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Light in the rain   作者: 因美美果
第六章――3
61/77

『遠投』

まだまだ未熟なので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。


※この作品は、少し残虐なシーンが含まれます。また、少し刺激の強いシーンが含まれます。以上のことが苦手な方はご観覧をお控えください。


この作品は、私の溜め込んできた物語をひたすらに詰め込んでいます。

それでも楽しんで頂ければ幸いです。

 緊急の避難所として用意されたエリモス東地区大広場には、途轍もない数の人で埋め尽くされていた。


 怪我の痛みに涙を流す人。

 亡くなった誰かの為に涙を流す人。

 生活を奪われ途方に暮れて涙を流す人。

 ただただ今の状況に怯えて涙を流す人。


 僕らはそんな人達の中で、治療を受けていた。


「ひとまずこれで大丈夫。君達は動かずに安静にしていなさい」


 僕とアルクダとミウラの治療を終えた街の医者の方は柔らかく笑い、次の患者の元へ駆けていった。


 あの戦いの後、無事に避難所まで辿り着いた。

 もう戦える状態ではなくなってしまった為、ここで都会の空を眺めるしかやることがない。


「じゃ、俺はもう行くぜ」


 ミウラはそう言って立ち上がった。

 彼には何やかんや感謝しないといけない。

 彼が助けに来てくれなければ、本当にまずいことになっていただろう。


「怪我は大丈夫なのか」

「ああ、お前らと違って軽傷だからな、動ける内は戦った方が良いだろう」

「……ありがとう」

「お前らの為だけじゃねえよ」


 ミウラはそう言って小さく手を振った。


 周りの人々は彼を見て睥睨するような視線を送る。

 僕はそれを見て、少し悲しくなった。

 陰で戦う人の姿がこんなにも埋もれてしまうものだとは。


 彼の背中を見送りながら、彼もどうか無事で戻ってこられるようにと祈った。


 不思議なものだ。

 あんなにも憎たらしくて仕方なかったあの男に、こんなことを思ってしまうのだから。

 人とは、難しいな。


「フィンさん達、無事かな」


 僕は少し弱気な言葉を零した。


「大丈夫、俺らだって生き残れたんだ」


 アルクダはそう返してくれた。


 僕は頷き、今日という日にはまるで相応しくないくらいの快晴の空をぼんやりと見つめた。


 ――その時、広場のすぐ近くから轟音が響き渡った。


 大勢の人で埋め尽くされた広場はそれぞれ恐怖や不安の声でどよめいた。


 僕らは上体を起こし、音の方向を見遣る。


「――!」


 すると、そこには建物を破壊しながら近づいてくる巨大な化け物がいた。

 このネオン王国の高い建物にも引けを取らない程の巨躯で、その姿を大衆の前に現した途端、広場は街中を劈く程の叫喚に包まれた。


「まずいよ、あれは」


 王国兵士や自警団、その他戦える者達が果敢に立ち向かうが、絶望的なまでに相手になっていない。

 恐らく、先程僕らが戦った竜の化け物の何倍も強い。

 兵士や戦闘員が次々と倒されていくその光景は大衆の恐怖をより煽り、さらなる悲鳴を轟かせた。


 このまま立ち止まってもいられず、医者の言いつけを破り、僕達は化け物へと走り出す。

 化け物から遠ざかる人の波に抗い、徐々に化け物へと距離を詰める。


 あと数メートルの所までやって来たところで、丁度ミウラが化け物に立ち向かっていった。

 しかし、呆気なく反撃に遭い、彼は放射線を描いて大きく吹っ飛ぶ。

 地面に叩きつけられたミウラは幸い息はあるようだったが、もう戦いに戻れる状態ではなかった。


 僕らは武器を構え、化け物に向き合う。

 化け物も目をぎょろりとこちらへ向けて、襲いかかってくる。


 その速さは尋常ではなく、今まで退けてきた化け物達とは比べものにならなかった。

