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Light in the rain   作者: 因美美果
第六・五章
62/77

『帰還』

まだまだ未熟なので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。


※この作品は、少し残虐なシーンが含まれます。また少し刺激の強いシーンが含まれます。以上のことが苦手な方はご観覧をお控えください。


この作品は、私の溜め込んできた物語をひたすらに詰め込んでいます。

それでも楽しんで頂ければ幸いです。

 ネオン王国の豪華絢爛な馬車に乗り、ぶっ通しで走らせ、少しでも早くネフリを目指す。


 洛西獣が用意してくれた馬車は二台。

 引き馬の数は一台につき二頭。

 私とアルステマちゃん、スキロス君とアルクダ君に分かれてそれぞれ馬車に乗る。


 速度は出ているけれど、それ以上に距離が長い為、時間はかかってしまう。

 馬車を運転してくれる御者の方々もできる限り急いでくれている。


 そうして、馬車に揺られながら半月が経った頃、私達は辿り着いた。

 私達の帰る場所――ネフリティスホリオはすぐにそこに見えていた。


 村の門の前に馬車を停めてもらい、私達は馬車から降りる。


 すると、門の矢倉で見張りをしていた鼬の少年のガレー君がすぐにこちらへ駆け寄ってきた。


 久し振りのネフリに感動したい気持ちもあるけれど、今は緊急事態――すぐに村とオール様の様子を確かめなければ。

 マーブリさんのあの手紙の「助けて下さい」とは、一体どういう意味なのか。


「ガレー君、村の皆は?」


 私達が乗ってきた馬車に驚きつつも、彼は「大丈夫です。皆は元気です」と、答えた。


「ごめんなさい、遅くなってしまって。怪我人はいない?」

「いえ、幸い怪我人はいません。…………フィンさんとナキさんは?」

「……ごめんなさい、あの二人はまだ来られる状態じゃなくて……」

「そう、ですか……いえ、四人が帰ってきてくれただけでも良かったです。とりあえず皆のところへ行きましょう」


 私達はネフリの門を潜る。

 皆の元へ向かう途中、村を見渡してみても、特に変わった様子は見られなかった。

 見た目的には何か問題が起こった感じもない。

 直接的な破壊が為されたとかではなさそうだ。


 しかし、すれ違う村人の顔は不安を抱いていて、私達の帰還に気づくと「おかえりなさい」と、心底安心したように声をかけてくれた。


 村の広場に着くと、私達の帰りの報せを聞いて大勢の村人が集まってくれていた。


「おかえりなさい。良かった、手紙は届いたみたいで」


 そう言って、マーブリさんは私の手を強く握った。


「マーブリさん、あの手紙はどういうことですか? 村はどうなってしまったのですか? 一見何もないようだけれど……」

「ええ、私達は村自体は無事なの。村の皆も。ただ一人――オール様を除いて」


 唇を噛み締めて、彼女はとても苦しそうに言った。

 そして、顔を上げて今度は私に質問する。


「あの、フィンさんとナキちゃんはどこかしら? 居ないようだけれど」

「そのことなんですが、向こうで色々あって、二人はネオンに残っているんです」

「! 二人は大丈夫なの?」

「ええ、ナキちゃんは今頃はもう良くなっていると思います。ただ、フィンさんは難しい状態で、最悪の場合、二度と戦えないかもしれません……」


 それ程までに、彼が侵された毒は強力なものだった。

 体中が蝕まれていて、真面に動けるかどうかも分からない。

 ナキちゃんはフィンさんが目覚めたらすぐ追うと言っていたけれど、本当に目覚めるのかも分からない。

 彼女自身、何か策があってフィンさんと残ると言ったのか、はたまた、ただ側に居ようということなのか。


 しかし、それを聞いた皆は、酷く落胆した様子だった。


「フィンさんが居ないとなると……」「皆はどうなっちまうんだ……?」「大丈夫よ、すぐに来てくれるわよ」「でも、戦えないなら」「何も戦闘になるとは限らんだろう」


 各々が不安や期待の声を漏らし、何がどうなっているのか全く分からない私達は置いてけぼりにされた。


「皆、一旦落ち着きましょう」


