どこにしようか女神さま
降り注ぐ夏の太陽。暖かな潮風。白い砂浜。
ちょっと大胆な、レナさんの水着。
童心に帰りひとしきり遊んだあと、俺たちは焼けた肌を並べ、沈む夕日を眺め語り合う。時が過ぎるのを忘れ、いつしか満天の星がきらめき、偶然触れあう手と手。
そして二人は……。
「……やっぱ海だよな」
「イヤよ。絶対にイヤ」
壺ちゃんが秒で拒否った。
俺の妄想の中ではあんなに嬉しそうにスイカ割りをしていたのに。
どうした壺ちゃん。
「壺ちゃん、海はだめなのか?」
「ダメよ。海は」
「じゃぁ、仕方ないですねぇ。海はあきらめましょう」
くそう、俺の夢が遠のく。
だが、俺にはとっておきの必殺技があるのだ。
壺ちゃんの真の名、『ソレジャ』を使えば俺の言うことには逆らえまい。
壺ちゃんを強制的に説き伏せ、レナさんと海に沈む夕日を眺めるのだ!
と、俺がやりそうなことを察したのか、壺ちゃんはスクッと立ち上がるとスタタと歩いてレナさんの膝の上にちょこんと座った。
そしてニヤリと笑う。
(いまその名前で呼んだら、あのこと、バレるわよ)
壺ちゃんの目がそう言っている。
くうぅ。
「なんで海はだめなんだ? 泳げないなら教えてあげるぞ」
「水がたくさんあるところがキライなの」
「お風呂は好きじゃないか」
「お湯は大丈夫」
うーん、なるほど。【赤ノ妖精】=炎属性=水が苦手、みたいなものなのか。
壺ちゃんがいなければレナさんと二人きりになれるチャンスも増えるのだが、流石に置いていく訳にもいかない。
海はあきらめるか……。
すると、八重樫がバッグから女性誌を取り出して広げた。
「じゃ、温泉にしない? ちょうど雑誌で特集してたのよー」
「温泉?」
『夏こそ温泉! 今からでも間に合う秘湯☆厳選30選!』
30選て……本当に厳選してるのだろうか。
「いいですね、温泉!」
おや、意外とレナさんが乗り気だ。
お風呂好きな壺ちゃんもちょっと興味を示している。
確かに、海がダメだとすると山。でも、キャンプやバーベキューは道具を持っていないし敷居がたかい。
ちょっと季節外れな気もするけれど、雑誌で特集されているぐらいなのだし温泉は意外といいかもしれない。
……だが、何かが引っかかる。
そして俺の引っかかりなど気にもせず、雑誌に群がり盛り上がる女性陣。
「バスは疲れそう。やっぱり電車よねぇ」
八重樫の一言で気が付いた。
八重樫が参加すると言うことは次元の扉ほ使えない。
交通費とか、宿泊費とかをレナさんと壺ちゃんが出すとは思えない。行くとなれば多分、俺の負担。
てゆうか、ポイントカードの特典の話はどこにいった!