 気づいた時には、自分と同じくらいの大きさの拳が飛んできていた。


 怪我を負った体のせいなのか、それとも単に足が竦んだだけなのか。

 僕達は身動き取れずに呆然と立ち尽くしてしまった。

 医者の言いつけを破っておいて、一体何をしに来たのか分からない。


 せっかく生き延びたのにな。


 と、諦観に浸っていたその時、化け物に一発蹴りを入れ、軽々と吹っ飛ばした影が現れた。


「!?」


 その光景はあまりに超人的で、絶句してしまった。


 そして、さらに超人的だったのは――否。紛うことなき超人だと確信させたのは、その影が倒れた化け物に向かって片手を伸ばした時だった。


 ぴんと伸びた腕は肘から先が突然真っ黒な靄と化す。

 靄は瞬く間に広がって、巨大な化け物を丸々飲み込んでしまった。

 そして、靄が晴れた次の瞬間には、化け物は綺麗さっぱり消えていた。


 理解し難かった。

 何が起きたのか全く分からない。


 ふわりと地面に着地したその人――人なのかも怪しい彼は、こちらを見ると何も言わずにただ寂し気な笑みを浮かべた。

 こちらが何かを言い出す前に、彼は凄まじいスピードで街の奥へと消えていく。


 そして、僕達はもうその顔を思い出せなくなっていた。

 ただ漠然と命が救われた記憶だけが残り、痛みに泣き喚く体は静かに震えていた。



   〇   



 フィンは今日もまだ目覚めない。


 戦いが終わり、私達はしばらくした後に避難所へ向かい、各々が怪我の治療を受けた。


 アルアさんは回復後、避難所の医療班と一緒に街の人達の手当てに勤しんだ。


 アルステマは低体温症及び体の凍傷が深刻だと診断されたが、医療班の方々のお陰で無事に助かった。

 因みに、治療の際は竜人の姿はちゃんと隠して、人間の姿で受けていた。


 スキロス君とアルクダ君もかなりの重傷を負っていたそうだが、フォスの言っていた通りに命に別条はなく、今は元気に街の修繕活動に努めている。


 私は丸一日身動きが取れず、貧血による酷い頭痛と脱力感に襲われた。


 街中に蔓延っていた化け物達は王都から逃がすこともなく、無事掃討が完了したと言う。


 スキロス君とアルクダ君の手助けをしてくれたというシモス・ミウラは、一度は化け物に殺されかけたものの無事回復をしたと聞いた。

 ただ唯一残っていたご自慢の角は、化け物の一撃を喰らった際に折れてしまったと言う。


 洛西獣はあの後無事に保護され、ついさっき意識を取り戻したという情報が入った。


 この騒動の主犯の一人でもある『怠惰』の神は、フィンに倒された後、ただただ泥のように眠り、今は王国兵士によって厳重に隔離されている。


 私達にいくつかの情報を残して消えたフォスは、あれ以降誰も姿を見ていないと言う。

 恐らく、もうこの国には居ないだろう。


 そして、この戦い最大の功労者であるフィンは、医療班やアルアさんの全力により、何とか命だけは繋ぎ留められた。

 ただ毒に侵された部分があまりに酷い状態で、それらの回復は見込めないらしい。

 それでも、生きていてくれているだけでも本当に良かった。


 騒動から三日が経ち、街は未だに多くを失った悲しみに暮れながらも、復興に勤しんでいる。


 どこもかしこもドンドンカンカンと工事の音が鳴り響き、ゆっくりと再生していく街並みを、フィンが眠る病室の窓から静かに眺めていた。

 私は自分が動けるようになってからは、フィンの病床の横の椅子に腰掛け、ひたすらに彼の目覚めを待っていた。


 寝返りも打たず、ただただ寝息を立てる彼の顔を見つめる。


 その時、ノックの音が三回鳴り響き、ぼーっとしていた私は思わず固まってしまう。

「どうぞ」と、声を返すと扉が開き、アルアさんが現れた。


「調子は?」と、彼女は訊ねた。

「変わらず眠ったままです」と、答える。


 すると、アルアさんは「ナキちゃんのことよ」と、微笑みながら言った。

 私ははっとして「私も変わらずです」と、返した。


