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異世界から来た女神さまが怪しすぎる!!  作者: 西れらにょむにょむ
異世界から来た壺ちゃんが危なすぎる!!
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びっちゃびちゃだよ女神さま

「お前は呼んでない」


 温泉旅行当日。【青の妖精】はパンパンに膨らんだデイパックを背負い、緑の虫かごを斜め掛けにして虫取り網を手に持ち、期待の笑みを振りまきながら三森の車の前に立って待っていた。ザ・夏休み。ベタな小学生の姿。目が少しショボショボしているのは昨日、楽しみ過ぎて眠れなかったからに違いない。


「あたしも行くっチャケ! 仲間外れはひどいっチャケ!」

「いつからお前が仲間になった」

「いいじゃないスか、四波さん。車にはまだ乗れますし、青ちゃんも連れていきましょうよ」

「はぁあ! ミツモリはいい男っチャケ! シバは心が狭いっチャケ!」


【青ノ妖精】は三森の足にペタリとくっついた。すっかり三森に懐いてしまっているようだ。コイツを連れて行くと絶対に何かをやらかしそうな予感しかしない。とは言え、女性陣が見守るなか、あまり無下にできない。俺はしぶしぶ折れた。


「仕方ない……。いいか? 壺ちゃんと喧嘩したり水鉄砲を使ったら置いていくからな」

「わかったっチャケ! 約束するっチャケ!」


【青ノ妖精】は目をキラキラさせて答えると車の助手席へサッと駆け込んだ。どうやら一番前の席に座りたくて仕方なかったらしい。よっぽど嬉しいのか、アチコチのスイッチをいじったり窓ガラスに顔をつけたりしてはチャケチャケとはしゃいでいた。


 さて。『青チャケ』はどうでも良いとして、レナさんは……初めて見る私服バージョン!


 ゆったりした白いブラウスに、涼し気なふわりとした青いスカートに、今日は麦わら帽子をかぶっていた。流石に旅行となるといつもの女神スタイルでは何かと困る。そこで、八重樫が置いて行った女性誌を参考に今風の……いや、俺好みの服を魔法で用意してきてもらったのだが、やっぱり綺麗だ。流石は本職の女神!


 ロブラリアの奴はデニムに白シャツ。なんだか、少女漫画に出てくるイケメンみたいなオーラを放っている。女子高でモテる女子の風格。恰好良さがかえって(あだ)となる、残念なオーラに満ちている三森とは対極的だ。で、八重樫はいつもの八重樫。


 ――と、女性陣をチェックしつつも、俺の頭の中は車の中の座席のことでいっぱいだった。なんとしてでもレナさんの隣に陣取らなければ。長い道中、レナさんだってついウトウトしてしまう時が絶対にくるはず。そして、隣の俺の肩にもたれかかり、眠りに落ちる彼女。甘い香りのブロンドの髪が俺の頬をくすぐる。『あ、ごめんなさい。私ついウトウトしてしまって』『少し疲れているのでしょう。レナさん、せめて今だけでもゆっくり休んでください。しがない俺の肩でよければ、このまま、いつまででも』『シバさん……』『レナさん……』見つめ合う二人。


 なんて妄想をしていたら壺ちゃんが俺の手を引いて車に乗り込み、最後部の座席に座らせた。自分はその隣にちょこんと座る。前の列に八重樫。その前の列にレナさんとロブラリアが並んで座る……壺ちゃん!!


§§§


 出発30分後まで、全開でチャケチャケとはしゃいでいた『青チャケ』がピタリと静かになった。今度は助手席から寝息が聞こえてくる。まったく、マナが少ないと幼児化する体質……とは言え、これが【四大妖精】の1人なのだろうか。まぁ、その点は壺ちゃんも似たようなものだが。


 その壺ちゃんは温泉を楽しみにしていたものの、仲が悪いロブラリアと何かと突っかかってくる【青ノ妖精】の参入でちょっとご機嫌斜めの様子だった。さっきから女性陣の会話に混じるでもなく、つまらなそうに窓の外を流れる景色を眺めていた。

 何気なく頭を撫でてあげると、『んーん』と伸びをしてから俺の腿の上に上体をあずけてきた。目で『撫で撫で』を催促する。大きなネコみたいだ。


 プシュッ!


 缶チューハイを開ける音がした。八重樫は出発と同時に飲み始め、酔いが回るにつれハイテンションになっていた。そう言えば、八重樫のやつ、最近ちょっと酒に強くなってきている気がする。何か嫌なことでもあって酒ばかり飲んでいるのだろうか……。


「あー、壺ちゃん、四波君に膝枕してもらってるー」


 ほろ酔いの八重樫がシート越しに壺ちゃんに絡んだ。


「勘違いしないで。アタシは膝枕を『させてあげている』のよ」

「あはははは!」

「それより八重樫。お腹が空いたわ。何かちょうだい」

「へへー、ちゃーんと用意してきたのよぉ」


 八重樫はバッグから取り出したバナナを壺ちゃんに手渡した。


「……これは、何?」

「「壺ちゃん、バナナを知らないの!?」」


 俺と八重樫の声が揃った。こちらの世界の食べ物や味付けは異世界でも通用するらしい。壺ちゃんはいつも俺と同じものを食べているし、レナさんも八重樫の手料理を褒めていた。だからか、いつの間にかバナナぐらいは異世界にもあるのだろう、ぐらいの感覚が染みついていたのだが。


「あれ? でも、アメリカにもバナナぐらいあるよね……?」


 八重樫が怪訝な顔をした。


「あ、あるわよ、アメリカにだって、バナナぐらい。当たり前じゃない。向こうのバナナはもっと赤くてトゲトゲしてるから……むぐぅ!」


 誤魔化そうとして余計なことを喋り始めた壺ちゃんの口に、むいたバナナを慌てて突っ込んだ。


「ぷはっ!」


 壺ちゃんがむせて吹き出したバナナが宙を舞う。


「ふあぁ……どうしたっチャケか?」


 目覚めた【青の妖精】があくびをしながら後ろの様子をうかがう。

 その口の中にバナナがスポンと……。


 壺ちゃんの顔から血の気がスッと引いた。


「はむっ……モグモグ……」

「……」

「……ごくり」

「……」

「……うわああああぁああ! 口移しっチャケぇ!!」


 車内で壺ちゃんと【青ノ妖精】の取っ組み合いが始まる。

【青ノ妖精】が水鉄砲を撃ちまくった。

 予想どおりだ。


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