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Light in the rain   作者: 因美美果
第七章――1
72/77

『背信』

まだまだ未熟なので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。


※この作品は、少し残虐なシーンが含まれます。また少し刺激の強いシーンが含まれます。以上のことが苦手な方はご観覧をお控えください。


この作品は、私の溜め込んできた物語をひたすらに詰め込んでいます。

それでも楽しんで頂ければ幸いです。

 落とされた先は、そのまま地下牢獄に繋がっていた。


 燭台の火が生きているように揺れて、牢獄を薄く照らしている。


「痛え……」

「腰打ったわい」

「皆、大丈夫?」

「……あの小娘」


 結局、全員揃って階下に落とされてしまった。


「アイオーニオンさんか!?」


 打ちつけたお尻を摩っていると、向かいの牢から聞き覚えのある声が飛んでくる。

 暗がりの奥に目を凝らしてみると、檻の中にはオリクトさんを含めたギルドメンバーが入っていた。


「オリクトさん、何で捕まっているんですか!?」

「あいつだよ、大司祭の仕業だ。俺らだけじゃない」


 他の牢にも目を遣ると、犯人逮捕のために集まった傭兵や旅人の人達が、人種関係なく捕まっている。


 どういうことだ。

 一度に多くの情報が入ってきて混乱してくる。


 私は開いた天井のコルキを見上げた。


「おい、コルキ」


 私の呼びかけに、腕を組んでこちらを見下ろしている。


「何かしら?」

「君が騙したってことで間違いなんだな?」

「そうね」


 悪びれもせず、彼女は変わらない表情で答えた。


「蝙蝠女め。鳥のくせに」


 オールはコルキを睨みつけ、今にも竜に戻って攻撃しようとしている。


「ちょっと待て」


 私はオールを制し、一旦会話を試みる。


 すると、コルキの隣にエクヴォリとティレシアスが立ち、彼女と同じように私達を覗き込む。


「やあやあ、実に嘆かわしいね。こんなにも簡単に捕らえられてしまうとは」


 嫌味な顔でエクヴォリは話し出す。


「短い安息は如何だったかな? 彼女の修道院の亜人達との二日間は」

「!」


 何故、修道院の子ども達の正体をエクヴォリが知っているんだ。

 もしかして、それもコルキが――


「いいや、違う。それよりも先に、知っていたことだ。彼女の正体も、子ども達の正体も、全て我々が事前に把握していたことだ」


 何だと? なら、既にコルキの正体や所在は把握されていたってことか?

 コルキもそれを承知で、聖教会に加担したのか。


「誤解してはならないのは、彼女の行動は決して子ども達を苦しめることではない。彼女が子ども達を守る為に選んだことだ」

「……何だと?」

「彼女はね、我々と取り引きしたのさ。君らを引き渡す代わりに、彼女と修道院の子ども達の安全な暮らしを保障することをね」


 最初から、私達を騙す気で作戦を持ちかけてきたってことか。

 私達を殺そうとしたのも、その為か。


 私はもう一度コルキに目を遣る。

 一瞬私と目が合うと、すぐに目を逸らした。

 先程から押し黙ったままの彼女に、少し苛立ちを覚える。


「コルキ、自分から話せよ。君が始めたことだろう」

「…………」


 この後に及んで黙秘とは、気に食わない。


「おい、何か言え」


 オールも痺れを切らし、低い声で怒りを放つ。


「お前が子ども達を守りたいのは、理解できる。しかし、騙された私達にとっちゃ、関係ない。お前の大切な子ども達など、私の仲間の命と秤にかければ、取るに足らんぞ」

「……何よ、あんた達だって偽善者みたいなもんじゃない。今までどこの国を助けてきたのか知らないけれど、その横で苦しんでいるあたし達のことなんて知らなかったでしょう。正義の味方気取りも大概にして」

「してねえよ」


 そう言ったのは、私である。


「誰がいつ正義の味方だと名乗ったよ。こっちだって万人に認められる善行なんてしているつもりは更々ないんだよ。助けたいたった一人の為に世界壊す気で動いているんだ。君の言う綺麗な正義なんて掲げる訳ないだろう」