「そう。まだ少し怠い?」

「少しだけ」

「そっか」


 そうして、アルアさんは私の横に置かれた丸椅子に座り、フィンの顔を見つめる。


「……結局、こうなってしまったわね」


 哀しい表情を浮かべ、彼女は小さく零した。


「何故、彼がいつも傷つくのかしら」

「…………」


 アルアさんの声が微かに震えているのが分かった。


「『傷つかないで』『危なくなったら逃げて』って、私達には言うくせに、自分は一歩も退こうとしないんだから」


 それは、怒っているようでもあり、やっぱり泣いているようでもあった。


「……フィン、止まらなかったんです」

「え?」


 私の突然の言葉に、アルアさんは思わず聞き返した。


「私がフィンの名をずっと呼んで『もう戦わないで』って、いくら言っても、止まってくれなかったんです」


 私は何だか首が重たくなって、気づけば自分の膝を眺めていた。


「前のフィンなら、ちゃんと気づいてくれたはずなのに、あの時はフォスを前にして、私の声も耳に入らなくなっちゃって」


 フィンはただ戦ってくれただけなんだ。

 魔国を滅ぼす為に、瀕死の状態で踏ん張ってくれただけなんだ。


 泣きたい訳じゃない。

 悲しいなんて思っちゃいけない。

 けれど、落ちた雫はどうしたって取り戻せない。


「ニケ達に襲われたあの日から、フィンは変わってしまった。けれど、ここに来て一度ちゃんと話をして、また元に戻ってくれたと思った」


 けれど、そんなことはあり得なかった。

 大切なものを沢山奪われて、フィンが変わらない訳がなかった。

 彼は強い人だもの。

 彼は弱い人を知っているもの。

 そんな人が――変わろうとしない訳がなかった。


「私は彼が居てくれたら良い。どこにも居場所が無くなっても、彼と居られるのならそれで良い。それなのに、フィンはどんどん行ってしまうから」


 追いつけない私が情けない。

 彼の手を引っ張って、ここに繋ぎ留められない私が情けない。


 俯いたまま顔を上げられない私を、アルアさんは優しく抱き締めた。

 とても温かくて、自分の体がこんなにも冷えていたことに気づいた。


「幸せになりたい」


 彼と一緒に幸せになりたい――たったそれだけの望みが、この世では一番の贅沢だなんて。


 フィンは今日もまた目覚めなかった。



   〇   



 翌日、私達は街の復興を手伝いながら、ひたすらにフィンの目覚めを待っていた。


 意識を取り戻した洛西獣――ネオン王国国王アラフ・ド・ドルイドは、今回の一連の騒動についての謝罪と、情報交換がしたいということで、私達を訪れてきた。


 フィンの眠る病室に皆集まり、大きな体と長い髭の獣人の姿の洛西獣と向き合う。


「本当に、申し訳ない。一国の王として、守護者たる者として、あるまじき醜態を晒した」


 そう言って、彼は深く頭を下げた。


「そして、暴れ続ける儂を止め、この都を救ってくれたこと、誠に感謝する」


 私達はただ黙ってその姿を見ていた。


 彼は今、騒動の責任を一身に受け止めている最中であり、都の守護者及び王位剥奪の話も浮かび上がっている。

 最悪の場合、死刑だとも聞いた。

 王自身が国家転覆をしそうになったのだから、逃げられない責任だろう。

 そういうもの全部から、『怠惰』の神は逃げたかったんだろうな。


 今後、彼の処遇がどうなるのかは気になるところだけれど、今はとにかく彼の話を聞かなければならない。


 彼は騒動の裏で起こっていたことを語り始めた。


 話によると、彼は大分前から『神』達と接触していたらしい。

 具体的にいつからと言えば、洛西獣が都市開発に失敗をしたにも関わらず、最近また開発を再開し始めたという話があるのだが、その再開の少し前くらいからだと言う。

 神に唆され、王国各地の開拓を進めてしまったのだと彼は情けなさそうに語った。


