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異世界から来た女神さまが怪しすぎる!!  作者: 西れらにょむにょむ
異世界から来た女神さまが怪しすぎる!!
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ぶん殴られたよ女神さま

四波(しば)先輩!」


 昼休みの閑散とした事務所。

 自分で作ってきた弁当を食べていたら後ろから声をかけられた。

 振り向かなくても誰だか一発でわかる。


 八重樫(やえがし)木綿子(ゆうこ)だ。


「いいかげん『センパイ』はやめろよ、八重樫」

「だって、先に会社に入ったのは四波君なんだからセンパイでしょ」

「いま『四波君』って言った」

「ん? 本当? まぁ、いいじゃん。元同級生なんだし」

「お前、言ってることがバラバラだよ」


 八重樫は会社の後輩であると同時に高校時代の同級生でもある。


 あの頃から変わらない、カールしたショートヘア。

 けど、今はどことなくお洒落に見える。


 ネコっぽい丸顔は美人と言うよりも可愛い系なのだろうか。友達が『学校で美人コンクールをやったら上から5番目ぐらい』と言っていたが、まぁ、そんなところなのかもしれない。


 中肉中背だが、見るからにスポーツが得意そうな体つきをしている。実際、スポーツであれば何をやらせても女子の中では5本の指に入る程の実力の持ち主だった。


 そして、『脳筋元気娘』的なドジっ子キャラとは裏腹に成績はトップクラス。テストの成績は常に学年5位付近をキープしていた。


 そんな、『何をやってもだいたいトップ5に入る女』八重樫と俺は、高校2年と3年の2年間を同じクラスで過ごした。


 どう言うわけかその2年間のあいだ、八重樫とは同じ委員や係になり続け、選択授業や修学旅行の班まで一緒だった。

 当時の俺は人嫌いではないものの、そこまで社交的ではなかった。だが、八重樫はやたらと俺に話しかけ、常にそばに居たせいもあって、いつの間にかよく話すようになてった。


 その後、卒業と共に俺たちは自然と音信不通となった。高卒で働き始めた俺とは違い、八重樫は立派な大学へ進学した。同窓会も何度かあったようだが、俺は仕事が忙しくてそれどころではなかった。


 そんな八重樫が大学卒業後にうちの会社に就職してきたときはびっくりした。


 何しろ当時の八重樫は機械いじりだけは大の苦手。パソコンに至ってはプログラミングどころかアプリの操作さえも怪しかったのだ。


 何度もわざわざ校舎裏へ呼び出されては『あの機能が動かないから』『このソフトを使いたいから』と相談され、そのたびに八重樫の部屋へと連れていかれ、パソコンの設定をやらされたものだ。


 おかげで八重樫のお母さんともすっかり仲が良くなったし、何度も晩ごはんを御馳走になったりもした。パソコンの設定をしたお礼がいつも、不格好な手作りのお菓子だったことも、今となってはいい思い出だ。


 ん? なんだか、夢の実現に向けて必死にプログラミングとSNSばかりやっていた俺の高校時代……だった筈なのだが、こうして考えると八重樫との思い出ばかりが甦る。

 今になって初めて気が付いた。


 まぁ、どうでもいいや。


 何が八重樫をプログラミングに目覚めさせたのかは知らないが、かなりの努力を重ねているのは入社後すぐにわかった。だがそれでも、うちの会社では即戦力にはならない。


「そう言えば、あとでメールしようと思ってたんだけど八重樫がこの前言っていた電源制御まわり、パワー系のイベントを過信し過ぎると痛い目に合うぞ。あれ、重い環境だと抜けることがあるから」

「え、マジ!? イベントこないとか何も出来ないじゃん。どうすればいいの? 教えて教えて!」


 八重樫は隣の席の椅子を引っ張ってくると、今すぐ教わる気満々で俺の隣に座った。たく、休み時間だと言うのに。

 やっぱり、コイツのマイペースでぐいぐい来る所は高校のときと少しも変わっていない。


 俺は仕方なく食べかけの弁当を横にずらし、前に作ったソースを見せるためにマシンをレジュームさせた。


 ……が、八重樫が近い。

 近いどころか肩をべったりとくっつけて来る。

 香水のいい匂いが淡くただよってきた。

 いつもの八重樫とちょっと違う、ちょっと大人っぽい匂いだ。


「お前、ちょっと近いよ」

「あは、はははー」

「あと、香水付けてるのか?」

「わはぁ! 気付いた! ねぇ、どう? どう?」

「んー。大人っぽくていんじゃね」


 そう言われたのがよほど嬉しいのか、顔はニヤニヤ、体はくねくねとさせて喜んでる。


「おー、四波君、今日も豚コマ弁当すかぁ。タッパーに白米と炒めた豚コマ。シンプルですなぁ。緑が足りません、赤も足りません。ちゃんと野菜も食べなきゃだめすよぉ。はははー」

「時々野菜ジュースも飲んでるから大丈夫だよ。てか、お前、顔が赤いぞ?」

「ははは、大丈夫。大丈夫っす。ちょっと暑いかなって……」


 そうだ、『顔が赤い』で思い出した。


「ところで八重樫。お前を年ごろの女と見込んで相談がある」


 そう切り出すと、八重樫が椅子から飛び上がりそうになるほど『ビクッ』とした。そして――。


「待ってッ! 心の準備が!」


 ――と言ってわちゃわちゃと手を動かし、あたふたした。

 なんだコイツは。


「いや、やっぱ聞く! 今すぐ聞く!」


 今度はそう言うと、椅子の上に正座をした。

 いや、そこまでかしこまらなくても……。


 まぁ、昔からこう言う所があるからいまさら驚きはしないけど、社会人になったのだからもう少し落ち着いて欲しい。先輩としては。

 俺は咳払いをして仕切りなおした。


「えー、男がいて、女がいる」

「はい」

「仮にだよ……お互いにちょっと気がある」

「はい! はい! はい!」


 八重樫は首を縦にぶんぶんと振った。


「……で、ちょっとしたハプニングがあって、女が、男に抱き付いたとする」

「はい?」

「それで、女はめっちゃ照れてるってゆーかぁ、ちょっと喜んでるようにも見えたんだよぉ。まあ、実はその前にもいい感じの空気はあったんだけど邪魔が入ってさ。あ、仮の話だからな」

「……」

「それで、もし女の立場だったら、次に会う時どう接してほしい?」

「……なぐる」

「え?」

「殴らせろぉ!」


 八重樫は俺の頬をぶん殴るとダッシュで逃げて行った。


『四波が八重樫にセクハラをした』と言う噂がアッと言う間に社内に広まり、午後、俺と八重樫は部長に呼び出された。

 八重樫の平謝りで誤解はすぐに解けた。


 家に帰ると、まだ腫れている頬をゆびさして、壺ちゃんが大笑いした。


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