 と、マーブリさんは穏やかに皆に声をかける。


「ごめんなさい、ちゃんと説明をするわ。オール様の元へ向かいましょう」


 そうして、私達はマーブリさんの後を付いていく。

 他の皆は各々仕事ややるべきことに戻っていった。


 歩きながら、マーブリさんは話し始める。


「問題が起きたのは、皆がネオン王国に旅立ってから一週間も経っていない時のことだった」


 やはり予想していた通り、私達が発ってすぐのことだったんだ。

 それから一ヶ月半、皆は何かに怯えながら暮らしていたのだろう。


「とある巨人が村にやって来たの」


 巨人――人間や他の亜人の十倍程の体躯を持つ種族。

 私は会ったことがないけれど、以前にもこの村には巨人がやって来たと聞く。

 やって来た――と言うより、襲ってきた――の方が正しいかもしれないけれど。


「そう。この村が『ネフリティスホリオ』という名も無い頃、巨人の賊達にこの村は一度襲われている。だから、村中が警戒した。あの時はフィンさん達が助けてくれたけれど、今回はそれも無い。だから、尚更ね」


 私達は村から出て、森へと入っていく。

 その道は私も前は足繁く通っていた。

 何故なら、この先はニケに伸されてしまったオール様が眠っていた場所だから。


「オール様の元へ向かいましょう」と、マーブリさんは言った。

 もしかして、まだ彼女は目覚めていない――?


「その巨人は見た目は人間で言うと十代辺りだと思う。背中には大きな剣を携えていて、その他にも両腰にも佩剣していたわ」


 大きな剣と一口に言っても、巨人が持っていて尚大きいと言われる程なら、相当な大きさだろう。


「そして、巨人は最初にこう訊ねてきた」


 ――フィン・アーク・アイオーニオンさんは、この村に居ますか?――


「私達の警戒はさらに強まった。臨戦態勢を取る人も出てくるくらいだった。けれど、その巨人は危害を加えるつもりはないと主張し、両手を上げた」


 がっつり武器を持っていながら、無害を主張するとは。

 しかも、フィンさんを探している。

 とても怪しい――特に、二つ目が。


「警戒は続けて、私達はひとまず居ないと答えた。すると、続けてこう訊ねてきた」


 ――それは『今』だけですか? いつか帰ってきますか?――


「私達はリスクを避ける為に、素直に頷いた。そうすると――」


 ――そうですか。じゃあ、呼び戻してもらえますか?――


「――と、要求してきた。私達はそれについては拒否した。けれど、その旨を伝えると――」


 ――んー……じゃあ、仕方ないか……――


「――と、独り言を呟き、すぐにこちらに向き直り――」


 ――とりあえず、お邪魔しますね――


「――と、村へ足を踏み入れようとした。私達は当然立ち塞がり、目的を聞いた」


 ――いえ、大したことないですよ。アイオーニオンさんに会いたいだけですよ――


「そして、立ち塞がる私達に困惑しながら――」


 ――大丈夫です。踏み荒らしたりはしませんよ――


「――と、にこりと微笑んだ。けれど、フィンさんは居ないと、私達も繰り返すしかなかった」


 ――ええ、ですから、待ちます。いや、待つというのは違うのかな。帰ってきてもらいます――


「話の意味が分からず、こちらは戸惑った。そんな私達を尻目に巨人は続けてこんなことを言った」


 ――大丈夫です。皆さんはどの道アイオーニオンさんを呼び戻す羽目になりますから。ああ、それと、洛北竜さんもここに居ますよね? どこですか?――


「ますます私達は戸惑った。恐怖すら覚えて、思わず巨人から一歩引き退ってしまった。巨人はその様子を見て、集まった私達を軽く跨いで、村の中に入ってきた。確かに、踏み荒そうとする様子はなく、足元には十分に気をつけていた。そして――」


 ――あ、いたいた――


「――と、高い視点から森の中で眠り続けるオール様を見つけ、真っ直ぐにそこへ向かっていく。私達は本気で焦り、走って巨人の足にしがみついた」


 ――ちょっとちょっと、危ないですよ――


「困らせることができたのなら重畳だと思って、私達は離れなかった。けれど、突然村の木々が騒めき出して、木々の枝が不自然に伸び出した。伸びた枝は巨人の足に纏わりついた私達を捕まえて、そのまま拘束した」


