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Light in the rain   作者: 因美美果
第六章――1
46/77

『距離』

まだまだ未熟なので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。


※この作品は、少し残虐なシーンが含まれます。また、少し刺激の強いシーンが含まれます。以上のことが苦手な方はご観覧をお控えください。


この作品は、私の溜め込んできた物語をひたすらに詰め込んでいます。

それでも楽しんで頂ければ幸いです。

 翌日の朝刊を見て、私は驚愕することとなった。


 具体的に何に驚いたのかと言えば、大きく分けて二つ。

 予想を遥かに超える量のミウラの不正行為、悪徳行為、買収行為の数々。

 そして、それを知ったマスメディアが改めた私の扱い。


 私との対戦後、かなり精密な検査がミウラに行われたようで、今までの悪事が全て世間に露見した。


 私が対戦中に気づいたドーピングも正式に確立し、検査の際に運営の数人を買収していたらしい。

 また、驚くべきことに私達にしつこく絡み、ありもしない記事を書いた記者や新聞社も買収されていたという。

 私を不正者にでっち上げ、皆の目を自分に向かないようにしたのだと言う。私が適当に立てた推測は見事的中していた。

 それを受けた皆は驚愕を超えて戦慄すら覚えていたが、特に動揺していたのはアルステマだった。


「えっ!? あの記者もあいつの手羽先だったの!?」

「手先な」

「あいつの手洗いだったの!?」

「手先な。字しか似てないだろ」


 しかし、彼の不正行為はこれだけでは止まらない。


 これに至っては意味があったのかも分からないが、彼はトーナメント表にも手を加えていたらしい。

 買収した運営の者の中には偉い人もいたようで、私と初戦で当たるように仕向けたのだと言う。

 早いところ私を潰し、残りの対戦を楽にしておきたかったと、本人は事情聴取で供述している。


 今回彼が犯した不正行為は、全て結局私に勝つ為であったのだ。

 本人は事情聴取で「アイオーニオンと最初に戦った時、今の俺では敵わないと感じた。今の地位を保つ為には、こうするしかなかった」と、いつもの豪快さは消え失せ、弱々しく答えるだけだったという。


 不相応な玉座と名誉を持て余し、それを失うことに恐れをなしてしまった。

 彼もまた大衆に持ち上げられ続けた被害者であり、それに甘んじて傲慢を働いてしまった――一人の哀れな男であった。


 そして、各新聞社による私の扱いはと言うと、これも都合の良いものとしか言えなかった。

 買収された記者に便乗するように私のあることないことないことを記事を書いたことを、今更罪悪感でも感じているのか、褒めちぎりまくるように私のあることないことないことを記事に書いた。


 大衆も相変わらず流されるがままで、大通りに出ればちらちらと見ては私を噂する。

 本当の私を知っているのは、ここには仲間の他にいないだろう。


 ミウラのドーピングが公になり、出場者への不正行為の再検査が行われた。

 昨夜、私の所にも運営の人がやって来て、より厳正な検査が行われ、採血までされた。


 何はともあれ、問題なく検査は終わり、私の無実はさらなる確証を得られた。


 昨日のミウラとの試合で負った傷は、今朝には完治していた。

 体の軋みもないし、神の矢によってできてしまった傷ももう塞がっていた。


 最近、今回のことに限らず、傷の治りが異様に早いのだ。

 以前はもっと、こう、普通だったのだが、ある程度の傷なら一日休めておけば大抵良くなった。

 悪いことではないから、早いに越したことはないのだけれど。


 会場を訪れると、相変わらず喧騒が鳴り響いている。

 今日ここへ訪れたのは、私の試合があるからではない。


 今日はアルクダの試合なのだ。


 リシの試合には時間制限が存在しない。

 どちらかがリングから落ちるか、もしくは、十の刻の間倒れるか、その二つだけが試合の終わりのゴングを鳴らす条件。

 故に、リシの期間は毎年疎らであり、一週間で武闘会が終わる年もあれば、一回戦の全試合を終えるのに一週間かかる年もある。

 対戦者の実力差が大きいと当然試合時間は短いし、同じくらいの実力だとだらだらと長引く。聞いた話によると、朝一から始めてその日の夜中まで試合をしていたという対戦も過去にはあったらしい。

