5話
次の日。
優衣が目を覚ますと布団の中だった。
優衣は何故自分が布団の中にいるのか不思議だったがとりあえず布団を畳んで部屋を出た。
階段を下りて台所に顔を出すとテーブルに座って新聞を呼んでいる英雄と立って朝食の準備をしている栄美の姿が見えた。
優衣は台所に入って二人に声をかけた。
「おはようございます」
「おはよう、優衣ちゃん」
「あら、おはよう。早いわね」
二人に言われて優衣が時計を確認すると7時を回ったところだ。
それほど早い時間ではないと思っている優衣に栄美が声をかける。
「うちのバカ息子なんてギリギリにしか起きてこないんだから。まったく少しは優衣ちゃんを見習って欲しいものだわ」
「まぁまぁ。母さんも落ち着きなさい。さて、僕は仕事に行ってくるかな」
「あ、いってらっしゃい」
「行ってきます」
英雄の姿を見送って栄美と優衣は朝食を取った。
朝食を取りながら優衣は朝不思議に思ったことを思い出し栄美に聞いてみた。
「あの…」
「どうかした?」
「昨日私布団で寝てないと思うんですけど…」
「机を枕にして寝てたわね」
「でも朝起きたら布団で寝てたんですけどもしかして運んでもらいました?」
「ええ。衛がね」
「え!?」
「衛が気づいたのよ。風呂に行くときにドアから優衣ちゃんが寝てるのにね。それで私を呼んで後は任せようとしたんだけどねぇ。優衣ちゃんを抱きかかえる力がないから衛に抱きかけてもらったの」
「そ、そうですか…」
優衣はそれからは何も喋らず朝食を食べることに専念した。
優衣は朝食を取り終わると学校へ向かう準備を始めた。
7時40分には学校に行く準備を終えて部屋を出ると丁度起きたのか衛が部屋から出てきた。
優衣の制服姿を見て衛は少し驚いた顔をした。
優衣はそれを不思議に思いながら衛に声をかけた。
「おはようございます」
「おはよう」
「どうかしました?」
「ん?」
「今驚きませんでした?」
「あぁ、えらい早いなぁって思って」
「え?でもここから学校って30分ぐらいかかりますよね?」
「いざとなれば自転車で通ってるから。もう行くのか?」
「はい。もう準備も終わってるので」
「ふぅ~ん。あ、そういえば道は分かるのか?」
「大丈夫です。ほとんど一本道なんで…。あの~」
「ん?」
「昨日はありがとうございました。布団に運んでもらったみたいで…」
「あ~、風邪引かれたら困るし。でも、悪かったな。寝てるからって普通に抱きかかえちまった」
「あ、いえ。私が寝ちゃったのがいけないんです」
「起こせばよかったかなとも思うんだけど気持ちよさそうに寝てるから起こすのをためらったんだよ。ま、次からはちゃんと布団で寝てくれ」
「はい」
二人は話をしながら階段を降りた。
優衣が玄関に座って靴を履いてるのを衛は立ってみている。
靴を履き終わった優衣は衛に向きなおった。
「じゃあ、先に行きますね」
「あぁ。車に気をつけてな」
「…子供じゃないんですけど」
「まぁまぁ気にすんな。んじゃ、学校でな」
優衣の抗議にも衛は特に気にした様も無くそのまま台所のほうに向かっていく。
優衣が玄関のドアを閉める音を耳にしながら衛は台所の椅子に座った。
「母さん、飯」
「あんたも優衣ちゃんを見習って早く起きなさいよ」
「努力はする」
栄美は息子の言葉に一つため息をついてテーブルの上に朝食を置いた。
衛はそれを口にしながらふと近くに置かれているものを見て口を開いた。
「あれ?母さん」
「何よ」
「父さんに弁当渡した?」
「ちゃんと渡したわよ」
「んじゃ、なんでここに弁当がもう一個あるわけ?」
「え?あ~!優衣ちゃんに弁当があるって伝えるの忘れてた!」
「あらら~。ま、どんまい」
朝食を取り終えた衛は自分の弁当だけ持って自分の部屋に向かおうとした。
が、栄美に呼び止められた。
「ちょっと待ちなさい」
「…やだ」
「まだ何も言ってないでしょ」
「どうせ持っていけとかいうんだろ」
「違うわよ。持っていかなくてもいいわよって言いたかったのよ。でも、あんたが『やだ』って言うから持って行ってくれるんでしょ」
「んじゃ、言い直すわ。いいよ」
「あら?なら私も言い直そうかしら」
「…分かったよ。渡せばいいんだろ」
「さすが私の息子」
「よく言うぜ…」
衛は結局自分の弁当と優衣の弁当二つを持って自分の部屋に戻った。
忘れないうちに二つの弁当をカバンに入れ制服に腕を通す。
時間を見ると8時を回ったところだ。
これなら自転車を使う必要もないだろう。
衛はカバンを持って玄関に向かい、靴を履く。
「いってきます」
「いってらっしゃい。弁当しっかりと優衣ちゃんに渡してよ」
「分かってるって。…あ、あいつの苗字って何?」
「あぁ、伊藤よ」
「伊藤ね。了解。んじゃ、行ってくる」
衛はカバンを肩にかけて玄関を後にした。