第28話 「文化研究部」
校舎の文化部系の部室が立ち並ぶ廊下の一画に、その部活はあった。
「ほ、本当にいいのか?」
「なによ、なんでそんなに私を遠ざけたがるわけ?」
「いや……なんというか、その……」
「煮え切らないわね……!
はっきり言ったらどうなの?」
「……まぁ、覚悟してくれ」
「もう……!」
文研部に案内していないことに気付いた四ノ宮は、あろうことかそこへの訪問を希望した。
もちろん慌てる俺。
なんとか思い止まらせようとしたが……
結局押し切られてしまった。
誤算だった。
まさか、陰キャの集団っぽい名前の部活に彼女が興味をしめすとは思わなかった。
あの連中と彼女を合わせては、どんな惨状が引き起こされるのか、火を見るより明らかだ。
だから、意図して案内しなかったのだが……。
仕方ない。
腹をくくろう。
「すう……はぁ……。
入るぞ――」
そういって扉を開いた。
……次の瞬間。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「うわあぁぁぁぁ!?」
目の前に飛び込んできた何かによってぶっ飛ばされた。
もんどりうって廊下まではじき出される。
「なっ……何事だ!?」
「きゃっ……!?」
急いでのしかかっているものをはね除け、起き上がる。
い、一体なにが起きているんだ……?
混乱した脳で状況を把握しようと周りを見渡す。
取り敢えず、俺に飛びかかってきたものの正体を確かめようと隣を見た。
これは……?
よく見るとそれは、人の形をしていた。
あちこちからプスプスと煙を出している。
おそらく頭だと思われる場所からは、髪の毛がちりぢりになって逆立っていた。
まるで豚の丸焼きだ。
全く美味しそうじゃ無いがな。
これ食ったら腹壊しそうだ。
すると、丸焼きがムクリと体を起こした。
「って、拓真か」
「うぅ~……節々が痛ぇ」
顔を顰める拓真がそこに居た。
痛そうに腕を押さえて、起き上がろうとしている。
はぁ……。
また厄介事が舞い込んできた。
おそらくバカ共がまた騒いでいるのだろう。
大体予想はつくが、一応何があったのが説明が欲しい。
「いったいどうし……っ!?」
と、訊こうとして、思わず息を呑む。
なぜって?
別に拓真にヤバそうな傷があったわけじゃない。
…まぁ、たとえあったとしても気にしない。
だって拓真だしな。
バカには良いクスリだ、程度にしか思わない。
俺の視線はもっと奥……そう。
さっきまで俺の隣にいた少女に向けられている。
正確には………
そのめくれ上がった、スカートに。
「ゑ?」
一瞬の内に、限界まで脳が回転を始める。
その先にあるものを、少しでも長く焼き付けるために。
ふわりと浮き上がった布地は、抵抗をはらみながらゆっくりと舞い降りる。
加速した脳は、それをスローモーションのように捉えていた。
きっとその中には、全ての男が追い求める光景があるのだろう。
時間にして僅か半秒足らず。
だが、限界まで目を見開いても、俺がそれをみることは叶わない。
既にスカートは、際どいところでその秘部を隠してしまっていた。
ちくしょう、なんて日だ!
そう思ったのもつかの間。
「……ゑ?、じゃないわよこの大バカぁぁぁ!!」
「ぐはっ……!?」
怒りに燃える四ノ宮のローリングソバットが、俺の顎めがけ炸裂した。
一瞬で宙高く蹴り上げられる俺。
美しい回し蹴りを放った四ノ宮が、華麗に着地するのが見えた。
翻るスカート。
顎を痛打し、意識が遠のいていく。
……だが明滅する視界の中、俺の目は最後にそれだけは捉えていた。
水色でした。
ーーー
しばらくして目を覚ますと、俺は部室のソファに寝かされていた。
体を起こし、軽く頭を振ってぼやけた思考を覚ます。
チラリと時計を見ると、それほど時間は経っていなかった。
気絶していたのは20分ほどだったようだ。
まだ少しクラクラする。
軽く脳震盪を起こしていたみたいだ。
だいぶ綺麗に決まったからな。
骨とかに異常がないといいが。
……一応今度病院いっとこ。
それはそうと、今はもっと心配なことがある。
四ノ宮は……四ノ宮はどこだ?
連れてきてしまった以上、彼女については俺にも責任がある。
文研部員と四ノ宮が一緒になれば、何が起こるか分からない
事件になる前に、彼女を守らねば。
と、思ったのだが……
「光咲ちゃん、ここはこうするんだよ」
「なるほど、ありがと雪ちゃん」
「……光咲光咲。
……このアイテムあげるです」
「助かるよアキちゃん」
……なんかめっちゃ馴染んでる。
四ノ宮は工や甘月と一緒に、キャッキャウフフと楽しそうにゲームをしていた。
いつの間にか凄く仲良くなっている。
俺が寝ている間、なにがあったのだろう。
すると、拓真が部屋に戻ってきた。
「お、起きたか優真」
「おう。
どこいってたんだ?」
「華月を保健室に運んでた」
事情を聞いたところ、さっきのは事故の連鎖だったらしい。
どこからか入り込んだ蝿にびっくりした甘月が、作業をしていた工にぶつかり、
手元が狂った結果、華月と拓真は被害を被ったというわけだ。
全くコイツらは……。
事故とはいえ、大人しく放課後を過ごすことが出来ないのだろうか。
そして、ふと何気なしに部屋を見渡してみると、一人足りないことに気付いた。
「……ところで、秋津はどうしたんだ?」
「今日は用事なんだとさ」
それは安心だ。
この部と四ノ宮に関する不安の大半は、秋津にあるからな。
女子たちは平和っぽいし、ひとまず気を抜いてもいいだろう。
「そうだ拓真!
昨日面白いゲーム見つけたんだ、やろうぜ」
「……そうだな、やるか」
今日の所はこれ以上何も起こらないだろう。
そう思い、結局その後は俺も拓真とゲームをして過ごした。
波乱の一日はこうして幕を閉じた。