 日程が決まっていないので、次の試合がいつになるのかは私にも分からない。


 ともあれ、今日の主役はアルクダである。

 皆で全力で応援するのだ。


 王城内の会場に入ると、私はすぐ様人々の視線を浴びた。

 私はなるべく気にしないように心掛け、会場内を歩く。


「やっぱり皆、気づくんですね」


 スキロスは私の横で、周りの人を見ながらそう言った。

 すると、ナキは私の方を心配するような眼差しで見つめ、優しく労うように言う。


「フィン、居づらくない?」

「ん……ちょっとだけ。けれど、嫌とも言えないから」


 注目されるようなことをしなかった訳ではないし、新聞の記事が無くてもある程度注目されることになっていただろう。

 それに、いつものような疎まれる視線や、睥睨される視線ではないので、そこまで嫌な気はしない。

 だから、今私が抱えている感情は、居心地悪さから来るものではなく、慣れない故の照れ臭さなのだろう。


「ありがとう」

「ううん、あなたが良いなら良いの」


 私はアルクダの方へ振り返り、「何か買いたいものはある? 健勝祈願に何でも買ってあげる」と、声をかける。

 しかし、彼は首を横に振った。


「今は軽い状態で居たいので、大丈夫です。ありがとうございます」


 私は頷き、前へ振り直る。

 確かに大事な対戦の前にはあまり口にしたくない。

 変に景気をつけようとして沢山食べて腹を下しでもしたら、本末転倒も良いところ。馬鹿である。


 と、その時ナキのお腹が私を呼んだ。……君はいつでも腹ぺこだね。

 朝ご飯は宿でしっかりと食べたのだが、それでもお腹が減ることもあるだろう。そこがナキのチャームポイントでもある。


 適当に露店で食べ物を買い、ナキの細い腹を満たして、いざアルクダは控室へと歩んでいく。

 私達は早めにリングの近くを陣取り、迫るアルクダの初試合を待った。


 アルクダは自慢の膂力を活かした一撃必殺である。

 彼の太い腕から放たれる爆発的なスマッシュは、相手の骨髄まで衝撃を与え、立つこともままならなくなる程の威力を生み出す。


 しかし、その分モーションが大きい為、避けられやすい。避けられた後にも大きな隙が生まれる。

 かなり賭けの要素が高いものである為、繰り出す瞬間の見極めが重要だ。

 本人にもそのことは口酸っぱく伝えているので、重々承知しているだろう。

 初めての舞台で、その上大勢のギャラリーの前で、どれ程のコンディションで臨めるかが肝になる。


「対戦相手はどんな人?」


 アルステマは王城のテラスから垂れ下がったトーナメント表を見ながら、訊ねてきた。


「種族は人間だったかな。あまり強い人でもなかったと思うけれど」


 強い人でもないとは言ったが、リシの出場者の中では、という意味である。

 対戦相手だって今日という日に向けて鍛錬を重ねてきたのだろうし、当然一筋縄ではいかないことは確かだ。


 しかし、それはアルクダも然り。勿論スキロスも然り。

 彼が負けるとは、思っていない。


「あ」


 スキロスは声を漏らした。

 思索から戻り、顔を上げると、丁度現在の対戦が終わった頃だった。


 アルクダの試合が始まる。


 私は心の中で両手を固く握り締め、どうか怪我のないようにと願った。


 大丈夫――君は強い。

 ただ――勝て。



   〇   



 結論から言うと、即行で――速攻で終わった。


 試合開始のゴングが鳴るや否や、対戦相手はアルクダに向かって猛スピードで距離を詰めた。