 ――用が済んだら解放しますから――


「そのまま巨人はオール様の元まで辿り着き、眠る彼女の頭を撫でた」


 ――うん、これで良し――


「その一言と同時に、木々は元に戻り、私達は巨人の言った通り解放された」


 その時、丁度私達はオール様の元へと到着する。


 私達がここを発つ日と変わらず、彼女はずっと眠り続けている。

 一つ変わらないのは、オール様は大きな大きな毛布に包まっていた。

 静かに寝息を立てて、小さく丸まっている竜は少女そのものだった。


「あの日からずっと起きないの。その巨人のせいで」


 その一言と同時に、森が小さく揺れ出した。

 地震とも違う――規則的な揺れ。



「……来た。あの巨人が来たわ」


 マーブリさんの言葉と同時に、背後に大きな気配を感じる。

 振り返ると、太陽を隠す巨体が、すぐそこまで迫ってきていた。


「あ、帰ってきたみたいですね。……ん、あれ? アイオーニオンさんはまた居ないのかな?」


 マーブリさんから聞いた情報と一致した巨人は、木々を避けながらゆっくりと近づいてきた。

 背丈は目視で十五、六メートルはあり、首が痛くなるくらい見上げないと、顔を見られない。


 けれど、一つだけ驚いたことがある。

 話を聞いて勝手に若い賊のような風貌の男が出てくるものだと思っていたけれど、全く予想を裏切られた。


「んー、遅いなあ。もう一人くらい寝てもらった方が良いのかしら」


 その巨人は、溌剌とした女の子だった。


「そんなに睨まないで下さい。こっちも緊張しちゃいます」


 困ったような笑みを浮かべ、彼女は私達を見下ろす。

 それに対し、こちらは既に臨戦態勢を取っており、皆武器を構えた。

 そうして、言葉を慎重に選びながら、私は彼女に問い質す。


「……あなたは何者? 何が目的?」


 張り詰めた空気の中で、彼女は依然変わらずに快活とした様子で微笑み返す。


「申し遅れました。私は亜人主義組織『オリュンポス』が一人――デメテルと申します」


 彼女の大きな目の奥は、虎視眈々と獲物たる私達を狙っていた。


「私はアイオーニオンさんに会いに来ました」



   〇   



 オリュンポス――聞いたこともない名だけれど、一体何の集まりなのかしら?


 亜人主義組織と言うけれど、その実情は要するにどういうこと?


「いやあ、読んで字の通りですよ。亜人さん達を盛り上げようっていう組織です」


 亜人主義――思想は今や多岐に渡るから、無闇に否定はしないけれど、その延長でこんなことをしているのであれば、感心しないわね。

 この村もほとんどが亜人で構成されているけれど、何のつもりでこんなことをしているのだろうか。


 目的を訊いた際に「アイオーニオンさんに会いに来ました」と答えたけれど、それは何の為に――そして、何故それでオール様を眠らせたりするのかしら。

 そもそもオール様を眠らせたというのも、よく意味が分からない。

 魔法で昏睡状態にでもしただけなら、いずれは起きるはず。

 それとも、起きる度に魔法で眠らせ直しているのかしら。


「んー、説明不足でしたね。アイオーニオンさんに会いに来たのは、ただの実力調査と勧誘です」


 何だ、それは?

 実力調査と勧誘?

 強さを知って、その結果によっては『オリュンポス』とやらにフィンさんを誘い入れるということ?


「まあ、概ねその通りですね。大体合ってます。とにかく、私はアイオーニオンさんに会いたいんですよ。だから、洛北竜さんを眠らせたんです」


 彼女は当然のように言うけれど、それも謎だ。謎だらけだ。

 何故オール様を眠らせると、フィンさんが帰らざるを得なくなるのだろうか。


「それはですね、私の力が特別だからなんです」


 彼女は少し照れた風にそう答える。


「私の力は『柘榴(ざくろ)』と言いまして、条件が揃えば触れた相手を眠らせることができます」

「……条件?」

「そこは今回省きます」

「…………」

「眠らせた相手は自力では起きられません。どころか、体温はどんどんと下がっていきます。やがては凍えて死んでしまいます」

「――!」


 凍えて――死んでしまう?