「私だって、綺麗な正義なんて掲げてないわよ! 盗みをして、姿を隠して、皆を騙して、どれだけ泥を被ってきたと思っているのよ! それでも、お互い正しさをぶつけて、それであんた達が負けたんでしょう! とやかく言われる筋合いないわ!」

「そうだよ。僕らには、とやかく言う筋合いはないさ」

「……だったら、何なの。何が言いたいの」

「君が勝ち取った正しさなんだろう。だったら、そんな後ろめたい顔してんなよ」

「…………!」


 コルキは唇を噛み締め、衝迫する何かを必死に抑え込んでいる。


「君から結んだ約束だろう。君が破った約束だろう」

「…………だから、約束なんて嫌いなのよ」

「ああ、僕も嫌いだよ」

「ああ、私も嫌いだよ」


 今まで黙っていたエクヴォリが突然割って入り、そう相槌を打った。


「だからね、コルキ。私も約束を破らせてもらうよ」


 その言葉を合図に、ティレシアスがコルキを抜けた穴へ突き落とす。


「え――」


 そして、次の瞬間には、エクヴォリが腰に佩びた銃を構え、撃ち放っていた。

 銃声が四度鳴り響き、弾丸は全てコルキの翼を射抜く。


 傷ついた翼では飛ぶこともできず、コルキは為す術なく牢へ墜ちる。

 私は彼女を受け止め、エクヴォリを睨みつけた。


「おい、どういうつもりだ」

「どうもこうもないだろう。初めから、亜人風情と取り引きするつもりはないのだよ。汚れた種族と契りを交わすとでも思ったのか?」

「クソ野郎が――うう……」


 憤慨を込めてエクヴォリを睨むコルキだったが、翼の痛みは確かで、弱々しく呻く。


 どこまで騙し合えば良いんだ――どこまで疑い合えば良いんだ。


「さあ、罪人は全て揃った。あとは刑を執行するのみだ」


 その声に彼の背後の聖騎士達が喧しい雄叫びを上げる。

 エクヴォリがもう一度指を鳴らすと、開いた天井が閉まり始める。


 「フィン、行くか?」


 オールの問いに私は首を横に振る。

 それに対し、オールも何も言わずに従う。


「アイオーニオン、聞きたいことが山積みだろう。今からそこに行ってやる。冥土の土産だ、全て答えてやろう」


 段々と閉じていく天井の隙間から、彼はそう言った。



   〇   



 彼がこちらへ来るまでの間、コルキの手当てをナキとオールに任せ、私は先に捕まえられていたオリクトさん達に話を聞く。

 牢には警備の聖騎士が勿論いるので、あまり大きな声では話せないが。


「アイオーニオンさんが逃げてすぐのことだった。突然、今回の事件で集まったギルド組合員や傭兵ら全員が聖騎士団に捕らえられて、この牢に入れられたんだ。『人間の皮を被った化物』だとエクヴォリが聖騎士に指示してな」


