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Light in the rain   作者: 因美美果
第七・五章
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『一方』

まだまだ未熟なので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。


※この作品は、少し残虐なシーンが含まれます。また少し刺激の強いシーンが含まれます。以上のことが苦手な方はご観覧をお控えください。


この作品は、私の溜め込んできた物語をひたすらに詰め込んでいます。

それでも楽しんで頂ければ幸いです。

 今、私はヘルメスさんと一緒に小さなクレーター跡地でお喋りしています。


 お久しぶりです。

 オリュンポスが一人――デメテルです。


 先日はアイオーニオンさんを勧誘に行って、見事お断りされてしまいました。

 残念でしたが、すんなり頷いてくれるとも思っていません。

 へこたれることないのです。


 そして、今はヘルメスさんにお願いしていた例の件を実行している最中なのです。

 今や世界の脅威と認識される『王国』最強と謳われる十人――特殊任務実動部隊、略して『特務動隊』。

 今日は私がその中の誰かを倒す日なのです。


「僕が今回見つけたのは、特務動隊の八等星――シリウス・カーペントリー。鋸使いのノッポだね」


 私の肩に腰掛けるヘルメスさんは、今回のターゲットを改めて話してくれてました。


 特務動隊は『王国』でも超エリート十人が選ばれます。

 それぞれ得意な武器があり、今から戦うシリウス・カーペントリーさんという男性は、鋸が得意だそうです。


 また、特務動隊は強さを星の光度に準え、数字が少ない人ほど強いらしいです。

 ただ等星を決める方法は結構杜撰らしく、定かではありません。

 カーペントリーさんは八等星なので、八番目に強いってことですね。

 特務動隊の中ではそれほどまでなのでしょうか?


 とはいえ『王国』の選ばれた十人ということは、即ち世界トップテンということです。

 侮れる相手ではありません。


 けれど、こちらもそれなりに手強い自負はあります。

 いざとなれば、ヘルメスさんもいますし、まあ概ね死ぬ前には倒せるでしょう。


「そういえば、私がヘルメスさんに頼んだのって一ヶ月前でしたよね?」

「そうだね。それがどうしたの?」

「はっきり言って遅いです。忘れちゃったのかと思いました」

「そんなこと言うなよ。僕も他に仕事があったんだし、奴らの情報なかなか掴めないんだもの」


 私達の普段の活動は、ゼウスさんからそれぞれに降りてきたお仕事を熟しています。

 それ以外の自主的な活動は基本的に禁止なのです。


 だから、こうして勝手に特務動隊に接触しようとしていることがバレたら、お叱りは免れられません。

 まあ、皆も大体暇な時に色々やっているみたいですから、そんなには怒られないでしょう。


 それに、人間を図に乗らせている主因でもある特務動隊の一人をここで欠けさせられれば、私達オリュンポスにとっても、全世界の亜人の皆さんにとっても、大きな進歩となります。

 私も皆さんのお役に立つのです。


 その為にもヘルメスさんには急いでほしかったのですが、それを後にしてしまうほど順番を守りたいお仕事って何なのでしょう?

 場合によっては、巨人パンチを受けてもらう必要があります。


「他にって、何やってたんですか?」

「コイロ聖教王国ってところで色々とね」


 コイロ聖教王国?

 どこでしょうか、そこは?


「人間至上主義の宗教国家だよ。ゼウスに頼まれて行ってたんだ。面倒だったよ」


 人間至上主義だなんて、なんてけしからん国なのでしょう。

 そんな国は草の根一本たりとも残さずに焼き払ってしまうのが一番なのです。


「そんなことはしないよ。それに、アイオーニオン君のお陰で、亜人に優しい共和国に生まれ変わったんだ」

「へえ、やっぱり立派な人なんですね。私、アイオーニオンさんのこと、もっと好きになりました」


 やっぱり仲間になってくれたら良かったです。

 私は魅力のない女の子なので、アフロディテさんとかが行けば勧誘も成功していたかもしれません。


「ヘルメスさんは具体的に何をしてたんですか?」

「僕はいつも通り裏方だよ。そこの大司祭にとある文を届けたり、教会の神父になってアイオーニオン君達をヘロスに誘導したり、家主を演じてアイオーニオン君達に寝る所を貸してあげたり」

