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Light in the rain   作者: 因美美果
第六章――3
60/77

『余韻』

まだまだ未熟なので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。


※この作品は、少し残虐なシーンが含まれます。また、少し刺激の強いシーンが含まれます。以上のことが苦手な方はご観覧をお控えください。


この作品は、私の溜め込んできた物語をひたすらに詰め込んでいます。

それでも楽しんで頂ければ幸いです。

 神は最後の最後で笑った。


 こっちは毒を喰らい過ぎて死にかけているのに。


 どういうつもりかは分からないが、気味が悪い――という印象は無かった。

 今も嫌いなままだけれど、今はそれを忘れていられた。


 最後の一撃を喰らい、勢いよく吹っ飛んだ神は、城の瓦礫に今までで一番凄まじい轟音と衝撃で突っ込んだ。

 倒れ伏した彼は、そのまま伸びて動かない。


 私はそれをその場に立ち尽くして見ながら、胸に刺さったままの毒矢を引き抜く。

 今更だし、何なら抜かない方が良いのかもしれないが。


 しかし、その毒矢を見て、ふと気づいた。

 ――否。それは毒矢などでは無かった。


 それは――それだけは、矢尻に毒の塗られていない矢であった。


 何故、そんなものを持っていたのか。

 そして、何故、そんな矢を絶好の好機であったあの瞬間に使ったのか。


 別に、矢に毒を塗り忘れたとか、間違えて使っただけとか、色々と偶然で終わる理由は思いつく。

 けれど、偶然なんて不運な私にとってあり得ない――ということ以上に、もっと意志が込められた理由があるのではないのかと、思わずにはいられなかった。


 とは言っても、傷は傷で、当たった場所を見ても大分危険な場所なことには変わらないのだが。


 そうして、改めて瓦礫の山に倒れ伏す神を見つめる。


 彼の苦悩や天界の悍しい惨状――それらを思うと、私達の上に仁王立ちする尊い存在がどれ程下劣なものなのか、憎たらしく思えてくる。


 そこで伸びている『怠惰』の神も死んではいない。

 そもそもちゃんと死ぬのかも分からない。


 いや、先程、全知全能の神が気に食わない神を殺したという話をしていたので、死ぬことには死ぬのか。

 ただ、私に殺すことができるのかと言えば、やはり分からない。


 とにかくあいつのことは今は後回しにして、皆と洛西獣の回復をしないと。

 それに、スキロスとアルクダのことも心配だし、あの記者の女性でちゃんと逃げられたのかも気になる。

 あと、何やかんや忘れそうになるが、私だって今死にかけであって――


「へえ、すごい。神を倒したんだ。とてもすごい」


 ――と、突然どこからか淡々として穏やかな声が聞こえた。


 それは、神が横たわっている場所よりもさらに上――城の瓦礫の頂上から放たれた声だった。


 そして、その声の主こそ、魔国の軍服を身に纏い、目隠しのようなマスクを付けて凛々しく佇む、例の軍人であった。


「――!」


 音もなく現れた彼に一瞬の狼狽を見せた後、瞬時に怒りが煮え滾る。

 奴のせいで――奴が放ったキメラのせいで、この街は壊滅状態に追い込まれている。

 それがどれ程の命を食らったことか。


 私は毒の痛みも死にかけていることも忘れ、歯止めも効かずに飛び出した。

 その時、誰かが私を呼ぶ声がしたが、それすら無視して彼に襲いかかる。