 私達が殺されかけた理由と同じか。

 となると、可能性として高かった、エクヴォリが私達の正体を知っているという線が薄くなってくるな。


「実は、アイオーニオンさん達が犯人なのかと思っっていたんだ。でも、どうやら違うみたいだな」


 彼は私の背後で治療を受けているコルキに一瞥した。


「その鳥人が犯人ってことなんだろう?」

「はい」

「……でも、その子も何か事情があったんだろう。聖教会を敵に回すくらいだし」


 そこで、牢屋の鉄扉が開き、エクヴォリが現れる。

 彼は牢屋を警備している全ての聖騎士に外に出ているよう命令する。

 退出させるだけではなく、牢屋から離れた場所で待機するようにも指示を出した。

 聖騎士達はその命令に何の疑いも持たず、唯々諾々と従う。


 全員が出て行き、足音が離れたことを確認すると、こちらへ闊歩して近づいてくる。

 私は檻の際で待ち構え、エクヴォリと対面する。


「さあ、始めようか」

「質問に入る前に、どうせならここにいる全員に聞いてもらおう。冥土の土産は全員に配らないとな」

「ああ、良いだろう」


 エクヴォリは声を強め、檻の中の全員に語りかける。


「何でも聞きたまえ」


 なら、まずは小さなことから軽く始めようか。


「警備を追い出したのは、この会話を聞かれない為か?」


 私の問いに、彼は息を鳴らして不気味に微笑む。


「その通りだよ。この国は今、俺の手中にある。都合の悪い要素は消さねばならない」


 俺――ね。

 今は本音って訳か。


「コルキのことについて――あの修道院について、お前が知っていること全部教えろ」

「良いだろう。なら、まずは女の話からしようか」


 彼はコルキを見て、にたにたと笑みを浮かべる。


「彼女が『トポス・ティアラ』を盗みに来ることは事前に分かっていた」


 事前に――だと?

 どういうことだ。予言したとでも言うつもりか?


「ああ、そう思ってくれても良い。『ある報せ』があってな――それについては後ほど話そう。とにかく、俺はコルキが来ることを知っていた。故に、宝物庫で彼女を待ち構えていた。故に、俺は彼女を一度捕まえた」

「……なのに、逃したのか?」

「ああ、そうだ。国宝が盗まれることも見過ごし、長年この国の食糧を不当に盗んできた亜人を逃したんだ。何故か、分かるか?」

「僕らを誘き寄せる餌にしたのか」

「そうだ、察しが良いな。最初は俺からの一方的な命令だった。『いずれこの国を訪れるフィン・アーク・アイオーニオンの殺害に手を貸せ』とな。コルキは最初拒否してきた。だが、その時既に俺に甚振られた後で、抵抗する力も無い。拒否したなら、殺すだけだったよ。だから、泣きながらも強がるコルキには唆られたよ」


 その言葉に、思わず彼女の方へ振り向く。

 すると、エクヴォリは――


「安心しろ。手は出していない。亜人とは決して交わらないと決めているからな」


 ――と、謎のポリシーを誇示した。

 何にしても、コルキの純潔が守られているのなら、一安心だが。

 いや、そもそも彼女が純潔とも限らないが。


「しかし、コルキも強気な女だよ。一方的な命令に交渉をしてきた。『命令に従うから、見返りを寄越せ』と」


 その見返りが、彼女と彼女の子ども達の安全の保障――ということか。

 そして、エクヴォリはその取り引きを破棄した。


「そりゃ、そうさ。こっちは後払いだからな。払うかどうかは気分次第さ」


 けたけたと嗤う彼に、静かな憤りを覚える。

 腹の立つ奴はこいつだけじゃなかったし、こいつが一番だとも思わないけれど、思わず拳に力が入る。


 しかし、今は力を抑え込めて、質問を続ける必要がある。


「修道院の子ども達が亜人であることも、事前に知っていたようだな。それは何故だ?」

「それも、『ある報せ』って奴のお陰さ」


 その『ある報せ』ってのは、一体何なんだ。

 予言書めいたもののように思えるが。


「あながち間違ってはいない。しかし、真実ではないだろう」


 微妙に回りくどいな。

 はっきりしない部分が多い。


 しかし、そもそも私の殺害の助力をコルキに求めたということは、その時点で私の存在――どころか、私達がコイロに訪れることも知っていたということになる。

 それも『ある報せ』に書かれていたということか?


