第十四話 続・初依頼無双
結局、ギルドマスターの熱意と、見物に来た冒険者たちの期待の視線に負けて、冒険者ギルドでの魔法指導も引き受けることになった。
男爵家での指導は午前のみなので、ギルドは午後になる。
最初は薬草類の採取と、これまでに蓄積してきた素材を売りながらつつましく暮らすつもりだったのに、なぜこうなった……。
とりあえず悩んでも仕方がないので、報告も兼ねてゴブリンの集落で得た素材を全部放出してやるか!
「おい、ソーラ! なんだこの量は!」
「それに関しても報告しますよ」
買取カウンターにゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンリーダーの魔石をザザーッと出し、驚くギルドマスターに山中での一件を話す。
俺の故郷から一日、このノマインの町から数日の距離に百を超えるゴブリンの群れがいたということをだ。
「修行に丁度よかったんで殲滅しまして」
「それで、この魔石の数ってわけか……死体は?」
「まとめて燃やしました」
俺の処理に満足したらしく、ギルドマスター・ロゴンは何度も頷いた。
うかつに放置すると、他の魔物や大型肉食動物が集まってくる場合もあるからね。
「ゴブリンの魔石が百で銅貨三百枚、ゴブリンメイジの魔石が二つで大銅貨二枚、ゴブリンリーダーの魔石が一つで銀貨一枚……合計、銀貨四枚と大銅貨二枚です。お確かめください」
「確かに」
俺とギルドマスターが話している間に、受付職員さんが魔石の精算を済ませてくれていた。
環境の良い宿に泊まろうと思うと、銀貨一枚近く必要になるから、そこそこの収入が得られたのはありがたい。
まあ、駆け出しの冒険者が止まるような宿は、高くとも大銅貨二~三枚というところだが。
それでもゴブリン討伐なら十匹は狩らなければならないのだから、楽ではない。
俺の場合は幼い頃から貯めた小動物の毛皮や、フォレストウルフの素材があるからなんとかなるけどね。
「じゃあ、ソーラ。明日から、よろしく頼むぞ」
「わかりました。けど……そんなに魔法を習いたい人がいるんですかね?」
確かに俺の魔法を見た者たちはやる気がありそうだったが、わざわざギルド全体に告知してまで魔法教室みたいなことをする意味があるのかは疑問だった。
だって、魔法が使えなくとも、これまで彼らは冒険者として立派にやってきていたはずなのだから。
「それは、アレを見ればわかるだろう?」
ギルドマスター……もうロゴンでいいか。
ロゴンに言われて彼の指差す方を見ると、野次馬をやっていた者だけでなく、見た感じ駆け出し、あるいは成人にすら達していないだろう子供まで受付に群がっている。
「……登録できない年齢の子供もいるみたいですけど」
「ああ……あいつらは見習いってことで、町の中の依頼だけを請けられるようになっているんだ。そして成人し次第、入門となる。だから余計に、それまでにできることを増やしたいんだろう」
――大体が孤児だしな。
俺の疑問に、ロゴンはそう答えた。
なるほどな……俺も幼い頃から、できるかぎり選択肢を増やそうと努力していた。
それが親の庇護を受けられない孤児であればなおさら、ということなのだろう。
「彼らのための低料金というわけですか……」
魔法教室の受講料は、なんと一回につき銅貨一枚。
ゴブリン一匹の魔石で銅貨三枚だから、その安さが解ろうというものだ。
ちなみにフォレストウルフなどの複数の素材が採れる魔物であれば、魔石は安くても他の素材がそれなりの金額になる。
もちろん、美品かどうかで値段は上下するが。
それから町中での依頼は荷物の運搬や清掃、片付けの手伝いなどが主で、平均すると一回あたり銅貨三枚ほどの報酬だそうだ。
ゴブリン一匹と同じだけど、危険がないのは良いね。
まあ、そんな感じで、駆け出しにも見習いの子供たちにも優しい値段設定なのだ。
問題は、そんな低価格にもかかわらず、俺に対する報酬は一日あたり銀貨一枚であること。
つまり一日に百人以上の受講者がいないと赤字になるのだ。
これはギルド的には、かなり思い切った判断と言える。
……俺に責任重大と感じさせて成果も期待する、ということかもしれないが。
「まあ、できる限りのことはしますよ」
それだけ告げて、俺はギルドをあとにした。
◇
翌朝、朝食を済ませて軽く体を動かした俺は、魔法で身ぎれいにしてから男爵邸を訪れた。
そして一番広い部屋ということで食堂に通されたのだが……。
「ずいぶん多いですね」
「うむ。みなセリオを回復させた魔法使いなら、自分も上手く魔法を使えるようにしてもらえるのではないか、と思ったようでな」
例のアホ騎士を除いて、俺の知る限り男爵家で働く人、全員が詰めかけているようだ。
冒険者ギルドの方もそうだけど、過剰に期待されるとがっかりされそうで怖いんだが……。
「あー……まあ、それでは、それぞれの得意属性から確認していきましょうかね」
ということで、いつも通りの手順で進めていくことにした俺であった。
◇
全十人の男爵家の人々の属性判断に十数分。
そして初魔法行使に二十数分ほど。
だいたい四十分ほどで第一段階を済ませ、第二段階の魔力操作に移った。
ここが上手くできる人は、得意属性以外も習得しやすいというのがこれまでの経験で判っている。
要は『魔力操作』スキルを身につけられれば、属性ごとの特徴的な魔力放出もやりやすくなるというわけだ。
俺が特に苦労せず全属性を覚えられたのには、これも影響していると思われる。
赤ちゃんの時は、日がな一日、魔力を動かしまくってたからねえ。
ちなみに一番やる気であったセリオは、驚いたことに第二段階をあっさりとクリアしてみせた。
もしかすると臥せっていた時に、自然と魔力を操って病状を抑えていたのかもしれない。
というのも、病気で苦しければ、その原因を取り除きたいと強く願うものだし、魔法はなによりイメージが重要なので、その強い願いが、自分でも気づかぬうちに弱い魔法として現れていたとしても不思議はないのだ。
それはさておき、男爵一家の魔力放出傾向を表記しておこう。
ガイス・ノマイン男爵は『メラメラタイプ』で火属性、アウラお嬢様は『カクカクタイプ』で地と光属性、セリオは『なめらかタイプ』で水と闇属性が覚えやすい。
なかでもセリオは、おそらく地属性以外はさほど苦労なく覚えられるだろう。
というのも、俺も『なめらかタイプ』であり、『魔力操作』に長けていたからだ。
まあ、俺が地水火風の四属性を覚えたときは、魔力の放出傾向によって得手不得手があるとは考えていなかったので、さして苦労もしなかったから参考にはならない気もするが。
だが、可能性が高いと判断できる材料と言い切ってしまうことで、生徒たちのやる気を増すことができれば御の字と考えよう。
ポジティブな情報があれば、人は成長しやすくなると思うしね。
何にせよ、あっさりと十人の生徒たちに初歩を越えさせた。
これもまた無双と言えるであろう。