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GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第一章 起動編
6/51

第5話 「〈ASCF〉にて その2」

 


 モノレールに乗ってから本部に到着するまで、たった10分ほどだった。



 モノレールから降りると、そこは無骨なプラットフォームでは無く、研究ラボ然としたシステマティックな通路だった。

 弾丸状のモノレールと相まってそこは前世紀でいう近未来のような雰囲気を醸し出していた。


 実際の近未来、つまり現代はあんま昔と変わらないからね。

 確かに街並みは高層ビルばっかに様変わりしているけど、あの青いネコ型ロボットが生まれたような感じでは無い。

 むしろZガン◯ムのニューホンコンが近い。

 過去の未来を描いた大衆文化は現代からすると興味深いものだ。

 想像で描かれた未来の世界と現実の違いが面白かったりする。

 こんなんじゃねーよとツッコみたくなるときもある。

 現代ではまだタ◯コプターは完成していないんだ。


 さて、それでは行こうか。

 俺が興味深そうに辺りをキョロキョロしている間、先程からスーツ姿の秘書のような女の人がいたが、待っていてくれたのだ。

 小さめの眼鏡を掛けた、170cmくらいある背の高い美人だ。

 秘書さんってのは美女って相場で決まっているのだろうか。

 腰はめっちゃくびれてるし、背筋はスッと伸びている。

 髪色は紫がかった金だが、染めた感じの汚い色じゃ無い。

 透明感のある地毛だ、外人さんなのだろう。

 だが、無表情なのがちょっと残念だ。

 仕事の上で必要なのだろうが、綺麗な顔がちょっと勿体ない。

 スーツ姿の女性は、


「お待ちしておりました、木崎様。

 代表の下へご案内させて頂きます」


 様、だって!

 初めて様付けで名前呼ばれたよ。

 というか、意外と扱いが丁重でさっきからびっくりしてるのたが。

 割と強めの口調で「拘束する!」とか言ってた染谷隊長もお礼言ってくれてたし。

 それにあの部隊の任務は連行じゃなくて護送だったようだな。

 染谷隊長、少し抜けてるとこあるし早とちりしたんだろう。

 でもそんな感じで言われてたから、もっと手錠かなんか掛けられて受刑者みたいな扱いになると思ってた。



 通路をコツコツというハイヒールの音が響く。

 システマティックだった通路は、白を基調とした清潔な感じに変わっていた。

 すると、前を歩いてた女性が首だけ振り返り、


「もっと乱雑な扱いになると思っていましたか?」


 と、微笑みながら問いかけてきた。

 ………………ちょっとドキッとした。

 無表情な人が少し笑うと破壊力がえげつないことになるんだな。

 沓城隊員といい〔ヴァイツ〕に乗っていた四ノ宮って子といい、〈ASCF〉には美人が多い。

 今日だけで数年分の出会いをしたと思う。

 工業高校には、女子がいないからな……………。

 ちょっと前まで都会ではメカガールなんてものが流行ってたみたいだけど、地方の開発区にそんなものはない。

 出会いがない、その点はよく拓真と一緒に愚痴ってた。


「そうですね、なんかこう…………捕虜みたいに扱われると思ってました」

「現代では捕虜の扱いもだいぶ丁寧になってますけどね…………。

 お望みであればそのように扱うこともいたしますが?」

「い、いえ結構です………」


 えぇ………?

