クラリス
リリィとクラリスは当時10歳。
お城に遊びに来ていたリリィはいつものようにクラリスと中庭で遊んでいた。
「はい、クラリス。花かんむり。」
お城の中庭には色とりどりの花が咲いており、お妃様が使ってもいい花壇を作ってくれていた。
リリィは微笑みながら黄色や白の花々で作った花かんむりを、ふわっとクラリスの頭にのせた。
そんなリリィをクラリスは優しい瞳で見つめる。
「ありがとう。リリは器用だね。」
「ふふ。お母様に教えて貰ったんだ。お城にあるたくさんの綺麗な冠にはかなわないけど。」
「そんなことないよ。リリの冠の方が私はずっと好きだな。」
クラリスは愛しそうに花かんむりをそっとなぞった。
「本当?嬉しい。」
穏やかな時間が流れる中、
そのときは…訪れた。
「おやおや。こんな所にいらっしゃったとは
…クラリス殿下。」
突然中庭に訪れたのは小太りな貴族の男性だった。
派手な服装からして偉い人だということは幼いリリィにも分かった。
「…サムエル殿。」
そのときのクラリスの声は今まで聞いたことのないほど冷たくて、リリィは、なんだか違う人のように感じた。
「この前の茶会ぶりですな。殿下。我が愛娘シェリルが大変貴方様に優しく接して頂いたとあの日からずっと貴方様のお話ばかり致しております。」
サムエル殿という人の名前はリリィも知っていた。
サムエル・リッパー。
好きなものは金と愛娘。あまりいい噂を聞かないという貴族の1人だ。
そんなサムエルはリリィの存在などないもののようにペラペラと話を進めていく。
話の内容からサムエルは娘のシェリルをクラリスの婚約者にしたがっているようだった。
王族であることを差し引いてもクラリスは
とても優秀だった。
剣術から魔術、さらに頭も良い、
そして成長するにつれてその姿は見目麗しく
女性達からの人気も凄かった。
そんな完璧過ぎる王子であるクラリスにはこれまでにもたくさんのそういった話は来ていたがこんなふうに本人の元へ来たのはこれが初めてのことだった。
「…というわけで、殿下。ぜひ良いお返事をお待ちしております。」
話すだけ話し、サムエルは去っていった。
また2人になった中庭。
「ごめんね、リリ。その、さっきのは…」
…なんでもないから。
そう言おうとしたクラリスの言葉は
リリィの言葉に遮られた。
「全然大丈夫だよ!クラリスの婚約式には私もよんで欲しいな…」
そう微笑むリリィ。
そのときだ。彼の中の黒いリリィへの愛情が溢れてしまったのは…




