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ひたすら無双するだけの異世界転生物語  作者: スガ シュンジ
第二章 ノマイン男爵領
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第十七話 移動無双

「あ、先生じゃないか!」


 護衛依頼を受け、出発当日、男爵邸へと赴いた俺に、すでに待機していた冒険者パーティが声をかけてきた。

 全員、頭を下げたり手を振ったりしてくれている。


「おはようございます」


 俺も、軽く頭を下げて挨拶を返した。

 彼らが俺を『先生』と呼ぶのは、例の魔法指導依頼のせいだ。

 以前に述べた通り高い成果を上げたことで、大人から子供まで、受講した者たちは自然と俺を『先生』と呼ぶようになった。


 正直、若造で駆け出しの俺は、そんな呼ばれ方をされると苦笑以外できることはないのだが……まあ、フレンドリーに接してもらえるのは悪いことではない、と考えることにしている。


「おはよう諸君。今日から王都までよろしく頼む」


 護衛の冒険者たち(俺+もう一パーティの六人)が揃ったところで、タイミングよく男爵が現れた。

 その後ろにはアウラお嬢様とセリオ、そして同行する侍女が続いている。


 御者の回してきた馬車と三騎の騎士もやってきて、間もなく出発というところだ。

 しかし一つ気になることがある。


「……男爵様、あの人は徒歩なんですか?」


 あの人というのは、俺がこのノマインの町を訪れる直前に遭遇した賊に対処した一件で、俺を囮にしたうえに殺そうとしたアホ騎士のことだ。


 その後、俺は男爵邸を何度も訪れたにもかかわらず一度も姿を見なかったので、何らかの処罰が下されたのだろうとは思っていたのだが……。


「ああ、そういえば伝えていなかったな。奴は騎士の位を剥奪し、実家に帰すことにしたのだ。現在は騎士見習いの扱いだから、当然、馬に乗ることは許されん」


 詳しく聞くと、あの元アホ騎士はアウラお嬢様のデビュタントで出会った子爵の三男で、役人になれるような学もなく、かといって腕一本で出世できるほどの剣の腕前もないことから、当時、一人の騎士が年齢で引退していたノマイン男爵家に「なんとか頼めないか」と話が来たという。


 しかし、実際に来てみれば、話に聞いていたどころではないボンクラぶりで、上昇志向と貴族意識が強すぎるために先任の騎士にすら従わないわがままを発揮。


 男爵家の騎士たちは、男爵領の魔物討伐などで取り立てられた者ばかりで、当然、元平民だ。

 だから元アホ騎士は、「貴族である俺が筆頭でなければならない」などと言っては仕事をサボったり、他人に押し付けたりしていた。


 近年では美しく成長したアウラお嬢様を狙っていたそうで、事あるごとに近付こうとしては他の騎士たちに阻まれていたそうな。

 お嬢様を落とせば、男爵家の当主になれると考えていたとかなんとか。


 子爵の顔を立てていたノマイン男爵だったが、年端も行かぬ子供を囮にした上に殺そうとしたと聞いては堪忍袋の緒が切れた。

 で、今回の上洛にあわせて、元アホ騎士の実家に突っ返すことにしたそうな。


 一度与えた騎士の位も、そう簡単には剥奪できないらしいし、貴族の仕来りや柵は大変だなあ……。

 まあ、あのときも思ったけど、この末路には「ざまぁ」だな。


 他の騎士たちが馬に乗っているところを、後ろから重い槍を持って徒歩で歩く……と。

 頑張ってね!



