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GUARDIANS・IN・IRON   作者: 寺野深一
第二章 波乱到来編
13/51

第12話 「反省会(除湿機能)」

投稿したつもりが、してなかったことに気が付き慌てて投稿した次第。

というわけで第12話お届けします

今回短めです

 



 さぁ始まりました、染谷隊長の大☆説教会!

 本日のゲストはこちら。


 最初に撃墜された、副隊長の沓城舞さん!(わー、パチパチ)


 狙撃手のはずが狙撃された、隊員の佐渡直樹さん!(わー、パチパチ)


 そして、罠に掛けようとしてまんまと罠に掛かった、新入りの四ノ宮光咲さん!(わー、パチパチ)


 司会は私、撃墜王こと木崎優真が務めさせていただきます!


「木崎!」

「はいぃぃ!」


 脳内でふざけていたら染谷に怒られた。

 顔に出てたかしら。


 ーーー


 場所は、第四支部の格納庫。

 相変わらず整備士たちが忙しなく動き回る中、今日の模擬戦を終えた俺達第六小隊は、膝をついて整備と補給を受けるIG達の前で、先程の戦闘の反省を行っている。

 しかし俺達の格好は、まだ操縦服(パイロットスーツ)のままだった。

 訓練中に、《エネミス》の出現で別の部隊が出撃したからだ。

 小隊は今、非常待機状態となっている。

 一応休むことは出来るが、生真面目な染谷がそれを良しとせず、こうして格納庫でスポドリ片手に反省会を開くことになった。

 驚いたことに、その意見に対して誰も不満げではなく、むしろ当然といった表情だった。

 沓城曰く、こういうのは割と日常茶飯事なのだそう。


 そして、今の染谷はご立腹だった。

 彼は機体から降りてから開口一番、


「弛んでる!」


 と、険しい顔つきで言い放った。

 そして、整列する俺達を順番に見渡して説教を始めた。


「まず、舞!

 あの状況で真っ先にやられるとはどういうことだ!」

「うっ……」


 最初に指名された沓城は、喉に詰まったような声をあげ、気まずそうに目を逸らす。

 最初に俺が撃墜したIGは沓城の機体だった。

 染谷は厳しい口調で構わず続ける。


「いいか、包囲網が完成した時が一番正念場なんだぞ。

 木崎の目眩ましを撃墜と勘違いするなど、弛んでる証拠だ!

 100mm以上の口径を持つ火器だと、シールドの構えが緩いと抑えきれずに機体を持って行かれるのはお前も知ってるだろう!?」

「……ハイ」


 IG用のマテリアルシールドは耐弾性に非常に優れているが、重いという弱点がある。

 固定射では問題ないが、戦闘機動をしながらの射撃や移動時は、いわば鉄板を持ちながら走り回っているようなもので、IGの強みである機動性や運動性が落ちるのだ。

 更に、普通はあり得ないのだが、シールドはしっかりと構えていないと、着弾の衝撃で機体の重心が泳いでしまう。

 油断している証拠だ。


「次に、直樹!」

「うへぇ……」

「なんだあの無様なやられ方は。

 お前の仕事は遠方支援だろう!

 それが……なんで木崎に狙撃されているんだ!」


 そう。

 主兵装を失い、武装がハンドガンのみとなった佐渡は、戦闘終了直前に俺に狙撃され、何もすること無く退場となった。

 まるで潜入ミッションのように、佐渡が警戒しながら建物の影を縫うように移動していた所を、訓練場の中心部にある高いビルの上から俺が200mm滑腔砲でズドンと撃ち抜いたのだ。

 おおよそIGには過ぎた火力を誇る大口径の成形炸薬弾は、構造上装甲が薄くなる背面部分を直撃し、雪崩れ込んだ金属噴流が搭乗員をコクピットごと焼き尽くした。

 もちろん仮想だが。

 ミイラ取りがミイラになったというわけではないが、狙撃手が(狙撃対象)になった訳だ。


「まだお前も奇襲を仕掛けるつもりだったんだろ?」

「ハイ、そのとおりッス……」

「全く……たかがハンドガン一丁だけで〔ヴァイツ〕を倒せるわけが無いだろうに。

 あそこでは撤退すべき状況だっただろうが」

「でも!隊長だって――」

「ああいう状況では、撤、退、しろ!