 さして驚く様子もなく、彼はアルケミアで薙刀を取り出し、落ち着いて私の剣を受け止める。


 瀕死の状態で踏ん張る私と、無傷の状態の彼では、あまりに力の差が明瞭であり、私もこの勝負に勝ち目は無いと悟らされた。


 剣と薙刀を押し合う膠着状態となり、私は彼を睨みつける。

 反対に、彼はマスクを付けている為、その視線がどこを向いているのか――その眼差しには何が込められているのか、分かり兼ねた。


「そんな状態なのに、すごい力だね。驚いたよ。さすがはニケを退けただけのことはあるみたいだね」


 やはり彼もニケと同じような役割なのか。

 だとしたら、私の命やナキの身柄を狙っている可能性が高い。


「何者だ、お前は」

「ふう、君は大分好戦的だね」


 そう言うと、彼は私の剣を容易く弾き返し、またも凛とした姿勢を取った。


「僕は大魔王国マギア・ヴィヴリオ国王の側近が一人――フォス。初めまして、フィン・アーク・アイオーニオン」


 フォス――それが彼の名だった。

 魔王の側近と言ったか。

 やはりニケと同じような目的だろうか。


 しかし、彼は全く表情を変えず、そのことについて説明を始める。


「敵対心が強いのは構わないけれど、早計で無闇に攻撃してこないでほしいな。信じないかもしれないけれど、僕は君の命もエマイディオスの身柄も欲していないよ。任務じゃないからね」


 任務じゃない――それは裏を返せば、任務となれば容赦なく奪いに来るということを雄弁に語っていた。


 しかし、こちらも出会ったことが不幸ばかりだとは思わない。

 不幸中の幸いで、こちらも彼に訊きたいことが山程ある。

 できる限り多くの情報を引き出さなくては。


 しかし、それを穏便に進められる程、私は落ち着けていない。

 彼が私達に直接危害を加える気がないと告げられても、彼の行った所業を棚に上げるなどできやしない。

 私の腹の虫はそんなことでは収まらない。


 命を刈り取れるのなら、今ここで――傷の一つでもつけてやらなければ、こちらの気も済まない。


 しかし、攻撃を続ける私を遇らうように、彼はあくまで防御に徹して戦う意志が無いことを示してくる。

 それがさらに私の心を逆撫でした。


 あの日、私の命を容赦なく摘みに来た魔国は村人諸共襲いかかった。

 それなのに、今はこの街の人の命を奪うだけ奪っておきながら、私には何も手を下さない。

 気持ちが悪くて仕方がなかった。


 そんな私の気も知らず、彼は表情一つ変えずに話を続ける。


「君も訊きたいことが沢山あるんだろう。満身創痍なのに、大変だね。君が懸命に戦うことを正しいとは思わないけれど、君の命には協力しようと思う」


「僕も君に訊かなければならないことがあるしね」と、彼は言った。

 何のことだろうか。


「全部を教えてあげられる訳じゃないけれど、それでも教えてあげられることは教えてあげるよ」


 そうか。

 では、まず何から訊こうか。

 瀕死の体で戦いながらでは、頭も回らない。


「ああ、大丈夫。君の知りたいことは大体予想つく。一応『あの人』の側近だし、これくらいは朝飯前さ。答えなかったのは、答えられないものとして諦めて」


 彼の言う『あの人』とは、魔王イストリア・ヴィヴリオのことだろう。

 しかし、主導権を完全に握られているようで、むずむずする。


「まずは、君の大切な仲間のことから話しておこう。獣人の男の子二人だけれど、無事だよ。負傷してはいるけれど、命に別条は無い。シモス・ミウラが付いてくれている。今頃は避難所で傷の手当てをしてもらっているんじゃないかな」