「大変そうですね」

「大変だよ。普段の伝令もいつも通り熟さないといけないしね」


 そう言いながら、ヘルメスさんはばさばさと背中の翼を羽ばたかせます。

 伸びみたいなものでしょうか。


 言い忘れていましたが、ヘルメスさんは鳥人です。

 朱鷺の鳥人なので、薄桃色の羽がとても綺麗です。


「カーペントリーさんはいつ来るんですか?」


 かれこれ小一時間ほどこのクレーター跡地で待機しています。

 ここは大昔に隕石群が落下した、小規模のクレーターがいくつも残っている土地です。


「もう少しだよ。今、僕達がここまで誘き寄せているから。その後は好きに暴れて良いよ」


 ヘルメスさんの調べによると、カーペントリーさんはさっきまで小国の悪代官さんの暗殺任務を遂行していたそうです。

 移動中の馬車を襲撃し、五十人ほどの警備諸共皆殺しにしてしまったそうです。

 その悪代官さんも人間らしく、互いに殺し合っている様は、人間の愚かしさを再認識させてくれます。


「承知だとは思うけれど、殺してはいけないよ」

「ええ、もちろん承知です。意味は分かりませんけど」


 オリュンポスでは『勝手にお仕事をしてはいけない』以外にも、色んな決まり事があります。

 その中の一つが『殺しをしてはいけない』というものです。


 ゼウスさんが決まり事を定めていますが、こればかりはどうして駄目なのか分かりません。

 しかも、これを破ろうとすると、他の決まり事を破った時の何十倍も怒るのです。

 それこそ、殺されてしまうのではと思うほどの怒気です。


 なので、今までにこの決まり事だけは誰も破ったことがありません。

 人間を殺すのなんて怖くありません。

 でも、許してくれないのです。


 今回も加減を間違えてうっかり殺さないようにしないといけません。

 二度と戦うことができない体くらいに留めておく配慮が必要なのです。

 私はヘルメスさんのように器用ではないので、上手にできるでしょうか?