 いいな、分かったか?」

「……了解ッス」


 まだ不満げだったが、佐渡は大人しく染谷の言葉に従った。

 染谷は次に、四ノ宮の方を見た。


「四ノ宮」

「はい」


 やけに、四ノ宮を呼ぶ染谷の声色が冷たかった。

 唐突の変化に少し戸惑う。

 今日の四ノ宮はそんなに悪い動きはしていなかったと思うが。


「……わかっているな?」

「はい、申し訳ありません」

「あまり無茶をするなよ。

 これからは俺達もお前を支えてやれるし、木崎だっているんだ。

 だから一人であまり抱え込むな」

「はい…」


 冷たいのではなく、四ノ宮を案じての口調だったようだ。


 よく分からないが、四ノ宮にはきっと過去になにかあったのだろう。

 俺の知らない、何かが。

 別におかしいことではない。

 〈ASCF〉(ここ)はそうした者たちが集まる所だ。

 俺は新入りだし、四ノ宮はずっと前からここにいる。

 染谷達もだ。

 それに、高々一ヶ月ちょっとの付き合いで、過去までさらけ出してくれるほど俺と四ノ宮は親密ではないしな。

 あくまで俺達の関係は、元教官と訓練生であり、同じ部隊に所属する戦友だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 しかし、置いてけぼりになって少し寂しいのが男心。

 最近自分でも自分がよく分からない。


 ……だが、まぁ。

 俺にでもできるなら、喜んで四ノ宮を支えよう。

 俺がこの場に立っていられるのは四ノ宮がいたからだ。

 俺は彼女に大変借りをつくっているのだ。

 それに、まだ日の浅い俺達でもそれくらいの関係ではあるはずだ。


 そう密かに決心する。

 ちょっとしんみりしてしまった。


 ――しかし、だからといって容赦してはくれないのが、我らが染谷隊長。

 四ノ宮から俺へと視線を移し、


「………木崎」

「………ハイ」


 本日最も温度の低い声で俺の名を呼んだ。

 ただ、名前を呼んだだけだ。

 しかし、俺は大量冷や汗をかきながら、思わず目を逸らした。

 なぜなら………


「この馬鹿者が!

 なんてざまだ、あの最後は!」

「……ゴメンナサイ」


 ……誠に恥ずかしながら、俺の撃墜のされ方は史上まれに見るダサさだったからだ。

 そう、あれは意気揚々と佐渡を撃ち抜いた直後の事だ。

 コクピットの中で思わずガッツポーズを取り、射撃態勢から機体をのそりと立ち上がらせた時だ。

 三機も撃墜したことに得意げになっていた俺は、その時全く警戒をしていなかった。

 近くに、マシンガンと単分子ブレードナイフを手にした一機のIGが迫ってきていたというのに。


 ……つまり俺は、佐渡を撃墜して油断したところを、いつの間にか忍び寄っていた染谷に、ろくな反撃も出来ずに瞬殺されたのだ。


 ………。

 ぅうあああああぁぁぁぁ!

 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!!


 いまさら思い出して身悶えする俺。

 先程まで少し沈んだ感じだった他の三人が、腹を抱えて笑い転げている。

 顔から火が出るほど恥ずかしい!

 穴があったら入りたい!

 形容できないざわめきが心を襲い、思わず頭を抱えてしまう。


 あれはダサかった。

 だれがどう見てもダサかった。

 B級映画の悪役のほうがまだマシな死に方をしていた。

 染谷は呆れたような声で、続けた。


「あのなぁ、いくらあの状況を切り抜けたからといって……あのやられ方はまずいだろう」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ!」

「油断大敵という言葉がよくわかっただろう?」

「身にしみました……」

「お前は〔ヴァイツ〕のパイロットなんだ。

 自覚を持てよ」

「はい……」


 すっかり意気消沈した俺。

 完全に打ちのめされていた。

 と、そこで一人のエプロン姿のおばちゃんが現れた。

 手に持つお盆には……なんと昼食が載せられていた。

 山盛りの、具だくさんのサンドイッチだ。

 疲れた体と空っぽの胃袋は、それを見てキュゥゥと切ない声をあげる。

 思わずよだれが垂れそうになったそのとき、


「クキュウゥゥゥ……」


 と、同時に隣からも同じ音がした。

 第六小隊の面々がその音の主の方へ振り向くと、そこには顔を真っ赤にして俯いている四ノ宮がいた。

 その後も断続して音が鳴る。

 恥ずかしいそうに肩を震わせる四ノ宮。


 ………。


 ……可愛いッ!

 いつもとは違う小動物のようなその様子に思わず口元が緩む。

 俺はいま、始めて萌えという概念を知った。

 他の人達も、似たり寄ったりで微笑ましそうに彼女を見守る。

 注目されていることに気付き、四ノ宮は更に赤くなる。

 四ノ宮たん、マジかわわ。


 あ、そういえば。

 訓練が始まる前の事を思い出した。

 ククク……すこしからかってやるか。


「あっそういえば、今日はたしか撃墜された人は昼飯抜きだったよな~?」

「!?」


 わざとらしくそう言ってやる。

 四ノ宮がビクッと顔を上げ、その表情が絶望に染まる。

 助けを求めるように佐渡や沓城のほうを見るが……


「残念ッスね~。

 じゃあ今日の昼飯が食えるのは隊長だけッスね」

「ほーんと、残念!