 その話を聞き、私は内心大きく安堵した。

 心配していたスキロスとアルクダが無事ならば何よりだ。

 ミウラの名が出た時は驚いたが、そうか――彼も味方してくれたんだな。


 これが本当の情報かは疑えばキリがないが、今は信じておこう。


「それと、神との関係性だけれど、一応手を組んではいる。あくまで、今回は利害が一致しただけで、基本的には別勢力だから」


 それは『怠惰』の神からも聞いていた。

 情報交換もしていたと。


 しかし、その利害の一致、そして、魔国側の今回の目的も知りたいのだが。


「ん……それは少し微妙だね。まあ、神側は洛西獣を操りたい。僕らはそれを利用したいってところかな」


「これ以上は」と、攻防の最中に、彼は余裕たっぷりな様子で、人差し指を口元に当てた。


「あとは、アビスのことかな」


 その言葉で、私は再び思い出す。


 アビス――もしくは、No.アビス。

 フォスは彼をそう呼んでいた。

 神からはモノという名で呼ばれていた。

 そして、私にはデュオと名乗った。


 それにしても、本当に綺麗さっぱり記憶から消えていた。

 それが彼が『孤独』を司る神であることをより真実に近づける。


「ああ、大分話は知っているんだね。そこで寝ている神から聞いたのかな。そう、彼は『闇』と『孤独』の神。そして、その本当の名は――」


 ――モノ・ド・アビス。


 彼はそう言った。


 どこかで聞いたことのある響きだった。

 というか、確実に知っている。

 私の大切な仲間にもその名の役目を背負わされた一人が居る。

 そして、このネオン王国へやってきた理由も、その名の役目を負う者を訪ねてきてのことだった。


「何となく察しはついたかな。彼は都の守護者の一人――『洛裏神』と呼ばれる者さ」



   〇   



 洛裏神――私はそれを知らなかった。


 オールから聞かされていた都の守護者は全部で五つ。

 洛北竜――洛西獣――洛東魚――洛南虫――洛央人――その五つ。


 しかし、もう一つの守護者がいるだと?

 オールからはそんな話は聞かなかった。


 彼女自身も知らなかったのか――或いは、隠していた?

 いや、知っていたとしても、洛裏神であるモノ・ド・アビス――デュオは『闇』と『孤独』の神である。

 誰の記憶に残ることもなく、自力で思い出すことは不可能。

 オールの知識に『洛裏神』という名があったとしても、それをデュオ自身からのアプローチが無い限り、思い出すことも話すこともできない。


 しかし、あのデュオが都の守護者?

 新たな情報や不明瞭な点が多過ぎて、頭の中で処理が追いつかない。


 そんな私を尻目にフォスはどんどんと話を進めていく。


「『洛裏』というのがおおよそどこなのか、君には分かるよね? 『洛』――つまりは『都』。その『都』というのがかの『王国』を意味する訳だから」


 即ち、『王国』の星の裏側に位置する場所――


「――魔国」

「ご名答」


 魔国は『王国』の真反対に位置する国である。

 故に、魔国は『王国』の目が届きづらく、警戒対象となっている。


 その魔国が洛裏となると、デュオはずっとモノ・ド・アビスとして、魔国にいたということなのか?

 そうなら、やはりデュオは魔国側の存在か。


 しかし、その考察にフォスは「半分正解で半分不正解」と、答えた。


「彼は確かに魔国にいた。けれど、そもそも都の守護者というのは、世界のあらゆる場所から『王国』を守る為に用意された存在だ。言い方を変えれば、世界のあらゆる場所から世界を監視する存在だ。順当に考えたら、『王国』側の存在と見るのが正しいんじゃないかな」


 じゃあ、『王国』の味方ということなのか?


「残念ながら、そうじゃない」


 そうじゃないんかい。

 遠回りしやがって。


「そうだね。この先は話せそうにないよ。ごめんね」


 彼は本当に申し訳なさそうに謝ってきた。何だ急に。

 ただ相変わらず表情はうんともすんともしないので、その真意はよく分からない。


「けれど、あまり彼を怖がらないであげて。人懐っこい分、寂しがり屋なんだ。『闇』の神だからと言って『光』を求めない訳じゃない。『孤独』の神だからと言って『孤独』が平気な訳じゃない」