 それに対し、アルクダは落ち着いて相手の動きに合わせて右の拳を大きく引く。

 アルクダのモーションに気づいた相手は慌てて急停止したが間に合わず、防御もままならないまま情けなく拳を喰らった。


 アルクダの放った拳は、相手の顔面のど真ん中にめり込む。

 瞬く間にリングの外へと吸い込まれ、群がるギャラリーの中へ飛び込んだ。


 開始のゴングが鳴って数秒で、終了のゴングが鳴り響いた。


 それを受けた会場はすぐ様アルクダへの賛美の歓声で溢れ返った。

 鄙集りの少年がそれなりに強い男を一瞬で負かしたのである。びっくり仰天――皆の表情は酷く滑稽であった。


「やったあ! 勝ったね、アルクダ!」


 アルステマは喜びを体現するようにぴょんぴょんと飛び跳ね、ゆさゆさと胸を揺らす。

 私はそれを見ないように頑張るが、いやはや摩訶不思議、視線がそこへ吸い込まれてしまう。奇妙なことだ。


「アルクダを迎えに行こうか」


 あれだけの瞬殺を決めれば、控室の前には報道陣で溢れているだろう。

 記者の絶え間ない質問攻めに慣れていないアルクダは、身動きが取れずに困惑してしまうかもしれない。


 と、控室に向かうと、案の定人集りができていて、その中心には頭一つ飛び出たアルクダがいた。


 手を振りながら声をかけると、彼はこちらに気づいてずんずんと歩いてくる。

 右手を胸の辺りで手刀の形を取り、「すみません、失礼します」と、記者の中を掻き分けてくる。


「お疲れ様。良いスマッシュだったよ」

「ありがとうございます」


 照れながらそう応える彼の表情には少なからず自信というものがあって、燃ゆる闘志が垣間見れた。


 アルアさんは近寄って、彼の大きな背中を軽く叩いた。


「偉いわ、アルクダ君。フィンさんと違って、無傷で帰ってきてくれた」

「恐縮です」


 私だって好きで傷を作っている訳ではない。

 痛いのは嫌いだし、消毒液が沁みるのも苦手である。


「次は無傷で帰ってくるから」

「そう。それなら助かるわ」


 くすくすと妖艶に微笑むアルアさんを見ながら、私は歩き出す。

 試合が終われば早々に帰るのが良いだろう。

 アルクダも初めての試合で、体は大丈夫でも精神は案外堪えているかもしれないし。


 それに、これからしばらく試合がない。あと二日くらいは私達の出番はないだろう。

 というのも、一回戦に臨むスキロスの試合というのは、一回戦最後の対戦だからだ。

 私やアルクダとは違うブロック――つまり、対戦するとしても決勝戦になるだろう。


 そして、彼の対戦相手となる者も少し厄介で、それが…………誰だっけ。


「あ、おーい。フィンー」


 振り返ると、誰だか分からない人が――


「デュオだよ」


 そう、デュオだった。

 そして、スキロスの対戦相手となる者も、デュオであった。


 正直、彼の能力は未知数で、公式記録もないので調べようがない。というか、彼はリシの武闘会初出場だし。


 彼とはネオンでできた大切な友人なので、なるべく彼のことも応援したいのだが、一体私はどうしたら良いのか。


「あ、さっきの試合の人だ。そういえばフィンの仲間の人だったか」

「そう。名はアルクダ。熊の獣人」


 デュオは軽く会釈し、アルクダも応えるようにぺこりと頭を下げる。


「すごかったね。その一撃必殺。格好良かったよ」

「あ、ありがとうございます」


 にこにこと軽快に話すデュオの褒め言葉に、アルクダは照れと喜びが入り混じった声で礼を言う。

