助けにいくよ!女神さま
「ひゅわぁ……」
丸く削り取られた城を前に、まさに開いた口がふさがらなかった。
支えを失った城壁が、ボロボロと崩れ落ち、轟音と共に砂埃を噴き上げる。
いやいや! これ! 地下にいるレナさんも絶対にヤバいって!
すると、瓦礫の山の一角を突き破って何かが空中へと飛び出した。
それは、一匹の竜。
満月を背景に、青白いオーラをまとった、巨大な黒い竜が4枚の羽を広げ、怒りに満ちた怒号を発した。
あいつがボスか!
「あれが闇取引組織『セドリーズ』の親玉、セドーラだ」
「せ、せどり!?」
あれ?
あれれ?
四つ羽のドラゴンの迫力以上に、俺はロブラリアの声に固まった。
レナさんから買ったバッグの中の【深海魚脂 ハイパーV】…………確か、そんな名前の店で買ったものを転売してるって聞いていたような気がしてならない。
いや、間違いない。
絶対にそう言っていた。
『セドリーズ』と言う安売りの店で50円で買ったと言うスタドリを、『300円です』と言って差し出すレナさんの爽やかな笑顔を、俺が忘れるわけがない。しっかりとこの目に焼き付いている。
これって……まさか。
『囚われてる』と言うのはロブラリアの早とちりで、レナさんは商談に来てただけ、ってオチじゃないよな!?
だだだっと冷や汗が出た。
ヤバいヤバい!
悪人とは言え、勘違いで異世界の人たちを蒸発させちゃったよ!
俺は、今は綺麗な更地になっている『あの異形の人たち』が立っていた場所に目をやった。
さきほどとは別の理由で胃がキュッと痛み、思わず吐きそうになる。
「どうした? 人間」
「いやいやいやいや! 何でもない!」
ロブラリアには絶対に言えない。
それに、まだ『そう』と決まった訳ではない。
まだ希望はある!
相手は怪物たちなのだ!
レナさんが本当に危ないことになってるかも知れないのだ!
いや、むしろそうなっていてくれ!
頼む!
などと考えていると、俺が臆していると思ったのか、ロブラリアは『やれやれ』とでも言いたげな顔をして、『ふっ』と笑った。
そして――。
「私は行くぞ、無理はするな!」
そう言うと、瓦礫と化した城へ向かって走り始めた。
空を見上げると、黒い竜とソレジャが戦っている。
いや、あれは素人目に見ても……戦っていると言うよりもソレジャが一方的に黒い竜をいたぶっているようにしか見えない。
4枚あった黒い竜の羽の一枚が引きちぎられて、ソレジャの手の中で弄ばれ……あっ、燃やされて消し炭になった。
何だか色々と悪夢のようだ。
俺は城へと走るロブラリアの背へ視線を戻した。
改めて、目の前の風景を一望する。
異世界。
俺が住む世界とは違い過ぎる。
だが同時に、なにか奇妙な懐かしさを感じる。
さっきから時々沸き上がる、このデジャヴのような感覚は……なんなのだろうか。
俺は手の中の剣の感触を確かめた。
そして、今まで身を隠していた岩に向かい『切れろ』と念じる。
同時に、俺の腕が動く。
巨大な岩が斜め一直線に切断され、地響きを立てながらその場に崩れた。
とにかく、今はレナさんを『救い出す』しかない!
細かい話はそれからだ!
俺はロブラリアの後を追った。