 そんな優しいことも言う。

 本当に、一体どういうつもりなのだろう。


「うん、僕から話せることはこれくらいかな。君がまだ訊きたいことがあっても、秘密だから諦めてね。それよりも、今度は君が答える番だ」


 何だ、勝手に終わらせて、勝手に繋げるなんて。


「アビス――君の言うデュオは今どこにいる?」


 その問いに、私は簡潔に答える。


「知らない」


 すると、彼は一つ息を吐いて「そうかい」と、零した。


 そして、自身の力の片鱗を見せつけるように、薙刀を大きく振るい、私を軽くいなした。

 まるで「この戦いはこれでお終い」と、無言で言い聞かせてくるように。

 その力は確かに今の私では――本領発揮した私ですら敵うかどうか分からない。

 それこそ、ニケと同じくらいの力量は持っているだろう。


「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。君との接触は端から目的外なんだ」


 そうして、彼は一歩引き下がる。


 しかし、私はこのまま逃げられるのがどうしても嫌だった。

 まだ傷一つすら与えられていない。


 私は一歩分の距離をすぐ様詰め、攻撃を続ける。


「君もしつこいね。死にかけなんだろう? 今は休むことが正しい。正しいことはするべきだ」

「……まだ訊きたいことがある。お前は何で自力でデュオのことを思い出せる? 手首に彼の名でも彫ったのか?」


 呆れたように息を吐き、彼は静かに答える。


「それも一つの方法じゃないかな。君も彼を忘れたくないなら――忘れてもまた思い出したいならそうすれば良い。彼もきっと喜ぶよ」


「じゃあ」と、再び距離を置く彼を私はしぶとく追い、何度も攻撃を続ける。

 しかし、今回ばかりはフォスも声色を変えて言葉を放った。


「……見苦しいな。その抗いがニケを追い込んだのだろうが、今回は僕から引いてあげるんだ。みっともない姿は止せ」


 それでも攻撃の手を止めない私に怒りを見せた。

 その怒りも、怒りから放たれた一撃も、氷山の一角に過ぎないのだろうが。


 私の剣を軽く弾き返し、がら空きとなった私の腹に強烈な蹴りを入れた。

 私は瓦礫の山から地面まで吹っ飛ばされた。


「気づいていないのかい?」


 呆れた声でそう問う彼の言葉に私は一瞬戸惑った。

 そして、すぐ後に気づかされる。

 私をずっと呼んでいた声に。


「――フィン!」


 体力も魔力も限界まで使い切った彼女は、叫ぶことすら体を擦り減らす行為のはずなのに、それでも私の名をずっと呼び続けてくれていた。


 ナキはあまりに悲しそうに泣いていた。


 私は酷く苛まれた。

 目の前の不戦の軍人に視界を狭め、喉を犠牲にしてでも私を引き留めようとしてくれた仲間の声に気付けもしなかった。

 どれだけ矮小な生き物なんだろうか。


「君も限界だろう。今すべきは仲間と一緒に休むことだ」


 彼は手に持った薙刀を仕舞い、休めの姿勢で私を見下ろす。


「じゃあね。死なないでね」


 彼はナキの方を見遣り、一言残して去っていた。


「エマイディオスも元気でね」


 それから、闘志がみるみる細く小さくなっていき、毒の痛みだけが体を殴り続けてきた。

 全身の感覚が無くなって、体が遠く離れていくようだった。


 まるで翼も無しに空を飛んでいるかのようだった。



   〇   



 私は夢を見た。正確に言えば、昔の思い出である。


 それは私の歳が十三の時のものである。


 私はその日、保健室のベッドで目を覚ました。

 何故、自室のベッドではなく保健室にいるのか、全く身に覚えがない。


 目覚めた私が挙動不審に困惑していると、保健医の先生がベッドを囲うカーテンを引き「起きた?」と、声をかけてきた。

 訳が分からないまま頷くと、先生は何かを察したのか、私の方へ近寄ってきて話を続ける。


「君、何があったか覚えてる?」


 私は素直に首を横に振る。


 私がぎりぎり思い出せるのは、虐められている女生徒の手を引き、上級生達から離れようとしたその時、上級生の中の一人が背後から私の可愛い後頭部を殴りつけてきたところまでである。しかも鉄パイプで。


