始まりの意思
誰もが知りながら、誰も知らない場所。
誰もが知りながら、場所ではない場所。
誰もが知りながら、夢の消えない場所。
そんな場所があるならば。
人は歌うように口ずさみながら、現実という世界に視線を戻す。
そう……誰もそのような場所を心から信じていないのだ。
それは罪ではない。
それは偽りではない。
だが、それは真実ではない。
ただ……誰もその扉を見つけられないだけ。
その扉があることを知らないだけ。
扉を知ることができないため。
もしも……扉を知ることができるのならば。
もしも……その場所へ行けるのならば。
もしも……
……そんな願いがあったのだから。
私はその場所に……至る。
だから、今もなお在り続ける。
夢は消えず、魂は消えず、在り方が変わろうとも。
この身が消え失せていようとも。
全てはそのために在り続け……
更なる夢のために待ち続ける。
もしも……この声が聞こえ……
あの扉を開く資格を持つ者がいるならば……
月の無き夜にて……お会いしよう。
***
「……またか」
本日最後の授業の退屈さに負け、机に突っ伏してしまった顔を上げて僕は呟いた。
枕にしていた腕が結構痺れていた為、思っていたより眠ってしまったらしい。
「……って」
まさかとは思うけれど、もうすでに放課後で一人ぼっちなのではと焦り、周囲を慌てて見渡す。
「流石にそこまで机で熟睡しないさ……」
けど、ちょっとだけ焦った。 そんなことが起きたら本当にあんまりだ。
まぁ……ザワザワとした教室内の空気を感じとる限りは、帰りのホームルームはまだ始まっていないようだ。
それに安心しつつも、授業が終わるまで寝てしまったのは少々反省するべき事実。
断っておくけれど、僕は授業を全て寝てすごすような学生ではない。
そんなに寝たらきっと腰や首を痛めるに違いないし……できる人はある種尊敬できる。
寝ぼけていた頭が冴えた頃にクラス担任が教室に入ってくる。
それと同時に僕は片付けていなかった授業道具を鞄に詰め、帰り支度をのんびりと進める。
明日の授業科目を考えながら、鞄に入れる物を判断し、鞄を軽くすることに神経を注ぐ。
そんな中、疲れているのか覇気の無い担任は、ふぅ…と溜息を軽くついて教壇から教室を見渡す。
しかし、視線をすぐに落として退屈しのぎをするためにクラス名簿をパラリと開く。
「…………」
溜息をつきたいのはこっちなんだけどね。
ウチのクラスは担任がこうなのでホームルームがやたら長引く。
いちいち騒がしい教室に注意はしないが、こうやってある程度静かになるまで、ホームルームを始めない。
確かに、大事な連絡事項が喧騒で掻き消されてしまうは困る。
同じ事を何度も言うのを避ける事もあり、タイミングを計ることは必要だと思う。
でもね、もう半年はこのクラスの連中と付き合ってるんだから、ギャアギャアと騒がしい教室が声無くして静まらないのを理解して欲しい。
そして、クラスメイトもその現実に気づいて欲しいし……こうして早く教室から出たい僕みたいな連中を気遣って欲しい。
学校行事とかよりも、こういうところで一致団結できないものなのかなぁ……なんて心の中で愚痴りながら今日も遅刻と諦める。
こうして毎日のように早く教室から出たいのにもかかわらず、足止めを食らう。
そして「美香、毎日ごめんな」と、先に待っているだろう恋人に心の中で謝った。