 びっくりしたよ。

 そんなこと聞いてくるとは思っても見なかった。


「そうでしたか、失礼いたしました。

 おいでになる客人の方々の中にはそういった趣味嗜好を持つ方もいらっしゃいますので…………」

「接客も大変なんですね………」


 そういうことか。

 まぁ、趣味も性癖も人それぞれだしな。

 というか、そんな人も来るのかここは。

 ホントに一体なんの組織なんだ。

 謎は深まるばかりだ。




 ーーーーーー

 ーーー

 ー





 通路を抜け、エレベーターで上に上がると、地上に出た。

 窓から外が見えたから地上だとわかったのだ。

 結構地下にいたから、明るい地上はちょっと新鮮だ。

 通路とか暗かったし。

 エレベーターで抜けた先には広いエントランスホールのようなところがあり、受付嬢がいた。

 この人も美人だった。

 美女祭りだ。

 わっしょい。

 拓真に教えたら歯噛みして悔しがりそうだな。


 また上に上がる。

 今度はガラス張りの展望デッキのような廊下に出た。

 床は柔らかいカーペットが引いてある。

 靴は結構汚れてるんだが大丈夫なのだろうか。


 すると、スーツ姿の女性はとある木製の扉の前で足を止めた。


「こちらへどうぞ」


 中へ入ると、そこは広い執務室になっていた。

 高級そうな木製の調度品に彩られ、落ち着いた感じになっている。

 奥の窓にはブラインドが掛けられ、外の光を薄暗めに調節していた。

 その中にいた人影は二つ。


 片方は白のスーツを来たヒョロッとした男。

 背中まである長い髪を肩口のところでまとめている。

 派手な色の眼鏡が目を引く。

 口元は笑みの形を作っているが、眼鏡の奥の眼光は鋭い。

 なぜか純白のスーツの下にはピンクのアロハシャツというなかなか奇抜な格好だ。

 通常ならこっちの方が目を引くだろう。


 だが、問題は机を挟んで腰掛けているもう片方だった。

 やや生地の良さそうな至って普通の黒いスーツに身を包んでいる偉丈夫だ。

 肩幅は広く、着慣れていないのかスーツはやや張っている。

 机の上で組んだ手は、鍛えているのが一目で分かるほど筋肉質で浅黒く焼けており、あちこちに傷痕が見える。

 だが、まぁ至って普通だ。

 そう、()()()



 ―――その男は、金髪のツインテールだった。



 何を言っているか分からない?

 俺も分からない。

 というか分かりたくない。

 偉そうに執務机の後ろに腰掛けている人がなぜこんなものを付けているのか…………。

 しかも少しズレているから、ウィッグなのがバレバレだ。


 だが、その下にある表情は至って真面目で、日に焼けた巌のような顔は眼光鋭く、口元はへの字に結ばれている。

 威厳のある顔立ちだ。

 こんな顔の人に睨まれたら、どんな人であろうが思わずビビってしまうだろう。

 子供が見たら泣き出すかも知れない。


 だが、そんな顔もその上に乗っている物のせいで台無しだった。

 表情は真面目なだけに、とんでもなくシュールだ。


 と、その隣に立つ派手な男が口を開いた。


「ステラ、ご苦労さまです。

 控えなさい」

「はい」


 俺を案内してくれた人はホントに秘書だったらしい。

 顔立ちは西洋系だが、うっとりするようなとても流暢な話し方だ。

 名前もステラだし、日本育ちのハーフかなにかだろう。

 ステラさんは俺の後ろを通り、優雅な歩き方で派手な男の後ろに立つ。

 控えるってあの男の後ろにってことなのね。

 部屋を出て良いって意味かと思った。

 ぶっちゃけ安心した。

 同じ空間にこんな二人の男とだけになるのかと思って正直怖かったのだ。

 ステラさんはさっきから無表情だ。

 それではまさか、これはいつもの光景なのか?

 再び不安になる俺。

 だが、よく見ると肩がプルプルと震えていた。

 …………………ですよねー。

 こんなシュールな光景で吹き出さないだけでも凄いよ。

 俺が吹き出さないのは、ただ笑いより先に驚いたってだけだ。


 と、ツインテールのおっさんが口を開く。


「……………初めまして。

 私が代表の…………睦戸義和だ」

「……………………………初めまして、木崎優真です」


 ツインテールが気になってるのに、いきなり話し掛けられて少しびっくりしてしまった。

 この男は睦戸義和というらしい。

 と、俺の名前を聞いた途端、始めて睦戸の表情が動いた。

 むっつりした顔が驚きに変わり、そして隣に立つ男を見た。

 男はうなずき、


「間違いありません。

 情報部により裏も取れています」


 と答える。

 調べられてたのか……………。

 それもそうか。

 誰か分からないのに、本部に招き入れるバカなどいない。

 普通は身元を調べるだろう。

 睦戸は続けた。


「ああ、この男は―」

「副代表を務めさせていただいております、阿多野信英です」


 阿多野が睦戸の言葉を引き取った。

 アロハスーツ男の方は阿多野信英というのか。

 だが、ツインテールが気になってそっちの存在は薄い

 すると、睦戸が不思議そうに聞いてきた。


「……………私の顔になにかあるのか?」

「あっ…………いえ…………」

「どうした、気にせずに言いなさい」


 俺は聞いた。


「なんで、カツラ付けてるんですか…………!?」


 すると、睦戸は再び目を見開き、隣の阿多野を見上げた。

 阿多野は頷く。

 そして、睦戸は重々しく答えた



「…………………これは、地毛だ」

「じゃねぇだろッ!!」



 思わずツッコんでしまった。

 と言うかこれの犯人は阿多野の気がする。

 答える前に阿多野と目線でやりとりしてたし。

 案の定。


「…………信英、木崎君が怒ってしまったぞ?」

「まぁ…………でしょうな。

 ステラから緊張していると聞きましたので。

 ですが、和むは和んだでしょう?