 あたしたちは撃墜されちゃったからね~」


 心底面白そうに、ニヤニヤしながら佐渡と沓城も続いた。

 全く残念そうには見えない。

 沓城なんて真っ赤になった四ノ宮の頬をウリウリと突っついている。

 二人の反応に愕然となり、表情が強張る四ノ宮。

 四ノ宮は最後の頼みとばかりに染谷を見た。

 染谷は苦笑しつつ肩をすくめた。


「……まぁ今日の訓練は俺にも反省点が多い。

 木崎に予想以上にしてやられたからな。

 今日は昼飯抜きは勘弁しておこう」


 途端、パアッと表情が明るくなった。

 食いしんぼの四ノ宮たんもいいね!


 というわけで、小隊のみんなでサンドイッチのお盆を囲み、談笑しながらの楽しい昼食会となった。

 その後は、先程の訓練で一旦〔ヴァイツ〕の整備とデータ抽出を行うため、俺は〔九十二式〕に乗り換えて二回ほど模擬戦や連携の確認を行った。

 午後5時を回った頃、明日は俺が学校ということもあって解散となり、俺はまた四ノ宮と家路についた。



 その日はもう、《エネミス》の襲撃がくることは無かった。



 ーーーーーー

 ーーー

 ー



 内房線に乗り込み40分ほど電車に揺られた後、木更津駅で電車を降り、私は改札をくぐった。

 五月半ばの空には、昼間の刺すような日差しと打って変わって柔らかい光を放つ太陽が、西に傾いて浮かんでいる。

 一日の疲れが肩に乗りつつも、気力を振り絞って一歩を踏み出す。

 陸自の駐屯地とは真逆の方向に、乱立するビルの中をしばらく歩く。

 やがて見えてきた、築10年ほどのまだ新しい茶色のアパートのエントランスへと入った。

 エレベーターに乗り、手早く階数のボタンを押す。

 僅かな浮遊感の後、ゆっくりと上がっていく感覚。

 短い渡り廊下を進み、自宅のドアに鍵を差し込む。

 乱雑に靴を脱ぎ、フラフラとベッドに倒れ込んだ。

 私はしばらくそうしたあと、おもむろに起き上がり、その辺に服を脱ぎ捨て、愛用のスウェットに着替えた。

 凝った肩を解しながら、戸棚からレトルトカレーを引っ掴み、電子レンジに放り込む。

 再びベットに倒れ込み、仰向けに寝転がりながら溜息をついた。


 はぁ………。

 疲れたな。


 仕事に疲れたOLのように一人ごちて、目元を揉む。


 私、まだ17なのに……こんな生活でいいのかしら。

 朝早く支部へ向かい、一日IGをを乗り回し、疲れ切った体を引きずって家に帰り、レンジにレトルトを放り込む。

 一人で暮らし始めてからずっと、毎日こんな感じだった。

 はっきりいって不健康だ。

 心身ともに疲れ切っている。

 癒しもない。

 結婚した同僚(デスクワーク勤め)からは、伴侶がいると生活が変わると聞いた。

 しかし、私の場合はIG乗りという武闘派な仕事勤めだ。

 職場柄、年の近い異性といったら木崎くらいだし、毎日支部勤めなので合コンなど出会いの場も無い。

 第一、そんなものに誘ってくる友達がいない。

 私は高校には通っていないのだ。

 義務教育なので中学までは通っていたが、当時は既にIGにのるようになっていたので、友達付き合いなど皆無に等しい。

 無論、男子となんて英語のペアワーク以外で話したこともない。

 ……いや、別に出会いを求めているわけでも、欲求不満なわけでもないが。

 だが、将来に関しては不安だらけだというのが正直なところだ。

 長く戦いの中に身を置いてるとはいえ、私もやはり女なのだ。

 このまま寂しく独りで死んでいくのは嫌だし、普通の生活を送ってみたいとも思うことがある。

 おおよそ叶いそうにもないその願いと不安を抱え、私は今日も一人で夜を過ごす。

 温め終わったのを告げるチンッという軽い電子音がレンジからなった。

 もぞもぞと起き上がり、冷えたご飯の上に盛り付けてもそもそと食べ、また溜息。


 はぁ………。


 とその時、インターホンが鳴った。

 誰だろうと思い、ドアを開けるとそこには――



「宅急便でーす」


 大きな段ボールを抱えた配達員(しかも女性)がいた。

 おもわず脱力しそうになる。

 そして、()()()を期待していた自分に気付き、また嫌になった。

 何を考えているのだろう私は。

 そんないきなりメルヘンチックなことなど、起きるわけが無かろうに。

 きっと疲れているのだ。

 今日はもう、カレーを食べて風呂に入って寝よう。

 そう思い、荷物を受け取った。

 ドアを締め、リビングに置いた荷物をおく。

 そして癖で、ハサミを取り出すと封を開け中身を覗いた。

 そこにあったのは……



 一着の制服だった




というわけで、除湿のための1話でした

前話のラストがあまりにも鬱っぽくて自分でもびっくりしてます(まったくそんなふうにするつもりがなかった作者)

そして、とうとう次話から学校回が始まります

お楽しみに


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