人気者だよ女神さま
『セドリーズ』の兵士たちは地球上の生き物の体のパーツを適当に組み合わせたような、個性的な外見をしていた。
個体差はあるものの、身長はみな2メートルを越え、中には3メートルはあろうかという巨大なものもいた。
そして、その腕や触手にはそれぞれ……何と分類すれば良いのか、丸太に折れた剣や斧や鎖などを適当にくくりつけた、粗雑だが『とりあえず当たったらヤバそう』な凶器が握られている。
そんな奴らが、月に照らされた円形の広場――先ほど『壺ビーム(俺命名)』でごっそりと削り取られた城の跡地――に何十匹もひしめいていた。
ロブラリアはその混沌の中を華麗に、一直線に斬り進んでゆく。
彼女の軍刀は、巨体の敵を相手にするには見るからに短かく、非力だ。
だが、そのひと振りひと突きは流れるようにつぎつぎと、そして確実に敵の急所をとらえ、獲物はまるでスイッチを切られたように絶命していった。
まるでドミノ倒しのように、彼女が駆け抜けた軌跡に異形の兵士の骸が列を成す。
壺ちゃんに圧されていたときは少し頼りなく見えたが、決してロブラリアが弱いのではなく壺ちゃんが強すぎるのだと、ひしひしと感じた。
――嫌な気配。
俺は振り向きざまに『見えない盾』を発動させた。
半球型の、目には見えない盾がバリアのように俺を包む。
盾はこちらに向けて放たれた無数の矢を弾き飛ばした。
弾かれた矢がバタバタとその場に落ちる。
俺がレナさんからボーナス一括払い3万円で買ったこのペンダント……いや、この剣は、イメージしたとおりに斬る力だけでなく、『見えない盾』で敵の攻撃を防ぐ力も備えていた。
それだけではない。
俺は瓦礫の山へと跳躍し、弓を構え直す間も与えずに敵を次々と両断していった。
この、イメージしたとおりに動ける運動能力も、剣が俺に与えてくれたものだ。
イメージするだけで、全自動で敵を倒し、身を防げる。
凄い武器だ。
「使いこなしているではないか、人間」
「はぁ……はぁ……ちょっと、疲れるけどね」
軽い運動ぐらいにしか感じないのだが、それでも体力は消耗し、疲労は蓄積されていった。
デスクワークで鈍った体にはこたえる。
俺はバッグから【深海魚脂 ハイパーV】を2本取り出し、1本を飲み干した。
気力も体力も完全にリセットされ、力がみなぎってくる。
もう1本はいつでも飲めるようにポケットに入れておく。
「……てゆーか、そろそろ『人間』はやめてくれよ、ロブラリア」
「フッ。無事レナを救い出せたら、考えてやろう」
ロブラリアは少しだけ口元を緩めた。
そのとき、地面が不気味な音を立てて揺れた。
瓦礫の山の一角が崩れ、土煙を上げると、中からはひときわ巨大な怪物が現れた。
そいつの姿は他の兵士より人間に似ているものの、身長は4メートル以上もあり、肩からは6本の腕が伸び、顔の真ん中には大きな目が1つ、口は耳元まで裂けていた。
「ぐおおおー!」
一つ目の巨人は吼えた。
「ぐおお! レナたんは! オレがまもる……!」
「てえーーーぃ!!」
巨人がそれ以上余計なことを言う前に、俺は一刀両断、問答無用で奴を斬り捨てた。
くうう。
これで『レナさんが囚われの身だ』というのはロブラリアの勘違いであることが確定した。
むしろ、『セドリーズ』の面々は正体不明の侵入者からレナさんを守ろうとさえしているのだ。
だが……どう考えても今更『ごめん、勘違いだった』と言って済む状況ではない。
手を緩めれば俺たちは確実にやられる。
「……人間。そいつ今……何かを言いかけなかったか?」
冷や汗がぶわーっと吹き出した。
ヤバイ、聞こえたか。
なんとか誤魔化さなければ!
「おぉーっとぉ! こいつぅー、『レナさんを……ま、ま……丸飲みにするー』とか言いやがってぇ! このやろぉー、このやろぉー……」
「……」
通れ!
「……」
「……」
「おのれ。犯罪者どもめ! レナに手を出すことはこの私が絶対に許さん!」
通った!
瓦礫の山に仁王立ちし、群がる異形の兵士達にそう言い放つロブラリアの姿は、凛々しく、美しかった。
そこからの彼女は強かった。
強さに磨きがかかった。
正に鬼神のような強さで、敵をバッサバッサと一掃していった。
その様子を横目で見ながら、俺は罪悪感でキリキリと痛むお腹をさすっていた。