「その頃は、向こうも新しく配属された家臣だと言って儂に近づいてきた。当然『神』だと言って近づいてくる訳もないが」


 人に成りすましていたらしいが、だとしても家臣のことくらいは把握しておくべきだと思うけれど。


 神側は、城内の構造把握、ネオン王国の実質的権威掌握が目的だったのだろう。

 因みに、その頃に接触してきた神は『怠惰』ではなく、他の神だったと言う。


 そして、洛西獣の記憶が途切れた時――つまり『怠惰』の神によって自我を奪われてしまった時――それが、リシ武闘会開催の前日。

 城に忍び込んできた『怠惰』に容易く自我を奪われ、その時点で洛西獣は消息不明となっていたらしい。

 世間にはバレていなかったものの、城内は大変な騒ぎとなり、リシの中止も進められていたりもしたそうだ。


 そして、表彰式が延期され続け、遂に問題の日――彼は神に操られ、王都を自ら追い込んだ。


「本当に、情けない限りじゃ。貴殿らにはどう恩を返していけば良いのか」


 その大柄な体を縮こめて、彼はぼそぼそと喋る。


 その後、こちらからも情報を提供する。

 彼が暴れている間に起きたこと。

 化け物や魔国のこと。

 『神』の存在とその詳細。


 話せることは粗方話した。


「そうか、魔国も絡んでいたか。油断ならんのう、あの国も」


 話を聞き終えた彼は、もしゃもしゃの顎髭を撫でながらそう呟いた。


「しかし、今回の騒動を世界に公表しようにも、物的証拠があまりに少ない」


 そう。問題はそこだ。


 あの化け物は殲滅してしまっていて、化け物は生き絶えると砂になってやがて何も残らない。

 生け捕りにでもできたら良かったのだけれど、それも難しいことだった。

 大勢の人が亡くなった中で、そんなリスクも背負えないだろう。


 また、今回魔国が関わっている証拠として、フォスの存在がある。

 けれど、彼を目撃したのは、私、フィン、スキロス君、アルクダ君、ミウラの五人のみ。

 アルアさんとアルステマはその時既に意識を失っており、自身の目で目撃できていない。

 これではあまりに少な過ぎる。


 化け物を降らせたあの飛行船も国章も何も描かれていなかった為、魔国の所持品だという断定には繋がらない。

 あれが本当に生体兵器のキメラなのだとしたら、それを所持する魔国は即刻弾劾される。

 最悪、戦争の火種にもなり兼ねない国際問題だけれど、それを実証する術もない。


 唯一、身柄を確保できている『怠惰』の神も、普通にしていればただの人間にしか見えない。

 彼が眠り続けている以上は、彼は何の証拠にもなり得ない。

 目を覚ましたとしても、超常的な力を世界の前で見せてくれなければ、ただの気怠い人と相違ない。


 これだけのことが起こっておきながら、結果として何の証拠も残せていない。


「一応、国際会議で世界に訴えてみるが、好転する可能性は低い。……どれもこれも儂のせいじゃ。すまない」


 洛西獣はまた深々と頭を沈める。


「謝るのはもう大丈夫ですから、顔を上げて下さい」


 アルアさんは頭を下げる彼を見つめ、そんな言葉を送った。


 その言葉に従い、顔を上げた洛西獣はベッドに眠るフィンを見て、哀しそうに呟いた。


「本当に、彼が救ってくれたんじゃな」


 アルアさんはフィンを一瞥し、再度洛西獣を見てこれからのことを話した。


「やがて彼が目覚めた時、その時また彼から話を聞いて下さい。彼しか知らない情報もあるでしょうし、彼もあなたに話したいことがあります。その為に、私達はこの国を訪れたのですから」

「ああ、分かった。儂も彼を待つよ」


 その時、部屋の扉がノックされた。


 返事をして扉を開けると、そこには宿の方が立っており、一枚の便箋を手に持っていた。

 それは私達宛ての手紙であり、差出人は「マーブリ」と、綴られている。


 私達の帰る場所――ネフリティスホリオの村人であり、とても優しくしてくれるマーブリさんだけれど、一体何故彼女から手紙が?

 帰りが遅くて心配したとか?