 ノマインの町・東門を出た一行は、西よりも整った街道をひたすら東進する。

 牧歌的な丘陵地帯が続き、初夏の爽やかな風もあって実に良い旅日和だ。


 男爵一家の乗る馬車の前方を二人、丘陵側を一人の騎士が固め、後方を冒険者パーティのうち四人が守る。

 斥候役の冒険者一人と俺は更に前方で索敵を担当している。


 で、元アホ騎士はというと……。


「ほら、しゃきしゃき歩け!」


 丘陵側を行く騎士の前で、ヘロヘロになりながら歩いていた。

 止まりそうになる度に、ケツを槍の穂先でつつかれている。

 ものすごく不満そうな顔をしているが、馬車の中から男爵が睨みを効かせているため、文句の一つも言えないようだ。


 ちなみに馬車は意外と速く、徒歩というか小走りでないとついていけない速度だ。

 俺や冒険者たちは無属性の『身体強化』が使えるので全く問題ないが、元アホ騎士は使えないみたいなので相当キツイだろう。


 男爵家の騎士たちは俺が教えるまでもなく『身体強化』が使えていたので、おそらく騎士にとっては基本なんだと思う。

 それが使えない元アホ騎士って一体……。


 そんな光景が四時間ほど続いた後、我々は森の手前にたどり着いた。

 此処から先は森の中を街道が通っているようだ。


「ほら、さっさと竈の用意をしろ!」


 疲れてぶっ倒れていた元アホ騎士が叱責され、ノロノロと身を起こす。

 どうやら周囲の適当な石をいくつも集め、湯を沸かす為の簡易的な竈を作るようだ。


 おそらく、お茶でも淹れるのだろう。


「こっちはこっちで用意しますか」

「そうだね、先生」


 フラフラ移動する元アホ騎士を尻目に、俺たち冒険者は周囲を警戒するチームと休憩準備をするチームに分かれ、それぞれの行動を開始する。


 休憩準備は、斥候をやっていた俺と冒険者パーティの紅一点・セネカ嬢だ。

 斥候らしくピッチリした皮の装備が中々艶めかしい。


 彼女に限らないが、魔法講座を受けた女性は『清掃』の効果でみんな美人になっている。

 肌も髪もツヤツヤだ。


 話によると、最近は綺麗になった女性冒険者と真面目な男性冒険者のラブロマンスが花開くことが多いらしい。

 もともとお互いに好印象だったのが、女性陣の変化で一気に火が着いたとかなんとか。


 いやー、若いって良いねえ。

 なんつって。

 まあ、そんなわけで、女性冒険者は地属性が基本みたいな感じになっているということで……。


「石壁」


 セネカ嬢は、あっさりと地属性の魔法で簡易的な竈を作り上げる。

 これも魔法講座で便利なアレンジの一例として教えたものだが、こうも見事に使いこなされると先生としては嬉しいものだ。


「上手くなりましたねえ」

「えへへ……先生のおかげだよ」


 俺がしみじみとつぶやくと、彼女は照れくさそうにそう言う。

 斥候をやっていたということは魔法が苦手だったということでもあるし、本当に嬉しいのだろうなあ。



 短い休憩を終えた一行は再び移動を開始、そしてまた四時間ほど後に森の中にある野営場所へとたどり着いた。

 まだ日は高いが、森の中ということもあって暗くなるまでに一時間ほどしか残っていない。


 またしても死にかけている元アホ騎士も、槍でつつかれながら野営の準備に追われている。

 今回ばかりは、我々冒険者も一緒に準備に当たった。


 騎士たちはテントを設営し、適当な木の枝の間にタープを張る。

 その間に、俺とセネカ嬢は竈と焚き火、そして夕食の準備だ。

 昼が軽い物しか食べられなかったので、夜は豪勢に行きたい。


 ということで、俺は『空間収納』からどっさりと野菜類を放出。

 さらに、ついさっき仕留めて血抜きをしておいたウサギ二羽を解体する。


 魔法で即席に作った大きな石の桶を水で満たしてセネカ嬢に野菜を洗ってもらい、火にかけた石の鍋で適当に切ったウサギ肉を炒める。


 適度に炒め終えたら火と水の合成魔法で鍋に熱湯を注ぎ、事前に作っておいたコンソメの粉末を投入。

 あとは、セネカ嬢が切ってくれた野菜類を入れて煮込むだけだ。


 大雑把だけどポトフみたいな感じだね。

 幸い、みんな喜んで食べてくれたから一安心だ。

 移動中も贅沢な食事を摂る……これもまた無双と言えるであろう。


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