検索中だよ女神さま
結局、1泊2日の温泉旅行へ行くことは決まったものの、宿や日程は決まられないまま、詳細は来週へ持ち越しとなった。
レナさんと八重樫が帰り、食器も洗い終え、少し涼しくなりはじめた夕方のこと。
「壺ちゃん、買い出しに行くけど。明日のおやつは『メガ小豆モナカ』でいいか?」
「……あと『午後の昆布茶』も」
壺ちゃんはパソコンのキーボードをカタカタ、マウスをチクチクと操作しながらそう答えた。
温泉旅行についていろいろと検索しているらしい。
「ずいぶん乗り気じゃないか。いつもは外に出たがらないのに」
「別に。アタシは引きこもりじゃないし」
壺ちゃんはパソコンから目をそらさずにそう答えた。
ほう。てっきり引きこもりと言うか、壺こもりと言うか、狭いところが好きなだけかと思っていた。
「こんな片田舎の世界じゃ外に出ても面白いことなんかないから部屋にいるだけよ」
「そうだったのか? 賑やかなところが好きなら街に連れてってあげるぞ。新宿とか渋谷とか……」
俺がそう言うと壺ちゃんはパサッと髪をかきあげ、ちょっと澄ました顔をしてこう言った。
「アタシが言ってるのはマナのことよ。魔法の源のマナ。ここの世界はマナが薄い。アタシはそのことを『田舎』って言ってるのよ」
「……あ、そっか」
俺は妖精さんの体質を思い出した。
妖精の存在は魔法の源であるマナに依存している。マナが存在しない所では妖精の力は弱まる。
最強クラスを誇る危なすぎる妖精、【赤ノ妖精】である壺ちゃんでさえ、勇者も魔王も魔法も存在出来ないほどマナが薄いこの世界では非力な幼女の姿を保つのがやっと、なのだ。
「文明のレベルとか、人間が多いか少ないか、なんてこと、アタシは興味がないの。マナが薄いところはアタシたちにとって電波も届かない田舎みたいなものなのよ」
「なるほどね……」
確かに。いちど壺ちゃんの魔法の破壊力を見てしまえば文明を軽んじる気持ちもわかる。
『トウキョウ・ツリー』がどれだけ高くても、スクランブル交差点にどれだけ人が居ようとも、『壺ビーム』一発でおしまいなのだから、【赤ノ妖精】から見れば、この世界の都会など砂の城に蟻が群がってるぐらいにしか感じないのかもしれない。
だが、どうやらそう言う力を持つと言うことには、ある種の寂しさが伴うようだ。俺は、壺ちゃんの振る舞いや、何だかんだとこの『田舎』に留まり続けていることから、そう感じた。
まあ、どちらにしろ、たまには外の空気でも吸った方が良いだろうし、壺ちゃんと一緒に散歩をしたい気分になった。
「ソレジャ、一緒においで」
俺は壺ちゃんの真の名前を呼んだ。
これで壺ちゃんは逆らえない。
「はいはい。行けばいいんでしょ」
面倒くさいふりをしながらも、壺ちゃんはちょっと嬉しそうだった。