「お、そろそろ来るよ」


 と、ヘルメスさんが少し身構え、私も気合を入れ直します。


 クレーター群を囲う森の一角から、ヘルメスさんが現れました。

 さらにヘルメスさんが現れました。

 もう一人ヘルメスさんが現れました。

 どんどんとヘルメスさんが現れます。


「今日はいっぱいいますね」

「まあね。何せ相手は特務動隊だから」


 これがヘルメスさんの能力――『風聞』です。


 その実態は、簡単に言うと分身能力です。

 自身の魔力を核として、自分と全く同じ姿の分身を作り出すことができます。

 核に使う魔力の大きさで分身の強度が変化するので、場合によって上手に使い分けているそうです。

 さらに、分身は本体と記憶や五感を共有できます。


 実体があるので攻撃や運搬もできますし、その逆に殺されてしまうこともあります。

 殺されると魔力が霧散して、その魔力はもう戻ってきません。

 分身を魔力に戻して、自分に取り込むことはできるので、殺されない限りは損失はないそうです。

 もちろん、分身を作り過ぎたり、魔力の大きな強い分身を作ると、分身が生きていても本体の魔力が少なくなってしまうので、ヘルメスさん自身が弱ってしまいます。


 メリットもデメリットも当然ありますが、ヘマさえしなければ便利な能力です。

 分身は常時十五体も稼働しており、オリュンポスの伝令係として頑張ってくれています。


 今回はヘルメスさんの分身がお仕事帰りのペータさんを誘き出してくれているので、追加で十体くらいの分身が作られています。


「そういえば、あなたは本体ですか?」

「ああ、そうだよ」

「そうですか」

「さあ、現れたよ」


 その言葉に森に目を凝らすと、ヘルメスさんの分身を追いかける一人の影があります。

 影は分身を次々に大きな鋸で切り裂いていきます。

 分身が全員やられる頃、私達はカーペントリーさんと対峙していました。


「じゃあ、僕は上から見てるから。頑張ってね」


 ヘルメスさんは私の肩から離れ、少し高い位置で滞空しています。

 私のお願いは『特務動隊の誰かを見つけてほしい』というものでしたから、ヘルメスさんは戦闘には参加しません。


 カーペントリーさんは一定の距離を保ったまま、私達をじっと見つめています。


 人間としてはかなりの長身です。

 二メートルは悠にあるでしょう。

 彼の頬に刻まれた刺青は、彼の家柄を表すものだそうです。

 鋸は両刃のもので、刀身は彼の身長の半分くらいもあります。


「こんにちは」

「…………」


 挨拶が返ってくることはなく、カーペントリーさんは無表情のまま一文字口を開こうとしません。


「私は亜人主義組織『オリュンポス』が一人――デメテルと申します。あなたを今から倒します」

「…………」


 名乗りを上げても、宣戦布告をしても、一向に彼の口は開きません。

 かなり無口な方みたいです。


「あなたは名乗ったりしないのですか?」

「…………特務動隊――『飴玉隊(いぎょくたい)』が一人――八等星シリウス・カーペントリー」


 やっと聞こえた声はとても心地の良い声で、無口なのがもったいないくらいです。

 けれど、その大仰な別名は、気に食いません。

 飴玉だなんて可愛らしい集団ではないくせに。


 流暢に名乗りを上げたカーペントリーさんは二刀の鋸を構えます。

 私も腰に提げた二刀の剣を抜き、彼に突きつけます。


「よろしくお願いします」


 笑ってみせた私でしたが、次の瞬間には目の前にカーペントリーさんの鋸が迫っていました。

 ぎょっとした私は大きく仰け反り、間一髪で躱します。


 けれど、カーペントリーさんの鋸は、仰け反ったせいでがら空きとなった私のお腹に振り下ろされていました。

 鋸の細かく粗い刃が腹の肉を斬りつけます。


「ゔっ」


 鈍い痛みが荒々しい傷口を作り、私はそのまま尻餅を着いてしまいます。


 そもそも鋸は人を斬る為のものではなく、木や金板などを切って加工する為のものです。

 押したり引いたりして、少しずつ切り口を作っていく道具なのです。


 こんなもので人を斬れば、荒い瑕疵を重ね、ゆっくり苦しみながら殺すことしかできません。

 何て非人道的な武器なのでしょうか。


 彼は尻餅を着いた私にさらなる追撃を仕掛けてきます。

 傷口にもう一度鋸を振り下ろし、痛む傷口をさらに広げてきます。

 同じところを何度も斬りつけ、丸太のように私を真っ二つにするつもりなのです。

 そういう意味では、鋸使いとしての戦い方は正しいと言えるでしょう。

 鋸を戦いに用いること自体が正しいかは別として。


 早々に決着をつける気なのでしょうけれど、私も黙って死ぬつもりは毛頭ありません。

 剣を私の腹に乗るカーペントリーさんの脇腹へ目掛けて突きつけます。


