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楽園の扉への扉と解する者  作者: アウトキャスト
序章
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探索 中庭


「……ふーん」


 静まり返った中庭につくと、綾瀬は辺りを見回しながらどうでもいいように呟く。


「うーん……いったいどのあたりなんだろう」

「さあ……?」


 うちの学校の敷地はかなり広い為、中庭も随分と広くできており昼食スペースにもなっているほどだ。

 今は放課後だから僕達以外の人影はないけど、春頃ではこの時間まで談笑している生徒もいたりする。


「美香、満足?」


 かなりツンケンした態度をとりながら綾瀬は美香に喋りかける。

 けど、僕としてもあまりこの場所にいたくはない為、言葉を挟まずに中庭に視線を向けたままでいる。


「……美術室付近の廊下から見える位置」


 美香はそう呟くのと同時に、僕達の輪から外れて一人歩き出す。


「って……美香」


 ダメだよ。そんな言葉をウッカリ出しそうになりながら、僕は美香を追いかける。


「この辺り……かな」


 早足で歩く美香を止めることができず、美香は推理した場所へと移動し終える。

 そこは人が待つような丁度いいくらいのスペースが空いており、ザワザワと僕の心が騒ぎ出す。

 美香ならあんな曖昧な情報でも眼で推測できる。いつもそれで助けられてきたじゃないか。


「はぁ……美香ったら熱くなるとこれだから」


 焦る僕の背後から綾瀬が溜息をつきながら現れる。


「けど、特に何かあるわけじゃみたいだね」


 美香の予想とは言っても、推測は推測。ガセネタであるなんて証明をするなんてとても……


「だから、本気にして欲しくなかったのよ。別に見間違えじゃなくても、他の男子生徒だった、というのが常識的に考えて自然でしょ」


 尤もな事を綾瀬は言って、早くこの場を離れたがる意思を示す。


「うん、この事は扉とは別件とした方がいいんじゃないかな」


 その綾瀬の意思に乗るように僕は言葉を繋げる。これ以上この事について立ち入っちゃいけないんだ。


「あれ」


 僕と綾瀬を無視するように、美香は急に屈み込む。その仕草から推測するに地面にある何かを見つけたらしい。

 そして、その何かを美香は拾い、興味深そうに眺めている。


「美香、いくらなんでも……」


 女の子が地面からモノを拾っているのが、ひどく滑稽に見え僕は美香を止める。


「――ねえ、陽向君ここにいたの?」


「へ?」


 全くわけがわからない質問をされた。昨日は普通に美香と行動して、一緒に帰ったじゃないか。


「あ……これよく見ると違う」

「ちょっとちょっと、さっきから美香は何見てるのよ」


 そのわけのわからなさは綾瀬も一緒のようで、美香を咎める様に質問をする。


「ご、ごめんね。でも、凄いもの見つけちゃったから」


 美香は少し慌てながら、立ち上がって僕と綾瀬の方に振り返る。


「こ、これは……!?」

「これって!?」


 それと同時に美香が拾ったモノに対して僕と綾瀬は驚きの声をあげた。


「陽向君のペンダント……にそっくりだよね」


 拾い物は僕のペンダントと全く同じものだった。いや、こんな特殊なモノが他にあるのだろうか?

 僕は慌てて自分のペンダントを取り出す。少しだけ……知らずうちに落としたかもしれない不安に怯えながら。


「うん、僕のはちゃんとあるよ」


 さきほどの唐突の質問に納得しながら、僕は美香と綾瀬に自分のペンダントを見せる。


「「…………」」


 取り出した僕のペンダントと拾い物を比較するように二人はジッと眺める。

 大きさや作りは全くといっていいほど同じ。真ん中に輝く石についても同様で、このペンダントが持つ異質さも変わらない。

 でも、どうしてこれが中庭に……?


「……なんでだろうね」


 言葉も息も詰まっているこの状況で、美香は何故と言葉にする。


「そんなの、わかるわけないでしょ」


 綾瀬が思考を遮断させるかのように即答する。確かにあまり深くは考えたくはないはずだろう。


「ただの落し物なのか、これが探し物だったのか……」


 以前綾瀬和也が所持していたペンダント。互いに今存在することが不自然である。


「何よ、陽向。このペンダントを和兄ぃが探してたって言うの?」

「え……いやそういうわけじゃ」


 考えなしに呟いた言葉に綾瀬が不満を露にする。でも、ありえない話ではない為か、綾瀬自身も戸惑いを隠せていない。


「でも、このペンダント……新品っていうのかな、出来て間もないと思うんだ」


 少し綾瀬と言い争いになりかけたところに、美香が更なる疑問を投げかけた。


「新品……?」

「うん、陽向君のは傷とか劣化具合から随分古いものだってわかるんだけど……こっちは全然傷がないの」


 そう美香はペンダントを僕と綾瀬に見せるのだけど、言われてみればというレベルで断言はとてもじゃないけどできない。


「だからね。お兄さんは探していたんじゃないと思うんだ」

「美香……待ちなさい。ここに和兄ぃがいたって私は信じてないの」


 綾瀬にとっては考えたくはないはずなのだけど、美香は自分の推理を進めていく。


「二人ともさ、その前に元からここに落ちていた。ってこともあるんじゃないのかな」


 知らず知らず険悪ムードになっているので、仕方なく僕がどちらでもない意見を述べる。

 経験上、どちらを立てても良い事があったことがない。


「それだとここにいた人が気づかない方が不自然だよ。私はここにいた人が落としたんだと思うな」

「……私達の他にペンダント所持者がいてもおかしくないんじゃない? その人がここにきて捨てたか、落としたんじゃないの」


 予想通り僕の第三意見は一周され、声をそろえるように自身の予想を更に主張する意見を述べる。


「はは、僕は置いていったのかなって思うよ」


 いつも見ている光景に和んだのか僕は少し本音を言って、自分のペンダントを制服のポケットにしまう。

 綾瀬と美香の意見も凄く面白いのだけど……今の僕はちょっと意見を交わしあう余裕がない。


「見事にバラバラね」


 意見の食い違いに綾瀬が苦笑いをして、腕組みをして溜息をつく。

 いつもなら美香や僕が論破するのだけど、今日は物が物なだけに難しいと思う。


「うーん、でもこれが落ちていたってことは事実だし……経緯と理由は絶対あるはずだよ」


 曖昧のまま終わるのが嫌なのか、美香は話を続けたそうな意思を見せる。

 が、今日の僕と綾瀬は後ろ向きな為、美香の期待には応えられそうもない。

 だから、なんとなしにペンダントをジッと眺める。

 それは二人とも同じなのか、無言のまま美香の持つペンダントを見つめ続けてしまう。


「そこで何をしている」


 僕達は聞き覚えのある低い声のした方に、ペンダントに夢中になっていた視線を移す。

 すると……そこにはやはりと思える人物がいた。


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