「ご名答だな。その通りだよ。お前達は、魔国と我が国の繋がりを探る為にこの地に来たのだったな」

「――!」


 何故、それを知っている。

 目的までは言っていないはずだよな。


「分かってしまうのだよ。『報せ』には、全てが書いてある。お前の正体もな」


 私は『報せ』というその正体に気づいているのかもしれない。

 しかし、答えにはしたくなかった。

 それは、私にとってとても悔しいことだったから。


「『ある報せ』とは、大魔王国国王――イストリア・ヴィヴリオからの手紙だ」


 私が求めていた答えを、こんな形で手に入れたくはなかった。



   〇   


「その手紙は、聖王宛てではなく、俺宛てに届いた。亜人の国からの手紙だからな。正直、目を通すものか悩んだが、結果的に見て良かったよ。それからの全てが書いてあったのだからな」


 イストリア・ヴィヴリオ――カサルティリオは私達がコイロに行くことを予測していた。

 ――というより、カサルティリオが私達をコイロに行くよう仕向けた。

 やはり、コイロ硬貨が飛行船から発見されたのは、魔国の計画の一つに過ぎなかったのだろう。


 こうなると、私達はまんまと魔王の掌の上で踊らされてしまったことになる。

 屈辱的だ。


 いかん。

 ここで折れていては駄目だ。

 当初の目的は無意味に終わったが、今は新たな問題の最中なのだから。


「……手紙には何と?」

「コルキの正体と犯行と拠点、修道院の子ども達の正体と経緯、コルキとの関係――そして、お前の情報だ」


 エクヴォリは突然檻の中に手を伸ばし、私の胸ぐらを掴み、檻越しに自分へ引き寄せる。

 私だけに聞こえる声で囁いてくる。


「お前が人間ではないこともお見通しだぞ」

「……僕を殺してどうするつもりだ」

「金だよ」


 金――結局僕は金の為にこいつに殺されるらしい。


「お前は丁度良い迫害の対象になるんだ。人間の皮を被り、その実どんな生き物にもなれるのだろう。その証拠に、お前が逃げた時、翼の生えた生き物になっていた。鳥人ではない――あれは何だ?」


 竜人はさすがに知らないみたいだな。

 勿論、教えてやらないけれど。


「亜人にもなれるのだろう? できれば、その姿で死んでくれ。『亜人の国を何度も救った人間被りの化物』――民衆からしたら、さらに亜人迫害が進み、さらに人間崇拝が進む。大罪人コルキの処刑と合わせれば、その効果は絶大だ」