 彼は傷口を踏みつけて高く飛び跳ね、軽く私の一撃を避けました。

 痛みが体を走りますが、それは耐えられる範囲内です。

 飛び跳ねたカーペントリーさんは空中で避けようがなくなっています。

 そこにもう片方の剣を横薙ぎに振るい上げます。

 彼は鋸二刀で剣を受け止めますが、空中では踏ん張ることなどできるはずもなく、衝撃でさらに高く吹き飛びました。


 私は即座に起き上がり、宙を舞う彼を追いかけ、助走をつけて飛び跳ねます。

 二刀の剣で左右から挟み込むように薙ぎ、カーペントリーさんの胴を真っ二つに斬りつけます。


 しかし、左右から襲いくる剣に対し、彼は鋸を一刀ずつ左右に構え、ぎりぎりで受け止めました。

 それでも完璧に防ぎ切ることはできず、構えた鋸の自分側に向いた刃が自身の脇腹に刺さってしまいます。

 両刃が裏目に出ましたね。


 しかし、彼は傷などに構うことなく体に回転を加え、刃で体を斬りつけながら受け止めた私の剣を回転の勢いで弾き返してきます。


 何という機転と度胸でしょうか。

 顔色一つ変えず、まるで傷の痛みすら感じていないのではないかと思ってしまいます。


 両手の剣を弾き返され、腕を左右に広げてしまっている状態の私は、無防備そのものでした。

 服も武器も無いのと同じでした。


 カーペントリーさんは落下しながら、私の右目に鋸を振り下ろしてきます。

 私は僅かに顔を逸らし、右目を失うことはどうにか避けられましたが、代わりに頬に痺れるような痛みが迸ります。

 女の子の顔に傷を付けるだなんて、許せません。


 しかし、そう思っても状況は私の不利が続くばかりです。

 顔に乗っかるカーペントリーさんを蝿を払うように手の甲で殴りかかりますが、逆に手の甲を斬りつけられてしまいます。


 仕方なく矮小化の魔法を自分にかけ、カーペントリーさんとの距離を無理矢理広げました。

 しかし、せっかく広げた距離もすぐに詰められてしまいます。


 巨人の時の二刀の剣と互角に渡り合っていたカーペントリーさんですから、人間サイズの力となった私ではもはや太刀打ちができません。

 鋸の連撃に圧倒され、体に傷が増えていくばかりです。


「……にしても、随分と何でもない風に斬りつけてくれますね」

「…………」


 仕事人というか、機械じみているというか、敵を排除するだけのマシンのようです。

 自身の負傷も時に顧みず、最善の手を打ってきます。

 とても厄介です。


 油断していたわけではありません。

 しかし、どこかで侮っていたのかもしれません。


 これは渋っていられる場合ではないですね。


 私は大きく距離を取り、その瞬間に二刀の剣を仕舞い、代わりに背中の大剣を構えます。

 カーペントリーさんは空いた距離をすぐ様詰めてこようとしますが、こちらはそれを読んで、既に大剣を深く振り被ってしまっているのです。


「――!」


 顔色こそ変わりませんでしたが、ほんの少し彼の瞳が見開きました。

 寸前で二刀の鋸でガードされましたが、振るわれた大剣はカーペントリーさんに重たい一撃を落とし、その衝撃のまま彼は地面に叩きつけられます。

 ここでも、両刃が裏目に出て、押し負けた鋸の刃がカーペントリーさんの額に少し刺さりました。


 さらに『豊穣』を発動し、地面の土くれを自在に操ります。

 倒れるカーペントリーさんに土砂が絡みつき、彼の手足を広げ、枷のように動きを封じ込めてしまいます。


 大の字になって地面に縛りつけられたカーペントリーさんを見下ろしながら、私はもう一度大剣を深く構えます。

 殺すことはできないので、彼の右腕を目掛け、思い切り振り下ろしました。


 ――その瞬間、カーペントリーさんは指の動きのみで鋸を操り、彼を縛る土砂の枷を器用に斬り裂いてしまいました。

 自由になった片腕で私の渾身の一撃を往なし、大剣は何でもない地面を大きく破りました。


 その隙に、彼は土の枷を全て破壊し、一瞬で起き上がります。

 私が地面に深く刺さった大剣を抜いている間に、私のお腹を強く蹴りつけ、距離を離しました。


 傷の深いお腹に痛みが走り、一瞬動きが封じられてしまいました。

 その一瞬が、最後の敗因でした。


 カーペントリーさんの猛攻が始まり、私はそれを防ぎ切ることもできず、少しずつ血と体力を削がれていきます。

 彼の一撃は回数を増やすごとに威力を増し、その連撃に私の体は徐々に痺れてきます。


 本当にまずい状況になってきました。

 いつ殺されてもおかしくありません。


 あれえ、こんなはずではなかったのですが、勝機はとっくに消えていました。

 早く気付いていられたら、逃げることもできたのでしょうか。


 しかし、こっちもプライドがあります。

 人間を許せない恨みも、人間に負けられない意地も、簡単に切り離せないのです。