 ならOKです」

「なるほど」

「よくねぇよ!!」


 いや、確かに場は柔らかくなったよ!?

 いや、だけどさぁ…………。

 仮にも代表だろ?あんたは。

 で、やっぱり阿多野が犯人かよ。

 真面目な顔してコイツも肩がプルプルしてやがる。

 ひでぇ部下だ。

 そして睦戸は天然かよ。

 なんでこんなことあっさり信じちまうんだ。


「よくなかったか………?」

「いや……まぁ……そうでしょうね」

「そうか……………」


 少し寂しげに睦戸はツインテールを脱ぐ。

 なんか悪いことをした気分になる。

 睦戸は睦戸なりに俺の緊張を解そうとしてくれていたんだ。

 俺はその行為を無下にしてしまったのか………。

 いや、違ぇよ。

 悪いのは全部、まだ肩がプルプルしている副代表の方だ。

 俺は至って常識的な反応をしただけだ。

 睦戸は机の中にウィッグをしまうと、表情を戻した。

 ここら辺はやっぱ大人だな。


「では、話を戻そう。

 まずは、君がなぜ〔ヴァイツ〕に乗ることとなったのか、その経緯から聞こうか―――」




 事情聴取が始まった。




 ーーーーーー

 ーーー

 ー




「そうか……………」


 俺が一通り話し終えると、睦戸は黙り込んだ。

 睦戸と阿多野はそれぞれ思案する格好で、しばらく考え込んでいる。

 やがて睦戸が阿多野に尋ねた。


「信英、どう思う?」

「どうもこうも………………」


 阿多野はそこで一度言葉を切り、


「まずは彼の証言が正しいか裏を取ることが先決でしょう。

 情報部に現場検証と聞き取り調査は既に依頼してありますので、それの結果を待ちましょう」

「ふむ…………」

「後は〔ヴァイツ〕のバトルレコーダーの検証を行い、前搭乗者、四ノ宮特尉が回復次第事情聴取を行います。

 それから彼が信用に足る人物かどうか検証を――――」

「信英」

「はい?」

「彼のことはいい。

 彼は、信用できる」

「なぜそう言い切れるのですか?」


 睦戸は強い口調で言い切った。

 阿多野の問いには答えず、俺の方を向き、


「木崎君、いや優真君」

「はい」

「優花君と優吾君は元気にしているかい?」

「ッ……………!?」



 なぜ、あんたがその二人の名前…………俺の姉さんと弟のことを知っている?



「そう警戒しなくても良い」

「なぜそう言えるんです?」

「私は君たちが生まれる前から君たちのことを知っている」


 どういうことだ?

 よく分からず首を傾げる俺に睦戸はさらに続ける。


「優司と綾花とは……………君のご両親と私は懇意だった。

 彼らとは、学生時代からの友人()()()

「なっ……………!?」


 なんだと?

 この人は、父さんと母さんの友人?


「彼らのことは…………………残念だった。

 葬式にも参列させてもらった」


 てことは、6年前のことも知ってるのか。

 と、そこで阿多野が口を挟む。


「それとこれとなんの関係が?

 あのお二方の息子だからといって信用できる理由にはならないでしょう?」

「優花君とは今も連絡を取り合っている。

 彼が《エネミス》側に付くことも、その手先となることも考えられん」

「道理で貴方の所から変な金の流れがあった訳だ…………」

「給料の前払いだ、問題ない」

「大有りですよ、日本じゃそれは横領っていうんです」

「いつかはこっちに引き抜くのだ。

 自衛隊では彼女の才は輝けない」


 ひとしきり言い合った後、睦戸はこちらを向いた。


「と言うわけだ。君の行動の裏付けが取れるまではここにいてもらうことになる。

 優花君の方には私から連絡を入れておこう」

「………………わかりました」


 まだ納得のいかない所や分からない所もあるがひとまず置いておこう。

 どうやら睦戸は俺の味方のようだ。

 それに睦戸の言うとおり、俺は《エネミス》を憎んでいる。

 〔ヴァイツ〕に乗ろうと思った理由にはそれもあった。

 六年前のあの日以来俺はIGに乗らなかった。

 むしろ遠ざけていた。

 しかし事情があろうと無かろうと、奴らは俺の両親の仇だ。

 それに変わりは無い。

 だから〔ヴァイツ〕に乗ったんだ。


「君も疲れただろう?