「その効果ってのは、経済効果か?」

「そうさ」


 人間崇拝が進めば、パラミ教の熱心な信者も増え、現在売られている偶像の売り上げも加速するだろう。


「結局、神も金の道具かよ」

「当たり前だ。宗教ほど金儲けになるものはない」


 確かに、こんな話は警備の聖騎士には聞かせられないな。


「『神』というコストゼロの希望と『亜人』という悪を用意するだけで、人々は金を落としていくのだから、こんなに楽な商売はない。あの偶像もただの木彫りだよ」

「……その下品な鎧も、そのお陰か」

「ああ、そうさ」


 私は首襟を掴む彼の手を払い、掴まれた部分をはたく。


 どっちが汚れているんだ。

 お前がそんなものに散財している傍らで、コルキは罪を被って子ども達を助けていたというのに。


「しかし、その役目もそろそろ終わるだろう。首を刎ねられて終いだよ」


 それを聞いたコルキが、はっとしたように立ち上がり、檻に掴みかかる。

 檻が無ければ、今度はエクヴォリが胸ぐらを掴まれていただろう。


「おい、子ども達はどうする気? 私が居なくなった後、あの子達の世話は――」

「ああ、そのことだがな、もう解決している頃だろう」

「は?」


 エクヴォリは飛び切り卑しい笑みを浮かべ、コルキの表情に悦楽している。


「お前達と入れ替わりで、あの修道院に聖騎士団を送った。亜人の住処など、今頃大火を上げて燃え盛っているだろうな」


 彼女は言葉を失った。

 私も内心怒りで気がおかしくなりそうだった。

 後ろで話を聞いている皆も、同じ気持ちだろう。


「下衆が」と、言って耐えるのが、私にできる精一杯の自制だった。

「負けた正義の戯言だな」と、エクヴォリは簡単に嘲る。


 コルキは激昂し、腿のナイフを手に取り、檻の外に手を伸ばしてエクヴォリに突きつける。

 しかし、彼はそれを軽く往なし、コルキの手からナイフを奪う。


「残念だったな。もう子どもらは居ない。お前も早く会いに行ってやるべきだ」


 コルキはその場に膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。

 彼女の慟哭は牢屋で反響する。

 ナキが駆け寄り、彼女をそっと抱き締め、頭を撫でる。


「質問は以上でよろしいかな?」

「待て」


 立ち去ろうとするエクヴォリに、私は最後の質問を投げかける。


「部外者を捕らえたのは何故だ。今回の件に彼らは関係ないだろう」


 エクヴォリは他の牢を一瞥する。


「無関係とも言えんだろう。ある程度、事情を知られた」

「それだけじゃないよな」

「そうだな。中には亜人もいる。今回の件の共犯者として処刑台に立たせれば、信者のパラミ教崇拝に多少の助けとなろう」

「人間だっているぞ?」

「だからこそ、『人間被り』のお前がいるんだ」

「捏造でも良いと?」

「ああ、俺を裁く神はどこにもいないのだから」


 とんだ茶番だな。


 今のエクヴォリの言葉に、他の傭兵達にも彼に対する怒りが湧いてきたらしい。

 それなら、重畳だろう。

 味方は多い方が良い。

 味方でなくとも――敵の敵はいてくれて構わない。


「それじゃ、もう良いかな?」

「ああ、とっとと失せろ」


 不気味な笑みを残し、彼は牢屋を出て行った。

 コルキの泣き声はまだ止まない。



   〇   



 壁に凭れて座りながら、燭台の蝋燭が溶けていく様子を眺めていた。


 隣には膝を抱えて座り込むコルキがいる。

 もう泣き止んだ様子だが、まだすんすんと鼻を鳴らしている。


 他の皆も同じように壁に寄りかかったり、横になったりしていた。


「……間違っていたのかな」


 ずっと黙ったままだったコルキは、細い声でそう言った。

 その声にはいつもの強情さや勝気さは欠片もなく、弱々しさだけが克明に顕れていた。


「あたしだって、抱えずに済むなら、こんなことしなかったわよ」


 震えた喉から零れる文句に、黙って耳を傾ける。


「でも、仕方ないじゃない。あたしが守ってあげなきゃ、あの子達は死んでしまっていたんだもの。見捨てられないわよ。だって、亜人に生まれてきただけじゃない」


 包帯が巻かれた手負いの黒い翼も、彼女を慰めるように優しく包み込んでいる。

 まるで別の生き物のようだった。


「この国の奴らが助けないから、あたしが助けるしかなったのに。盗みが悪だなんて言うなら、最初からあの子達を助けてよ。あたしが罪を被らないと生きていけない世の中のくせに、誰も変えようとしないじゃない。自分達が騙されていることも知らないで、恥ずかしげもなく石を投げて」


 次第に、背中も震え出し、吐露される思いは箍が外れたように垂れ流されていく。


「嘘だって吐くしかないじゃない。子ども達に心配かけられないじゃない。子ども達を盗人に育てられた子にする訳にはいかないじゃない。子ども達に嘘吐いて――傷つかない訳ないじゃない」


 冷たい石の地面に温い雫が滴る音が鼓膜を揺らす。

 消え入るほど小さな音なのに、痛いほど耳に焼きつく。


「人間が幸せになれる国で人間に生まれて、皆が持っている幸せを自分で手に入れたような顔をして、正義の味方みたいに平気で悪者扱いしないでよ。何であたしが悪者なのよ。自分が満たされる為の悪者に付き合わさないでよ。あたしだって、そうなりたかったよ」


 すぐ隣にいる彼女が、とても小さく見える。

 ずっと逞しかった彼女が、今にも壊れそうに思える。


「困ってる子ども達を助けて、肥えた奴らからご飯を奪って、何が悪いの? 何もしてない人から奪っていく奴らに何を言われる筋合いがあるの? 悪者はあたしだって言うなら、あたしのことは誰が助けてくれるの? 正義の味方は、悪者のことなんか、助けてくれないのかな」