 彼もアルクダの試合を見てくれていたらしい。私もその事実が嬉しかった。


「俺は一番最後だからさ。インターバルが長いと、変に緊張してきちゃうんだよな」

「あ、そうだ」


 私はスキロスを手招いて、デュオに紹介する。


「この子がスキロス。君の一回戦の対戦相手だよ」


 そう言うと、彼はデュオを瞠り、すぐに歯を見せて笑った。


「ああ、君がかあ。よろしくな」


 デュオはスキロスに右手を差し出し、スキロスも「はい、よろしくお願いします」と、その手を握った。

 二人が握手する様子を見て、私の揺らいでいた心は収まりどころを見つけたように落ち着いた。


 私はスキロスの仲間であり、デュオの友人である。

 どちらか一つを取る必要はない。

 欲張って二人を応援すれば良い。

 何も二人が勝ち上がることだけが、望むことではない。

 二人が良い試合を繰り広げ、互いに互いを高め合ってくれたなら、それで良いのだ。


 いつも失くしてばかりの私だから、こんな風に双方を取るなんていう選択は新鮮であった。

 二兎追う訳でもないし、二兎のどちらかが勝ち残るのだ。


 と、その時私達の元に声が響いた。


「おーい! 危ねえ、避けろ!」


「へ?」と、腑抜けた声を出した私の頭上には、アルクダよりも巨大な――ミウラにも並ぶ程の巨体の男が落ちてきていた。


 あまりの突然のことに、避けるでもなく呆けてしまった私は、その男に潰された。

 どうやら今行われていた試合で、リングアウトした対戦者がそのまま吹っ飛んで来たらしい。

 リシを始めとした武闘会では、怪我人は出場者だけではなく観客から出ることもある。

 その良い例が私である。


 巨躯の男に押し潰された私は、あまりの重圧に心臓及び肺を強圧され、一時呼吸困難に陥った。

 騒ぐ会場の中で、アルアさんが私に人工呼吸を施そうとしているような気がして、それは何となく申し訳ないので根性で呼吸を取り戻した。

 人工呼吸と接吻は並べてはいけないものであり、そこに何らかの背徳感のようなものを抱くのは筋違いなのだが、私とて思春期の青少年――気にするものは気にしてしまう。


 けれど、今思えば落下地点にいたのが私で良かった。

 これがナキやアルアさんだとしたら、折れた肋骨が心臓や肺に刺さり即死――みたいな事態も考えられる。


 朦朧とする意識の中で何とか立ち上がる。

 デュオに「それじゃあ」と、手を振り、彼は呆然としつつ「お、おう」と、手を振り返した。


 ミウラを倒した男も不意打ちのボディプレスを喰らってふらつく様は傍から見れば異様を極めていただろうが、改めて不運を思い知らされた。

 吐き気を覚えつつも宿に戻り、即座にトイレに入って吐いた。



   〇   



 あれから結局三日が経った。


 意外と皆良い試合をしているらしく、一つ一つの試合が長引いている。

 よって、三日間みっちり稽古をし、スキロスは一回戦に向けてコンディションを整えていた。


 あれから私やアルクダの元に何回か記者がやって来て、しつこい取材を迫られた。

 その度に「稽古があるので」と、柔らかく断っていたが、段々と面倒臭くなり「あ、何あれ!?」と、虚空を指差し、記者達が振り返っている間に蝿になって立ち去る、ということをした。

 アルクダは何かにはなれないので、その場に取り残される訳だが。


 何にしても、今日という日がスキロスにとって大きな一戦になることは間違いない訳で、会場にやって来た私達はその時を楽しみにしていた。

 