 シャワーでも浴びてしばらく休んでいなさい」

「ありがとうございます、そうさせてもらいます」


 なんにせよもうくったくただった。

 早く休みたかった。

 俺はステラさんに連れられて、部屋を出た。




 ーーーーーー

 ーーー

 ー



 二時間ほど過ぎただろうか。

 シャワーを浴び仮眠室で横になっていると、ステラさんが呼びに来た。

 時刻は19:00を回った頃だ。

 ステラさんに連れられ、さっきとは違う部屋に来た。

 会議室のようだ。

 そこには睦戸と阿多野、それに


「あなたはっ………………!?」


 四ノ宮がいた。

 よかった、無事に回復したらしい。

 元気そうだ。

 俺が来たことに目を見開き、驚いている。


 阿多野は俺に気付くと、手を上げた。


「やぁ、木崎君。

 ちょうどいろいろと終わったところでね」


 といった。

 睦戸に促され俺も席に着く。

 丁度、四ノ宮の隣だ。

 俺が座ると開口一番、謝ってきた。


「その……………巻き込んでしまってごめんなさい………。

 でも、無事で良かった………」


 俺も応じる。


「いや、いいよ。

 あんな状況だったし、〔ヴァイツ〕に乗ったのは俺の意志だ」

「いえ………私の責任です…………。

 本当にごめんなさい………………」


 俯いて唇を噛み、声を震わせているそんな姿を見て俺もあたふたしてしまう。

 見かねたのか、睦戸が咳払いをし、


「それで…………今から君たちの処遇を決めたいと思うのだが、構わないな?」

「あっ、はい」

「はい……………」

「ゴホン……………それではまず、四ノ宮特務一尉の処分から。

 結論から言うと四ノ宮特尉、君は降格だ」


 冷たく告げる。

 阿多野が理由を説明した。

 その声は心なしか、怒気が含まれているように感じた。


「まず、最重要機密である〔ヴァイツ〕を一般人に託すなどありえない話だ。

 ただでさえ我々の戦いに何の関係も無い人間を巻き込むというだけでも悪いというのに、あまつさえ機密を託すなど言語道断。

 木崎君が〔ヴァイツ〕に認められ、我々の所にやって来てくれたから良かったものの、もし彼が分別無い人間だったらどうするつもりだった?

 情報漏洩、機密損害、被害拡大。

それだけじゃない。

 最悪、君は彼を殺すところだったのだよ?」


 俺を死なせる?

 どういうことだ?


「あの…………それはどういう――」

「もしあの機体に認められず、無理に動かそうとした場合、あの機体は自衛行動を取ると言うことだ。

 つまり君を放逐、もしくは排除するということになる」


 睦戸が答えた。

 排除、つまり殺すということか。

 たしかにそうじゃなくても俺が《エネミス》に殺される可能性もあった訳だし。


「………………だが、そのリスクを持っておつりが来るほどの成果があったのも事実。

 より良い適合者、〔ヴァイツ〕の戦闘記録、《エネミス》に関する新事実、なにより《フリューレシステム》の完全稼働が確認された。

 これはとても大きな影響力を持つ。

 よって君を降格させるという結論になった」


 四ノ宮は先程から俯いたままだった。

 その大きな瞳は潤んでいる。


「それと―――」


 睦戸は続けた。



「只今を持って、君を〔ヴァイツ〕専属の任から解くことになった」



 その瞬間、彼女はハッと顔を上げた。

 その顔は、絶望に染まっていた。

 限界だったのだろう。

 彼女の頬を一筋の雫が伝った。

 その雫は止まることを知らず、そこに嗚咽が加わり……………

 とうとう決壊。


 泣き崩れる四ノ宮。


 睦戸はむっつり顔で、阿多野はまだ何かを隠していそうな雰囲気で、それを見ていた。






 そうして今に至る。






 ーーーーーー

 ーーー

 ー




長引かせてすみません。

キャラ設定とストーリーの見直しを行ったため時間が掛かりました。


それと前話の冒頭での阿多野の表現を少し変えたいと思います。

作者のミスです、申し訳ない。

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