 眺めていた燭台の蝋燭がもうすぐで溶け切ろうとしていた。

 揺らぐ灯火も随分と小さくなっている。


「でも……もう、皆居ないよ。皆、あたしのせいで死んじゃったよ。助けたかったのに――幸せに生きてほしくて助けたはずなのに――あたしのせいで――」


 コルキは顔を上げて、再び泣き始める。

 落ち着いて、子ども達が居ないことを本当に思い知ってしまった。


 泣き叫ぶ彼女を今度もナキが抱き締める――のではなく、私が頭を撫でた。

 決して彼女の方は向かない。

 もう居ない子ども達の顔も、今だけは思い出さない。


 私達の戦いはまだ終わっていない。


「皆、あの蝋燭が消えたら」


 それ以上は何も言わない。

 その言葉だけで、皆は頷く。




 灯火が溶けた蝋に消える――




 それを合図に、私達は動き出す。


 竜人になった私が檻を闇の霧で無に帰し、脱出路を作る。

 そこからオールとアルステマが牢の外へ飛び出し、警備の聖騎士を黙らせる。

 二人の強烈な一撃で聖騎士が失神し、牢屋は私達の自由となる。


 一瞬の出来事に、その場にいた私達以外の全員が絶句する。

 コルキも思わず涙が引っ込んだようだ。


「あんた達、何をしたの……というか、アイオーニオン、あんた、その姿……」

「黙ってて悪かったな。僕ら、こんなんばっかなんだ」



   〇   



 全ての檻を破壊し、オリクトさん達全員も脱出させ終える。


「君らは一体……」


 オリクトさんは牢から出ながら、驚いた表情で私を見る。

 詳しい話は事態が収束してからにさせてもらう。

 とにかく今は迅速な行動が先決だ。


「傭兵の皆さんには、聖騎士団の相手をしていただきたい。その間に、僕らでエクヴォリを失墜させられる証拠を手に入れます」

「ああ、分かったよ。ここで死ぬのを待ってられないさ」


 よし、これで味方が十分な数に増えた。

 聖騎士団の人数に比べたら小さいだろうが、彼らも並みの兵士より実力はあるだろう。


 私は牢の中で未だに座り込んでいるコルキに目を遣る。


「コルキ、行くぞ。子ども達への手向けだ。この国を変えよう」


 彼女は濡れた頬を拭い、不屈の表情を浮かべた。


「ええ」


 きっとまだ傷は癒えていない。

 当たり前だ――生き甲斐にしてきた最愛の子らを、失ったのだ。

 嘘ばかり吐いてきた彼女が、偽りなく愛した子ども達なのだ。

 すぐに忘れられて堪るか。


 せめて、エクヴォリだけは天誅を下してやらなければ、こちらの気が済まない。


 牢屋から飛び出し、目につく聖騎士達の気を堕とす。

 まだ騒ぎを立たさせる訳にはいかない。


 私は皆の方へ向き直り、指示を出す。


「傭兵の皆さんは先程も言った通り、聖騎士達の牽制をお願いします。数の不利は目に見えています。危険だと判断したら、すぐに逃げて下さい」

「ああ、必ず役に立ってみせるよ」

「アルステマとアラフも聖騎士達の相手を頼む。なるべく掻き乱してくれ」

「分かった」

「了解じゃ」

「ナキとオールはエクヴォリの私室へ。ナキとオールは奴の証拠を探し出してきてくれ。恐らく、そこに宿敵もいる。気をつけて」

「うん、任せて」

「ああ。小娘、証拠の所在は嘘じゃないだろうな?」

「それは本当よ。この目で確かめたわ」

「僕とコルキは謁見の間へ向かう。そこにも、倒さなければならない奴がいるからな」


 指示は全て出し終えた。


「それじゃあ、始めようか」


 全員が一斉に走り出す。


 この作戦を成功させられるか否かは、全員の活躍に懸かっている。

 誰か一人でも欠ければ、他の全員が背中を斬られることになる。


 どうか皆へ――ご武運を。

 

次回にご期待ください。


本作品は、不定期更新となります。次の物語をお待ちください。

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