闇営業だよ女神さま
俺たちは地上の敵を一掃し、地下通路へと潜り込んだ。
壺ちゃんの情報によればこの辺にレナさんがいる筈だ。
「天界流秘剣。蹂躙斬!」
ロブラリアの容赦ない攻撃で巨大な兵士が次々とミンチになって行く。
「ロブラリア! 手分けしてレナさんを探そう!」
そのとき、嫌な気配。
『見えない盾』を張ったが間に合わず、吹き飛ばされた。
広い地下通路の壁に叩き付けられる。
体がバラバラになったのではないかと言うほどの衝撃。
息が出来ない。
「ぐるるるる……」
敵は直立した犬のような外見をしていた。
身長は2メートル前後。今まで相手をしてきた兵士と比べれば小ぶりだ。
だが、コイツは強い!
てゆうか、コイツは……ヤバい!!
獣のような兵士の頭には『レナたん命』と書かれた蛍光ピンクのハチマキが巻かれていた。
そうかぁ……。
何か変だと思ったけど、レナさん、今日は『セドリーズ』に商談に来てたんじゃなくてアレかぁ、地下女神の営業に来てたのかぁ……。
そう言えば、八重樫が持ってきた女性誌の『闇営業が金になる』とかいう記事をメチャクチャ熱心に読んでたもんなぁ……。
ごめんな、レナさん。
レナさんが頑張って増やした信者、俺と壺ちゃんとロブラリアが根絶やしにしようとしているよ……。
獣兵士の強烈なパンチ。
辛うじて剣で受けた。
反撃をイメージする。
想像と同時に剣が舞う。
だが、そこに奴の姿はない。
なんてスピードだ。
二度、三度と残像を斬る。
ロブラリアの助太刀。
だが、ロブラリアの剣さえも空を斬り、彼女はそのまま投げ飛ばされた。
派手に壁に叩き付けられ、起き上がらない。
「ロブラリア!」
俺は頭の中を獣兵士を切り刻むイメージで満たした。
猛攻の末、やっと剣が奴の腕を捕らえたが、浅い。
奴の反撃がバッグに当たる。
頼みの綱の【深海魚脂 ハイパーV】のガラス瓶がバリバリと割れる音と感触。
奴はそのまま、鋭い爪でバッグを奪い、地面に叩き付け、足で踏みにじった。
残りのドリンクは……ポケットに入れておいた一本だけだ。
俺は剣越しに獣兵士を睨んだ。
怨みはない。
だが、ここで倒れる訳には行かない。
天井から床まで一直線に、奴を両断するイメージ。
空振り――。
だが俺は、奴が避けるであろう軌跡に『見えない盾』を仕掛けていた。
盾にぶつかり動きが止まった一瞬を狙い、剣が風のように舞う。
獣兵士の断末魔が、地下通路に響いた。
§§§
俺はうずくまるロブラリアのもとへ駆け寄り、彼女を抱き起こした。
俺の疲労もそろそろ限界だが、ロブラリアのダメージも深い。
「……人間」
俺は最後のドリンクを開封して、一口飲んだ。
そして、腕の中でぐったりしているロブラリアの口へ小瓶をつけ、残りを注ぎ込む。
「……!」
「大丈夫か、ロブラ……!」
ガシッ!
グーで殴られた。
「き、貴様! ど、ど、ドサクサに紛れてなんと言う破廉恥なことを!」
「え? え? ちょっと待て、触ったりなんかしてないぞ!」
「バカ者! 触るとか言うな! ヘンタイ壺マニア! 壺じゃない! 瓶! その瓶だ!」
「瓶!?」
「貴様、先にそれに口を付けただろ!」
…………………………この局面で何を気にしてるんだこの子は。
「なんだよ。間接キスなんか気にしてる場合じゃ……」
「軽々しく言うな! め、女神にとって……それは……大切なものなのだ……」
「いいじゃんか、間接キスなんだし。直接キスした訳でもあるまいし、間接キスなんて……」
「キスキス言うな!」
そう言うと、今度はロブラリアらしくない口ごもった口調でこう続けた。
「せ、責任……責任は取ってもらうからな……」
「はぁああ!? 責任!? 何の責任をどう取れってんだよ。いいか? こんなものはだなぁ……」
俺はそう言って瓶の口をベロベロと舐めて見せた。
ロブラリアがのそりと立ち上がり、ゆらりと剣を構える。
「……天界流秘剣」
「わ! バカ! よせ!!」
敵が消えた閑散とした通路で、俺とロブラリアの追いかけっこが始まった。




