?」

「それは構いませんが……私が冒険者であることが問題になったりはしませんか?」


 王族の依頼を請けるとなれば、当然、王城に出向く必要が出てくる。

 その時、平民の小僧、しかも冒険者が入れてもらえるか? というと、普通は無理だろう。


「そうだな……そこは、それなりの格好と肩書が必要になる」


 男爵も悩ましげだ。

 格好はまあ、金さえあればどうにかなるだろう。

 魔石細工職人という扱いなわけだから、装飾品は自分で作ればいいし。


 ただ、肩書はなあ……。


「それでしたら、僕たちの家庭教師を名乗るのはいかがでしょう?」


 と言うのはセリオだ。

 確かに、二月やそこらとはいえ実際に魔法を教えていた。

 それなら妥当……なのだろうか?


「……そうだな、それしかないか」


 どうやら苦肉の策って感じのようです。



 それから一週間、派手すぎず無礼に当たらない程度の服を手配し、それに合わせた装飾品とサンプル用の魔石細工を複数作成。

 欲しい色が手持ちになかったら山に魔物を狩りに行く……という行動を繰り返した。


 その甲斐あって、まあ、こんなもんかな……という準備はできた。

 服が商人風のシンプルで暗い色のローブなので、装飾品も土台を銀で作り青い魔石をワンポイントに据えた物に。


 ゴテゴテするのも嫌だから、指輪、ネックレス、腕輪、イヤーカフス、だけにしておいた。

 まあ、他のサンプルがキラキラしい物ばかりだから良いだろう。


 ということで、ノマイン男爵が国王陛下と謁見するのに合わせて、俺は第三王子、第四王女と謁見することになった。



「お初にお目にかかり光栄です。私はソーラと申します。何分、田舎者ですので、何かご無礼がございましたら、ご容赦を」


 招き入れられた王城の一室で、俺は第三王子と第四王女を前に跪いて挨拶した。

 ちなみに、発言を許されないのに喋ったら無礼らしい。


 今は「名乗れ」って言われたから名乗ったのだ。

 おくびにも出さないが、貴族の礼儀作法って、ほんっとにメンドクサイ……。


「そなたが魔石細工職人か……」

「随分と、お若いのですわね?」


 まあ、職人を呼んだら自分たちと同年代の子供が来れば、そりゃあ訝しむわな。

 王子は十五歳、王女は十三歳だそうな。


「それは、こちらの品をご覧になってから、ご判断いただければと……」


 一言だけ断り、殿下方の脇に控えている使用人に、持ってきた木箱を渡す。

 献上品にしろ商品の紹介にしろ、安全性を確認するために間に人を挟むのは、王族にとっては当然の手順なんだとさ。


「おお……」


 使用人さんが思わず、といった風情で感嘆の声を上げた。

 人の動く気配がするから、殿下たちも気になっているのだろう。

 だろうっていうのは、俺は未だに跪いてうつむいたままだからだ。


 だって顔上げろとも、椅子に座れとも言ってくれないんだもん。


「おお! これは見事だ!」

「素敵ですわ……」


 どうやらお二方も中身を見たようだ。

 ちなみに持ってきたのは、チェスの駒一式と小動物の置物、それと男爵一家に作ったようなブローチと飾りボタンだ。


 チェスとかリバーシは異世界転移転生の知識チートのテンプレみたいなところがあるが、この世界ではだいぶ昔から遊ばれているらしい。


 俺以前にも、転生者とかがいたのかもしれないね。

 そんなことを考えていると、使用人が殿下たちに何か耳打ちしているっぽい声が漏れ聞こえてきた。


「お、おお、すまん。そちらに座ってくれ」


 ああ、期待はずれな人物が来たから放置してたってわけじゃないのね。

 うっかりか。


 まあ、悪印象じゃなかったなら何でも良いや。

 ということで、二人の対面のソファに腰掛ける。


「いや、見事な物だ」

「とても綺麗ですわ。それに動物たちが、とても可愛らしくて……」


 それぞれ気に入ったらしい物を手に、感想を漏らす殿下方。

 王子はかっこいい物、王女は可愛い物が好きなようだ。


「お褒めいただき、ありがとうございます。作った甲斐があったというものです」


 ちゃんとお礼を言っておく。

 二人の言葉が社交辞令なら、依頼の話もなかったことになるだろうが……まあ、無礼にならないように対応しておけば問題あるまい。


「それで依頼の話だがな、二つで一組のブローチを作ってもらいたいのだ」


 意外なことに、第三王子は即座に本題に入った。

 それによると、彼は近く隣国の姫君と婚約し、いずれは婿入りするそうだ。


 そこで思い出に残る贈り物を……と考えていたところ、ノマイン男爵一家が見事な魔石細工を身に着けていたから、これだ! と思ったらしい。


「期間は一月、かかった費用もこちらで支払おう。どうだ、請けてくれるか?」


 期待の籠もった視線を向けてくる第三王子。

 さすがに、これは断れないなあ……。


 いかにも王族という感じも受けたが、好きな女の子に贈り物をしたいという純粋さも感じられて、なんとも言えない感覚だ。

 無双されたなあ……。


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