4話
数十分後、衛の父親の英雄も交えて優衣達は夕食をとっていた。
英雄は食事を始める前に優衣に謝ってきた。
「ごめんね。力に慣れなくて」
最初優衣は英雄が何で謝ってきたのか分からなかった。
英雄の話を聞くうちに、優衣がまだ亜由美のお腹の中にいる時のことのようだ。
亜由美が優衣を妊娠したときに英雄は亜由美の味方になれなかったことを悔やんでいた。
だが、まだ生まれてないときのことを謝られても正直何といえばいいか分からない。
それを英雄に伝えると英雄は苦笑いを浮かべた。
「それはそうだね。これから何かあったらすぐに言って構わないから。僕達は親戚なんだから」
「…はい!」
それから夕食を取り、優衣は自分の部屋に戻った。
カバンからノートを取りだして宿題に取り掛かる。
宿題を始めて数分後、英語の単語の意味が分からなかった。
辞書は学校においているのでこれ以上進めようがない。
が、ふと優衣は思い立って立ち上がり衛の部屋の前まで足を進める。
数度深呼吸をして優衣は衛のドアをノックする。
「誰?」
「優衣です」
「開いてるから入ってきていいよ」
衛が了承したので優衣はドアをあける。
衛はベッドによりかかってゲームのコントローラを手にとっていた。
ゲームを中断して衛は優衣に顔を向ける。
「どうかした?」
「あの…辞書ってあります?」
「辞書?」
「はい。英語の宿題をしてるんですけどちょっと単語の意味が分からなくて…」
「あると思うけど。ちょっと探すから先に風呂入ったら?後で部屋に持っていくから」
「すいません。お願いします」
優衣は衛に一度頭を下げ部屋を出た。
自分の部屋に戻り着替えを持って階段を下りる。
リビングに一度顔を出すとソファに英雄が座りTVを見ている。
「すいません。先にお風呂入っていいですか?」
「うん。いいよ。僕達は後で入るから。あ、場所分かる?」
「はい。衛先輩に教えてもらいました」
夕食が終わると衛は優衣に家を案内してくれた。
優衣が言うと英雄は笑顔で頷いて優衣を風呂へ促した。
衛の家の風呂は優衣の家のものよりも少し広かった。
足を伸ばせるほどは広くはないがそれでもゆっくりと浸かれた。
優衣は風呂から上がり自分の部屋に戻った。
タオルで髪を拭いているとドアがノックされた。
「はい?」
「俺だけど辞書持ってきた」
「あ、すいません」
優衣は髪を拭くのを止めてドアを開けた。
衛は片手に辞書を持って立っていた。
「すいません。終わったらすぐに返しますので」
「いや、返すのはいつでもいいから。どうせ俺使わないし。それよりも…」
衛は優衣をじっと見詰めてきた。
そして、自分の部屋に戻っていった。
優衣はドアを閉めてまた髪を拭きはじめた。
が、すぐにまたドアがノックされる。
「はい?」
「俺。入ってもいいか?」
「大丈夫ですよ」
優衣が了承してから衛はドアを開けた。
衛の片手に何かの箱を持っていた。
優衣はそれを指差して衛に尋ねた。
「それなんですか?」
「良かったら使って」
衛は箱をあけて中身を取り出す。
箱の中身は新品のドライヤーだった。
「そのままだと風邪引くだろ?これもらいものだから気にしないで使っていいよ」
「…それじゃあ、使わせてもらいますね」
「あぁ。…後、お前って音楽聞く?」
「家にいるときはMDを聞いてましたけどどうしてですか?」
「新しいコンポ買ったからさ一つ余ってるんだよ。よかったら使うか?」
「でも…」
「遠慮はいらない。父さんも言ったけど親戚なんだから。使わないからどうせ捨てようと思ってたんだよ。使うなら持ってくるし使わないならゴミに出そうと思ってる」
「それじゃあもらいます」
「じゃあ、持ってくる。いや、手伝ってもらえるか?スピーカーを運んで欲しいんだ」
「はい」
優衣は衛に連れられて衛の部屋に向かった。
さっきも衛の部屋に入ったが優衣は改めて衛の部屋を見渡した。
机の上は物でごちゃごちゃしている。それとは逆に床には無駄なものはなくスッキリしている。
マンガもさっきまで読んでいたのであろう、数冊床に置いてあるが他はビシッと本棚に並べられている。
「人の部屋あまりじろじろ見ないでくれるか。これ悪いけど持って」
「あ、はい」
衛は優衣に軽く注意した後、スピーカーを優衣に渡す。
優衣がスピーカーを持った後、衛は本体を持って優衣の部屋に向かう。
衛は適当な位置にスピーカを降ろさせる。
「とりあえずそこ置いて。…どこがいい?」
「え?」
「コンポ置くところ。普通に考えると壁際だよなぁ。こっちは母さん達がいるから俺の方の壁にするか。いいだろ?」
優衣は衛の言葉に頷く。
衛はそれを確認してすぐにコンポの設置に取り掛かった。
テキパキと設置に取り掛かる衛を優衣は隣で感心したように見ている。
十分とかからない時間で衛はコンポの設置を終えた。
「よし、完了」
「は、はやいですね」
「ん?もともと俺のだしこういうの好きだからな。とりあえず聞けるかどうか試すか」
そういって衛はポケットの中からMDを一枚取り出してコンポの中に入れる。
スピーカから音が流れることを確認して衛は立ち上がった。
「よし、これで大丈夫だろ。後は何かあるか?」
「いえ。ありがとうございます」
「いいって。んじゃ、俺戻るな」
「はい」
衛が部屋から出ると優衣は机にへばりついた。
今日はいろんなことがあって疲れた…
コンポから流れる曲を聴いていると優衣は意識がなくなった。
そして、夢の中に入っていった。