「そう」と、先生は頷き、私にその後に起きたことを事細かに話してくれた。


「君ね、あの後ものすごい大暴れしたの。相手の子達に男子も女子も関係なく襲いかかって」

「…………」


 てっきり殴られてそのまま気を失ったのかと思っていた。

 そんな凄惨な続きがあったとは。


 殴られて倒れた私を、上級生はその後も何度も殴り続けてきたそうだ。

 そして、私が反撃を始めたらしい。

 その時には既に理性が無く、歯止めが効かなくなっていたと言う。


 暴れる私を前に、他の上級生達も加勢するが、それでも止まらない私は血塗れのぼこぼこになりながらも、暴れ続けたそうだ。

 やがて騒ぎに気がついた他の生徒が教官を連れてきて、事態は終結したらしい。

 教官達が来ても尚、私は暴れ続け、その狂気さに上級生達は怯えてすらいたと言う。

 怯えていたと聞いた私は他人事のように思わず「おー」と、感嘆してしまい、先生にそれを叱られた。


「何にしても大変な騒ぎだったんだから。君のことはよく聞いているけれど、怪我だけは気をつけなさいよ」


 私の仕事が増えるから――と、先生は最後に冗談っぽく笑った。


 その後、私は軋む体で教官の部屋へ直行する。

 そこで謝罪をひたすらに述べ、ちょいちょい教官からの問答に答えた。


 全てを聞き終えた教官は椅子に深々と腰掛け、大きく息を吐いた。

 そして、窓を眺めながら、一言零した。


「……音楽室にいるらしいな」


 その言葉を聞き、私は少しどきっとする。

 何故、教官がそんなことを知っているんだ。

 もしかして、教官も休み時間は居場所が無くて、あの閑散としたエリアで息を潜めているのだろうか。それは少し愉快だが、いたたまれなくもある。


 しかし、案の定そういうことではなかった。


「彼女から聞いただけだ」


 彼女――とは、当然女生徒のことだろう。

 まあ、今回の騒動の被害者だし、事情聴取も兼ねて私との関係性も話しているだろう。

 私との関係性なんて大仰に言うが、疚しいものでもややこしいものでも何でもない。

 ただ私の最低がバレるだけである。


 教官は窓の外を眺めたまま、続けてこう言った。

 私からすれば、その教官の一言は意外であった。


「……彼女は待っているぞ」


 そう言うと、決して最後まで私の方を見ることはなく「下がれ」と、小さく言った。


 私は部屋を出て、音楽室へ向かう。

 廊下をすれ違う人々は私を横目で見てひそひそと何かを言っているが、その時ばかりはそれも気にならなかった。

 ただ真っ直ぐに音楽室へ足を進めた。


 すると、微かに旋律が耳を震わせてきて、音楽室に近づく程にその音は大きくなってその輪郭をはっきりと現す。

 音楽室の前まで辿り着き、扉一枚を挟んで流れてくるその音色は、とても鮮やかに耳の中に広がっていく。


 正直、どんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 あれだけ酷いことを言って拒絶したのに、今更合わす顔があるのかも疑問だった。

 そんな資格が自分にあるのか、不安だった。


 それでも、扉を開けるのに時間はかからなかった。


 開いた先の教室は、茜色の斜陽を浴びて朱く染まっていた。

 陽光を照り返し眩しく光るグランドピアノは佇んだまま雄大な声で歌っている。

 その歌声と共に、私がずっと謝りたかった彼女が細い指先で踊っていた。


 それはとても綺麗で、言葉を失った。


 私に気づいた女生徒は演奏を止め、静かに立ち上がる。

 恥ずかしそうに微笑む彼女の眼差しが、私を優しく溶かしてくれた。


 私は一歩踏み出し、頭を下げる。


 私は今も彼女に謝りたかった。

 

次回にご期待下さい。


本作品は、不定期更新となります。次の物語をお待ちください。

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