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異世界から来た女神さまが怪しすぎる!!  作者: 西れらにょむにょむ
異世界から来た壺ちゃんが危なすぎる!!
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異世界から来た壺ちゃんが危なすぎる!!(後編)

 遊歩道は綺麗に整備されていた。道のりの中ほどまで進むと、涼しいどころか時々肌寒いほどの冷気を感じる。そして、せせらぎ。どうやら川が近いらしい。この涼しさをうちのボロアパートへ持ち帰りたい……。


「ところで青チャケ」

「青チャケって呼ぶなっチャケ!」

「それだよ、それ。じゃぁお前のことを何て呼べばいいんだよ」

「青の女王……痛ッ! 痛いっチャケ!」


 俺は青チャケのホッペをつねった。


「嘘ではないのだ。シバ。この世界ではマナが薄いためにそのような……コホン、幼女の姿となっているのだが、我々の世界ではそう呼ばれているのだ」


 ロブラリアがそう言うのなら本当なのだろう。


「ふーん。コレがねぇ」


 俺は青チャケの頭を強めにグリグリと撫でた。

 異世界(よそ)異世界(よそ)現実世界(うち)現実世界(うち)。向こうでは女王だか何だか知らないが、こっちの世界では暑苦しい存在でしかないのだ。


「で、青の女王()とやらには(あるじ)はいないのか?」

「青の女王は独り身。これまで1度も主人を持ったことがないのだ」

「はは。だろうな」

「シバ! いまシレッと侮辱したっチャケ!」


 ふと、壺ちゃんがいないことに気づく。


 振り向くと、壺ちゃんは俺たちの輪から離れて後ろの方で立ち止まっていた。

 無理やり幼女モードに切り替えさせたのをまだ怒っているのだろうか。


「どうした、壺ちゃん」

「この先に川があるでしょ。アタシ、水がたくさんある所は嫌いなのよ」


 そう言えば。海に行くのを嫌がっていたけど川もダメだったか。

 嫌いなものを無理に連れて行くのは流石に可哀想だ。それに、真の名をつかって幼女モードを強制したあとの心地悪さが俺の中にまだ残っていた。


「わかった。先に宿へ帰っていてくれ」


 壺ちゃんはこくりと頷くと元来た道を戻っていった。


 壺ちゃんと別れてすぐに、遊歩道は川へとさしかかった。幅5メートルほどの小さな流れには木造のしっかりとした橋が架かっていた。


 ざぶん!


 青チャケが何のためらいもなく流れに飛び込む。壺ちゃんとは違いコイツは水が大好きなようだ。


 俺たちも橋の脇から水辺へと降りてみた。

 普段見る多摩川下流の広い河原とは違い、大きな岩がゴロゴロと転がっている。流れも速い。水に近づくと気温は一層と低くなった。天然のクーラーだ。


 ロブラリアは軽い身のこなしで岩場を平然と渡り歩いていった。後ろ姿を見ていると、一緒に異世界へいったときのあの岩場を思い出す。


 一方のレナさんは……見るからに足元が怪しい。俺が手を差し出すと深刻な表情をしながら両手でガッシリとしがみついてきた。思わず俺までバランスを崩しそうになる。


 ようやく水場へたどりついて流れに手を入れてみると、水は想像以上に冷たかった。手が痛いほどだ。

 この冷水のなかで楽しそうにバシャバシャと水遊びをしている青チャケが信じられない。さすがは水の妖精、なのだろう。


 岩に腰をおろす。レナさんは薄暗い清流のかたわらに立ち、何か考え事をしていた。やはり、この人には自然の風景がよく似合う。

 みとれていると、彼女はくるりとこちらをふり向き、小走りで近付いてきて顔を近付けた。


「シバさん!」

「は、ハイッ!」

「このお水、瓶に詰めて売られていたとしたら、いくらまでなら出せますか!」

「はい?」


 始まった……。


「おっしゃりたいことはわかっています」

「あの、俺はまだ何も……」

「そのままでは競争力がない、差別化が必要だ。そうおっしゃりたいんですね! もちろん考えています。何かこう、健康に良さそうなもの、例えばイオンとかオゾンとかを混ぜてですね、あ、水素的なものを混ぜると言うのはどうでしょうか…………」


 ――嫌な気配。


 ロブラリアと目が合った。

【勇者崩れ】の気配だ。


 方角は、俺たちが歩いて来た道――これは!

 壺ちゃんが危ない!


 俺は自分のミスに気が付いた。壺ちゃんには「旅から帰るまで魔法は使うな」と、真の名で従わせていたのだ。壺ちゃんはその命令に背けない。

 つまり、壺ちゃんは魔法も使えず、幼女の姿のまま【勇者崩れ】に襲われているのだ。


【勇者崩れ】は必ず壺ちゃんを狙いに来る。それはわかっていた。最初に【勇者崩れ】の襲撃を受けたあの日以来、俺とロブラリアは密かに警戒を続けていたのだ。

 なのに……これは最大の失敗だ。


 壺ちゃんを助けに行かなければ。


 俺は走り出そうとした。

 だが、今度はレナさんがその場にうずくまった。


「……レナさん!?」

「この……この気配は……クッ!」


 レナさんはそう言って苦しそうに呻いた。【勇者崩れ】の気配に苦しめられているのだろうか。


「あぁぁぁぁ!」

「レナ!」


 頭をかかえ、悲鳴をあげてのけぞるレナさんをロブラリアが抱きかかえた。


「この気配は……勇者……シバ……運命の…………神」


 レナさんはうわごとのようにそう言い残すと、ふっと気を失った。

 ロブラリアはいつになく悲しい目でレナさんを強く抱きしめる。


「シバ、ここは任せろ。すぐに次元警察を向かわせる。お前はあいつを救え」

「――頼む!」


 俺は元来た道を、壺ちゃんへ向かって走った。

 走るほどに嫌な気配は強く、肌にまとわりつくほどに、どこまでも強くなっていった。だが走っても走っても奴の実体は見えない。


 息が切れかけたころ。

 まがり道の手前。

 あまりに色濃い気配に俺は思わず速度を落とした。

 胸のペンダントに手を当てる。


 俺は一歩ずつ慎重に進みながら、まがり道を先を覗き込んだ。


 そこに、そいつが立っていた。


 黒い炎をあげて燃え上がる『影』。歪んだシルエット。辛うじて鎧をつけた人間であることがわかった。そして、恨み、苦しみ、憎しみ、無念……押し寄せてくる負の感情。そのあまりのおぞましさに全身に鳥肌が立つ。


【勇者崩れ】の胸を、赤い炎を上げる剣が貫いていた。それが人間であれば、胸をえぐった剣は確実に命を奪っていたに違いない。だが【勇者崩れ】は平然とそこに立っていた。


 この剣は……壺ちゃんが攻撃したのだろうか。だが、壺ちゃんは魔法は使えないはずだ。


 そして、【勇者崩れ】の足元には、赤いドレス、淡い紫色の髪。いつもより、ずっと、ずっと……小さく見える、壺ちゃんが倒れていた。


「ソレジャ! 力を解放しろ!」


 俺は命令をした。

 だが、壺ちゃんは動かなかった。

 俺は怒りに任せて剣を抜いた。



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