 一体どんな戦いを見せてくれるのか。


 いよいよトーナメント第一回戦も最後の対戦となり、会場の盛り上がりも最高潮に達していた。

 私達もリングの間近で待機し、彼の健闘を祈る。


 やがて今行われていた試合が終了し、司会者が意気揚々と一回戦最後の戦いのアナウンスを始める。


「さあ、一回戦も遂に最後の対戦となりました。それでは、選手に登場していただきましょう」


 スキロスが奥からリングに上がり、ちらとこちらを一瞥する。


「遠い村からやって来た、狼の獣人――果たしてどんな戦いを見せてくれるのか!? ――スキロス!」


 少し肩が固くなっている気もするが、面構えは堂々としていて、案外大丈夫そうだ。


 続けてアナウンスは対戦者に移る。


「対する相手は謎に包まれた少年――未知の男はどんな戦いを繰り広げるのか!? ――デュオ!」


 あ――また忘れていたが、対戦者はデュオだった。

 あんなに二人を応援すると決めていたのに、こんな時にまで忘れてしまうとは、本当に申し訳ない。


 実際、リングに軽い足取りで上がってきたデュオはと言えば、相変わらず飄々としていた。

 にこにこと楽しそうに笑っている。

 正直、今は笑える状況ではないと思うのだが、彼にとっては何もかも楽しいのだろう。


 二人は向き合い、ゴングの音が鳴り響くのを静かに待つ。


 やがて会場中に耳を劈く衝撃が走り、戦いの始まりを知らせた。


 どうか、二人よ――武運を。


 ――と、祈ったのも束の間――二人は同時に相手目掛けて走り出した。

 ものすごいスピードで距離を詰めていく二人だが、速さは圧倒的にデュオが上回っていた。

 そうなれば、この状況で有利なのはどう見てもデュオである。

 自身よりも素早く動く相手に対応するのは、非常に困難だ。

 そんなことは誰にでも分かることであり――人並み以上にその道を歩いてきた私にとって、この試合の勝敗は目に見えていた。


 ――何せ、デュオの動きを目で追うことが、私にすら困難なのだから。


 スキロスに対応をさせる暇も与えず、デュオは彼のみぞに膝蹴りを咬ました。


「う゛っ」と、呻いた彼はそのまま力が抜けて、倒れ伏した。

 デュオはそれを眺めたまま動かない。どうやらカウントダウンを待っているらしい。


 レフェリーははっとして、思い出したようにカウントを始めた。


 ――スキロスの敗北はアルクダの第一試合よりも早く決まった。



   〇   



 勘違いしないでいただきたいのは、決してスキロスは弱くないということ。


 そして、理解していただきたいのは、デュオは途轍もなく強いということ。


 気を失って帰ってきたスキロスを引き取り、私達は会場を後にした。

 帰る途中、大衆のひそひそとした声が私の耳に障った。


 やはり鄙集りは鄙集りだった――とか、スキロスだけは雑魚だった――とか、好き勝手な愚見を述べる口を縛りつけてやりたい気持ちに駆られ、それを抑える私の表情は鬼の形相を極めていただろう。


 スキロスだって、弱くなかった。

 そこら中に蔓延る口先だけの輩など、相手にもならない程の力を持っていた。

 同じく鍛錬を積んできた猛者を、十分に凌ぐ程の刃を持っていた。


 今回は、その刃が届かなかっただけである。


 相手が悪かった――などと言いたくはないが、デュオの持つ刃はまるで大刀だった。

 スキロスが持つ小さなナイフでは、不釣り合いになるのも仕方がなかった。


 とはいえ、一瞬で敗北を喫し、今まで続けてきた努力を為す術なく粉砕されたことは、彼にとっては「仕方がない」と、一言で片づけられるものではない。


 宿へ戻り、意識を取り戻した彼は儚く終わった試合を思い返り、むせび泣いた。

 それは今となっては取り戻せないことで、戦いというのはそういうもので、けれどどうしようもなく悔しいものなのだ。


 ――これが挫折なのだ。


 ベッドに横たわりながら、顔を両手で覆って泣き続ける彼に、私は何も声をかけることができなかった。アルクダも同じように、泣くスキロスをただ見つめる。

 私達はあくまでも勝ち上がった者であり、敗れ散った彼に何か慰めや労わりの声をかけることは、皮肉な言葉でしかない。

 彼が自分自身で立ち上がるかどうかである。


 スキロスはその後泣き疲れたのか、泥のように深く眠った。


 私にできるのは、彼に私が勝ち上がる姿を見せること。

 それによって、スキロスが刺激されて強さを求めるのか――自分には無理だと諦めるのかは、分からない。

 しかし、自分の弱さを知り、自分の弱さに甘んじて立ち止まるような子ではないと、私は知っている。


 彼の未来を祈るように、私は静かに眠りに就いた。

 

次回にご期待下さい。


本作品は、不定期更新となります。次の物語をお待ちください。

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