 あらかじめ長期間の旅になるとは、村の皆全員に言っていたはずだけれど。


 そんな疑問を浮かべながら、便箋の中身を読む。


 そこには、とても端的に要件が述べられていた。


 ――助けて下さい。


 オール様が危険です。


 お願いします――


 たったそれだけだった。

 たったそれだけが言葉が、私達の不安を無限に掻き立てた。


「……何、これ? どういうこと?」

「オール様が、危険?」


 私達は言葉少なに求められた救難信号に大いに狼狽た。


「ねえ、どうしたら良いの?」

「どうしたらって……戻るしかないわ」

「でも、フィンさんは?」


 混乱して、狭まった視界で最善策を探る私達は、結局動けずにいた。


 そして、そんな私達に喝を入れたのは、洛西獣だった。


「落ち着かんかっ!」


 その一言で皆の背筋はぴんと伸び、呆けた顔で彼を見る。


「貴殿らの里の者達が助けを求めているのじゃろう。行く以外にやるべきことがあろうか」


 全員驚きが少々強くて、何も言えなかった。

 先程まで、肩を落として小さく見えていた洛西獣が、こんなにも頼もしい声を出すなんて。


「貴殿らの里はどこにある?」

「……『王国』から北に進んだ辺りの森林地帯に」

「ふうむ。となると、郵便がここに届くまで約一ヶ月くらいか」


 つまり、この手紙は一ヶ月前後に書かれたものであって、少なくともその時点でネフリで何かが起きている。

 私達がネフリを発ってから一ヶ月ちょいが経過している為、私達が村を出て間もない時に問題が発生したと言える。

 

「貴殿ら、ここに来るまでどれ程の時間を要した?」

「大体……二週間弱だったと」

「なるほど。思いの外、早いな」

「――あ! けれど、それはフィンさんが居たからで、私達だけの足では、それこそ一ヶ月くらいかかってしまいます」


 そうだ。往路はネオン王国の関所まで、フィンが竜になって皆を背に乗せてくれたお陰で、大分時間が浮いたんだ。

 フィンが動けないのであれば、馬車を乗り継いでもきっと三倍近い時間を要することになる。


「ううむ、難儀じゃのう。儂が猪の姿で貴殿らを送り届けてやれれば良いのじゃが、今この国から離れる訳にもいかぬし……」

「それは当然です。あなたは今ここに留まらなきゃ」

「面目ない。せめてもの協力として、王国の馬車を二台用意しよう。全速力で半月と少しと行ったところか」

「よろしいのですか? 何か復興に役立てたり」


 すると、洛西獣はアルアさんの肩をぽんと叩いて鼓舞した。


「何を言っておる。貴殿らはこの国の救い主じゃ。これくらいのことはさせてくれ。むしろ、こんなことしかできない儂ですまない」


 アルアさんはその言葉を受け、私達の方へ向き直り「すぐに準備しましょう」と、声をかけた。


 しかし、彼女は何かに気づいたように「あっ――」と、声を漏らす。

 彼女の視線の先には、フィンがいた。


「フィンさんはどうしましょう……」


 その言葉にスキロス君は「置いていくつもりですか?」と、少し強めの声で訊ねた。


「一人残していける訳ないですよ」

「けれど、移動が馬車なら、フィンさんに相当な負担がかかるわ。今は丁度体が弱っているし、急ぐと言うのなら揺れや衝撃も尚更……」


 その判断に、誰も何も言えなくなってしまった。

 洛西獣は「彼のことなら、この国で責任を持って保護するぞ」と、提案してくれた。


 しかし、やっぱり一人残して行くのは不安で仕方がない。

 目が覚めた時、誰も居なかったらと思うと、フィンが可哀想になってくる。彼は子兎のようなところがあるから。


 けれど、ネフリがまたピンチに晒されているのなら、すぐに行かないと。

 それに、オールが危ないというのであれば、余程の危機が迫っている。

 できる限りの戦力で臨んでおきたいのも事実だ。


 既に、手紙の内容から一ヶ月が過ぎていて、さらにここから帰るのに半月と少し――ネフリに到着する頃には、何かが起きてから一ヶ月半以上が経過することになる。

 果たして、その頃には村や村の皆は無事でいるのだろうか。


 また、私達は黙り込んでしまった。

 フィンが居ないと、こんなにも不安になるものなんだな。

 フィンが今までかけてきてくれた言葉は、こんなにも重たいものだったんだな。


 今だけは、休ませてあげるべきなんじゃないのかな。


「……皆。私、フィンとここに残るよ」


 その言葉に皆は戸惑った。

 戸惑って――何かを言いかけて――けれど、静かにそれを飲み込んで――頷いてくれた。


「……ええ、お願い、ナキちゃん」

「フィンさんをよろしくお願いします」

「先に行ってるね」

「こっちは任せて下さい」


 私は皆の言葉に大きく頷いて応える。


「すぐに追うから。フィンと二人で」


 私達は一瞬しっかりと目を合わせて、すぐに次の行動に移った。


 私はフィンの目覚めを待ち、皆はネフリを救いに、それぞれ歩き出す。

 私は私なりに腹を括らなければならない。

 

次回にご期待下さい。


本作品は、不定期更新となります。次の物語をお待ちください。

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