 ここで命を落としても――命を賭しても、退いてはならない一歩があるのです。

 踏み出さなければならない一歩があるのです。


 私は一撃を諸に喰らう覚悟で、大剣を振り被りました。

 深い傷がお腹に刻み込まれ、痛みに悶えます。

 けれど、今はその痛みも歯を食い縛って耐え抜くしかないのです。

 巨人のタフさを舐めないでください。


 ――振り下ろした大剣は、確実にカーペントリーさんの脳天を捉えていました。

 よくよく考えたら、これが決まってしまうと、彼の命はないでしょう。

 そう思うと、ここで決まらずに済んで良かったのかもしれません。


 とはいえ、渾身の一撃を片手の鋸で受け止められてしまうというのは、少し――というか、かなりショックでした。

 痛みの蓄積が度を越してしまい、そんなに力が入らなかったのでしょうか。


 結局、私は無駄に傷を重ね、さらに大きな隙を生んでしまいました。

 私の両手を塞ぐ大剣を彼は片手で防ぎ、もう片手の鋸を顳顬目掛けて薙いできます。

 こればかりは直撃を免れません。

 そして、直撃したら、死は免れません。


 私一人の力とは、まだまだ未熟なのでした。

 傲慢も甚だしく、側から見ていたヘルメスさんは、さぞかし煩わしかったことでしょう。

 だから、思わず割って入ってしまったのです。


「帰ろうか、デメテル」


 私の頭を真っ二つにするはずだった鋸を、ヘルメスさんがご自慢のハルパーと呼ばれる武器で受け止めてくれました。


 そして、ヘルメスさんはもう片手に杖を持ち、魔法を発動させます。

 ヘルメスさんはその杖を『ケーリュケイオン』と、格好良い名前をつけて呼んでいます。

 実際は、何の謂れもない普通の杖だそうです。


 魔法によって地面から鋼鉄の槍がいくつも飛び出し、カーペントリーさんを串刺ししにかかります。

 カーペントリーさんもそれは避けざるを得ず、真上に高く飛び跳ねて躱しました。


 すると、ヘルメスさんは分身を一気に十体生成し、カーペントリーさんへけしかけます。

 その隙に、本体のヘルメスは私を抱えて森へ向かいます。


 どうやらここまでみたいです。

 ヘルメスさんが居なかったら、私は簡単に殺されていました。

 自分の弱さが不甲斐ないです。

 それ以上に、自分の力量を正しく計れなかったことが悔しいです。


 ぽろぽろと涙で流れて止まりません。


「泣くのは逃げ切ってからだよ」

「うう、はあい」


 しかし、カーペントリーさんは速攻で分身を倒し、私達を追いかけてきます。


「これは無理かなあ」


 ヘルメスさんは不安げにそう呟きました。

 彼は戦闘向きではないのだそうです。


 けれど、そんなことを知るはずもないカーペントリーさんは、何の躊躇いもなく鋸を私達の背に振り下ろしてきます。

 鋸はまるでお豆腐を切り裂くように、私達の胴体を真っ二つに裂きました。


「――!?」


 さすがに、カーペントリーさんも驚いたみたいです。

 鋸で人の体をお豆腐のように斬れるはずがないことは、彼が一番理解しているでしょう。


 彼が追いかけて斬り伏せたそれは、ヘルメスさんが作り上げた分身の一つに過ぎなかったのです。


 しかし、分身のヘルメスさんは私も背負っていました。

 けれど、その私さえもヘルメスさんのでっち上げた分身なのです。


 これが彼の二つ目の能力――『変容』です。

 見た目も感触も別の誰かに変わることができる能力だそうです。

 さらに、この能力は分身にも適用可能なのです。

 なので、先程斬られた私は、ヘルメスさんの分身が私の姿を模していただけなのでした。


 ヘルメスさんは嘘がお上手です。


 カーペントリーさんがまんまと騙されている間に、本当の私とヘルメスさんはとっくに森の中へ逃げ込んでいました。


「ふう、どうやら追ってはこないみたいだね。諦めてくれたらしい」

「……ヘルメスさあん……」


 私は抱えられながら、彼の顔を見上げました。


「何だい?」

「ごめんなさい……」


 彼は作ったように綺麗な笑顔で「良いよ」と、言ってくれました。


 こうして、私の第一回目の特務動隊への挑戦が終わりました。

 惨敗も惨敗でしたが、学ぶことも沢山ありました。

 もっと自己鍛錬に努め、いつか満を辞して、万全を期して、彼らも『王国』もめちゃくちゃにしてやりたいと思います。


「帰ったら、きっとお説教が待っているぞ」

「嫌だなあ」

「その割に、嬉しそうだね」


 帰る場所に帰れることに、何だか笑みが零れてしまうのでした。

 

次回にご期待ください。


本作品は、不定期更新となります。次の物語をお待ちください。

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