 確かに眠るといくらか体温は下がる。

 雪山で遭難した時に「寝たら死ぬぞ」と、怒鳴られるのはそういう理由だ。

 しかし、ここは四季折々の比較的温暖気候の地域のはず。

 死ぬだなんて、大袈裟だ。

 もしかして、脅しでもかけているのかしら?


「脅しでも鎌かけでもないですよ? 触れてみたら分かります。火竜だとは思えない程冷え切っていますから」


 その言葉通りに、寝息を立てるオール様に近寄り、被さっている毛布を捲り、緋色の鱗にそっと触れる。


「――!」


 本当に、冷え切っていた。

 今は眠っているだけだけれど、本当にすぐにでも消えてしまいそうな程だった。

 風前の灯火という言葉が彼女の状態をこれ以上ないくらい雄弁に語ってくれている。


「それでも、時間がかかった方なんですよ。火竜だから中々体温が落ちなくて、人間なら一週間も保たないけれど、一ヶ月半が経って尚、まだ生きたままですから」


 確かに、火竜は燃焼器官のお陰で死後も数日間は体温が保たれると聞く。

 生きているなら尚更だろう。


 しかし、そうだとしてもデメテルの力で体温が下がらない訳ではない。

 いずれは命を脅かす程に猛威を振るうだろう。


 だから、村の皆は私達を呼び戻す他なかった。

 私達にデメテルを何とかしてもらうしかなかった。


 そんなことを考えていると、彼女は続けてこんなことを言う。


「まあ、私の毛布を貸したり、村の皆さんが毎日洛北竜さんを温めてくれていた賜物でもあるんでしょうね」


 その言葉に耳を疑った。


「今……何て?」

「え? 『村の皆さんが温めてくれていた賜物』と」

「その前は?」

「えと、『アイオーニオンさんに会いに来ました』と」

「戻り過ぎじゃない?」


 巨人の一歩は会話でも大き過ぎる。


「今オール様にかけられている毛布は、あなたの物なの?」

「ええ、そうですよ」


 何が目的でそんなことを?

 もしかして、優しさと見せかけて、毛布に何か仕掛けが施されていて、さらにオール様の状態を悪化させる一助となっているんじゃ――


「嫌だなあ、穿ち過ぎですよー。それはいつも私が使っている毛布です。何もありませんよ」


 だったら、何故オール様を助けるような真似を?


「それは、私だって洛北竜さんには死んでもらっては困りますもの。私の目的はあくまでもアイオーニオンさんなんですから。洛北竜さんには生きていてもらってこそ価値が出るんです。だから、確かに優しさではないです。お陰で夜は寒かったですけれど、必要な忍耐ですから」


 そう……なのか。

 そう説明されると、腑に落ちる。

 本当に敵意は無いらしい。


 けれど、その敵意の無さが――オール様をフィンさんを誘き出す為の餌としか考えていないのが、より彼女の異常性を表している。


 何はともあれ、生きているから一安心――とはいかない。

 問題は全く解決していない。

 重要なことは、オール様の存命以上に、オール様が目を覚ますということなんだ。

 彼女がこうして眠り続けるのなら、結局ずるずると体温が下がり、いずれは死んでしまう。


 私達が真に知りたいのは、オール様がどうすれば起きるのかということ。


「それについてですが、諦めた方が良さそうです」


 と、彼女は淡白に――端的に、そう言った。


「『柘榴』による眠りが解かれるのにも、条件が必要となります。その条件は私自身でもどうにもなりませんし、現状を見る限りは必要な条件も満たされていないようですし」

「……その条件とは?」


 そう問い質すと同時に、私達は武器を構える。

 返答次第では、私達は戦わなければならない。


「……気の早い人達ですね。まあ、良いです。どの道アイオーニオンさんには急いでいただきたいですし。もう一人くらい眠ってもらいましょうか」


 そうして、デメテルは両腰に佩用した二本の剣を引き抜いた。


「『冬』を終わらせるのは、いつも『春』です。眠りを覚ます条件は、『柘榴』を受けた者の元へ、その者にとって最も大切な誰かさんが訪れることです」


 彼女の場合は、アイオーニオンさんなんでしょうね――と、他人事のような口振りで、彼女は言った。

 

次回にご期待ください。


本作品は、不定期更新となります。次の物語をお待ちください。

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