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ひたすら無双するだけの異世界転生物語  作者: スガ シュンジ
第二章 ノマイン男爵領
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第十二話 続・魔法医師無双

「まずは、セリオ様の周囲を風属性の魔法『風結界』で覆い、地属性の魔法『清掃』で部屋中の目に見えない汚れを落とします」


 そう説明しつつ、俺は室内にいる全員の周囲を『風結界』で覆い、『清掃』を発動する。

 すると、天井と言わず壁と言わず、室内全域からごく細かい埃が大量に舞い落ちてきた。


「ええっ!?」

「こ、これはッ……!?」


 驚きの声を上げる使用人と男爵を尻目に、俺は風を操って部屋中の埃を自分の掌に集める。

 徐々に霧が晴れるように埃が払われ、最終的には豆粒ほどの球体にまで圧縮された。


「これが目に見えない汚れです」


 埃の塊を全員に見せたあと窓際に移動した俺は、窓を開けてそれを投げ捨てた。


「目に見えない汚れは毛足の長い布や織物ほど多く付着しますので、寝具やカーテンにはなるべく目の細かい薄手の布などを使うことをおすすめします」


 今現在の室内は、カーテンも絨毯も、そして寝具もふんわりとした毛足の長い製品がメインに使われている。

 まだ春先だから、窓を締め切っていれば少し肌寒いのが理由だろう。


「空気は適度に入れ替えてください。それと冬は空気が乾燥しますので、暖炉に水を入れた鍋をかけるなどして湿気を増やしてください。こうすることで、目に見えない埃などが喉に入ることを、ある程度防止できます」


 霧状にした水を部屋中に、濡れてしまわない程度の量を散布する。

 ここまでは現代ではごく当たり前の環境づくりだろう。

 ということで、ここからはファンタジーな世界ならではの手法に入る。


「先ほど『治療に薬や魔法を使うわけではない』と言いましたが、それらを併用することでより良い環境を作ることが出来ます。まずはこちら、光属性の『殺菌』魔法です」


 魔法を発動し、紫外線を発生させる。

 この魔法は俺のイメージのせいか、ほんのり紫がかった光が発生する。


 実際には、なんの色も見えないはずなんだけどね。

 人間の可視領域の『外』だから紫外線って言うわけだし。

 他の種族には見える者もいるかもしれないけど。


「この光は、洗濯物を太陽の光に当てたら着心地が良くなるのを再現したものです。ですので、外に出なくても日光浴をしたような効果が得られます」


 確か、紫外線は殺菌とビタミンDを体内で生成するのを助けるんだったかな?

 浴び過ぎれば日焼けしちゃうけど、短時間なら体にいいはずだ。


「次に回復魔法ですが、これは明確に必要な場所に、必要な効果を与えることをイメージして使うことで症状への影響が変わります」


 咳が出るということは喉に異物があり、炎症を起こしているということ。

 だから異物を水分で流して排除し、患部を冷やすことをイメージすると伝える。


「以上のことを毎日続けた結果、私の故郷では幼い子供がこの病で亡くなることはなくなりました」


 この小児喘息と思われる病状は、実際に知識を共有することで村内の患者にキッチリ対処できるようになっている。

 これも魔法先生をやっていた恩恵で、みんなが抵抗なく受け入れてくれたのが良かったんだよね。


「それから薬に関してですが、回復ではなく滋養強壮がメインの物を飲むのが良いと思います」


 背嚢から二種類の薬瓶を取り出し、いわゆるスタミナポーションの方を掲げてみせる。

 体力がないと病気に対する抵抗力も弱る、という感じだ。


 ちなみにポーションは瓶も中身も俺が作ったものだ。

 まじない師の婆さまに師事して頑張ったおかげで、どこに出しても恥ずかしくないレベルの物が作れるようになったよ。


 瓶の方は例によって地属性魔法で、そこら辺にある石英とか水晶っぽい石を集めて作った。

 やはり地属性は便利すぎる。


「……セリオ、どうだ?」


 しばし呆然と俺を見つめていた男爵だったが、我に返るとベッドに身を起こしたセリオに問いかけた。


「はい、部屋を綺麗にした効果はわかりませんが……回復魔法をかけていただいたら、すごく呼吸が楽になりました」


 特に無理をしている様子もなく、彼はスラスラと答えた。

 その様子は男爵にも伝わった――これまでの状態を知っているから余計に――らしく、プルプルと震えたあと涙を流し始めた。


「うおおおおお!! セリオおおおおお!!」


 次の瞬間、男爵は息子を抱きしめ、すさまじい声量の絶叫を轟かせた。

 そりゃあもう、室内にいる者が耳を押さえるほどに。


「お父様! セリオに何かあったのですか!?」


 どうやら男爵の声は屋敷中に響いたらしく、しばらくしてアウラお嬢様をはじめとした男爵家の家人すべてがセリオの私室に飛び込んできた。


 みな一様に不安げな顔をしている。

 おそらく、最悪の展開を予想してしまったのだろう。

 だが、セリオが苦笑しながら手を振る様子を見てホッと安堵の息を吐くと、一人また一人と部屋をあとにする。


「それで、いったい何があったのですか?」


 十分ほど後、最終的にアウラお嬢様だけが残り、男爵に事の詳細を尋ねる。

 ようやく落ち着いた男爵は、セリオを離すと俺のしたことを説明した。


 信じられないと言われるかと思ったのだが、アウラお嬢様の反応は納得顔で頷く、であった。

 ……よく考えると賊を片付けた一幕を見ていただろうし、もしかしたら回復魔法に気づいたのも彼女だったのかもしれないな。


 となると、上手く行けばこんな展開になるかもしれないという期待もあったのかも。


「ソーラ様、セリオを診てくださってありがとうございます」

「いえ、お役に立てたようで幸いです」


 至極冷静に礼を言うアウラお嬢様に、俺も無難に返す。


「……厚かましいとお思いになるかもしれませんが、今後もセリオのことをお願いできませんでしょうか?」


 一転、不安げな様子で請うアウラお嬢様。

 これに対する俺の答えは――。


「もちろん、回復するまでお付き合いしますよ」


 これだ。

 お嬢様は俺の答えに嬉しそうに微笑む。

 まあ、一度だけ診て放り出すのは無責任だし、喘息は一度の治療で完治するような病気じゃないからね。


 ということで、今回もまた無双してしまったようだ。

 ここで今回の件はひとまず締めかと思った俺だったが――そこで待ったがかかった。


「あの……ソーラさん。僕に魔法を教えていただけませんか?」


 そう言うのはセリオだった。


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